第三十二話

「奪還」


                                                                およ
『カール救出作戦』が実行された翌日、太陽が頭上で輝きだした頃、ルドルフの葬儀及びプロ
              おごそ
イツェンの戴冠式が厳かに始められた。
                                                  かか
帝都ガイガロスの中心部にある広場には巨大なルドルフの肖像が掲げられ、集まった民衆は
                    めいふく
改めて悲しみに沈み、彼の冥福を祈っていた。

その間も、ルドルフを守ろうとする者達とプロイツェンが差し向けた部隊との激しい戦いが繰り

広げられており、ヘリック共和国からも援軍が駆け付け、ルドルフは少しずつだが確実にプロ

イツェンの元に近づきつつあった。




                                                                  かたむ
やがて広場ではプロイツェンの演説が始まり、次期皇帝の言葉として民衆は真剣に耳を傾け

ていたが、突然彼らの顔色が変わった。

プロイツェンの演説が終わると同時に、彼の背後から見た事もない巨大なゾイドが何の前触

れもなく出現したのだ。

その巨大なゾイドは肩にプロイツェンを乗せてゆっくりと動き出し、ガイガロス内まで来ていた
                                                     まど
共和国軍を荷電粒子砲で砲撃し始め、広場にいた人々は驚いて逃げ惑った。

するとその時、共和国の飛行ゾイドが広場に舞い降り、中からルドルフが姿を現した。
                   や
ルドルフは必死に戦いを止める様に訴え掛けたが、プロイツェンは全く耳を貸そうとせず、巨大

ゾイドに砲撃を続けさせた。

そこへようやく帝国軍第四陸戦部隊が到着し、カールはルドルフの姿を確認して安心した様
                            にら
に微笑んでから、キッとプロイツェンを睨み付けた。

「本性を現したな、プロイツェン!貴様がしている事は帝国の為の戦いではない、単なる破壊
 さつりく
と殺戮だ!!」

「ふん、その通りだ」

プロイツェンはにやりと不敵な笑みを浮かべ、彼の声に反応するかの様に巨大ゾイドは標的を

変え、第四陸戦部隊を砲撃し始めた。

「この世は力が全てだ、強大な力を持った者のみがこの世を支配する権利を持っているのだ。

貴様達にはそれがわからんのか?これ程の力を前にしても、まだこの私に従わんのか?」
                                                             いきようよう
プロイツェンはガイロス帝国だけでなく、惑星Ziそのものを支配下に置くつもりで意気揚々と語

っていたが、その目には狂気の色が浮かんでいた。

「化け物め……もう何を言っても無駄か…!」
              つぶや
カールは悔しそうに呟くと、巨大ゾイドからの砲撃によって崩れた陣形を急いで元に戻し始め

た。

そうする内に、巨大ゾイドは共和国軍を迎え撃つ為に砲撃を続けながら侵攻を開始し、ただが

むしゃらに前に突き進んだ為、ガイガロス内の建物をも同時に破壊する事となった。

これに対して共和国軍は必死に応戦したが、どの部隊もほぼ一撃で全滅していった。




                                           こう
その頃、共和国軍本隊では巨大ゾイドを倒す為の手段を講じ、ゴジュラス二機を投入しての

総攻撃を開始した。

彼らよりやや遅れて、態勢を立て直したカール率いる第四陸戦部隊も巨大ゾイドの傍までや

って来た。

共和国軍の通信がカール達帝国軍にも届いていたので、巨大ゾイドの名が『デスザウラー』で

ある事と、そのデスザウラーを倒す手段がある事を知った。

よって、カールは迷わず共和国軍と共同戦線を張る事にした。

「全軍攻撃開始!共和国軍に遅れを取るな!!」
       す
カールは直ぐさま部下達に攻撃の指示を出し、共和国軍と共に総攻撃を開始した。

共和国軍が立てた作戦を実行するには、まずデスザウラーの足止めをしなくてはならない。

しかしデスザウラーには通常兵器が全くと言って良い程効かず、帝国・共和国の連合軍の力
 もっ
を以てしても、歩調を遅らせる程度しか出来なかった。

そうなる事を予想して投入されたのが二機のゴジュラスで、彼らはデスザウラーの足下に向

かって懸命に突き進んでいた。
                                                                 いちはや
すると、デスザウラーは瞬時に敵の接近に気付いて攻撃を仕掛けようとしたが、それを逸早く
                           さけ
察知したカールが部下達に向かって叫んだ。
                  ねら
「あのミサイル発射口を狙え!」
                       いちがん
カールの指示に彼の部下達は一丸となってミサイル発射口を砲撃し、その間に二機のゴジュ

ラスは何とかデスザウラーの足下に取り付いた。
               つか
しかしほっとしたのも束の間。

途端にデスザウラーの頭部からレーザーが放たれ、二機のゴジュラスは機体に攻撃を受けて

しまったが、それでも彼らは諦めずに突っ込んで行った。

「いかん!」
   さま
その様を見たカールは考えるより先に体が動き、ゴジュラスを助けに向かっていた。

そしてアイアンコングの腕をデスザウラーの足の関節部分に無理矢理ねじ込み、そのまま腕

を引きちぎった。

その腕のお陰でようやくデスザウラーの動きが止まり、作戦の第二段階である荷電粒子供給

ファンを止める為、先程ルドルフを乗せていた共和国の飛行ゾイド、ストームソーダー二機が

砲撃を開始した。

一機目の砲撃はデスザウラーの反撃によって失敗してしまったが、その直後に行った二機目

の砲撃で見事にファンを止める事が出来た。

それを見た一機のゾイドがすかさず作戦の最終段階を行う為に行動を開始し、デスザウラー

に向かって走り出した。

(あれはエーベネで見たゾイド……。確かブレードライガーと呼ばれていたな…)

カールはデスザウラーに向かって一直線にジャンプしているブレードライガーを見上げ、部隊を

少しずつ後退させながらぼんやりと思った。

一方、デスザウラーはブレードライガーが攻撃を仕掛ける前にファンの機能を回復させ、再び

荷電粒子を集め始めた。

(荷電粒子が…!)

カールは周囲にいる者達と同じく、ただ見ている事しか出来なかったが、今はもうブレードライ

ガーに全てを任せるしかないとじっと戦況を見守っていた。

意外にあっさり荷電粒子を集め終えたデスザウラーは、猛スピードで近づいて来るブレードラ

イガーに向かって荷電粒子砲を放った。

誰もがもうダメだと思った瞬間、ブレードライガーはブレードで荷電粒子を切り裂き、その勢い

に乗ってデスザウラーに突撃して行った。
                                    つらぬ
ブレードライガーはデスザウラーの腹部を見事に貫き、ゾイドの心臓とも言うべきゾイドコアを

破壊する事に成功した。

やがてデスザウラーは内部爆発を次々と起こし、プロイツェンを道連れに崩れ去っていった…





こうしてブレードライガーの活躍により、帝国・共和国の連合軍はデスザウラーに勝利し、プロ
                  つい
イツェンの野望は完全に潰えたのだった。



                           *



デスザウラーとの戦いから数日経ち、連日ガイガロスの復旧作業に追われていたカールは、

暇を見つけて作業現場を抜け出し、通信機のあるテントへやって来た。

物資が不足していた為、その通信機は音声でしかやり取りが出来ない旧式のものであった
        ぜいたく
が、この際贅沢は言っていられなかった。
いと
愛しい人に自分の無事を、自分の口で伝えたかったのだ。

「「はい、ガイロス帝国国立研究所のクローゼです。どちら様ですか?」」

サラはすぐに応答してくれたが、彼女の声を聞いた途端カールは嬉しさと照れ臭さで言葉が

出なくなり、黙り込んでしまった。
                                               あふ
その沈黙だけで相手が誰なのかを察したサラは、思わず涙が溢れそうになりつつも、必死に
こら
堪えて明るい声で話し掛けた。

「「…カール?」」

「…え?…あ、うん、よくわかったね」

「「あなたの事だったら何でもわかっちゃうの」」

「そうか、それは頼もしいな」

カールはサラがいつもと変わらぬ口調だったので、ほっと胸を撫で下ろして微笑んでいた。

しかしカールがそう思った直後サラが急に黙り込んでしまい、安心した心が一気に不安に変

わった。

「…サラ?」

「「…………会いたい……」」

サラの消え入りそうな声の呟きに、カールはハッとなって目を伏せた。

「…すまない、まだしばらく行けそうにないんだ」

「「……あ、ご、ごめんさない。違うの、今のは違うから……気にしないで………」」

サラは慌てて自分の言葉を否定したが、その分彼女の想いがカールにしっかりと伝わった。
                                                           しんぼう
「サラ、俺も今すぐ会いたい。会って君を抱きしめたい。……けど、もう少しだけ辛抱してほし

い。全てが終わったら、必ず会いに行くから…」

「「………うん、ありがとう」」
必ず会いに行くから…
サラは見えないとわかっていたが、心からの笑顔で感謝の言葉を口にした。

だが、カールの心にはサラの笑顔がハッキリと浮かんでおり、彼も思わず笑顔になっていた。

「じゃ、また連絡する」

「「うん、またね」」
                               すがすが
カールはサラとの通信を終えると、非常に清々しい気持ちになり、軽い足取りでテントを後にし

た。










●あとがき●

カール視点で書くと、見事に内容が薄くなりました(笑)
1部最終戦なのに、大した戦いではなかった様な印象を与えるかもしれません。
中心になって活躍したのがブレードライガーとバン達ですから仕方ないですよね。
でもデスザウラー戦で一番役に立ったのはカールだと断言します!
的確な砲撃を指示していましたし、デスザウラーの足止めも彼がいなかったら絶対不可能で
した。
アイアンコングの腕を引きちぎってしまうとは思いもよりませんでしたが、咄嗟の判断できちん
と足止めをする所がさすがですv
ゾイド乗りとしての腕前はバン以上かもしれないですよね(2部で越えられちゃいますが)
カールが本気で戦っている所を見た事がないので、一度そういうシーンを書いてみようと企ん
でいますv
相手は誰にしようかな…?意表を突いてサラにしてもいいですね。
本気で戦える訳がないので、一方的に負けそうです(笑)
それはそれで面白い話になりそうなところがカールらしい…
最後に一言……私にはゾイドは描けません!!
カールがカッコよく戦っている所を描きたかったのですが、画力が追いつきませんでした…

●次回予告●

デスザウラーによって破壊されたガイガロスの町を修復する為、カールを中心とする帝国軍と
ハーマンを中心とする共和国軍が共同で復旧作業を行う事になりました。
しかし、何故か事ある毎に口論を繰り返す指揮官二人。
話が妙な方向に流れていき、帝国軍と共和国軍である勝負を行います。
カールとハーマン、勝利の女神はどちらに微笑むのでしょうか?
第三十三話 「復旧」  この勝負、受けるか?