第四話

「食事」


サラ達と手伝いの兵士ら一行は精密機械を運搬している為、かなりゆったりとしたペースで遺

跡へ向かっていた。

そして数時間掛けてようやく目的地である砂漠の遺跡に到着すると、サラはすぐさまテキパキ

と指示を出した。
                      うも                                        かろ
その遺跡はほぼ全体が砂に埋もれており、入口と思われる石造りの穴付近だけが辛うじて
     む
砂から剥き出しになっていた。
               か
その為まずは砂を掻き出す必要があったので、持参した穴掘りの機械だけでなく、兵士やサ
   みずか
ラ達も自らの手で砂の撤去作業を行う事になった。

ステアとナズナは時折ブツブツと文句を言っていたが、兵士達はサラの手伝いが出来るだけ

で幸せらしく、不満一つ言わずに黙々と作業を続けた。

やはり第四陸戦部隊にも、サラのファンクラブに入っている者が多数いる様だ。
              よし
当然カールは知る由もなかったが…。





発掘を開始して数日経ったある日、サラは朝早くから給仕係の兵士に調理場を借り、たくさん

の食材を用意して料理を始めた。
                              も                         もう
毎日発掘を続けていてはさすがに体が保たないので、週に一回は休日を設けているのだ。

その休日を利用し、サラはカールとの約束を果たそうと、兵士全員に振る舞う為の料理を作っ

ていた。

そしてサラの隣では、慣れない手付きのステアとナズナが悪戦苦闘しながら彼女の手伝いを

していた。

毎日自分達の食事を作っているサラにはこのくらい訳ない事だったが、そんな彼女に頼り切っ

ていたステア達はほとんど料理をした事がなく、ハッキリ言って全く役に立っていなかった。
            いと
それでも二人は愛しいカールの為、一生懸命手伝うのであった…





正午近くなり、午前の訓練を終えたカールが様子を見にやって来ると、ステアとナズナはすぐ

に手を止め、にっこりと微笑んだ。

「あ、少佐v」

「もうすぐですから、待ってて下さいねv」

カールは二人の呼び掛けに笑顔で返事をしてから、彼女達の隣でテキパキと料理を続けてい

るサラを見つめた。

サラは料理に集中していてその視線に全く気付かなかったが、カールはその様子を見ている

だけで、かなりの幸せを感じる事が出来た。

自分だけの為に作っている訳ではないとわかっていても、そうあってほしいと願うのだった。





その頃、何故か調理場の周囲に集まっていた兵士達は、カールから何の指示も出ていない

のに、勝手に折りたたみの机と椅子を並べ始めた。
                               こんたん
どうやらサラ達と一緒に食事をしようという魂胆らしい。

やがて料理が出来上がると、兵士達は待ってましたと言わんばかりに行列を作り、サラやス

テア、ナズナから次々と昼食を受け取った。
                                            くば
兵士達の素早い行動のお陰で、思ったより早く皆に昼食を配る事が出来たが、ふと気付くと

サラは一人で料理を取り分けていた。

(………逃げたわね)

サラは笑顔で料理を渡しながら、何故あの二人はいつも大変な時に限って逃げ出すのだろう
 あき
と呆れた。

しかし今回はちゃんとした理由があっての事だったので、ステア達は後で怒られてもいいと、

調理場からこっそり抜け出して席を確保しに行ったのだ。

そしてちゃっかり四人分の席を陣取った二人は、わざとらしく大声でカールに声を掛けた。

「シュバルツ少佐〜v」

「こちらへ来て下さ〜いvv」
                        うらや           さけ                あ
その瞬間、カールは兵士達から羨ましいという心の叫びと刺す様な視線を浴び、多少居心地

悪そうにステアとナズナの元へ向かった。

そうしてカールが傍にやって来ると、二人は無理矢理確保していた席に彼を座らせ、自分達も

席に着いた。
                                           なな
カールが座らされたのは一番端の席で、隣にはステア、斜め前にはナズナが座っており、何
               あ
故か目の前の席が空いていた。
                                                   こた
カールはこの席にはサラが座るのではないかと期待し、その期待に応えるかの様に、ステア

達はサラに声を掛けた。

「博士ぇ〜、こっちです〜」

「早く早くぅ〜」
                          ふく
二人の声に気付いたサラは、頬を膨らませて怒りながらやって来た。

「も〜、どうして最後まで手伝ってくれないの〜?一人で大変だったんだからっ」

「まぁまぁ、いいじゃないですか。細かい事は気にしちゃダメですってばv」

「そうそう、早く食べないと冷めちゃいますよv」
               なだ
二人はサラを笑顔で宥め、カールの前の席に座らせた。

(ふふっ、完璧ね!)

ステアとナズナはにやりと笑い、こっそり成功のサインを出し合った。

サラが席に着いて周囲を見回すと、兵士達が静かに彼女を見守っていた。

思わずサラはカールに無言で助けを求めたが、彼は笑顔のまま口を開かなかった。

「えっと……じゃあ、いただきましょうか」

『いただきます!!』

サラの言葉を合図に兵士達は一斉に食べ始め、ステアとナズナは料理を口に運ぶカールの

姿を嬉しそうに眺め、頃合いを見計らって話し掛けた。

「少佐、博士の手料理のお味はどうですか?」

「とてもおいしいよ」

「やっぱり少佐もそう思いますよね!私達、毎日博士が作ってくれた料理を食べているんです

けど、いつもすごくおいしいんです〜v」

「少佐も毎日食べてみたいと思いませんか?」

「えぇ?あ、ああ、そうだな…」
                                                            あいまい
次から次へと話し掛けてくる二人に、食事に集中したいと思っていたカールは、曖昧な返事し

か返さなかった。

困った様子のカールを見兼ねたサラは、持っていたフォークを置いて二人に注意した。

「二人共、もう少し静かにしなさい。食事中よ」

サラが注意しても、今日のステア達は何故か黙ろうとしなかった。

いつもなら一度注意しただけで大人しくなるのに、今日はどうしてしまったのだろうと思ったサ

ラは、もう黙って様子を見ているしかなかった。

「少佐ってどんな女性が好みなんですか?」

「え…?」

「やっぱり髪が長くてぇ、頭が良くてぇ、料理上手な人がいいですよね〜」
                                             のぞ
そう言いながら、ステアはわざとらしくジロジロとサラの顔を覗き込んだが、話の輪の中に入っ
                                     かし
ていないと思っていた彼女は、キョトンとして首を傾げた。

「何?どうしてそんなに私を見るの?」

「さぁて、どうしてでしょう」

ステアは軽い口調ではぐらかし、ナズナとクスクス笑い合った。

そのやり取りをまるで傍観者の様に見ていたカールは、自分のサラへの想いがステア達にば
                  じゃっかん
れているのではないかと若干不安になったが、直接問い詰める訳にもいかず、黙って食事を

続けた。
                                                                ひ
だが、すぐにステア達はカールが会話に参加していない事に気づき、更に彼の気を惹く為に

今度はサラに質問し始めた。

「そう言えば、博士の好みの男性ってどんな人なんですか?」

「あ、私も聞きた〜いv」
                                     と
ナズナの質問に、周囲にいる全ての男性が耳を研ぎ澄ませた。

サラは一旦食事を中断して呆れた様な顔をしたが、二人のキラキラした瞳を見ていると、答え

ない訳にはいかなかった。

「好みの男性、ねぇ…」

サラは真剣に考え始めたが、全く何も思い付かずに困り果てた。

今まで男性をそういう特別な目で見た事が無い為、思い付くはずもなかった。

そうなるだろうと予測していたステア達は、サラが悩み始めると同時にチラッとカールの方を

見、嬉しそうに言った。

「少佐みたいな方はどうですか?」

「え、少佐?」
ドキドキ…、どんな答えを期待しているのやら…(笑)
サラにじっと見つめられ、動揺したカールは持っていたフォークを落としそうになったが、必死

に指に力を入れ、辛うじて落とさずに済んだ。

サラはしばらく興味深そうにカールを眺めた後、にっこり笑って頷いた。
                        め
「そうね、少佐みたいに綺麗な瞳をした人がいいかな」

「そうそう、そうなんです!少佐の瞳ってすごく綺麗ですよねv」
           みどり
「透き通るような碧色で、うっとりしちゃいますぅvv」

サラが一言答えただけで、ステア達はその答えから話を次々と発展させた。

その傍で、カールは呆然となったままサラを見つめていた。
      ほ
彼女に褒められた事が余程嬉しかった様だ。

カールの反応に気を良くしたステアとナズナは、この話題をもっと発展させようと質問を続け

た。

「それで博士、瞳以外に気に入った所はありませんか?」
                                       せじ
「本人を目の前にしてこれ以上言ったら、全部がお世辞だと思われちゃうわよ?」

「そんなの気にしちゃいけません!他にもあるんですよね?教えて下さいv」

「だ〜め。この話はもうおしまい。さぁ、冷めない内に早く食べましょう」

そう言うと、サラは一人食事を再開した。

ステア達はサラにはこれ以上聞いても無駄だと判断し、カールに同じ質問をぶつけてみる事

にした。

「少佐は博士みたいな人、どう思います?」

「どうって………それは……」

「これだけ料理が上手な人なら、誰だってお嫁さんにしたいって思いますよね?」

「私が男だったら、絶対恋人にしたいですv」

二人はカールの返事を待たずに、勝手に話を進めた。

そうして一通り話し終えると、何か思い付いた様なわざとらしい仕草をし、小声でカールに話し

掛けた。

「博士って結構モテるのに、全然恋人を作ろうとしないんです。研究の邪魔になるとか言って」

「もしかしたら……少佐ならなれるかもしれませんよv」

「ちょ、ちょっとあなた達!少佐に何教えてるの!?そういう個人的な事は教える必要なんて

ないでしょ!?」

カールが返事をするよりも早く、サラが怒っていつもより低い声で話に割り込んできた。

今の声は本気で怒っていると感じたステア達は一応笑って誤魔化したが、何だかんだ言いな

がらも、二人はちゃっかりと目的を果たしていた。

サラには恋人がいないと、カールにそれとなく教えるのが真の目的だったのだ。

ステア達が達成感に満ちた笑顔で食事を再開すると、サラはすぐにカールに謝った。

「ごめんなさい。食事中なのに騒がしくしてしまって…」
      にぎ
「いや、賑やかで良いと思うけど?」

「そっか、少佐って優しいのね。でも今度からは注意した方がいいわ、二人共すぐに調子に乗

るから」

「…確かに。では、今度からはそうさせてもらうよ」

サラとカールの会話を聞き、ステア達は思わず苦笑いを浮かべたが、二人の邪魔をしない様

に黙々と食べ続けた。





数十分後、昼食を食べ終えたステアとナズナは急いで立ち上がり、後片付けを買って出た。

サラにはまだカールと話を続けてもらわなくてはならないからだ。

サラはステア達の様子を少し不自然に思ったが、珍しく二人の方から手伝いを申し出てくれた

ので、後は任せる事にした。

ステアとナズナが調理場で仲良く食器を洗い始めると、多くの兵士が手伝いに来てくれて、大

人数で後片付けをする事になった。
                                           うかが
こうして余裕が出来たステア達は、サラとカールの様子を伺いながら食器を洗っていた。

…はずが、どういう訳かサラはカールと二言、三言言葉を交わしただけで、すぐに調理場にや

って来てしまった。

「私も手伝うわ」

「えぇ〜?!私達がするって言ったじゃないですか〜」

「どうしてもっと少佐とお話しないんですか?」

「少佐は午後からの訓練の準備があるの。だから長居はさせられないでしょ」
                                         ふ
そう言ってサラは食器を片付け始めたが、ステア達は腑に落ちないといった表情のまま、カー

ルが去って行った方を淋しそうに眺めた。





午後からの訓練の為、ゾイド置き場へ向かっていたカールは、普段の彼からは想像も出来な
   うわ
い程上の空で歩いていた。

頭の中でステアとナズナに聞かされた言葉がぐるぐると回っていたのだ。

(サラには恋人がいない……じゃあ、好きな人はいるのだろうか?いなければいいのに……。

そうすれば俺にもチャンスが……)

カールはサラの事を考えていて、ハッとある重要な事に気付いた。

ずっとわからなかった想いの正体が、今ハッキリとわかった。

彼はサラに恋している。

しかし恋だとわかったところで、カールにはどうする事も出来なかった。

彼にとって初めての恋である為、どの様にこの思いを伝えれば良いのかすらわからなかった。

カールはとにかく今は訓練に集中しようと自らに言い聞かせ、極力サラの事を考えない様に

心掛ける、ハッキリ言って無謀な努力をするのだった…










●あとがき●

とうとうステアとナズナが動き出しました。
これからもサラとカールをラブラブにする為、悪戦苦闘します(笑)
そしてようやく自分の気持ちに気付いたカール。遅すぎっ!!
一体これまでどんな人生を歩んでいたのでしょうねぇ…?
士官学校に入る前も、入った後も、軍の事しか考えていなかった様です。
それはサラも同じで、彼女の場合は勉学の事しか考えていませんでした。
今思うと、この二人って意外に似ているのかもしれませんね。
どちらも親(家の名)が有名ですし、その重圧に耐えながらの人生でしたから、恋愛なんてし
ている暇はなかったのかも…。
とにかくこれからは、頑張って二人に恋をしてもらいたいと思いますv
その為にステア達が動き回ってくれる、はず…。
以後、助手の二人の活躍に期待です!(←自分に期待しているのか…?)

●次回予告●

ずっとわからなかった想いの正体は、サラへの恋心であった…
その事実に気付いたカールは、夜眠れなくなってしまいました。
仕方なく、気分を紛らわそうと外へ散歩に出ると、どこからか歌声が聞こえてきます。
カールは歌声に導かれる様に、歌声の主の元へ足を運びます。
そこでカールはある人と出会い、憩いのひとときを過ごします。
第五話 「歌」  彼女の歌声を聞いて下さい…って、音はないですけど(笑)