第四十二話

「弟〜中編〜」


                                                                  あぜん
翌日の早朝から早速サラの訓練が始まり、集まった兵士達はその厳しい内容に皆して唖然

となっていた。

楽しみにしていた訓練がこれ程までに厳しいとは思いもよらなかった為、今頃こっそり後悔す

る者が続出した。
                                                や
しかし憧れのサラと多少なりとも交流出来る事を考えると、誰も止めるとは言い出さなかった。
                                                             ひんぱん
この基地ではカールが通っていた士官学校同様、訓練には実弾よりもペンキ弾を頻繁に使用

しており、サラの訓練を受けた者のゾイドは皆ペンキまみれになって帰って来た。

サラはまるで遊んでいるかの様に訓練用火器を操作していたが、途中で兵士達の余りの手

応えの無さにつまらなさそうな表情を浮かべた。

「皆修行が足りないわねぇ」

「君がすごすぎるんだよ」
       あき
カールが呆れながら言うと、周囲にいるオペレーターの兵士達も一斉に頷いた。
                                              か
すると、サラは苦笑いを浮かべ、照れ臭そうに頭をポリポリと掻いてみせた。

そんなサラのかわいらしい仕草に、兵士達は瞬時に心奪われてウットリとなり、その様を見た
           しっと
カールは内心嫉妬の念を感じたが、顔には出さない様に心掛けた。

「あ、次トーマ君だ」

サラはモニターに映った人物を見て嬉しそうに言うと、傍にいる兵士に声を掛けた。

「まずはあなたが訓練してあげて」

「りょ、了解であります!」

サラが初めて訓練を他の者に任せたので、頼まれた兵士は喜びを思い切り顔に出して返事を

した。

だが、サラはビークの力がどれ程のものなのかを確認する為に頼んだだけで、その兵士に何
                          す
か思い入れがあった訳ではなく、直ぐさま真剣な表情になってモニターを見つめた。
                                            よ
トーマはビークの力を借りてはいたが、確実にペンキ弾を避け続け、次々現れる標的にも百発

百中という程真ん中に命中させていた。
                     にら
サラが難しい顔でモニターと睨めっこしていると、カールは彼女の傍まで歩み寄り、笑顔で話

し掛けた。

「いけそうか?」
                                                         つ
「うん、ビークにも癖はあるみたい。恐らく開発者であるトーマ君の癖を受け継いでいるんだと

思う」

「そうか、さすがだな」

「えへへv じゃ、後は私がするわね」

サラは兵士と交代し、訓練用火器を操作し始めた。

すると、そんなに時間は掛からずにサラは確実にトーマを打ちのめしていき、あっという間にデ

ィバイソンをペンキまみれにしてしまった。

数分後、ようやく観念したトーマは操縦を止め、笑顔でサラに通信を入れた。

「降参です。さすがサラさんですねv」

「トーマ君、ちょっとビークに頼りすぎね。自分自身の力をもっと出さなきゃダメだよ」
     しょうじん
「はい、精進致しますv ありがとうございました!」

トーマは上機嫌で返事をすると、モニターを切って基地へと戻り始めた。

サラは次の兵士の訓練を行いながら、隣で一緒になってモニターを見つめているカールにこそ

っと話し掛けた。

「…わかってくれたかなぁ?」

「う〜ん、どうだろう…?」

カールは肩をすくめてみせ、それ以上は何も言わなかった。




      と
昼食を摂る為に途中休憩を入れつつも、夕方には希望者全員の訓練が無事終了し、サラは

ふぅと一息つくと、妙に嬉しそうな笑顔でカールを見上げた。

「あなたも訓練する?」

「俺だと手加減してくれないだろ?」

「ええ、もちろんよ。あなたと一緒でしょ?」

「……お願いしよう」

「りょ〜かいv」

カールはサラに見事に言いくるめられ、彼女の訓練を受ける事になった。

カールが格納庫へ向かうと、ディバイソンから降りて来たトーマと丁度出くわし、彼は兄の姿に

気付くなり笑顔で駆け寄って来た。

「兄さんもサラさんの訓練を受けるのですか?」

「………ああ」

「頑張って下さい!期待しております!!」

カールは何度注意しても平然と兄と呼び続けるトーマに心底呆れ果て、もう指摘する気も起き

なかった。

その場でトーマを見送り、セイバータイガーに乗り込んだカールは訓練場の入口へ向かうと、

サラに通信を入れた。

「サラ、始めてくれ」

「了解、頑張ってねv」

サラはようやく本気を出せると思い、満面の笑みを浮かべながら火器を操作し始めた。

カールは前に一度サラの訓練を受けた事もあり、最初からなかなかの善戦振りを見せ、逆に
                     わざ
彼女を苦戦させるという離れ業をやってみせた。

「ん〜、やるわねぇ…」
    つぶや
サラの呟きに、周囲の兵士達も同意する様に深く頷いた。

ちゃっかりサラの隣で観戦していたトーマは兄の実力を改めて実感し、その素晴らしさに目を

輝かせていた。

一方、サラは一発くらいは当ててやろうとムキになって攻撃し続けたが、結局カールは見事に

全弾を避け切り、彼女の訓練を完璧にクリアした。

「あ〜、降参よ、降参!もうあなたには敵わないわ」

サラがガッカリした様子で言うと、モニターに映るカールはにっこり笑顔で彼女を見つめた。

そんなカールの熱っぽい視線に気付いたサラは、何故かドキッとして黙り込んだ。

そうしてそのままサラとカールが動かなくなってしまった為、トーマや兵士達はどうしたのだろ
                  うかが
うと二人の様子を交互に伺った。

すると、サラは頬を真っ赤にしながらコクンと頷いてみせ、それを見届けたカールは通信を切っ

て基地へと戻った。
                                   そろ
二人の行動が全く理解出来なかった兵士達は揃って首を傾げ、トーマはまだ顔を赤らめてい

るサラに恐る恐る声を掛けた。

「あ、あの〜、サラさん。何だったんですか?今の」

「……え?あ……ううん、何でもないわ、気にしないで」
           ごまか
サラは笑って誤魔化したが、トーマは何か問題が起きたのかと勘違いし、心配そうな顔のま

まであった。

先程のカールの笑顔は他人には理解出来ない恋人同士の合図だったので、当然サラにしか

その真意はわからなかった。
             そ
トーマから視線を逸らしたサラは訓練室に居辛くなり、カールを迎えに足早に格納庫へ向かっ

た。





その日の夜、夕食を終えて自室に戻ったカールとサラはシャワーを浴びてから、こっそりと格

納庫へ向かった。
    せいじゃく
やがて静寂に包まれている格納庫に到着し、二人は真っ直ぐセイバータイガーの元に歩み寄

ると、いそいそとキャノピーを開いて乗り込んだ。

するとその時…

傍にあるディバイソンのコックピットからトーマがひょっこり顔を出し、ほぼ同じ高さであるセイバ

ータイガーのコックピット内にいたカール達と思い切り目が合った。
会いたくない時に限って…(笑)
「あれ?こんな時間にお出掛けですか?」

「え、ええ、そうなの」

「どちらへ行くんです?」

トーマは深い意味はなく普通に尋ねたのだが、そうだとわかっていても、サラとカールは思わ

ず顔を見合わせて頬を赤らめた。

「あ、あのね……ちょっとそこまで行くだけよ」

「そうですか。兄さんなら大丈夫だと思いますけど、外は暗いですから気を付けて行って来て

下さい」

「ええ、ありがとう」

サラが礼を言うのと同時に、カールは急いでキャノピーを閉めると、セイバータイガーを発進さ

せ、逃げる様に格納庫を後にした。
                    つか                 は
サラはカールの肩に慌てて掴まり、ふぅと大きく息を吐いて苦笑した。

「トーマ君にバレちゃったかな?」

「たぶん大丈夫。あいつはこういう事に妙に鈍感だから」

「誰かさんと同じって訳ねv」

「……………」

サラの言葉を否定出来ず、同時に自分も人の事は言えないクセにと思いながら、カールは黙

ってセイバータイガーを走らせた。

そうして小一時間程行った所でセイバータイガーを停止させると、カールはサラにせがまれて
                          あか
キャノピーを開き、コックピット内の灯りを全て消した。

「わぁ〜、綺麗vv 近くに灯りがないと、よく見えていいよねぇ」

「そうだな」

サラは満点の星空を嬉しそうに見上げていたが、ふと今日の訓練の事を思い出すと、視線を

カールへと移動させた。

「あ〜ぁ、私の訓練に耐えられる人がいるなんてな〜、悔しいな〜」

「二度目だったからさ」

「二度目でもあなただったから耐えられたのよ。さすがね、やっぱり大佐になる人は違うわ」
           ほ
サラが素直に褒めると、カールは照れ臭そうに微笑み、彼女の頬をそっと撫でた。

灯りがなくても月の光だけで充分互いの顔が見えるので、二人はゆっくり近づいていって唇を

重ねた。

そしてすぐに濃厚な口づけを始めたカールは、唇を離さない様にしながらサラの服に手を伸ば
              はず
し、丁寧にボタンを外し始めた。

「………ん。…ちょ、ちょっと待って」
    こんしん        しぼ
サラは渾身の力を振り絞ってカールの体を押し返し、コックピットの前の方へ移動した。

「今日は自分で脱ぐ。あなたに任せると中途半端になりそうだから」

サラは以前コックピット内で抱かれた時の事を思い出しながら言った。
                                                             まく
あの時はカールにいきなり襲われた為、服を脱ぐ暇など当然なく、スカートなどを捲り上げた

状態で行為を行った。

それはサラにとって全裸よりも恥ずかしい格好であった。

だからこそ今回は恥ずかしくても自分で脱ごうと決意した様だ。
                                                               あらわ
サラは途中まで外されていたボタンを全て外し、はらりと上着を脱いで豊満な乳房を露にさせ

た。

続いてスカートを脱ごうとファスナーに手を掛けたが、ふとカールの熱っぽい視線に気付くと、

慌てて胸元を隠した。

「見ちゃダメ。向こう向いてて」
        ふく
サラが頬を膨らませながら言うと、カールはあからさまにガッカリした表情になったが、こんな

事で意地を張っても仕方ないとすぐにそっぽを向いた。
                                                                ひざ
サラはカールが見ていないのを確認すると、一気に服を脱ぎ捨てて全裸になり、彼の膝の上

にちょこんと座った。
                                               いと
膝に温もりを感じたカールはゆっくりと振り返り、サラの全身を愛しそうに眺めてから優しく抱き

寄せた。

「…そう言えば、今日君は手加減してくれなかったな」

「え…?それってどういう意味?」

「要するに、俺も手加減しないって事だ」

「そ、そんなのダメだよ。それとこれとは話が別だもん」

「いいや、一緒だ。…今夜は絶対に手加減しない」
            さわ                                      あいぶ
カールは非常に爽やかな笑みを浮かべたかと思うと、サラの体を指で愛撫し始めた。

「やんっ……v ま、待って……カール…………いや……」
                    もてあそ                       こころ
カールの指に体のあちこちを弄ばれながら、サラは必死に説得を試みたが、彼女の体からは

確実に力が抜け始めていた。

しばらくして、我慢が限界に達したサラは体の力を完全に抜き、カールの愛撫に身を任せた…





翌日の明け方、基地へ戻って来たカールとサラはこっそり格納庫内に入り、セイバータイガー

から降り立った。

早朝という事もあって格納庫内に人影は無く、しんと静まり返っていたので、二人はほっと胸

を撫で下ろした。
                                                         いわゆる
昨夜の行為が激しすぎた為に自力で歩く事が困難になってしまったサラを、所謂お姫様抱っ

こにしていたカールは、今の姿を見られたら全く言い訳出来ないと足早に自室へ向かった。

昨日の事を考えると、ひょっとしたらトーマに出会ってしまうかもしれない…
                                   そうぐう
そんな心配を胸に抱いていたが、何とか誰とも遭遇せずに自室に入り、カールは安心した様

に微笑んでサラをベッドへ下ろした。

「しばらくゆっくり休んでくれ」

「ありがとう。でも…あなただってほとんど寝ていないのに、私だけ休むなんて悪いわ。少しで

いいから一緒に休みましょ、ね?」

「大丈夫、俺の事は心配しなくていい。俺は余り疲れてないから」

「……………うん、わかった。いってらっしゃい」
                              ひたい
サラが笑顔を見せると、カールは彼女の額に優しく口づけし、急いで身支度を整えて部屋から

出て行った。





丁度その頃、トーマはビークの調整をする為に格納庫へ向かっていた。

彼は暇さえあれば、ずっとビークの調整をしているのだ。

すると、格納庫へ続く廊下の途中で見掛けた兵士達がカールとサラの話をしていたので、トー

マは思わず足を止めて物陰に隠れ、こっそりと聞き耳を立てた。

「おい、どうやらあの噂は本当らしいぞ」

「え!?マジかよ!?前々から怪しいとは思っていたが、まさか本当に…?」

「元・第四陸戦部隊のヤツに聞いたから間違いない。しかし俺もまだ信じられないぜ、博士が

大佐とできてたなんてさぁ…」

「帝国軍一の美形と言われる大佐が相手では、もう誰も敵わねぇだろうな」
       せっかく
「はぁ〜、折角ファンクラブの会員カードが届いたばかりだったのに…」

第四陸戦部隊にいた者達はカールとサラの関係に気付いており、彼らから流れた情報が帝

国軍内で着々と広まっている。

帝国軍には大きなファンクラブが二つ存在し、一つはカール、もう一つはサラの為に作られた

ものだ。
そうほう
双方に所属している者が多数おり、二つのファンクラブは大々的に情報を交換し合うなど、長

年協力態勢にあったが、カールとサラが恋人関係である事が発覚してからは、どちらのファン

クラブも勢力が真っ二つに分かれていた。

二人の仲を応援していこうという賛成派と、何とか二人を別れさせようという反対派。

一般市民で組織されているカールのファンクラブでも同じ様な現象が起こり、国立研究所に勤

めているステア達助手の面々はもちろん賛成派である。

当の本人達が関知していないところで、分かれた二つの勢力は水面下で静かに対立し合っ

ていた。

「しかしよ、ものは考えようだぜ。あの二人が付き合ってるって事は…」

「………そうか!大佐に会う為に、博士がこの基地へ来てくれるって訳だな?」

「そういう事。写真でしか見る事の出来ないあの笑顔を『生』で見られるんだ。他の部隊の奴ら

にめちゃくちゃ自慢出来るぜ!」

「この部隊に配属されてラッキーだったな」

今サラ達の事を話している兵士二人は賛成派になる様だ。

第一装甲師団に所属する兵士は皆同じ理由で賛成派になっている。

もちろん、その方が得だからだ。

「おい、貴様ら!その話は本当なのか!?」
                                       ぎょうそう      せま
兵士達の話にいきなり割って入ったトーマは、すごい形相で彼らに迫って行った。

兵士達はトーマの突然の登場に驚き、ポカンとなって黙り込んだ。

話題の中心となっていた人物の弟なのだから無理もない。
                                  よゆう
しかし今のトーマにはそんな事を考えている余裕はなく、恐い程の目つきで兵士達の返事を

待った。

その目はやはり兄弟なのだと改めて思う程カールの目とそっくりで答えない訳にもいかず、兵

士達は何度も頷いてみせた。

「そうだったのか……道理でおかしいと思った…」

トーマは昨夜の兄達の様子を思い出し、ガックリと肩を落とした。
                         つ
こうしてトーマの恋路が終わりを告げ、互いに苦手とする恋愛事でも兄カールに完敗してしま

ったのだった。
                ひらめ
が、落胆と同時にある閃きがトーマの脳裏に浮かんだ。
                                   いず
兄であるカールとサラが恋人同士という事は、何れ二人は結婚するだろう。

そうすると必然的にあの美しい女性が自分の姉になり、今以上に仲良く接してもらえる。

トーマは自分の出した結論に満足気に頷くと、上機嫌で格納庫に向かって歩き出した。
                                   へんぼうぶ                       かし
そんなトーマを呆然と見送った兵士達は、彼の変貌振りに思わず顔を見合わせ、首を傾げる

しかなかった。




                                         おさ
朝食を摂りに食堂へ向かったカールは、眠気を必死に抑えながら黙々と食べ続け、最後にコ

ーヒーをぐいと飲み干すと、今日の演習の準備に取り掛かった。

格納庫でカールが部下に指示を出していると、トーマが軽い足取りで彼の元へやって来た。

「兄さ〜ん!」

「……シュバルツ中尉、何度も言わせるな」

「あ、すみません、シュバルツ大佐」

慌てて言い直すトーマをうんざりとした表情で眺めつつ、カールはこっそりとため息をついた。

いつになったら一人前になれるのだろうか、この弟は…

「…で、何の用だ?」

「そろそろサラさんがお帰りになる頃なので、自分にお送りさせて頂けないかと思いまして…

よろしいでしょうか、大佐?」
           ていちょう
「……よかろう、丁重にお送りしてくれ」

「はい、承知しております!将来姉になって下さる方に、失礼は致しません!!」

「………?姉…?」

「あっ……いえ、何でもありません。では、お送りする準備をして参ります」

トーマは必死に笑って誤魔化し、カールの前からそそくさと立ち去った。

だが、カールはトーマが言った事を何となく理解し、自分とサラの関係がバレていたのかと苦

笑いを浮かべていた。





正午近くなり、カールの自室で休んでいたサラはゆっくり起き上がると、急いで帰る支度を始

めた。
                                              つか
まだ腰に痛みを感じたが、しばらく休んだお陰で歩くのに差し支えない程度まで何とか回復し

ていた。

やはり手加減なしは体に相当負担が掛かる様だ。

しかも今回はコックピット内という狭い空間で行った為に行動範囲が制限されてしまい、サラ

だけでなくカールにも多少の負担が掛かった。

今度からコックピット内ではしないでおこうと思ったが、そういう状況になった時、カールを説得

出来るかどうかは自信がなかった。

無理かもしれないといきなり諦めつつ、サラは身支度を終えてカールの自室を後にした。

そうしてサラが格納庫に向かって歩いていると、彼女を見つけたトーマがすごい勢いで駆け寄

って来た。

「おはようございます!サラさんv」

「あら、おはよう、トーマ君」

「お送りする準備は整っております!さぁ、こちらへ」

「あ、ありがとう」

朝から妙にテンションの高いトーマに連れられ、サラが格納庫内に入ると、たくさんの兵士達

が彼女を見送る為に集まっていた。

「また来て下さいね!」

「我々はあなたが来て下さるのを心よりお待ちしております!」

「ありがとう、皆さん。また必ずお邪魔しますね」
                     りちぎ
サラは兵士達の呼び掛けに律儀に返事をしながら、前にも同じ様な光景をどこかで見た事が

あるなと感じていた。

(………あ、そっか。あの時だ…!)

砂漠の演習場でカールとお別れの時、ステア達もこんな風に声を掛けていたのだ。

何となく、いつもカールが味わっている苦労がわかった様な気持ちになった。

一通り返事を終えたサラはディバイソンを荷台に乗せたグスタフに乗り込もうとしたが、途中で

ふと優しい視線に気付き、ゆっくりと振り返った。
                                                          たたず
部下の前でいつもの様に挨拶するのは気が引けたのか、カールが遠くの方に佇んでいるの

が見えた。

サラが満面の笑みを浮かべて手を振ってみせると、カールもつられて笑顔で手を振り返した。

言葉を交わさなくても、行動だけで二人の想いは通じ合う。

二人の様子を見届けたトーマはにやりと不敵な笑みを浮かべ、サラに声を掛けた。

「では出発しましょうか、サラさん」

「ええ、お願い」

たくさんの兵士達に見守られながら、トーマが操縦するグスタフはゆっくりと発進し、第一装甲

師団の基地から去って行った。










●あとがき●

トーマの恋路はあっという間に終わりを迎えてしまいました。
始めからわかっていた事とは言え、トーマは女運が無いのかも(笑)
後に出会うフィーネにもバンがいますし、彼の恋が実るのはいつになる事やら…
カールよりも空回りな行動が多い分、トーマは苦労が多くなりそうですね。
お兄ちゃんを見習って相手を一人に限定出来れば、すんなり彼女が出来ると思っていますv
その時まで頑張れ、トーマ!
以前謝っていたにもかかわらず、またしても『コックピット内で』というシチュエーションを使って
しまいました。
ひょっとしたら結構気に入っているのかもしれません(爆)
しかし私用でゾイドを使うのはダメですよね、これからは気を付けたいと思います。
…と書きつつ、きっとこれからも私用で使い続けそうです。
軍の中でカールはアイドル(?)なので、何をしても許されるでしょう。私も許します(笑)
今回はファンクラブの現状も少々書いてみましたが、これからの動きが益々気になりますね。
ファンクラブ会員のお話も書けたら書きたいと企んでいます、もちろんギャグ中心でv
最後に、カールの合図について。
わかる人はわかったと思いますが、「今夜いいだろ?(いつもより強気)」という合図でした。
これからもきっとカールは同じ合図を送り続けるでしょう(笑)
う〜ん、若いっていいのぅ…(老人!?)

●次回予告●

トーマの配属先を決める事になってしまったカール。
悩む事が多いカールに、サラは様々な助言をしてくれます。
弟に対して抱いていた嫉妬の念…サラのお陰でその思いが消え去った時、カールは兄として
トーマの将来を温かく見守っていこうと思える様になりました。
第四十三話 「弟〜後編〜」  どんな状況でも冷静に、最後まで自分を信じて戦え