第二十七話
「開花〜後編〜」
翌朝、カールより先に目を覚ましたサラは、恐る恐る起き上がると腰の具合を確認した。 初めての時程ではなかったがやはり腰がガクガクし、再びベッドへ横になった。 (おかしいなぁ……手加減してくれたはずなのに…) 隣で子供の様な顔をして眠っているカールを眺めながら、サラは昨夜の事をぼんやりと思い出 してみた。 一度中断した時までは確実に手加減してくれていたはずだが、再度始めてからはどうだった か思い出せなかった。 それでも前よりは早めに寝る事が出来たので、一応彼なりに努力してくれたのだろうと納得 や し、即座に思い出すのを止めた。 しばらくすると少しまどろんでいたカールがようやく目を覚まし、サラの笑顔を見つけてにっこり 微笑んだ。 「おはよう、サラ」 「おはよ」 のぞ カールはゆっくりと起き上がり、大きく伸びをした後、まだ横になったままのサラの顔を覗き込 んだ。 「…今回はどうだった?まだ動けないか?」 「ん、ちょっと。でも前よりは平気よ」 「そうか、良かった…」 いまいち手加減の度合が把握出来ていなかった為、カールはサラの返事を聞くと、ほっと胸を 撫で下ろした。 そんなカールを笑顔で見つめていたサラは彼の腕をそっと引っ張り、珍しく甘える様な仕草を 見せた。 「今日はゆっくり出来るんだし、もう少しゴロゴロしてようよ」 あせ 「そうだな、焦って起きる必要はないか」 さこつ そう言ってカールは再びベッドに寝転び、笑顔でサラの方を見たが、彼女の鎖骨付近に赤い あざ 痣があるのを見つけると、途端に心配そうな表情に変わった。 「そこ赤くなっているけど、どうしたんだい?」 「え?あぁ、これね……」 よど サラは痣がある辺りを撫でながら言い淀んだが、カールは彼女の気持ちを察する事が出来 ず、心配そうな表情のままであった。 そんな表情をされては仕方ないと、サラは痣が出来た原因を教える事にした。 「…あなたがしたのよ」 「………?俺が…?」 「強く吸うから痣になっちゃったの」 カールは今頃全てを理解し、頬を赤らめてすぐに謝った。 「すまない…」 「謝る程の事じゃないよ。初めての時もすごかったけど、しばらく放っておけば消えたし」 「そ、そうか…」 「でも最初に痣を見つけた時はびっくりしちゃったわ。一カ所だけかと思ったら、あちこちにある んだもん」 「…え?そこだけじゃないのか?」 「うん、そうだよv 何なら探してみる?」 サラは体を包んでいたシーツを持ち、わざと色っぽく言ってみた。 は すると、カールは照れて断るのかと思いきや、頬を真っ赤にしつつサラの体からシーツを剥ぎ 取った。 「きゃっ…。ほ、本当に探すの?」 「ああ、探す」 慌てて体を隠そうとするサラの手をベッドに押さえ付け、カールは痣を探し始めた。 したい 明るい所でサラの肢体を見るのは初めてだったが、月明かりの中で見る時と同じくらい美しか った為、カールは痣を探すのを忘れて思わず見とれてしまっていた。 「……探すならちゃんと探して」 あ すぐサラから非難の声が挙がり、カールは慌てて痣探しを再開した。 あいぶ 痣はカールが愛撫した場所の中でも、サラが特に気持ち良いと感じる場所に集中していた。 ねら 無我夢中でしていた割に、狙う所はしっかり狙っていた事がわかり、カールは無性に嬉しくな ると、サラの腰骨付近にある痣に軽く口づけした。 「やん……」 サラがかわいらしい声を出すとカールは思わず欲情してしまい、無意識に手が動いて彼女の うちもも 内股を割っていた。 「ひゃっ…、な、何してるの!?」 「…見ての通り痣を探しているんだ」 「そ、そそ、その辺には無いと思うよ」 「俺はあると思う。強く吸った覚えがあるから」 はが じ カールは有無を言わさずサラの体を羽交い締めにし、彼女の内股付近にある痣を優しく撫で 始めた。 こんしん しぼ 恥ずかしさに耐えられなくなったサラは、渾身の力を振り絞ってカールの手を払いのけ、急い で開かされた足を閉じた。 「もう探すのはおしまい!」 うる 余程恥ずかしかったらしく、サラは顔を真っ赤にしながら瞳を潤ませ、体をシーツで包んだ。 カールは一瞬残念そうな顔をしたがすぐ笑顔に戻り、サラの頬を優しく撫でた。 「恥ずかしい思いをさせてすまなかった。君の体を見ていたら、つい我慢出来なくなって…」 「…言い出したのは私の方だから、気にしなくていいよ」 サラはまだ頬を真っ赤にしていたが、カールの瞳をじっと見て微笑んでみせた。 カールもつられて微笑み、ムクリと起き上がると思い出した様にお腹を押さえた。 「そう言えば、朝食がまだだったな」 「そうね、すぐ用意するわ」 そう言ってサラはベッドから抜け出し、フラフラしながら服を着始めた。 カールはその様子を心配そうに見ていたが、やはり女性の着替えを見ているのは良くないと 思い直し、自分も身支度を整える事にした。 ささ 身支度を終えた二人は仲良く並んでキッチンへ向かい、サラはカールに体を支えてもらいなが らテキパキと朝食を用意した。 まんきつ 朝食の準備が整うと早速二人は談笑しながら食べ始め、二人だけの幸せな時間を満喫して いたが、食後のコーヒーを飲み始めた頃、カールはずっと聞きたいと思っていた事をそれとなく サラに尋ねてみた。 「…ところで、君の方には何か情報はきていないのかい?」 「……殿下の事?」 「ああ。軍では情報が規制されているから、全く手掛かりが無くてね」 「申し訳ないけど、私の方もさっぱりなの。プロイツェンが中心になって捜索活動をしているか ら、絶対と言っていい程情報が流れてこないのよ」 さぐ 「そうか……。まぁ、焦って探る必要はないか。殿下はきっとご無事だから」 「そうそう、今しばらく様子を見ましょ」 カールが無理に明るく振る舞っているとわかっていたので、サラはもうルドルフの話題に触れ ない様にし、いそいそと後片付けを始めた。 するとカールもすぐ席を立ち、後片付けの手伝いをしようとサラの後について行った。 「今日も手伝ってくれるの?」 「ああ。いつもおいしい食事を作ってもらっているから、そのお礼に」 むこ 「ふふふ、偉いわねぇ。あなたならきっと良いお婿さんになれるわよ」 「そ、そうかなぁ…」 か カールは必要以上に照れてしまい、頬を赤らめながら頭をぽりぽりと掻いた。 サラの口から『お婿さん』なんて言葉が出て来るとは思いもよらなかった為、嬉しすぎて顔が 自然とにやけていた。 けげん その反応に疑問を持ったサラは、怪訝そうな表情でカールの瞳を覗き込んだ。 「なぁに?どうしてそんなに嬉しそうな顔をしているの?」 「え、あ、そ、その………君は結婚に興味あるのかと思ってね」 「え?ないわよ、興味なんて」 「!?」 |
たた サラの気のない返事により、不幸のどん底に叩き落とされた様な衝撃がカールの全身を駆け 巡り、ガクッと体の力が抜けた。 近い将来、サラに結婚を申し込むつもりでいたカールにとって、非常にショックな返事だったの だ。 カールが何を思って落胆してしまったのかを察したサラは、慌てて言い直した。 「あ、あのね…、今は興味ないだけで、将来の事はまだ考えていないのよ」 「そうか……まだ考えていないだけか…。良かった………」 あき カールはほっと胸を撫で下ろしたが、サラは彼の素直すぎる態度に少々呆れ、クスクス笑い 出した。 「カール、もう少し隠す努力をしてほしいわ」 「隠す…?」 「いつか私にプロポーズしようって思ってるでしょ?」 「ど、どどど、ど、どうしてわかったんだ!?俺はまだ申し込んでないぞ!?」 「あ〜ぁ、言っちゃった」 「あ………」 すで カールは思わず手で口を押さえたが時既に遅く、思い切り自分から白状してしまった後であっ た。 ごまか 途端にカールの顔が耳まで真っ赤になり、どう誤魔化そうかとあたふたし始めた。 そんなカールを落ち着かせる為、サラは彼の手を優しく握り、自分の頬にそっとあてがった。 「カール、聞いて。私、結婚したくない訳じゃないの。けど…結婚は焦らなくてもいつか出来る し、今はあなたと一緒にいる時間を大切にしていきたいって思っているだけなの。それじゃ、ダ メかしら…?」 「いや、ダメじゃないよ。ごめん、先走ってしまって……」 「ううん、いいの。あなたのそういう所も大好きだからv」 サラが照れ臭そうに微笑んでみせると、カールも嬉しそうに微笑んで彼女を抱き寄せた。 いつまた戦争が起こるかわからない状況の中で、無理に結婚したとしてもサラを幸せに出来 るとは限らないが、今の幸せな時間を大切にする事は可能だと思えた。 やはりサラは自分に必要な女性なのだ、とカールは改めて痛感し、この幸せな日々を今まで 以上に大切にしていこうとしみじみ思った。 「…カール、そろそろ後片付けを始めましょ」 「ああ、そうだね」 カールがそっと手を離すと、サラはテキパキと食器を洗い始めたが、頬はまだほんのり赤かっ た。 実はカールが結婚を申し込むつもりだったとわかって、内心とても喜んでいたのだ。 やがてサラは機嫌良く鼻歌を歌い始め、傍で手伝いの準備をしていたカールは、そんな彼女 を幸せそうに見つめていた。 じょじょ かたむ 楽しい時間はあっという間に過ぎ去ってしまうものらしく、徐々に太陽が西の空に傾き始め、カ なごりお ールは帰る支度をすると、名残惜しそうにサラを抱きしめた。 丸一日身を寄せ合っていちゃついていたにもかかわらず、まだ温もりを感じ足りないらしい。 たびたび 普通の恋人同士の様に、度々会う事が出来ればこんな風にならないのかもしれないが、たま いと にしか会えないカール達にとってはその時その時がとても大切で、一秒でも長く愛しい人の温 もりを感じていたいと思うのは無理のない事であった。 サラも当然同じ気持ちだったので、助手達が帰って来るギリギリまでこのままでいようと、カー うず ルの胸に顔を埋めた。 かなた 二人は抱き合ったまま、太陽が地平線の彼方へ沈むのを眺めた後、自然と見つめ合って口づ けを交わした。 「……じゃ、そろそろ帰るよ」 「あ、待って」 サラは前もって用意しておいた包みを手に取り、カールに手渡した。 「これは…?」 「この間貸してもらった服。ちゃ〜んと綺麗に洗ったよv」 「あぁ、そうだったね。ありがとう」 「ふふふ、お礼を言うのは私の方なのに、先に言われちゃったな〜」 「…あ、ごめん」 「いいわよ、謝らなくて」 いたずら 素直に謝るカールを微笑ましく思いながら、サラはふと悪戯を思い付き、にやりと不敵な笑み を浮かべた。 「カール、私にもお礼言わせてくれるよね?」 「ああ、もちろん」 「ありがとvv」 サラは礼を言うと同時に勢い良くカールに抱きつき、軽く唇を重ねた。 カールは驚いて目を丸くしたが、にっこりと微笑んでサラの手を取り、研究所の正面玄関に向 かって歩き出した。 「それじゃ、また」 「うん、またね」 さっそう 正面玄関に到着すると、カールはサラと短く別れの言葉を交わし、颯爽とセイバータイガーに 乗り込んだ。 その時、ハッと重要な事を思い出したサラはポケットの中をごそごそし、カールに声を掛けた。 「カール、これあげるわ」 サラはカードの様なものをカールに見せ、ひょいと投げた。 かし それを見事に受け取ったカールは、自分の手の中を見て首を傾げた。 「何のカードだい?」 「私の部屋のカードキーよ。研究所の正面玄関も開けられるようにしておいたから、いつでも 遊びに来てねv」 「ありがとう、大切にする」 カールはカードを大事そうに上着のポケットへしまい、サラに向かって微笑みながら手を振っ た。 すぐサラも手を振り返し、それを見届けたカールはセイバータイガーを起動させ、基地へと帰っ て行った。 ●あとがき● やっぱりラブシーンは書いていて楽しいですv ベッドの上でいちゃつくなんて……二人共随分成長したなぁ…(しみじみ…) 少し前までは考えられなかったお話ですね(笑) 今回明らかになった二人の結婚観の違い。 サラは現代女性の考え方と全く同じで、仕事も頑張りつつ、カールとはずっと恋人同士でいた いと願っています。 カールは生まれ育った家柄のせいか、少々古くさい考え方をしています。 シュバルツ家の長男ですし、早く結婚して跡継ぎを作れ、と子供の頃から教え込まれてきた のでしょうね。 でも今はのん気に結婚などと言っている場合ではない、軍人として国の安定を図る方が先 決。そういう答えに落ち着いた様です。 これからも二人はラブラブな時間を共に過ごしていくと思いますv ●次回予告● マウントオッサ要塞での敗戦の責任を取り、第四陸戦部隊の指揮官を辞めると司令部に申し 出たカール。 一士官となり、何もない状態からのスタートを切る事になりました。 とは言え、サラとの時間はこれまで通り大切にしていきます。 そんなある日、二人は久し振りに山登りをする事に。 お久し振りのデートシリーズ第四弾! 第二十八話 「山」 ………このまま…ここで一晩過ごそうか…? |