第三話

「防犯」



サラ達が演習場にやって来て最初の朝を迎えた。

早くに目が覚めたサラはゆっくりとベッドから降り、身支度を整えようと洗面所へ向かった。
                                                       すで
すると、いつも後からのんびりと起き出してくるはずのステアとナズナが、既に身支度を終え

てコーヒーを飲みながら話し込んでいた。

二人はすぐサラに気付くと、わざわざ椅子から立ち上がって笑顔で挨拶をした。

『おはようございます、博士』

「おはよう。私より先に起きているなんて、どういう風の吹き回しかしら?」

「これくらい助手として当然ですよ」

「いつもそうだと有難いんだけどな」

「あははは、善処しま〜す」
                              ごまか
ステア達はサラの鋭いツッコミを笑って誤魔化した後、突然何かを思い出した様な表情にな

り、くるりとテントの入口の方を向いた。
               ぎせいしゃ
「では博士、私達は犠牲者くんを見に行って来ます」

「そう、気を付けて行ってらっしゃい」

「は〜い。ねぇステア、今回はどのくらいいると思う?」

「それは見てのお楽しみってヤツでしょv」

ステアとナズナはウキウキしながら小走りで外へ出て行った。
                                     あき
一人ポツンと取り残されたサラは、そんな二人を呆れた表情で見送り、いそいそと身支度を

始めた。





ステア達は外に出ると、テントの周りをグルッと一周して何かの数を数えた。

「え〜っと…1、2、3、4、5……全部で五人ね」
                          やから
「シュバルツ少佐の部隊でもこういう輩はいるのねぇ」

「今までで一番少ないんだから、良い方でしょ」

「確かに。他はすごかったもんねぇ〜」

ステア達が数えていたのは、彼女達のテントの周りに倒れている兵士の数であった。
                  しび               そろ         は つくば
彼らはどういう訳か体が痺れて動けないらしく、揃って地面に這い蹲っていた。

しばらくすると、仲間の異変に気づいた兵士達がステアとナズナの傍に集まり出し、口々に驚

きの声をあげて倒れている者を助け起こした。





その頃、カールは発掘の手伝いをする者に指示を与えようと、兵士達のテントに向かってい
                   そうぐう
たが、途中でその騒ぎに遭遇し、迷わずサラ達のテントへ足を向けた。

「どうした?何かあったのか?」
          はし
カールが一番端にいた兵士に声を掛けると、その兵士は敬礼するのも忘れ、慌てた様子で前

方を指差した。

「た、大変です!あそこをご覧下さい!」
                                                                      ま
兵士が指差した方を見たカールは、自分の部下達が地面に倒れているという異常な光景を目

の当たりにし、慌てて彼らの元へ駆け寄った。

「こ、これは一体……。何があったんだ…?」

カールは倒れた者を助け起こそうとしている兵士に尋ねたが、彼が答えるよりも早く、ステアと

ナズナが間に割り込んできた。

「おはようございます、少佐v」

「おはようございま〜すv」

「あ、あぁ、おはよう。…これは一体どういう事だ?説明してくれないか?」

カールが周囲に倒れている兵士達を見回しながら聞くと、ステア達も一緒になって彼らを見回

しながら答えた。
          のぞ
「その人達は覗きをしようとしたんです」

「の、覗き…?」

「はい。ですから私達が…」

『成敗しました〜!』
                           こぶし            なぐ
ステアとナズナは声を揃えて言うと、拳を前に突き出して殴る様なポーズを取った。
アンパ〜ンチ!!(笑)
カールも周囲にいた兵士達も、二人の行動が理解出来ず、ポカンとして静まり返った。

「ちょっとあなた達。それじゃあ説明になってないでしょ」
                す
突然テントの中から澄んだ声が聞こえ、皆が一斉に振り返ると、そこには身支度を終えた

サラが立っていた。
                        す
サラは現状を説明する為、真っ直ぐカールの元へ歩み寄って行った。

「少佐、私から説明するわ」

「頼む」

「彼らは防犯用レーザーに攻撃されたのよ」

「防犯用……レーザー?」

「ええ。私が作った小型レーザーを防犯用としてこのテントに取り付けてあるの。だから私達
                      ようしゃ
のテントに触れようとする者は容赦なく攻撃されるって訳なの」

「攻撃された者は……一体どうなってしまうんだ?」
                                                おさ
「残念ながら助からない…なんて事はなくて、ちゃんと攻撃力は抑えてあるわ。体が数時間痺

れるだけだから安心して。後遺症もないし」
                 ずいぶん
「そ、そうか…。しかし、随分危険な物を取り付けているんだな」

「自衛の為よ。こういう所は男性しかいないから、特に気を付ける必要があるの」

「………」
           きゅう                       とぎ
カールが答えに窮して黙り込むと、二人の話が途切れたのを見計らい、ステア達が彼に話し

掛けた。

「少佐は他の方とは別格ですよv」

「これがあれば大丈夫ですv」

そう言うなり、ナズナはカールに何かを差し出した。

(あれ…?これって確か……)

彼女の手には見覚えのある白い石のイヤリングが乗っていた。

これと同じ物を、カールは以前にも何度か目にしていた。

……昨日サラが身に着けていた物と同じイヤリングだ。

「これは…?」
                                                はず
「このイヤリングを身に着けていれば、レーザーの攻撃対象から外れる事が出来るんです」

「これも博士が作ったんですよv」
                 か
二人は嬉しそうに髪を掻き上げ、耳元の白いイヤリングをカールに見せた。

カールはサラが着けていたイヤリングはこれだったのかと、まじまじと観察した。

彼はサラがイヤリングを着けているのには一目見てすぐ気付いたのに、ステア達が同じ物を

着けているのには、今の今まで気付かなかった様だ。

カールがサラの事を思ってぼんやりしていると、ナズナは持っていたイヤリングを無理矢理彼

の手に押し付けた。

「どうぞ、少佐」

「え…?」

「差し上げます。いつでも遊びに来て下さいv」

「い、いや、遠慮しておく」
                 もら
「そんな事言わないで貰って下さいよぅ。色々と有効利用出来ますからvv」

強引に渡そうとするナズナに、カールはタジタジになりながらも断固として断り続けた。

その様子を見ていられなくなったサラは、頃合いを見てナズナを止めに入った。

「ナズナ、少佐を困らせちゃダメでしょ。そんな事よりも、ほら、早く出発の準備に取り掛かって

ちょうだい」

「……は〜い」
      しぶしぶ
ナズナは渋々返事をし、ステアと共に急いで準備を始めた。

ナズナから解放され、カールがほっと胸を撫で下ろしていると、サラは申し訳なさそうに頭を下

げた。
                                   や
「本当にごめんなさい、少佐。何度注意しても止めないの、あの二人」

「ん、ま、まぁ、私は平気だから気にしなくていいよ」

「そお?あなたがそう言ってくれるのは有難いけど、イヤだったらハッキリ言ってね」

「あ、ああ」

「それと…さっき言い忘れたんだけど、このテントに取り付けてあるレーザーは夜間しか作動

してないから、昼間は気を付けなくていいよ」

「わかった。皆にも伝えておく」

今までの一連のやり取りを遠巻きに見ていた兵士達は、例え昼間でもあのテントには近づか

ないでおこうと心に決めたのだった。





カールはサラと話しながら、ふと倒れている兵士の顔を見ると、驚きの余り我が目を疑った。

何とその兵士は、カールの部隊の副官を勤めているマルクスだったのだ。

「マ、マルクス…。お前もか……」

「マルクス?」

「…彼はこの部隊の……副官なんだ」

「えぇ!?ふ、副官!?ご、ごめんなさい!そんな人にまでレーザーを…」
                            もはん
「いや、謝るのはこちらの方だ。皆の模範となるべき立場にいる者が覗きをするなんてな…。

上官として恥ずかしい限りだ」
                                                        ぎょうそう
カールの言葉を聞いた瞬間、マルクスは悔しそうに歯を食いしばり、すごい形相でカールでは
        にら
なくサラを睨み付けた。

上官であるカールにはマトモに反抗しても自分が不利になるだけだが、サラなら恐れる程の

事はないと判断したらしい。

サラはその視線にすぐ気付いたが、落ち込むカールの前でイヤそうな顔をするのは悪いと、気

付かなかったフリをして出発の準備を手伝いに行った。
                                               かいほう
黙ってサラを見送ったカールは、傍にいた兵士にマルクス達の介抱を任せ、発掘の手伝いを

する者に指示を与えてから、テントへ戻って朝食を食べ始めた。

するとそこへ、出発の準備を終えたサラが訪ねて来た。

「あら、ごめんなさい。食事中だったのね」

「いや、構わないよ。もう出発するのかい?」
                            と
「ええ。朝食は遺跡に向かう道中に摂るつもりなの。さっき言い忘れたから、出発前に挨拶し

ておこうと思って来たんだけど…」
                                 いぶか   まゆ しか
サラはカールが食べている朝食を覗き込み、訝しげに眉を顰めた。

「軍の食事って…見た目からして物足りないのよね」

「そ、そうかい?これが普通なんだが…」

朝食を覗き込むという事は、必然的に食べている者の顔も覗き込む形になり、カールはドギマ

ギしながら答えた。

今日のサラは研究所の作業着を着ており、昨日とはまた違った印象を与え、今のカールにと

っては目の保養…もとい、目の毒であった。

昨日着ていた研究所の制服に比べたら、スカートではない分露出は格段に落ちていたが、そ

れでも見とれてしまうカールであった…

それとは対照的に、サラは朝食の内容の方が気になっていたので、カールの熱っぽい視線に

気付く事はなかった。

「軍人さんって、何日も同じものを食べなきゃいけない時もあるんでしょう?」

「戦闘中はね。今は違う日もある」

「それって…違うメニューはたまにしかないって事?」

「そういう事になるな」

「思いっきり不健康な食生活ね…」
               むとんちゃく       なか          あご
サラは食事に対して無頓着なカールに半ば呆れつつ、顎に手を当てて考え込み、何かをピン
ひらめ
と閃いたのか満面の笑みを浮かべた。
                            ちそう
「よ〜し、じゃあ私が食事を作ってご馳走してあげるわ。これからしばらくお世話になるんだし、

お礼も兼ねて、ねv」

「い、いや、お礼なんてしてもらう程の事はしてないよ」

「材料はたくさん持って来てるし、足りなくなったら買い出しに行けばいいわ。だから何の問題

もないよ」

「そ、そうではなくて……」

「たまにはちゃんとしたものを食べなきゃダメよ!週に一回のペースなら何とかなるから」

「………。……わかった、頼む」

「お任せあれv」

サラはにっこり笑ってかわいらしく一礼し、例によってカールはその姿に呆然と見とれていた。

完全にサラに押し切られる形で決まったのだが、内心飛び上がる程喜んでいたカールには、

断る理由などありはしなかった。
                                えしゃく
話が一段落したので、サラはカールに軽く会釈してテントから出て行った。





サラがカールのテントから帰って来ると、ステア達はにやにや笑いながら彼女を出迎え、モル

ガに一緒に乗り込んだ。
                 いか
サラは二人の様子が如何にもわざとらしく怪しいと思ったが、聞いたら聞いたで逆に質問責め
            あ
に合いそうだと敢えて何も言わずに、手伝いの兵士達を引き連れて遺跡へと出発した。










●あとがき●

カールの性格が徐々に変わってきています。もちろんダメな方へ(笑)
「恋は盲目」とはよく言ったものです。
いつものキリッとしたカールに戻るには、サラとの恋愛を成就させる以外方法はないでしょう。
頑張れ、カール!
君の未来は書き手である私に委ねられている!(←それってダメなんじゃ…?)
とにもかくにも、この小説はあくまで恋愛小説ですから、戦闘シーンよりもラブシーンが多く
なると思います。
そして、読む側が恥ずかしくなる様なクサいシーンもたくさん出て来ます。
途中で逃げ出して下さっても全然構わないよってくらいクサい台詞のオンパレードです(笑)
でもきっとカールなら言っても大丈夫、なはず…
そういうのがお好きな方は楽しみに待ってて下さいv

●次回予告●

遺跡調査を開始して一週間程経ち、さすがに無休で発掘は出来ないと、今日は一日休む事
になりました。
その休日を利用し、サラは朝早くから第四陸戦部隊の人達の為に昼食を作り、ステアとナズ
ナもその手伝いに進んで参加します。
そう、ついにその日から二人が動き出したのです!
ステア達の第一の作戦とは…?!
第四話 「食事」  今度もめちゃくちゃ…食べたいですね〜(笑)