第四十四話

「天使」


今、カールは夢の中にいる。

言葉では言い表せない程の血生臭い悪夢の中に……
                  あや               たびたび
軍人となり、初めて人を殺めた時からこの悪夢は度々カールに襲い掛かってきた。

しかも毎晩見る訳ではなく、忘れた頃に唐突に見る為、その恐怖は尋常ではなかった。
     はず
人並み外れた精神力を持つカールでなければ、今頃は発狂していたかもしれない。
                                                         たも
しかしいくら強い精神力を持っていたとしても、長年見続けていると、自我を保つのにそれなり

の力をいつも温存しておく必要がある。

軍人であるカールにとって、常に必要最小限の力を残しておく事は非常に困難な事であった。
    ごくまれ
よって極稀に悪夢に取り込まれ、人が変わった様に好戦的になる自分がいた。

一つの部隊を任されている指揮官がこんな事ではダメだと、自分が自分でなくなった時は必

ずと言って良い程、カールはゾイドに乗ろうとしなかった。

そうする事で、指揮官としての自分を守ろうとしたのだ。





だが、戦争というものは予告なく起こる。

カールがどんな状況にあっても。

意味もなく人の命を奪う為だけの戦いの中で、カールは自分とも戦い続けなければならなか

った。
                              おさ
人を殺したいという一種の欲望を必死に抑えていても、逃げ出そうとした敵を背後から撃って

しまう事があった。

また自分の手が血で汚れていく…

そう思うと再びあの夢が……あの悪夢がやって来る。

カールは根がとても優しい人間なのだ。
                                   さいな
だからこそ、人を殺めてしまった罪悪感にいつも苛まれている。

いっそ一部の士官達の様に殺す事が快感となれば、どんなに気が楽になるだろうか…。

しかし、カールはそこまで人の道を踏み外したくはなかった。

軍人向きの性格ではないのかもしれないが、カールはあの軍人貴族で有名なシュバルツ家
 ちゃくなん
の嫡男。

自分が望もうと望むまいと、軍人になるべくして育てられた人間。

『シュバルツ』という名がイヤになった時期も当然あった。

自分の名よりも必ず先に出てくる家の名。

その重圧に押しつぶされそうになりながらも、カールはその名に誇りを持つまでに成長した。

……そのせいかもしれない。

人に弱味を見せない様に、常に心掛ける癖が付いたのは。

あの悪夢が襲ってきても、カールは誰にも話さず、いつも一人で解決しようとしていた。

だが、一人では無理だと気付くキッカケとなる出来事が起きた。

サラとの出会いだ。
                                   いだ
サラを一目見ただけで、カールは瞬時に恋心を抱いた。

やがて想いが通じ合い、身も心も一つになれる存在がいると実感出来ると、カールは喜びに

打ち震えた。

サラを愛せば愛する程、あの悪夢を見る回数が減っていった。

そしてサラと何度か夜を共にした後、カールはようやく一人では無理だったのだと確信した。

サラが一緒に眠ってくれると、絶対に悪夢を見なかったからだ。

それでも時々、基地内の自室で一人で眠っていると、悪夢を見る事があった。
        のが
もうこれは逃れられない運命なのかもしれない…。

サラに相談すれば何らかの解決策を提示してくれただろうが、彼女には自分の裏面を見せた

くないので、カールは黙っておこうと心に決めていた。





そして、今に至る。

一年近く前に長かったヘリック共和国との戦争が終結し、ガイロス帝国を我がものにしようと
もくろ                             つい
目論んでいたプロイツェンの野望は完全に潰え去った。

現在、両国は互いの平和の為に一歩ずつ前に突き進んでいる。

それは大変喜ばしい事であったが、カールはまだ悪夢を見続けていた。

サラのお陰でほとんど見なくなったにもかかわらず、数ヶ月に一度何故か必ず襲ってきた。

国が平和になっても罪は消えないらしい。





夢の中でのカールは軍服を着ており、いつもどこかに向かって歩いていた。

毎回途中で目が覚めるので目的地は不明だったが、恐らく地獄だろうと予想された。

何故ならカールが歩く道の傍には数え切れない程の死体が転がっており、背後からは彼が
              ちまみ
殺めたと思われる血塗れの人々が、ゆっくりとした速度で追い掛けて来るからだ。
                       すなわ                                      ひど
彼らに追いつかれた時、それは即ち罪の意識にカールの心が敗れた事を意味し、彼を酷く好
          ひょうへん
戦的な人間に豹変させる。

そして、今日も久方振りに悪夢が襲い掛かってきた。
                                              なか
辺り一面の血の海を目の前にして、カールはまたあの夢かと半ば諦めきった思いに駆られ

た。
                                              ゆううつ
一生この夢を見続けなければならないと思うとハッキリ言って憂鬱だったが、自分が犯した

罪の重さを考えれば、仕方のない事だと諦めがついた。



『何故殺した…』

『私達は何も悪い事はしてない…。ただ皆で幸せに暮らしていただけなのに…』



いつもの様に死体畑の中を歩いていると、背後からもう何百、何千回と聞き続けている声が

聞こえてきた。

その声は老若男女様々な声が混ざり合っており、戦争に巻き込まれて亡くなった民間人達だ

と思われた。

カールが罪の意識に負ける最大の要因となっているのが彼らであった。

彼ら民間人は軍人が勝手に起こした戦いの為に命を落としたのだ。

殺すつもりなど全く無かったのに、戦いが始まれば彼らの事に構っていられなくなり、気が付

くと辺りにはたくさんの死体が転がっていた。
                                                                 う
運良く生き残った子供の前で、カールはその子の両親と思われる男女の遺体を土に埋める事

しか出来なかった。

自分の無力さを痛感し、自らの手を血で汚しながら黙々と遺体を土に帰した。

壊れている……

カールは自分自身の事をそう思った。

戦争で人が死ぬのは当たり前だと思い始めていたからだ。

慣れというものはこんなにも人の心を失わせてしまうのだろうか…?

だからこそ戦争が終わっても、この夢は彼に現実を見せ続けているのかもしれない…。




                                                      ますます
そうしてカールが死体畑の中心で立ち止まっていると、背後からの声が益々近くに聞こえてき

て、しかも今回はその声の主達に背中を強く押された。

(前に進め、という事か……)
                      みす
カールは前方の暗闇をじっと見据え、ゆっくりと歩き出した。
                                  す
いつもなら先程の接触で彼らに取り込まれ、直ぐさま目覚めたはずなのだが、とうとう地獄へ

の扉が開かれてしまったらしく、目の前の暗闇がカールの全身を包み込みつつあった。

今のカールには立ち止まろうとする意識がなくなっており、引きずる様な足取りで確実に前へ

進んでいた。

(……?)

その時、不意に誰かに手を握られた。
                                           すさ
カールは驚いて思わず立ち止まったが、途端に背後から凄まじい圧力が掛かり、手を握った

まま再び歩き出した。

『…行っちゃダメ』

握られた手から温かさと共に優しい声がカールに伝わった。

その声が誰の声なのか、カールが普通の精神状態であればすぐに気付いただろうが、今は

気付く気配すらなかった。

ほとんど光のない暗闇の中で、カールはまるで自身の体ではない様な目でぼんやりと自分の

手を眺めた。

彼の手を握っている手は手首までしかなく、どうしてその手から声が聞こえたのかわからなか

った。

『その先に行っちゃダメだよ!カール!!』

力強い声で自分の名を呼ばれた瞬間、カールは悪夢から解放された。

いや、救助されたと言った方が正確かもしれない。
                                                             ひと
慌てて起き上がったカールの目に一番に飛び込んできたのは……彼の最愛の女性サラであ

った。
              ずいぶん
「カール、大丈夫?随分うなされていたけど…」

心配そうに尋ねるサラを無視し、カールは辺りをキョロキョロと見回した。
          あか
枕元の小さな灯りのお陰で室内は何となく見る事が出来たが、壁に掛かっている時計はハッ

キリと見えなかった。

それでも窓の外は真っ暗だったので、真夜中である事は確かだ。

こんな時間にサラが訪ねて来るなんて、どう考えても不自然すぎる。

まだ先程の夢の続きなのだと思い込んだカールは、目の前の人物が誰なのかを察し、無性

に笑いが込み上げてきた。

「ふっ……そうか、そういう事か……くくく…」

「…カール?」
      なさ
「神にも情けはあるらしい。わざわざ死神がサラの姿で来るとはな…」
      ひとしき                                 ふ
カールは一頻り笑った後、突然ピタッと笑わなくなり、目を伏せてシーツをぎゅっと握り締め

た。

「しかしそんな姿で来られても俺には逆効果だ…。サラを残して死ねる訳がない」

「カール?何言ってるの…?」

「やめろ!その声で俺の名を呼ぶな!!」

カールは半狂乱で大声を出し、サラは一瞬困惑の表情を浮かべたが、ぐっと口をへの字に結

ぶと、彼の頬を思い切り引っぱたいた。

「しっかりしなさい!私のどこが死神だって言うの!?」
        たた
サラに頬を叩かれる事により、カールはようやく自分が夢から覚めていると気付き、すぐに大

人しくなった。

どうにかカールが落ち着きを取り戻してくれたので、サラは安心した様に微笑むと、赤くなって

しまった彼の頬を優しく撫で始めた。

「あなたがあんなに取り乱すなんて……どうしたの?何かあった?」

「別に……何でもない………」

「何でもない訳ないよ、あんなにうなされていたクセに…。恐い夢を見たのね?」

「……………」

「カール、話して……お願い…」
          まなざ                                さと
サラに真剣な眼差しで見つめられ、カールは話すしかないと悟ると、長年見続けてきた悪夢

の話をぽつりぽつりと語り出した。
                                  かたむ
サラは真剣な表情のまま静かに彼の話に耳を傾け、全てを聞き終えるとカールの手をぎゅっ

と握った。

夢の中で握られた手の感触と同じである事がわかる。

「…もっと早く話してほしかったな」

「ごめん……」

「それで……あなたはこれからどうしたいの?」

「君と共に生きていきたい。……けど、この血で汚れた手で君を抱くのは…正直言って辛いん

だ……」
                           お
「…じゃあ、歩みを止めずに地獄へ堕ちる方を選ぶの?」

「…………」

「カール」

サラは少々きつめの口調でカールの名を呼ぶと、子供に言い聞かせる様にゆっくりと話し始め

た。
               く                    よみがえ
「あなたがどんなに悔やんでも、亡くなった人達は蘇りはしないわ。だからこそ、あなたはその
                                            か      つぐな
人達の分まで生きなくちゃいけない。生きる事があなたに科せられた償いだから」

「生きる事が……償い…?」

「そうよ、人の命を背負って生きるの。それはとても辛い事だと思う…。でもあなたは一人じゃ

ない。家族、友達、そして私がいるわ。一人では辛くても、皆がいれば絶対大丈夫だよ」

「サラ…」
                                 あふ
サラの心強い言葉に、カールは思わず涙が溢れそうになった。
                                                    つな        やぶ
軍人であれば誰もが一度はぶつかってしまう壁を、サラは人と人との繋がりで打ち破ろうと言

ってくれた。

そしてそれが一番良い方法であると、カールはずっと前からわかっていた。
                         ゆえ
ただ自分の弱さを認めたくないが故に、誰にも悪夢の事を打ち明けられなかっただけなのだ。

本当はそんな風に言ってもらえる日を待ち望んでいたのかもしれない。
                                            すみずみ
今、最愛の女性に待っていた言葉を言われ、カールの心は隅々まで癒されていた。

弱々しくはあったが、カールが微笑んでみせるとサラも優しく微笑み、彼の手を取って胸元へ

持っていった。

「あなたの手は汚れてないよ」

「え…?」

「私の事、いつも優しく包んでくれるもの。だから私は大好きvv」
天使…?
                                                     こら
そう言ってサラは天使の様な笑みを浮かべ、その笑顔を見たカールは堪えきれなくなって彼

女を抱き寄せた。

「サラ、どうして君は……俺が君を必要とした時に必ず傍にいてくれるんだい…?」

「どうしてだと思う?」

「……愛してる…から?」

「ピンポ〜ン♪正解で〜すv」

カールは正解した喜びよりも、サラに愛されているとわかった喜びで心が満たされた。
                                           はか
愛しているからこそ、愛されているとわかった時の喜びは計り知れない。
                                           ふさ     ほうよう
その喜びを行動で伝えようと、カールはそっとサラの口を塞ぎ、熱く抱擁し始めた。
                                                           いと
サラはカールの濃厚な口づけを大人しく受けながら、叩いてしまった彼の頬を愛おしそうに撫

で続けていた。

やがて口づけを終えると、サラは改めてカールの頬を撫で、申し訳なさそうに謝った。

「ごめんなさい、思い切り叩いちゃって…」

「いや、いいんだ。お陰で目が覚めたから」

「でもまだ夜中だし……」

「…あ、そう言えば、こんな時間に来るなんて珍しいね。何か急用でもあったのかい?」

「うん、あったよ、急用」
                              うず
サラはコクリと頷くと、カールの胸に顔を埋めた。

「……何となくだけど、あなたの声が聞こえたの。だから、いても立ってもいられなくなって…

来ちゃったv」

「俺の声、か…。しかし、ここまで来るのはそう簡単な事ではなかっただろう?」

「ううん、簡単だったよ。夜勤の人に頼んだら、すぐに入れてくれたの」

「…………」

こんな美しい女性に頼み事をされて断る様な者はいないと思ったが、カールは今日の夜勤の

部下に少なからず嫉妬の念を抱いた。

が、目の前にいる最愛の女性の笑顔を見ていると、その思いはすぐにどこかへ消え去ってい

った。
                                      かし
ふともう一つ重要な事を思い出したカールは、首を傾げながらサラに尋ねた。

「ドアのロックは…?解除ナンバーは俺しか知らないはずだ」

「ふふふ、それくらい調べればすぐわかる事だよ。でもね、ここの解除ナンバーは調べなくても

わかったの」

「あ……そうか…」

カールは自分が設定した解除ナンバーが何の数字を表しているのか思い出すと、照れ臭そう

に頬を赤らめた。

カールが設定した解除ナンバーは『0512』

つまりサラの誕生日を表す数字。

それをサラは一瞬で見抜いたと言うのだから、やはり彼女の洞察力は大したものだとカール

は実感していた。

しかし、サラはわかっていてその数字を打ち込んだ訳ではなかった。
                                        よんけた
ドアのロックを解除しようとパネルを操作し始めた時、四桁の数字を入力せよと表示されると、

ふと思い浮かんだのは自分の部屋の解除ナンバーであった。

サラの部屋の解除ナンバーは『1017』

実はサラもカールと同じく、最愛の人の誕生日を解除ナンバーにしていたのだ。
                                          ため
サラはカールも同じ事をしていたらいいなと思いながら、試しに自分の誕生日の数字を打ち込

んでみると、すんなりとロックが解除された。

期待通り、カールが自分と同じ考えで解除ナンバーを設定してくれていたとわかり、サラはし
          ひた
ばらく幸せに浸っていたが、直ぐさま室内の異変に気付くと、慌てて中に駆け込んだという次

第だ。

だが、照れ臭さからこの事はカールに話さないでおこうとサラは思っていた。





「ねぇ、カール」

「…うん?」
                                から                        す
サラはカールの手に自分の手を重ね、指を絡めながら甘える様な仕草で体を擦り寄せた。

「…抱いてほしいな」

「……?突然何を言い出すんだい?」

「あなたの手で安心出来る人がいるって証明したいの。だからお願い……」

「………しかし、ここでは…」
                                                ごまか
サラの突然のお願いにカールは戸惑いの色を隠せず、それを誤魔化そうと部屋を見回した。

カールの自室は師団長用の部屋というだけあって大変広かったが、周囲には部下の部屋が

いくつかあり、サラのあの声を誰かに聞かれる恐れがあった。
       けねん
その事を懸念してカールはサラを止めようとしたが、彼女は首を縦には振らなかった。

「平気よ、声を出さないように頑張るから」

「……わかった」
            けなげ
カールはサラの健気さに感動すら覚えつつ、彼女をベッドへ押し倒した。
                                                                    は
そうしてすぐにサラの口を塞ぎ、その間に彼女が身に着けている衣服を下着も含めて全て剥

ぎ取った。

「サラ」

「…なぁに?」

「辛くなったらすぐに言ってくれ、俺も手伝うから」

「うん、ありがと」

サラがにっこりと笑って礼を言うと、カールはとうとう気持ちを抑えられなくなって彼女に襲い掛

かった。
                 あいぶ
サラはカールの激しい愛撫を全身に受けながら手を口元へ持っていき、声をあげない様に必

死に我慢していた。
                        なま                   じょじょ
しかしサラの我慢する姿が妙に艶めかしかった為、カールは徐々に我を忘れてしまい、彼女
                           つの
にあの声をあげさせたいとの欲求が募った。
                           あえ
カールだけが聞く事を許されている喘ぎ声を…

「サラ、少しくらいなら声を出してもいいんだよ?」

「…で、でも……ぁ
…v」

「必死に我慢する君の姿を見ていると、すごくそそられるんだ…。このままだと手加減出来なく

なる……」
すで
既に手加減などしていない程激しい状態であったが、カールは理性を失いつつある中で、自

分を保とうと懸命になっていた。

そんなカールの努力を察する事が出来なかったサラは困惑の表情を浮かべ、まだ声をあげら

れずにいた。

自分の声をカール以外の人に聞かれたくないのだから無理もない。
                                          ちゅうちょ
しばらくするとカールは完全に理性を失ってしまい、何の躊躇もせずに声をあげさせる為の最
                          そ                   ぬ            なか
終手段を使おうと決意し、自身の反り返ったたくましいものを濡れ始めたサラの膣へ勢い良く

挿し込んだ。

「あぁっ……ぁ…あ…………かーるぅ…v」

これはさすがに我慢出来なかったらしく、サラはカールに抱きついて声をあげた。

その声を聞いた途端、カールは嬉しそうに目を細め、腰を激しく動かし始めた。

「はぁっ…………や……あぁ………vv」

体に伝わる快感によって無意識に声をあげてしまうので、サラは再び口を押さえて我慢しよう

としたが、その時ふとカールの手が瞳に映り、思わずそちらに手を伸ばした。

そうして彼の手を口元まで持っていくと、軽く口づけしてにっこりと微笑んだ。

「うん…?」
                                                                    のぞ
行為の途中ではあったが、カールはすぐその笑顔に気付くと腰を止め、サラの茶色の瞳を覗

き込んだ。

「やっぱり……あなたの手って…すごく安心出来る」

「君にそう言ってもらえると、俺も安心出来るよ」

「ふふふ、一緒だねv」

「ああ、一緒だ」

二人は体を一つにしたまま幸せそうに微笑み合うと、唇を重ねて激しく舌を絡ませ合った。

それと同時にカールは再び腰を動かし始め、激しすぎる行為を再開した。
                                                         おおはば
が、今回は余り長く行為を続けようと思わなかったので、カールはいつもより大幅に短い間だ
                                             つ
けサラと一つになり、後は彼女の温もりを感じながら眠りに就いたのだった。





翌朝カールはいつも通りの時間に目を覚まし、隣に眠る愛しい女性の寝顔を眺めた。
                             すがすが
やはりサラが一緒だと、ぐっすり眠れて清々しい朝を迎えられる。

あの悪夢を見た後で、こんな気持ちで目覚めたのは初めてと言っても過言ではない。

そうしてカールが心から幸せに浸っていると、彼の愛しい女性がゆっくりと目を開き、にっこりと

微笑んだ。

「おはよ、カール」

「おはよう」

二人は笑顔で挨拶を交わすと、どちらともなく身を寄せ合い、互いの温もりを確かめ合った。

「今日は朝から演習?」

「ああ」

「そっか…。じゃあ、私そろそろ帰るね」

「もう…?もっとゆっくりしてくれていいんだよ?」

「あなたが演習でいないのに、一人でゆっくりしたって淋しいだけだもん」

「…そうか、確かにそうだな」
                                                 ささ
サラが素直に『淋しい』という言葉を口に出すと、カールは彼女の支えになれているのだと実

感し、ほっと胸を撫で下ろしていた。

カールが納得してくれたので、サラは彼によって脱がされた服を着直し、身支度を整え始め

た。
                                          そで                      かぶ
その隣でカールもサラを見送りに行く為に急いで軍服に袖を通し、最後にきちんと軍帽を被る

と、二人で格納庫へ向かった。

すると、格納庫には不自然な程たくさんの兵士達が集まっていた。

恐らく昨夜夜勤だった兵士が朝から皆に言いふらし、サラに会おうと集合したのだろう。
                                        あ
そんなサラのファンと思われる兵士達の熱い視線を浴びながら、二人はレドラーの傍まで行く

と、満面の笑顔で見つめ合った。

「また遊びに来るね」

「ああ、いつでも歓迎するよ」

「ふふふ、大佐の言葉とは思えないわね」

「君は特別だからさ」

「特別、かぁ…。ありがとう、すごく嬉しい」

「礼を言われる程の事ではないよ、一番大切な女性を一番特別にするのは普通だ」

「う、うん、そうだね」

兵士達の前だというのに、カールは聞いている方が照れる様な事を平気で言い、サラは頬を

赤らめながら微笑んでみせた。
                                                      なかむつ
周囲にいるサラのファンであり、カールのファンでもある兵士達は二人の仲睦まじい様子にウ

ットリとなっていた。

そうしてサラはカールとしばらく微笑み合った後、レドラーのキャノピーを開いてコックピットに
          いか
乗り込むと、如何にも今思い出した様なわざとらしい仕草で振り返った。

「カール、忘れ物しちゃった」

「忘れ物?じゃあすぐに取って来るよ、何を忘れたんだい?」

「教えるから、ちょっと耳貸して」

皆に聞かれると余程まずいものなのか、サラはカールがレドラーのコックピットへ身を乗り出す
                        つぶや
まで待ってから、ようやくぼそっと呟く様に言った。

「そのまま動かないで」

「……?」

カールが不思議そうな表情で首を傾げると、サラは突然ビシッとどこかを指差して叫んだ。

「あっ!あれ見て!!」

格納庫内の兵士達は当然サラの声に直ぐさま反応し、一斉に彼女が指差した方向を見た。

その間にサラはただ一人自分の方を見ている者…つまりカールの頬に手を伸ばし、軽く唇を

重ねた。

突然の出来事にカールは目を丸くして驚いたが、すぐ笑顔に戻って小声で尋ねた。

「…今のが忘れ物?」

「うん、忘れ物v」
           いたずら
サラはカールに悪戯っぽく微笑んでみせると、まだ彼女が指差した方向を見続けている兵士

達に声を掛けた。

「えへへ、気のせいだったみたい」

サラがカールとの事を感づかれない様にわざとかわいらしく言うと、兵士達はメロメロといった

様子になり、笑顔で何度も頷いた。

それを見届けたサラはカールに向かってこっそりウィンクし、レドラーを起動させた。

「じゃ、またね」

「ああ、またな」

二人はいつもの様に短く挨拶を交わし、カールがある程度の距離まで離れると、サラが操縦

するレドラーは基地から勢い良く飛び立った。
                                                          かなた
カールは急いで格納庫から外へ向かうとレドラーを目で追い、その姿が空の彼方に見えなく

なるまで笑顔のまま眺め続けていた。



                           *


      さかい
この日を境に、カールは長年見続けていた悪夢をぱったりと見なくなった。

サラにずっと待っていた言葉を言ってもらったお陰で、自分の罪と正面から向き合う事が出来

る様になり、生きようとする力が強くなったのだ。

(サラは……天使なのかもしれない………)

カールはこれまで一度として神の存在を信じた事が無かったが、今は無性に感謝したくなって

いた。

彼にとって天使とも言える女性、サラと出会わせてくれた事に対する感謝の気持ちだ。

これからは少し神という存在を信じてみようと思うカールであった。










●あとがき●

カールの成長の一区切りとして考えたお話なのですが…内容が見事に暗い方向に進んでし
まいました。
やはり人を殺した罪悪感ってすごいと思います。
軍人であれば当たり前の事でも、優しいカールにとっては一生忘れられない事なんですよ
ね…
だから悪夢という形を取り、ずっとカールを悩ませていたのです。
しかしサラのお陰で全てを乗り越える事に成功!
軍人としてのカールが完璧に形作られた瞬間です。
ようやく2部からの落ち着いたカールになれそうですv
サラの前では相変わらず若造のままですが(笑)
余り落ち着いてしまうとかわいさが半減してしまいますので、これからも青臭さを出したいと思
っていますv
サラと一緒の時だけ、というのが如何にもカールらしいvv
仕事中はもちろんキリリとしたカールにするつもりです。
どちらのカールもカッコイイvと思ってしまう方は私と同類(笑)
それにしても……羽の描き方が予想に反してうまくいきませんでした(いつもの事?)
性描写同様、イラストの腕前も一向に上がる気配がありません。
枚数を描く事によって腕が上がると信じ、今後もめげずに描いていきたいと思います。

●次回予告●

第一装甲師団にはずっと副官がいませんでした。
その為、カールが一人で何とか頑張っていましたが、ようやく待ちに待った副官が第一装甲
師団にやって来る事になりました。
しかしその副官はカールの最大の恋敵となる男だったのです!
その人物とは一体誰なのか!?
第四十五話 「副官〜前編〜」  ……じゃあ、俺は?『友達以上』とは言えないのか?