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第四十九話
「ファン〜策略編〜」
サラが来てほしいと頼んだ翌日、カールは本当に全てをヒュースに押し付け…もとい、任せ、 朝早くに国立研究所へやって来た。 予想よりも早かったので、これでステアとナズナに邪魔をされる事はないと少々安心したサラ は、足早にカールを第一客室へと案内した。 すで だがそこには既に… 『おはようございま〜す、シュバルツた・い・さvv』 「や、やあ、おはよう」 「……どうしてあなた達がここにいるのよ?」 あき サラは先回りしていたと思われるステア達を横目で見、呆れ果てた表情で尋ねた。 いたずら すると、二人はにんまりと悪戯っぽく微笑んでみせ、四人分のコーヒーを用意し始めた。 「もちろん私達も会議に参加させて頂くからですよv」 「さぁさぁ、お二人共早く座って下さいv」 しぶしぶ サラは納得がいかないといった様子で渋々ソファーに腰掛け、カールは彼女の向かい側のソ ファーへ座ろうとしたが、すかさずステア達が止めた。 「大佐は博士のお隣へどうぞv」 ど たくら どうやら今日もサラ達のラブラブ写真を隠し撮りしようと企んでいる様だ。 彼女達にとっては合成写真撲滅作戦よりも、こちらの方が重要なのかもしれない。 つゆし そんな事とは露知らず、サラはカールに合成写真の事を話し始めた。 「今日来てもらったのは……昨日も言ったけど、第一装甲師団にお仕事を依頼しようと思って いるからなの」 「第一装甲師団に依頼って…そんなに大規模な仕事なのかい?」 「うん、あなたの想像以上に大規模な仕事よ。共和国軍にも協力してもらわなくちゃいけない から」 「共和国軍にも!?……一体何をするつもりなんだ?」 「ほんとは見せたくないんだけど、これを見てちょうだい」 サラは手元の資料の中から一枚の写真を手に取ると、カールにそっと差し出した。 その写真はもちろんあの合成写真である。 「……?………??…………!?………!…………!!……な、何だ、これは!?」 カールにしては珍しく、状況を把握するのに非常に時間が掛かった。 突然自分の全裸の写真を見せられて、驚かない者がいるはずもない。 しかも顔は自分だが、体は見知らぬ男のもの。 気持ち悪い事この上ない。 けんめい そういう反応をするだろうと予想していたサラは、さっさと仕事の話を始めた方が賢明だろうと 判断し、カールの手から写真を奪い取った。 はや 「こういう写真があなたのファンの間で流行っているらしいの」 ひんじゃく 「……どうしてあんな貧弱な……しかも…………小さい……小さすぎる……!」 「カール、驚くのは無理もないけど、落ち着いて私の話を聞いて」 「……え?あ、あぁ……話………話、ね」 カールは相当ショックを受けている様で、今はまともに話が出来る様な状態ではないと思われ の たが、サラは涙を呑んで話を続けた。 「あのね、こういう写真があなたのファンの間で流行っているらしいの。あ、もちろん一部のファ ンだけの話よ」 サラの言葉に、ステア達は深く頷いてみせた。 カールはサラの声を聞いてようやく落ち着きを取り戻すと、自分の身に起こっている事態を理 解した。 「こんな写真がファンの間で流行っているのか…。男の裸の、しかも合成された写真を見て喜 ぶとは……おかしな女性がいるんだな」 「そうね、私もそう思う。でもよ〜く調べてみたら、男女問わずに流行っているみたいなの」 「……?ファンって女性だけじゃないのか?」 「男性ファンもたくさんいるのよ、知らなかった?」 「だったら余計おかしいじゃないか。男が男の写真を見たって面白くも何ともないだろう?」 「確かにそうなんだけど…」 サラもファン心理が理解出来ていなかった為、返事に困ってステア達の方に視線を移した。 とうとう出番が来たか!と、ステアとナズナはにやりと微笑んで話し出した。 「気持ち悪いですけど、そういうのを見て喜ぶ男性ファンがいるのは事実なんです」 「軍にはそういう趣味の人っていないんですか?」 「……いるにはいるな、認めたくはないが」 『やっぱり……』 ステア達はガックリと肩を落としたかと思うと突然復活し、興味津々で話を発展させ始めた。 かか 「大佐はそういう趣味の人と関わった事ってありますか?」 「…………………一度だけある」 「ふむふむ、一度ある…と。それで?」 「あれは確か……士官学校に入学したばかりの頃だったかな、上級生に呼び出されたんだ。 まさか体目当てとは思いもしなかったが…」 「えぇ〜!!じゃあ大佐もしかして…」 うる ステアとナズナが瞳をウルウルと潤ませた為、カールは二人が何を想像したのかを察し、や れやれと続きを語って聞かせた。 う 「関わったと言っても、返り討ちにしただけだよ」 「返り討ち?」 なぐ 「ああ。適度に殴って、そのまま全員病院送り」 ものすごい事をさらりと言ってのけるカールに、ステア達は内心動揺しつつも質問を続けた。 今度のファンクラブ会報の内容はこの話題でバッチリである。 「す、すごいですねぇ、全員病院送りなんて」 「殺してしまったら元も子もないし、不公平が出るといけないから、皆平等に全治三ヶ月程度 けが お き の怪我を負わせたんだ。恐らくこの一件が効いたんだろうな。それ以降は体目当てで近寄っ て来る者はいなくなったよ」 「ふむふむ、全治三ヶ月……で、いなくなった……と」 三人の話を傍観者として聞いていたサラは、ステア達のあからさまな行動が気になり、話に 割って入る事にした。 「ねぇ、さっきから何を書いているの?」 「え?あ、あははは、気にしないで下さいv」 ごまか ステアとナズナは慌ててメモを背後に隠しつつ、必死に笑って誤魔化した。 あ ただ カールも気付いてはいたが敢えて問い質すのも馬鹿らしいと思えたので、同意見であるサラ と顔を見合わせて苦笑し合った。 二人の様子から自分達の隠密行動がバレそうだと感じたステアとナズナは、慌ててサラに話 を振った。 やはり特集を組むには、カールだけでなくサラの話題も必要不可欠なのだ。 「博士はそういう経験ってないんですか?」 「そういう経験って……女の子に襲われそうになった事があるかって事?」 「い、いえ、博士の場合は相手はもちろん男性ですよ」 「そうねぇ……」 かたず カールが固唾を呑んで見守る中、サラは今までの人生を簡単に振り返ると、思い当たる事が あったらしく、ぽんと両手を鳴らした。 「思い出した。私も一度だけあるわ」 「えぇ!?」 当然驚いたのはカールのみ。 ステア達はあるはずと思って質問した為、大した驚き方はせずに質問を続けた。 「いつ、誰に、何をされたんですか?」 「……そんなに嬉しそうな顔で聞かれても、残念ながら何もされてないわよ」 あんど サラの言葉を聞いた途端カールは安堵の表情を浮かべ、ステアとナズナはガックリと肩を落と した。 「…じゃあ、一度あるっていうのはどういう意味なんですか?」 「私もカールと一緒、返り討ちにしたのよ」 「返り討ち……。これは見出しが決まったわね、ナズナv」 「そうね、ふふふv」 「あなた達、見出しって何の事かしら?」 満面の笑みを浮かべて尋ねるサラに、ステア達は頬を引きつらせつつ、どう誤魔化そうかアタ フタし始めた。 もう笑って誤魔化すのは不可能。 しかし思わぬ所から救いの手が差し伸べられた。 「返り討ちって、どうやってしたんだ?」 く いと もうサラの事しか考えられなくなっていたカールは、ステア達の事には目も暮れず、隣の愛し のぞ い女性の瞳を覗き込んだ。 今の内、とばかりにステア達は話題をすり替える事にした。 「あら、大佐はご存じないんですか?博士って結構強いんですよv」 「そうそう。並の男なら一発でやっつけちゃうんですv」 「ちょ、ちょっと、あなた達。やっつけるなんて言い方しないでよ、人聞きが悪い」 そそ サラは慌ててステア達を止めたが、隣から注がれる妙にあつ〜い視線に気付くと、苦笑しな みどり がら碧色の瞳を見つめた。 「あのね、本当にやっつけたりはしてないのよ。ただ相手の力を受け流したってだけで…」 ごしんじゅつ 「……護身術でも習っていたのかい?」 「うん。これからの時代を生き抜く為には女の子も強くなくちゃいけないと思って、ね」 「そうか……」 ますます 益々軍人になれそうだが本当になられても困る為、カールはもうこの話題には触れないでお ひとたば こうと、目の前に置かれているたくさんの資料の中から一束の書類を手に取った。 すると… 「…ん?」 ひょうし すきま 持ち上げた拍子に書類の隙間から一枚の写真が落ちてきた。 「あっ、見ちゃダメ!!」 すで ひろ サラは急いで止めようとしたが時既に遅く、カールは写真を拾い上げていた。 から そして何とはなしに写真を見てみると、そこには自分と誰かわからない男が全裸で絡んでい る光景が写っていた。 「………………………………………………………………………………!!!!」 ぎょうし カールは写真を凝視したまま動かなくなり、ステア達はただオロオロするしかなく、まだ多少 冷静さが残っていたサラは彼から素早く写真を取り上げた。 「あ、あのね、カール。これはね、えっと……」 「……第一装甲師団に仕事を頼みたいって、こういう写真をどうにかしようって事か?」 「う、うん、そうだよ」 まっしょう こんせき 「…………わかった、全て抹消する。必ず抹消する、痕跡も残らないようにな!」 すみ 同じ光景をつい先日どこかで見た事がある様な…と思いつつ、ステア達は部屋の隅まで避難 し、こそこそとカールとサラの様子を見ていた。 「さすがね、話が早いわ。それで、これからの行動方針なんだけど…」 まっさつ 「全員抹殺か?」 「…それは私もしたいけど無理よ。だから死と同等のダメージを心に与えたいと思っているの」 「心…?」 「ええ。精神的ダメージって事ね」 「そんな事が可能なのか?」 「ファンって人種はあなたに怒られるだけでも大ダメージになるの。だからこそ撲滅作戦を行う 部隊は第一装甲師団が最適なのよ」 「そうか、それなら何とかなりそうだな」 カールとサラは同時に不敵な笑みを浮かべると、何を納得したのか深く頷き合った。 さま この二人は似た者同士、その様を見ていたステアとナズナはそう感じたという… やがて昼食を作りにサラが客室から出て行くと、ステアとナズナはいそいそとカールの傍に歩 み寄り、小声で話し出した。 「大佐、実は博士のファンの間でも同じような合成写真が流行っているんです」 「サラのファンも…?」 「はい、これを見て下さい」 ナズナから差し出された写真には、サラと誰かわからない男が行為を行っている最中の光景 が写っていた。 けわ みるみる内にカールの表情が険しくなり、いつも以上に目がつり上がった。 自分のも許せないが、サラのはもっと許せない。 こんなものを制作した奴らは有無を言わさず皆殺しにしてやりたいと思ったが、先程のサラの 言葉を思い出すと、こちらにも同じ方法で心にダメージを負わせてやろうと決意した。 カールが恐ろしい事を考えているとは夢にも思わず、ステア達はウルウルと瞳を潤ませた。 「今度の撲滅作戦の時に博士のも一緒に抹消してほしいんです。もちろん博士には内緒で」 「ああ、わかった。私に全て任せてくれ」 『ありがとうございます、大佐v』 いまいま ステアとナズナは相変わらず素敵vと思いながら満面の笑みを浮かべ、一方カールは忌々し いと思いつつ、サラの合成写真をズボンのポケットにねじ込んだ。 「う〜〜〜〜、気持ち悪い……」 太陽が赤く染まり始めた頃、カールはサラの自室にあるベッドでだれていた。 今日は一度に色々な事が起きた為、後から改めて合成写真の気持ち悪さが戻ってきたの だ。 も 「どうして男なんかと……俺が抱きたい、若しくは抱かれたいと思うのはサラだけなのに…」 つぶや カールはそう呟いてからふと傍にいるサラと目を合わせると、非常に恥ずかしい事を口走って しまったと気付き、どう誤魔化そうかと慌て始めた。 すると、サラはクスリと小さく笑い、カールの頬をそっと撫でた。 きぐう 「奇遇ね、私も同じ気持ちよ」 「君も…?そうか、良かった…………ん?という事は……お、俺を抱きたいのか!?」 「ふふふ、そうだよvv」 そう言ってサラはカールの上に馬乗りになり、彼の唇へ自らの唇を押し付けた。 「……大丈夫」 「…え?」 「合成写真は必ず全て抹消するから、そんな顔しないで…」 サラはカールの頬を両手で包むと、再び唇を重ねた。 なぐさ サラが慰めてくれているのだと察したカールは、心から嬉しそうな笑みを浮かべ、彼女の口中 さ に舌を挿し込んだ。 サラは逃げる事なくカールの舌を受け入れ、二人は心行くまで口づけを続けた。 * 「ブラント中佐、実は折り入って頼みたい事がある」 「……は?ご冗談なんて似合いませんよ、大佐」 「そうか、お前がそう言うなら今の話はなかった事にしてくれ。サラからのお願いだったんだ が、仕方ないな」 「お聞きしましょう」 ひょうへん ヒュースはサラの名前を出すと態度が豹変する。 わかっていた事だが、カールは少々不機嫌になりつつも話を続けた。 ようせい けっ 「サラの要請により、第一装甲師団の総力を結してある作戦を行う事になった」 「ある作戦とは?」 「合成写真撲滅作戦」 「合成写真撲滅作戦…?何ですか、それは?」 「合成写真を全て抹消する、言葉通りの作戦だ」 「はぁ、抹消ですか……。サラさんのお願いと言えども、それは無理じゃないですか?」 「何としてでもやるんだ。……余り見せたくはないが、一応参考の為に見せておこう。これが その合成写真だ」 カールは心底イヤそうにしながらヒュースに自分の合成写真を差し出した。 その合成写真は一番マシなもの、つまりカールが一人で写っている写真だ。 なか ヒュースはその写真を見た途端、お腹を押さえて大笑いし始めた。 「あはははっ、ファンの間で流行っているヤツですね!知っていますとも!いや〜、大佐もお 人が悪い。自分の本当の趣味を知られない為に、カモフラージュとしてサラさんと付き合うな んてダメじゃないですか〜。あははは、あ〜笑いが止まらん!!」 ズキューーーーーーン!!! すさ 師団長用の広い執務室内に凄まじい金属音が響いた。 かす ヒュースは耳元を掠めていったものの正体を察すると、目の前にいる自分の上官を見つめた。 「た、大佐……何を………」 「あぁ、すまない。『死にたい』と言ったように聞こえたんでね、つい引き金を引いてしまった」 ひょうひょう カールはにっこりと満面の笑みを浮かべて飄々と言い、持っていた銃を机の上に置いた。 「つ、ついって……大佐ならやっていい事と悪い事の判別ぐらい出来るでしょう!?」 「いや、出来る時と出来ない時がある。中佐、自分の言動をよ〜く思い出してみるんだな」 「………………」 ヒュースが反論出来なくなって黙り込むと、カールは思い出した様にもう一枚の写真を書類の 中から取り出した。 「言っておくが、お前のも出回っているぞ」 「は…?み、見せて下さい!」 こ ヒュースはカールの手からもぎ取る様に写真を奪うと、目を凝らして手元を見た。 のぼ その写真とは……もう何度も話題に上っているカールとヒュースの絡み写真である。 「ま、まさか…俺のまであるなんて……」 「まぁ、そういう事だ。サラの要請でなくとも、協力せざるを得ないだろう?」 「……確かに。私の合成写真も出回っているのであれば、協力するしかありませんね」 「よし、話は決まったな。では明日、作戦の下準備として共和国軍の基地へ向かう」 「共和国軍…?何故共和国軍の基地へ行かなくてはならないんです?これは帝国側の問題 なのですから、こちらで解決すべき事ではないのですか?」 つと 「サラの指示だ。今回の作戦の総指揮官はサラが務める事になっている。だから我々は彼女 の指示に全て従う」 お 「そうでしたか。サラさんが総指揮官をお務めになられるのでしたら、私も協力は惜しみませ ん。何なりとお申し付け下さい」 相変わらずサラの名前が出ると態度がコロッと変わる。 カールは呆れ果てた目でヒュースを見ると、書類の中から更にもう一枚写真を取り出した。 カールにとってはこれが一番重要な用件だ。 「ブラント中佐、他にも合成写真が出回っている事を知っているか?」 カールがサラの合成写真を見せると、笑顔だったヒュースの表情が瞬時に固まった。 どうやら知っている様だ。 「知っているんだな?」 「……私も努力はしたのですが、私の目の行き届かない所で出回っているようです」 「今度の撲滅作戦時に、彼女の合成写真も全て抹消する」 「え……?」 「聞こえなかったのか?彼女の合成写真も全て抹消、この世から排除する」 「了解しました!こうなったら最後までとことん突き進みましょう!」 まゆ ひそ ヒュースの返事にカールは不敵な笑みを浮かべて応えると、手元の合成写真を眉を顰めなが ら眺めた。 自分の合成写真以上に、サラの合成写真はデキが悪い。 どこを見ても、彼女の美しさを全て失わせる様に合成されている。 しかしその事実を知っているのは自分だけ。 あの時の表情も美しい裸体も、サラは自分にしか見せていない、とカールは勝ち誇った様に 微笑んでいた。 * 所変わって、ここは共和国軍のとある基地。 その基地にはカールの悪友であるハーマンの部隊が駐留している。 何故ハーマンの部隊に協力を要請しなくてはならないのか、とカールは疑問に思ったが、よく 考えてみるとサラの知り合いで共和国軍に所属している者はハーマンしかいなかった。 しかし何と言ってもハーマンは共和国大統領の息子。 何らかの策があるからこそ、彼に協力を依頼したのだろう。 そう自分を納得させつつ、カールはヒュースを従えて共和国軍の基地へ向かった。 今回は内密な訪問である為、カール達は基地の裏口から中に入り、そこでハーマンの部隊の 副官に出迎えられた。 「お待ちしておりました、シュバルツ大佐、ブラント中佐」 「久しいな、オコーネル大尉」 「はい、お久し振りです」 「今日は無理を言ってすまなかったね」 「いえ。ではこちらへ、ハーマン少佐がお待ちです」 オコーネルに案内され、二人が基地内の一室へ入ると、そこには長身の男が満面の笑みを 浮かべて待っていた。 この長身の男こそカールの悪友、ハーマンである。 りんせん カールとハーマンは顔を合わせた途端臨戦態勢に入り、顔は笑顔のままであったが、思い切 り力を込めて握手し合った。 こころよ 「久し振りだな、ハーマン少佐。今日は突然の訪問を快く了解して頂き感謝する」 「いやいや、サラの頼みとあれば断る訳にはいかないからな」 「…………誰がサラの事を名前で呼んでいいと言った?」 しっと おとなげ 「本人がいいって言ったんだ。そんな事で嫉妬なんかするなよ、大人気ない」 「ほお…、誰に向かって大人気ないなどと言っているんだ?」 「もちろん帝国軍の優秀な士官殿に向かって」 「どうやら死にたいらしいな、この筋肉バカが」 かたぶつ 「お前の方こそ死にたいんじゃないのか?この頭カチカチ堅物野郎」 |
にわか 俄に始まったカールとハーマンの熱い戦い。 ヒュースはにやにや笑ったまま止めようとせず、彼とは正反対にオコーネルは慌てて二人を 止めに入った。 「お二人共、今日はケンカをしに集まった訳ではないですよ!」 「おっと、そうだったな。じゃ、とりあえず座ってくれ」 すす めくば ハーマンはカール達に椅子を勧めると、オコーネルに目配せしてコーヒーを用意させた。 「…で、今日は何の用でここに来たんだ?俺達はまだ詳しい話を聞いていないんだ」 ゆううつ また合成写真を見せなくてはならないのか、とカールは憂鬱になったが、見せなくては話が進 まない為、自分が一人で写っている合成写真をハーマン達の前に差し出した。 「こういう合成写真があちこちで出回っているらしいんだ」 「……ぷっ!大変だなぁ、シュバルツ。帝国の奴らは頭がおかしくて…」 さえぎ ひたい ハーマンの言葉を遮る様に、銃口が彼の額に向けられた。 銃を握っているのはもちろんカール、彼の人差し指は既に引き金に伸びている。 「何か言ったか?」 「は、ははは、何も……」 ハーマンは助けを求める様に副官の方をチラッと見ると、オコーネルはやれやれといった様子 でカールに話し掛けた。 「それで大佐、我々と共同で行いたいという作戦の内容とはどういうものなのでしょうか?そ の合成写真と何か関係があるのですか?」 「実はな、帝国だけでなく共和国にもこのテの合成写真が出回っているそうなんだ」 「えぇ!?嘘を言うな、シュバルツ!」 しょうこ 「嘘ではない、これが証拠だ」 カールはサラから渡された資料の中からもう一枚写真を取り出すと、机の上にバシッと置い た。 今度の写真にはカールは写っていない。 か 代わりに見覚えのある人物が二人写っていた。 「…………げ〜〜〜っ!何だよ、コレ!?気持ちわりぃ!!」 その写真にはもちろんハーマンとオコーネルが写っており、またしても全裸で絡んでいるとい うものであった。 「た、大佐、本当にこんなものが出回っているのですか?」 「ああ。信じたくはないだろうが、それは事実だ。ただしお前達の写真は共和国軍内のみで出 回っているらしい。人気者は辛いな」 にら カールがにやにや笑いながら言うと、ハーマンはギロリと彼を睨み付け、自分の合成写真を 両手で丸めた。 「お前に比べたら、俺達は軍だけだからまだマシな方だ」 「ふん、どちらも一緒だろう?」 「い〜や、マシだ」 「出回っているのなら結局は同じ事だ」 カールとハーマンが睨み合ったまま動かなくなると、先程までその様を見せ物として見守って いたヒュースが、あるものを手にして間に割り込む様に話し掛けた。 「お二人共、ご心配なさらなくても、帝国・共和国の合作が両国に広く出回っていますよ」 『合作…?』 「はい、どうぞご覧になって下さい」 ヒュースから差し出された写真を見たカールとハーマンは、目を点にして言葉を失った。 帝国・共和国の合作写真……それはカールとハーマンの絡み写真であった。 よそ 固まっている指揮官二人と副官一人を余所に、ヒュースは不敵な笑みを浮かべながらペラペ ラと話し出した。 「お二人共、ご自分の本当の趣味をそんなに必死になって隠す必要はありませんよ。堂々と していればいいのです。そうすれば皆にもわかってもらえ…」 カチャッ カチャッ かま ほぼ同時に二度、銃を構える金属音が室内に響いた。 ヒュースは自分に向けられている二つの銃口を見て内心慌てつつ、表面上は必死に平静を よそお 装って微笑んでみせた。 「い、いやですね〜。今のは冗談ですよ、冗談」 すんど 「同じ事を何度も繰り返すな、次は寸止めでは済まさないぞ」 「は、はい…」 ハーマンは帝国側のやり取りに余り関わろうとせず、静かに銃をしまうと自分とカールの合成 写真をぐしゃっと丸めた。 「全く……何故俺がオコーネルやシュバルツなんかとそういう関係にならなくてはいけないん だ…!俺がそういう関係になりたいのはミシェールだけなのによ……」 めざと ハーマンの呟きを目敏く聞いていたカールは、ここぞとばかりに反撃し始めた。 「ほう、ミシェールとはもうそういう仲になったのか。知らなかったな」 「…………誰がミシェールの事を名前で呼んでいいと言った?」 「お前……大人気ないな。さっきと立場が逆になっているぞ」 「うるさい、黙れ」 うま 「そんな事よりどうなんだ?ミシェールとは上手くいっているのか?」 「……お前の方こそどうなんだ?サラとはよろしくやってるのか?」 ぐもん 「ふっ…愚問だな。俺達はお前の想像以上に進んでいる」 「なっ…!す、進んでいるってどこまでだ!?」 「そんなに聞きたいのか?聞いたところでお前には何の得にもならないぞ」 そんとく 「損得で聞いているんじゃない。本当に俺の想像以上かどうか気になっただけだ」 「大佐、それは私もぜひお聞きしたいですね」 おちい カールとハーマンの口論にヒュースまでも加わり、益々訳がわからない状況に陥ってしまった 為、オコーネルがどうしようか悩んでいると、丁度良いタイミングで通信が入った。 「はい、こちらオコーネル」 「こんにちわ、オコーネル大尉」 「クローゼ博士、丁度良かったです。あれを何とかして下さい」 「あれ?」 く サラはオコーネルの背後で繰り広げられている光景を見ると、呆れた様に肩をすくめた。 「あなた達、いい加減にしなさい!!」 いっかつ まさ けんそう ただなか サラの一喝は何よりも勝るものらしく、喧噪の真っ直中にいたカール達はピタリと動きを止め た。 「皆さん、今日はケンカをする為に集まってもらった訳ではありません。早く席に着いて下さ い」 もはや カール達はサラの指示通りに席に着くと、最早誰が指揮官なのか問うまでもなかった。 しょうさい 「では、合成写真撲滅作戦の詳細について説明します。まずは今から転送する書類に目を通 して下さい」 そう言ってサラは手元の書類を基地へと転送し、カール達は送られてきた書類を配り合うと、 内容を黙々と読み始めた。 「それが皆さんの作戦当日のスケジュールです。一分一秒を争う作戦なので、少しでも遅れ たらアウトだと思って下さい」 ふんきざ 「……しかしサラ、こんな分刻みの行動はさすがに無理だと思うが?」 「大丈夫、多少の余裕は持ってあるわ。だけど、この作戦はどうしても一日で全て終わらせる 必要があるの」 「何故だい?」 すき 「相手に時間を与えると、その隙に販売人から制作者までその情報が伝達し、手元にある合 成写真を隠されてしまう恐れがあるからよ。だから一日で軍内を全て回ってほしいの」 「しかしさ〜」 カールとサラの会話に、ハーマンは恐れる事なく割って入った。 「どの部隊も本当にこのスケジュール通りに動くのか?俺達が行ったら留守だったってのは無 しでお願いしたいな」 はあく 「それは大丈夫。帝国軍と共和国軍、どちらのスケジュールも全て把握しているから」 「……どうしてあんたがそんな事を把握しているんだ?」 「うふふv さぁ、どうしてでしょう?」 うさんくさ 「…あんたにこんな事を言いたくはないが、あんたの言動は全部胡散臭いぞ」 「じゃあねぇ、一つだけ教えてあげるわ。私はあなた達の一番上に立っている人とお友達な の。まぁ、それだけでは全ての情報は得られないんだけど、後は色々あって軍の機密も知っ てるわ」 「益々胡散臭い!あんた一体何者だ!?」 皆が思っていた事だが、とうとう我慢出来なくなったハーマンが問い質そうとすると、カールが すっくと立ち上がった。 「黙れ、ハーマン」 「何だ?お前もこいつと同類なのか!?」 「こいつって言うな。サラはお前の母親…つまりルイーズ大統領と知り合いなんだ。だから多 少の情報を知っていてもおかしくない」 「え…?そ、そうなのか?」 たと も 「ああ、嘘は言わん。それに例え軍の機密を知っていたとしても、決して外部に漏れる事はな かた い。彼女は口が堅いからな」 「あら、そんな事はないわよ」 せっかく 折角カールが無実を主張しているのに、サラはそれを否定する様な事を言い出した。 や 「サラ、何を言い出すんだ。冗談は止めてくれ」 「うふふ、冗談なんて言わないわ。確かに口は堅いけど、あなたに聞かれたら言っちゃうかも って思っただけだよv」 「…なんだ、そうか。それなら問題ないな」 結局何も解決してはいなかったが、このバカップルには付き合っていられないと、ハーマンは 諦めて書類を読み直し始めた。 一日で全ての基地を回るのは思った以上に大変だろう。 しかしサラが考えたスケジュール通りに事を進めれば作戦は成功しそうだ、と思わせるところ がさすがとしか言いようがない。 周囲の状況に気付いたサラは苦笑いを浮かべつつ、何事も無かった様に説明の続きを話し 始めた。 そ 「えっと…話が見事に逸れちゃったわね。説明の続きですが、そのスケジュール表を見れば わかる通り、あなた達の部隊をそれぞれ二つに分けてもらいます。隊長と副官がそれぞれ指 揮官となって行動。よって四つの部隊で全ての基地を回れるように時間を計算しました」 「ま、要するにこの紙に書いてある通りに行動すればいいって事だろ?」 「そうなるわね」 「じゃあ簡単だ、共和国軍は俺に任せておけ」 「お願いね、ハーマン」 単純なハーマンはそれだけで話が終わったが、カールは少々気に掛かる事があってサラに尋 ねてみた。 「軍は俺達が回るからいいけど、他はどうするんだ?一般市民にもたくさん出回っているんだ ろう?」 「そっちは私が何とかするから心配いらないわ」 「何とかって………まぁ、いいか。作戦が成功してから、ゆっくり聞かせてもらうよ」 「ふふふ、聞かない方がいいかもよ?」 ため 「君から無理矢理聞き出すのも面白そうだからね、一度試してみたいと思っていたんだ」 「ふ〜ん。じゃあ首を洗って待っていてあげるv」 カールは周囲の目を忘れて二人の世界に入っていたが、隣からの突き刺さる様な視線を感じ す ると、直ぐさまサラと別れの挨拶を交わして通信を切った。 おもも ヒュースのガッカリした表情を横目で見つつ、カールは神妙な面持ちでハーマン達にもう一つ の用件を話し始めた。 「作戦開始は三日後の明朝。絶対に遅れるなよ、ハーマン」 「お前もな」 むろん 「無論だ。…あぁ、それともう一つ頼みたい仕事があるんだ」 「何だ?」 「女性の合成写真があったら、それも全て抹消してほしい」 「女性?誰の写真だ?」 こた ハーマンの問いにカールは冷たい笑みで応え、ハッキリとは言わなかった。 聞かなくても何となく誰の写真か察する事が出来たハーマンは、何も言えなくなって無言で頷 いてみせた。 こうしてこの会議から三日後、帝国軍・共和国軍共同による作戦『合成写真撲滅作戦』が開 始された… ●あとがき● 同性カップリングファンの方、読んでいませんね?(何度書くつもりだ…) 今回のお話は書いていて面白かったですv カールとハーマンのやり取りは面白いですし、カールとヒュースのやり取りも負けず劣らず面 白い♪ 銃を常備しているかどうか定かではありませんが、恐らく持っているだろうと信じ持たせてみ ましたv(危険度レベルアップ!) 事の発端が「同性カップリングを応援している人達のイラストや小説・マンガを、利用されてい る本人が見たらどうなるのか?」だったので、今回めでたく(?)全員が見てしまいました。 誰でもああなると思うのですが、皆様はどうでしょうか? 私が男だったらもちろん気持ち悪いです。 …あ、この話はまた長くなるので置いておきます(笑) ハーマンとミシェールの関係がどこまで進んでいるのかも気になるところですねv 実は全く進んでいなかったりするのですが、だからこそハーマンはカールとサラがどこまで進 んでいるのか気になった様です。 早くラブラブにしたいと思っているのに、ハーマン達が主役になるお話を考えていません… かわいそうですが、しばらくは純粋な関係を続けてもらいたいと思っていますv またしてもサラの謎な部分を増やしてしまい、どうやって処理しようかと悩み中。 後先考えずに書くからダメなんですよね…。これからはなるべく気を付けます。 ●次回予告● 帝国軍・共和国軍共同で行う作戦『合成写真撲滅作戦』が開始されました。 カールの部隊とヒュースの部隊、そしてハーマンの部隊とオコーネルの部隊は朝早くから行 動を開始。 一日で全てを抹消する為に、彼らは死力を尽くします。 第五十話 「ファン〜撲滅編〜」 そこまでして隠さなくてはいけないような事なのか? <ご注意 その1> 次の第五十話「ファン〜撲滅編〜」は同性カップリングを批判する内容が含まれています。 同性カップリングファンの方は決してお読みにならないで下さい。 もう注意書きを書く必要はないかもしれませんが(笑) <ご注意 その2> 次の第五十話「ファン〜撲滅編〜」は性描写に近い表現が出てきます。 お嫌いな方・苦手な方はお読みにならないで下さい。 カールがサラに少々(多々?)怪しい事をする予定です(笑) 注意書きがとうとう二つになってしまった… |