第九話
「作戦〜その4〜」
◆作戦名◆
献身的な看病&サービス満点vvな作戦
買い出しに行ってから数週間程経ち、その間は何の問題も起きる事なく、サラ達は順調に砂 の撤去作業を続けていた。 その一方でステアとナズナはラブラブ作戦を実行する為、毎日の様にカールとサラの動向を さぐ うかが 探り、機会を伺っていた。 それなのにカールは相変わらず朝から晩まで訓練に励んでおり、サラも発掘に勤しんでいる ばかりで、二人共これと言って目立った動きは見せなかった。 たと 例え動きを見せたとしても、それはただの報告であったり、要請であったり… はなはだ ステア達にとっては、期待外れも甚だしい日々が何日も続いていた。 いくにち そうして幾日か時が過ぎ、ようやく二人が待ち望んでいた機会が訪れた。 サラが過労の為に、高熱を出して倒れてしまったのだ。 これはチャ〜ンス!と思ったステア達は早速行動を開始し、カールが午前の訓練に出発する 前にサラの事を伝えに行った。 ひと 愛する女性が病気だと知れば、あの優しいカールが見舞いに来ないはずがない。 二人の予想通り、カールは病気の事を知ってから、数十分と経たない内に見舞いにやって来 た。 しかも、わざわざ訓練を休んで来たらしい。 知ってから見舞いに来るまでのタイムラグは、訓練を休むと部下に伝えに行っていたからだと 思われる。 根っからの軍人であるカールが訓練を休んでまで見舞いに来るとは、さすがに予想出来なか ったステア達は、内心驚きつつも笑顔で彼を出迎えた。 「わざわざお見舞いに来て下さるなんて……少佐ってお優しいんですねv」 「いや、そんな事はないよ。……それよりサラの具合はどうなんだ?」 「まぁ、入口で立ち話も何ですし、中へどうぞ」 カールはステア達に言われるままテント内に入り、改めて中を見回した。 前に一度入った時は周りを見ている余裕など無かった為、ハッキリと見たのは今回が初めて であった。 サラ達が使っている研究所のテントは軍で支給されるテントよりも当然良いもので、とても頑 しゃくねつ ただよ 丈な造りをしており、外は灼熱の暑さなのに中は涼しさが漂っていた。 「ここは…とても快適だね」 「はい、冷暖房完備ですから。特注品なんですよ、このテント」 「冷暖房完備……。すごいな…」 「少佐、こちらへどうぞ」 ナズナはカールに椅子を勧め、すかさずコーヒーを入れ始めた。 カールは差し出されたカップを受け取り、とりあえず一口だけ飲むとすぐテーブルに置いた。 「…それで、サラの具合はどうなんだ?まだ熱は高いのか?」 「はい。さっき解熱剤を飲ませたのですが、まだ下がっていないみたいで…」 「そうか…。君達も気を付けてくれ、ここの環境の厳しさは並ではないから」 「私達は大丈夫ですよ。博士が頑張りすぎなだけです」 「頑張りすぎ…?」 「博士って何か一つの事に集中すると、途中で止められなくなるんです。だから、たまに何日 も徹夜が続いたりして……。たぶん今回もその悪癖が出てしまったのだと思います」 「そうそう。ここ最近、毎晩遅くまで調べ物をしていましたし、それに加えて昼夜の温度差で体 力が落ちてましたから、倒れるのも無理ないです」 「そ、そうか…。それは確かに悪癖だな」 ステア達はサラの悪癖をわざとらしい程詳しく教え、カールが気にし始めた頃合いを見計らう と本題に移った。 「やっぱり少佐も悪癖だと思いますよね〜。それで相談なんですけど、博士の悪癖を直すのに 協力して頂けませんか?」 「…協力?私が?」 「はい。少佐から注意して下されば、博士も素直に聞いてくれると思うんです」 「……わ、わかった。今度言ってみよう」 カールが頬を赤らめながら頷いてみせると、それを見届けたステアとナズナは急に何かを思 い出した様に立ち上がり、かなり芝居掛かった口調で一方的に話し始めた。 「ねぇ、ナズナ。まだ仕事が残っていたわよね?」 「あ、そうだ!す〜っかり忘れてたねぇ」 「少佐、申し訳ないんですけど、博士の看病をお願いしていいですか?」 「…え?か、看病!?」 「私達、まだ仕事が残ってるんですぅ」 「なるべく早く終わらせて帰って来ますので、後はよろしくお願いします。…あ、博士の部屋は 一番左側の部屋です、間違えないで下さいね」 「い、いや、しかし、私は…」 まだカールが了解していないというのに、ステア達はさっさと外に向かって歩き出した。 思わず呼び止めようとするカールに、二人は振り返って満面の笑みを浮かべてみせた。 「熱が高いせいで、だいぶ汗をかいていましたから、着替えさせてあげて下さいねv」 「着替えはベッド脇に用意しておきましたからv」 「え、いや、そ、それは…」 『それでは行って参りま〜すv』 ステア達はペコリと頭を下げ、驚くべき早さでテントから出て行った。 一人ポツンと取り残されてしまったカールは、いきなりの出来事にしばらく動く事が出来なかっ たが、高熱で苦しんでいるサラの事を思うとじっとしていられなくなった。 ステアがサラの部屋は一番左側の部屋だと言っていたのを思い出し、カールは左端のドアを ノックしてみた。 しかしいつまで経っても返事が返ってこない為、そっとドアを開けると恐る恐る室内に足を踏み 入れた。 中は大して広くなかったが、一人で使うには充分な広さがあり、置かれているベッドも軍の簡 易ベッドより数段良いものであった。 そのベッドに、サラがぐったりして眠っていた。 とりあえずカールは近くにあった椅子に腰を下ろし、サラの様子を伺った。 ひたい 額に乗せられている濡れタオルが完全に乾いていたので、すぐ傍に置かれている洗面器の しめ 水で湿らせ、額に丁寧に乗せ直した。 もうろう すると、サラはうっすらと目を開けてカールを見たが、熱で意識が朦朧としていた為、誰か判 断出来なかった。 「……だれ?」 「俺だよ、サラ」 「………少佐?」 「ああ」 声で傍にいる人物がカールだとわかったサラは、起き上がろうとして必死にもがいた。 ひど 慌ててカールが体を支えてやったが、それだけでサラは酷く疲れを感じた。 「お見舞いに……来てくれたのね…。ありがとう…」 「あ、うん…」 「私は…何のお構いも出来ないけど……ステア達なら…喜んで……」 「あの二人なら、まだ仕事が残ってるらしくて出て行ったよ」 「え…?」 「代わりに君の看病をしてほしいと頼まれてる」 「そう…なんだ……。ごめんなさい……迷惑かけて…」 「いや、気にしないでくれ。さぁ、まだ横になっていた方がいい」 そう優しく言うと、カールはサラを再びベッドに寝かせた。 サラはお礼のつもりでにっこりと笑ってみせようとしたが、もうほとんど意識が無かったので、 はっきりと笑顔を作る事が出来なかった。 にじ そうしてサラは次第にうつらうつらし始め、それと共に彼女の体からは大量の汗が滲み出た。 (確かに…すごい汗だな……。着替えさせるべきだろうか…?) ふ カールはサラの額の汗をタオルで拭き取りながら、周囲を見回した。 すると、ナズナが言っていた通り、ベッド脇の台に着替えが用意されていた。 ちゅうちょ 一応その着替えを手に取ってみたものの、やはり躊躇して元通りに置き直した。 しかしこのまま放っておく訳にもいかず、困り果てたカールは仕方なくサラを起こす事にした。 男である自分が着替えさせるより、自分で着替えてもらう方が良いと判断したのだ。 「サラ」 かし カールが優しく呼び掛けると、サラはゆっくりと目を開け、首を傾げる様な仕草をした。 「だいぶ汗をかいているから、着替えた方がいいと思うんだ」 「……うん」 「それで…出来れば自分で着替えてくれないかな?着替えはここにあるから」 「………わかったわ」 こころみ サラはフラフラしながら懸命に起き上がろうと試みたが、どうしてもカールに体を支えてもらわ なくては、起き上がる事が出来なかった。 これでは一人で着替えるのは到底不可能だろう。 (こんな状態で着替えは無理か…) カールがこれからどうしようかと打開策を考えていると、サラは彼に寄り掛かったまま突然服を 脱ぎ始めた。 はず 驚いたカールが慌てて止めに入ったが、サラはすでに上着のボタンをいくつか外してしまって あらわ おり、胸元が露になっていた。 |
「着替えちゃ……ダメなの…?」 「え、あ、そ、そういう訳じゃなくて…」 そ カールは顔を真っ赤にし、すぐにサラから目を逸らした。 傍にいるのが男だという事を、サラは完全にわからなくなっている様だ。 再び服を脱ぎ始めるサラに対し、カールは彼女の体を支えながら、目を閉じて見ない様にする しかなかった。 今の状況では、それしか良い方法が思い付かなかったのだ。 そうして下着を残して服を全て脱ぎ終えたサラは、着替えを取ろうと台に手を伸ばした。 が、本人は伸ばしているつもりでも、視界がハッキリしていないせいか、見当違いな方向へ手 を伸ばしていた。 サラが必死になっていると気付いたカールは、なるべく彼女の姿を視界に入れない様にしな がら着替えを手渡した。 サラは着替えを受け取ると、礼を言う余裕すらなく、のろのろと着始めた。 しばらくして、ようやく着替えを終えたサラは全ての力を使い果たし、カールの胸にぐったりとも たれ掛かった。 カールは優しくサラを受け止め、そっとベッドに寝かせて彼女の額に手をやると、熱が下がっ てきている事を確認し、ほっと胸を撫で下ろした。 (良かった…。これでひとまずは安心だな) たた 笑顔でサラの体に毛布を掛けたカールは、彼女が脱ぎ捨てた服を拾い集めて畳み、着替え があった台に丁寧に置いた。 それからしばらくの間、カールはサラの寝顔を見つめたまま身動き一つしなくなった。 いま 実は先程の着替えの時、一瞬ではあったがサラの体を見てしまい、カールの心は未だかつて ない程激しくドキドキしていたのだ。 したい 彼女の肢体がこんなにも自分を惑わせるとは思いもしなかったので、カールは自分の気持ち に戸惑いながらも、必死になって心を落ち着かせようと努力した。 今の状態のままでステア達に会えば、彼の身に何が起こったのか、あの二人には確実に感 づかれてしまうだろう。 ねら そんな必死の努力のお陰で何とか落ち着きを取り戻した頃、まるで狙っていたかの様なタイミ ングでステアとナズナが帰って来た。 「ただいま戻りました〜」 「ご苦労様です、シュバルツ少佐」 「いや、大した事はしていないよ」 「え〜、でもぉ、博士の着替えを手伝って下さったんでしょう?」 「それだけで充分ですよvv」 「ん、そ、そうか。では、私はそろそろ失礼させてもらう」 「もう帰っちゃうんですか〜?もっとゆっくりしていって下さいよぅ」 「…すまないが、午後からの訓練の準備があるんだ。それでは、また」 さわ さっそう カールはステア達がウットリする程の爽やかな笑顔を見せ、颯爽とテントから出て行った。 二人はぼけ〜っとなったままカールを見送り、しばらく経ってからハッと我に帰った。 うま 「ね、ねぇ…。本当に今回の作戦、上手くいったの?」 「もちろんよ!病気の時は誰だって淋しくなるものだし、一生懸命看病してくれている少佐の 姿を見れば、博士だってイチコロなはずv」 「私だったら確実にイチコロだけど、博士はどうかしらねぇ…。あ、ところで着替えは効果あった のかな?」 「大ありね!少佐は必死に隠していたみたいだけどv」 「ふふふ、サービス満点な作戦の方もバッチリ成功って訳ねv」 ステアとナズナはにやりと笑って成功を喜び合った。 あれだけカールが懸命に隠そうとしていた事を、二人はあっさりと見抜いていた…。 こうしてステア達の二重の作戦は見事な成功に終わり、その夜お祝いパーティがこっそりと 開かれ、二人は深夜まで騒ぎ続けたのであった… * 翌日、熱も下がってすっかり元気を取り戻したサラは、遺跡へ出発する前に昨日の礼を言う 為、カールのテントを訪れた。 カールはサラを出迎えると、つい昨日の事を思い出してしまい、頬をほんのりと赤らめた。 「おはよう、少佐」 「おはよう、もう大丈夫なのかい?」 「ええ、少佐が看病してくれたお陰ですっかり良くなったわ。どうもありがとう」 「そ、そうか。それは良かった」 「あのね、少佐……」 「ん…?」 まるでカールの照れが伝染したかの様にサラも頬を赤らめ、急にもじもじし始めた。 挨拶を交わした時から何となく妙な感覚を感じていたカールは、昨日の出来事のせいでサラ に嫌われてしまったのかも、と不安そうな顔になった。 「昨日、少佐が看病してくれた時の事……ぼんやりとしか覚えていないの…」 「あ、ああ…」 「……その、えっと………は、恥ずかしい格好見せちゃってごめんね」 「い、いや…」 「……………見た…よね?」 「……………………………ああ…」 こんな事で嘘をついても仕方ないと、カールは正直に白状した。 すると、サラは嫌がる素振りを一切見せず、頬を赤らめたまま満面の笑みを浮かべた。 「そっか。正直に言ってくれてありがとう」 カールの正直さが嬉しかった様だ。 サラの笑顔を見て嫌われていない事がわかったカールは、心の底からほっとした。 どうやら彼の心配は取り越し苦労だったらしい。 すぐにサラはいつもの態度に戻り、笑顔でカールに挨拶してから、遺跡へと出掛けて行った。 ●あとがき● 今回は作戦名通り、サービス満点な内容になりましたv もちろんカールにだけ、ですけど(笑) 女性の着替えを男性が手伝うなんて…成年誌にありがちなお話ですね。 でも一度はやってみたかったので、挑戦しました。 これまで全く色気の無い状態で話が進んでいましたから、書いていて楽しかったですvv イラストの方も、ほんのちょっぴり色っぽくしました。 もう少し後のシーンをイラスト化しても良かったのですが、カールに怒られそうなので止めまし た(笑) それにしても、ステア達は勘が鋭いですね〜。 カールの頑張りが水の泡…。 しかも、後で正直に白状してしまっている辺り、素直なのか何なのかよくわかりません。 一応そこが彼の長所なんですけどね(一応って…) ●次回予告● サラの悪癖を直すには…? 悩んだ末にカールが導き出した答えは、『わかるまで何度も言い聞かせる』でした。 サラが報告の為に訪ねて来た時、カールはその話をしようと機会を伺います。 すると、突然サラがカールに頼み事をしてきました。 その時、カールが思い付いた良い案とは!? 第十話 「勉強」 家庭教師…になるのかな? |