「Back to a child!〜カール編〜」


ドクター・ディが訪ねて来た時から、何かおかしいと感じていた。
帝国軍の基地へ共和国の博士が気軽に遊びに来るなど、昔は考えられなかった事。
だが、今はしたる問題ではない。
戦乱の時代が終わりを迎え、帝国・共和国間の国交が復活し、両国は様々な分野で交流を
深めている。
よって、ドクター・ディを始めとする科学者達も帝国へ頻繁にやって来る様になった。
今日ドクター・ディが第一装甲師団の基地へやって来たのも、恐らく軍にある膨大な資料目当
てだと思われたが、実は真の目的は違った様だ。



「…これを飲むんですか?」
「そんなに警戒するでない、毒など入っておらん。何度も説明しておるが、それはただの栄養
剤。開発仕立ての新製品じゃから、お前さんにモニターになってもらいたいだけじゃよ」
「は、はぁ…」
「後で他の者にも頼みたいんじゃが、誰でも最初は嫌がると思ってな。だからこそ、隊長であ
るお前さんに一番に頼んでいると言う訳じゃ」
カールはドクター・ディから手渡された怪しげな瓶を見つめ、本当に毒は入っていないのだろう
かと、開発者の言う事は余り信用せずにどうしようか悩んでいた。
ドクター・ディの傍若無人振りは以前にハーマンから聞かされている。
確かにドクター・ディは素晴らしい科学者であるが、彼の実験には協力しない方が賢明。
そうハーマンは言っていた。
しかし、今回は実験ではない様子。
製薬会社の依頼を受け、新しい栄養剤の開発を頼まれた、と本人は説明している。
それなら大丈夫だと、カールは意を決して手元の瓶に口を付けた。
………が、やはりこれは実験だったのだ。



「ひゃっひゃっひゃっひゃっ! 引っかかった、引っかかった!」
「………!? ドクター、これはどういう事ですか!?」
「わしからサラちゃんを取った罰じゃ! しばらくその姿のまま反省するがいい!!」
ドクター・ディは捨て台詞の様な事を言って執務室から出て行き、一人になったカールは自分
の姿を改めて見て脱力した。
………何度見ても……子供の体だ……
どうやら二十年近くも時間をさかのぼったらしい。
ぶかぶかで今にもずり落ちそうな軍服、最早かぶるという行為自体が不可能となった軍帽。
しかも声は忘れかけていた声変わりする前の高い声。
カールはこれからどうしようかと必死になって考え始めた。
しかし脳まで子供になりつつあるのか、徐々に思考回路が単調になり始めた事に気づくと、カ
ールは軍服を両手で必死に持ち上げ、慌てて自室へ向かった。
何をするにも、まずは動きやすい身なりになってからでないと話が始まらない。
誰にも見つからない様に祈りながら、自室へ辿り着くと背伸びをしてドアのロックを解除し、自
室へ急いで滑り込んだ。
これでひとまず安心…と思ったが、ここに子供用の服があるはずもない事を今頃思い出した。
本当に思考回路まで子供へと変化しつつある。
焦ったカールは仕方なく下着をズボンの代わりにし、上はぶかぶかのシャツを着て袖などをまく
り上げると、ある場所へ向かおうと移動を開始した。
ある場所とは愛する女性がいるガイロス帝国国立研究所。
彼女の元へ行けば、この状況を何とか解決出来るはずだ。
カールは小さい体を有効に利用し、兵士達に見つからずに基地から抜け出すと、外へ向かう
車にこっそり潜り込み、一路国立研究所を目指して出発したのだった。

                           *

『博士、博士〜!』
「…騒々しいわよ、二人共」
「博士ったら、いつの間に大佐の子供を産んでいたんですか?」
「……は?」
「隠しても無駄ですよ! 証拠は挙がってるんです!」
「あら、そう。良かったわね」
サラはステア達の素っ頓狂な話を真剣に聞く気が無くなり、研究室の机に乗っている書類に
目を通し始めた。
ステアとナズナは顔を見合わせると、こうなったら奥の手だと言わんばかりに研究室から急い
で出て行った。
それから数分後…



「じゃ〜ん! 博士、見て下さ〜いv」
「何を?」
「これです、これ」
サラはやれやれとステア達の方に振り返り、彼女達の手に抱えられている物体に目をやっ
た。
……男の子だ……しかも誰かに似ている様な……
「感動の親子の対面ってヤツですねぇ〜」
「何言ってるのよ、私は子供なんて産んだ覚えは無いわ」
「でもでも〜、この子大佐にそっくりだと思いません? 絶対大佐と博士の子供ですよ!」
「だ〜か〜ら〜、妊娠もしてないのにどうやって子供が生まれるのよ。そもそも私と毎日顔を
合わせているのに、それくらいの事がわからないの?」
「……あ、そう言えばそうだった…」
ステアとナズナはその男の子を目にした時から勝手にサラ達の子供だと思い込んでいた為、
今になってようやく冷静に物事を考えられる様になり、二人の子供ではないと気づいた。
「…じゃあ、一体どこの子なのかしら?」
「そうよねぇ、大佐に似すぎだし…。まさか大佐の隠し子!?」
「そ、そんな事ある訳ないでしょ! 大佐が博士以外の女性と関係を持つなんて…絶対信じら
れない!」
「私も〜!」
ステア達が騒いでいる間に、彼女達の手から抜け出した男の子はサラの元へ駆け寄り、すが
様な目をして服を引っ張った。
「うん? どうしたの?」
サラが同じ高さの目線で優しく尋ねると、男の子は小声で話し始めた。
「サラ、助けてくれ」
「……?」
「ドクター・ディの策略に引っかかって、こんな姿になってしまったんだ…」
「……カール!?」
サラは男の子の正体がカールだとわかると慌てて彼を抱き上げ、ステア達の目の届かない所
まで移動しようと歩き出した。
「博士、どこへ行くんです?」
「この子、カールの親戚の子供みたいなの。だから彼に連絡しておこうと思って」
「な〜んだ、大佐の親戚のお子さんだったんですか。だったら似ていてもおかしくないですよ
ね、期待して損しちゃいました」
ステア達はガッカリした様子で研究室から去って行ったが、ここにいてはまた問題が起こるか
もしれないので、サラはカールを抱き上げたまま自室へと向かった。



「…で、どうしてそんな姿になっちゃったの?」
「ドクター・ディに新製品のモニターになってほしいと頼まれて、渡された薬を飲んだらこの姿に
なってしまったんだ…」
「子供になる薬の実験体になったって訳ね」
「い、いや、最初は栄養剤って言われたんだ。だから…協力しようと思って…」
カールが泣きそうな顔になると、サラは慌てて彼の髪を優しく撫で始めた。
「あなたが悪いって言ってる訳じゃないわ、あなたをだましたドクター・ディが全て悪いのよ」
「う、うん……。でもわかり易い罠だったのに、見事に引っかかるなんて…」
「そんなに自分を責めないで。ドクター・ディはあなたの善意を利用した極悪人なんだから」
サラはカールの気持ちが落ち着くまで何度も髪を撫で、少しずつだが落ち着いてきた事がわ
かると、これからの事を考え始めた。
「まずは…服をどうにかした方がいいわね」
自分の服を最大限に利用し、サラは今のカールに合う服を見立てた。
上は幼い頃着ていたシャツ、下には短パンを穿かせると見事にピッタリであった。
「よし、これで何とか大丈夫ね。後は元に戻す方法だけど……」
「……無理…?」
「ううん、無理ではないと思う。でもあなたが飲んだ薬の成分がわからないと何も出来ないわ。
仕方ないから、ドクター・ディに聞いてみましょうか…?」
「ダ、ダメだ! きっと交換条件を出してくるに違いない!」
「交換条件?」
「君とデートさせろ、とか…」
「あなたを元に戻す為なら、デートくらいするけど?」
「俺以外の男なんかとデートしてほしくない! それでももし君がデートすると言うのなら、俺は
一生この姿のままでいる!」
カールは真剣な面持おももちで訴えかけると、サラの頬を優しく撫でてから唇を重ねた。
いつもと違う感覚…
小さな唇にサラは思わず笑みを浮かべ、カールの体をそっと抱き寄せた。
「しばらくは様子を見ましょう。無理に戻そうとすれば、あなたの体を傷付けるかもしれないし」
「…うん、そうしよう」
初めて包まれるという感覚を味わったカールは、これも案外いいものだとサラの胸に顔を埋め
ていた。



「しばらくの間、この子を研究所で預かる事になったわ」
「えぇ〜!? じゃあじゃあ、一緒に遊んでもいいですか?」
「それはダメ。この子は大事なお客様なんだから、あなた達の遊び道具にはしません。それに
私の事が気に入ってくれたみたいだから、ずっと私の傍にいたいんだって。ね?」
サラに話を振られると、カールは妙に頬を赤らめコクンと頷いてみせた。
ステア達は内心怪しいと思いながらも、サラにさからったら後が怖いので素直に従う事にした。



その日の夕食時、カールはサラの膝の上に座らされ、しかも彼女に食べさせてもらっていた。
本当は一人で食べられると言いたかったが、自分は厄介になっている身。
ここは我慢するしかない。
今日半日一緒にいる間に、どうやらサラはカールの事を本当に子供だと思い始めた様だ。
ステア達の羨ましそうな視線を気にしつつ、カールは黙ってサラが運んでくれる夕食を食べ続
け、食べ終えるとサラの手を小さな手で引っ張って自室へ帰った。
「じゃ、そろそろシャワーを浴びましょうね」
「……サラ、子供に言い聞かせる様な言い方はしないでくれないか?」
「あら、今はどう見ても子供でしょ? 何も問題は無いわv」
「…………」
カールは後で絶対仕返ししてやろうと心に決め、サラに服を脱がせてもらって浴室へ入った。
やや遅れてサラが入って来ると、カールは彼女の全身をめ回す様に見上げ、衝撃の事実を
の当たりにした。
体が何も反応しない……
反応する方がおかしいのだが、カールにとってはちょっぴりショックな出来事であった。
「はい、まずは髪を洗おうね〜v」
「…………」
徐々に子供扱いされる事に慣れつつある自分に驚きながら、カールはサラに髪と体を洗って
もらったが、その時またしてもショックな事が起きた。
サラが『全身』を洗ってくれたのだ。
いつもは髪と背中だけなのに、今日に限って全身とはどういう事だろうか?
子供の体だと恥ずかしくないと言う事なのか…?
カールは心の中で疑問を次々と浮上させ、答えが見つからぬままサラが髪を洗う様を見つめ
ていた。
「…あ、風邪引いちゃうといけないから、先に出た方がいいわね。一人で大丈夫?」
「……俺も洗いたい」
「…………私を?」
「ああ、ダメか?」
「いいけど…その体だと大変だと思うよ?」
「それでも洗いたいんだ」
サラは仕方ないといった様子でカールにタオルを手渡し、彼が洗いやすい様に身をかがませた。
「……ん……あ……こ、こら、どこ触ってるの!?」
サラの気持ちいい所をわざと触ってみると、当然の如く怒られた。
いつもはこのまま快感に身を任せてくれるのだが、やはり子供だとダメらしい。
それにサラの色っぽい声を聞いても、体は何の反応も示さなかった。
カールは内心ガックリしつつ、サラの体を出来る範囲で洗い続け、無理だと悟った所で先に浴
室から出る事にした。
(あ〜ぁ、この体では何も出来ないなぁ……)
そんな事を思っていると、ふとドクター・ディの真の狙いがわかった様な気がした。
ラブラブにさせないように子供にしたのかもしれない。
しかし自分は何も反応しなくても、サラをどうにかする事は可能だ。
ずっと子供扱いした仕返しに、今日はとことんいじめよう。
カールはにやにや笑いながらサラが出て来るのを待ち、彼女の姿が見えるとベッドへ来る様
に声を掛けた。
「なぁに? 子守歌を歌ってほしいの?」
またしても子供扱いされた。
これは相当苛めないと気持ちが治まりそうにない。
「サラ、大人しくするんだ」
「大人しく? 子供がそんな事言っちゃダメだぞv」
「俺は子供じゃない。確かに体は子供だが、頭脳は大人だ。君を気持ち良くさせるくらいは出
来る」
「え……? カール、何……ん……」
カールはサラの口を強引に塞ぎながら全体重を掛けてベッドへ押し倒すと、小さな手で彼女
の服を脱がし始めた。
「こ、こら、ダメだってば!」
「サラ、大人しくしろって言っただろ?」
「子供は子供らしくしなきゃダメよ」
「子供じゃない。ほら、その証拠に…」
「あん……あ……ダ…ダメ……」
カールに乳房を舐められた途端、サラの体から急速に力が抜け、子供相手だと言うのに抵抗
出来なくなってしまった。
「サラ、気持ちいいだろ?」
「……そんな体になっても…こういう事したいなんて変わってるわ」
「俺を子供扱いした仕返しだよ」
「あぅん……ご、ごめん…なさい……謝るから…許して…………」
「許すものか、今日は徹底的に苛めてやる」
考え方が既に子供染みていたが、サラは本当に怒らせてしまったのだと察し、ほとんど抵抗
せずにカールの愛撫に身を任せ始めた。
が、その時突如カールの体に異変が起きた。
「うっ……!」
「カール、どうしたの!?」
「か、体が……体が熱い………!」
「カール!」
サラが思わずカールを抱きしめると、軽かったはずの彼の体が徐々に重くなってきた。
どうやら体が元に戻り始めた様だ。



「うぅ………」
「カール、大丈夫?」
「な、何とか……」
「良かった…元に戻ったみたいね」
「え……?」
カールは自分の体を改めて見、筋肉の付き具合や手の大きさを確認するとほっと胸を撫で下
ろしたが、先程まで着ていた服は元に戻った拍子に破け、ベッド上に無惨に散らかっていた。
「…服が……ごめん…」
「いいのよ、そんな事。元に戻れたんだから、服なんて気にする必要は無いわ」
サラの優しい言葉のお陰でカールはすんなり元気を取り戻すと、あらわになっている彼女の肢体したい
を隅々まで見回し始めた。
サラは慌てて体を隠そうとしたが、カールによって当然阻止され、ベッドに押さえ付けられてし
まった。
「良かった、反応した」
「……反応? 何が…?」
「いや、何でもない。じゃあ、続きを始めよう」
「つ、続きって…?」
「仕返し」
カールは非常に爽やかな笑みを浮かべて言うと、サラの首筋に顔を埋め愛撫を再開した。



翌日、カールはある人物の住まいへと足を運び、そのある人物を捕獲して基地に帰った。
それから数週間、ドクター・ディは行方不明になったそうだ。
後日サラがドクター・ディの行方を聞くと、カールは不敵な笑みを浮かべて教えてくれた。
ドクター・ディは軍人になる為の過酷な訓練を受けている最中だ、と。
カールにしては優しい仕返しであった。
あの日、サラといちゃつけた事が少なからず影響していたのかもしれない。
とは言っても、訓練を終えたドクター・ディがしばらく寝込んでしまったのは言うまでもない…





●あとがき●
子供になるという同人誌などでお約束のお話を考えてみましたが、如何でしたでしょうか?
ドクター・ディの仕業にしたのは、彼しかその様な事が出来る人がいなかったから(笑)
最後には酷い目に遭ってしまいましたが、長編に比べたら出番が増えたので、ディも喜んで
いるでしょう。
それにしても、「カールは子供になっても考える事は一緒」という所が妙に強調される展開とな
り、私ってこういう展開にするのが好きなのかなぁと思ってしまいました。
本当に好きだからしょうがないんじゃないの?とツッコミを入れられそうですね(笑)
しかし犯罪になるので途中で止める事にし、元に戻ってもらいました。
よかったね、カールv
これからもこういうお約束なお話に挑戦したいと企んでおりますv