第二十六話

「開花〜前編〜」


ルドルフが誘拐されてから数日経ったが、誘拐犯からの要求は一切無く、事態はほとんど進

展する気配を見せなかった。

しかしプロイツェンの配下の者だけは別らしく、裏で慌ただしく動き回っていた。
                       ちくいち
そんな中、サラは彼らの動きを逐一調べていたがやはりガードが堅く、何の情報も得られなか

った。

もう何日も同じ事の繰り返しだった為、サラはすぐ情報収集を中断し、日課となっている黒百

合の世話をしに行った。
                                                  のぞ
研究所の中庭に置いている鉢植えの元へ向かい、中をまじまじと覗き込んだサラは、喜びの

余り思わず歓喜の声をあげた。

早速カールに報告しようと思い立ち、急いで通信室へ行くと、第四陸戦部隊の基地に通信を

入れた。

カールから通信する場合は直通だったが、サラからの場合はまず通信兵が応答し、それから
     つな
本人に繋がるので多少の待ち時間があった。

待っている間、サラはずっとそわそわして落ち着きがなかったが、カールの姿がモニターに映
               ただ
ると、しゃんと姿勢を正して微笑んだ。

「やあ、サラ。君から連絡してくれるなんて珍しいね。どうしたんだい?」

「あのね、預かっていた黒百合の事なんだけど…」

「ひょっとして……もう二輪目が咲いたのか?」

「うん、咲いたの」

サラは嬉しそうに頷き、カールが渡した鉢植えより一回り程大きな鉢植えに植え替えられてい

る黒百合を見せた。

二輪の黒百合が寄り添う様に咲いているのを見、カールはまるで自分とサラみたいだなと思

った。

「こんなに早く咲くなんて思わなかったな…」
                                      だて
「私が作った超強力植物栄養剤を使ったからよ。伊達に博士号は取っておりません」

「さすがだね、本当にすごいよ」
       ほ
カールに褒められたので、サラは恥ずかしそうに頬を赤らめてもじもじし始めた。

そんなサラのかわいらしい仕草を微笑ましく思いながら、カールは幸せそうに彼女の瞳を見つ

めていた。

すると、サラはハッと何かを思い出し、モニターに顔を近づけると、内緒話をする様に小声で話

し始めた。

「ね、今度いつこっちに来れそう?」

「そうだなぁ…。俺の部隊は皆落ち着いてくれたから、いつでも行けると思う」

「連休は取れる?」

「それは……無理だな」

「じゃあ夜に来て、次の日の夜に帰るっていうのは?」

「それなら大丈夫だ」

カールの返事を聞いてサラは安心した様に頷き、今までよりも更に小声で話を続けた。

「あのね、いきなりで悪いんだけど、三日後の夜に研究所へ来てほしいの」

「………確かにいきなりだな」

「ダメ…?」

「いいに決まってるさ。断る理由なんてないし」

「良かったぁ。じゃ、三日後の夜に」

「ああ」
                                                           かし
サラとの通信を終えると、カールは何故三日後でなければならないのかと首を傾げたが、彼

女なりの理由があっての事だろうとすぐ納得した。

そんな事よりも今は研究所へ行ける喜びの方が大きかった為、カールにしては珍しく、それか

らの三日間は浮かれてそわそわし続けていた。



                           *



三日後、カールは約束の時間よりもだいぶ早く研究所に到着した。

早くサラに会いたかったので、訓練を途中で抜け出して来たらしい。

しかし到着してから、こんなに早く来てはいけなかったかもと少し後悔し、研究所内に入るの
 ためら
を躊躇った。

するとその時、突然研究所の正面のドアが勢い良く開き、サラが笑顔で出て来た為、心の準
                                           いっ
備が出来ていなかったカールは、声を掛けるタイミングを逸してしまった。
                                               す
一方、サラはカールが到着した事がわかっていたらしく、真っ直ぐ彼の元へ歩み寄り、にっこり

と微笑んだ。

「いらっしゃい、早かったのね」

「あ、ああ」

「ここで立ち話も何だし、入って」
           うなが
カールはサラに促されて研究所内に入ったが、いつもなら真っ先に挨拶に来るはずのステア

達、助手の面々の姿が見当たらない事に気付いた。

今までうるさいくらいが普通であった為、今日は静かすぎて少々不気味に感じた。

「…今日はやけに静かだな。皆仕事中かい?」

「あはは、やっぱり静かすぎて気持ち悪いよね。今研究所には私達しかいないから、こんなに

も静かに感じるのよ」

「……?」

「ステア達に長期休暇を取ってもらったの。今まで休暇が少なかったし、戦争も終わったから

良い機会だと思って」

「そっか。うん、それは良い事だ」

カールは妙に機嫌が良くなり、サラの手を引っ張って歩き出した。
                            めった
研究所で二人きりになれる事なんて滅多にない為、相当嬉しい様だ。
                             つな
サラもカールと同じ様に機嫌を良くし、繋いだ手をぎゅっと握り返した。

サラの案内で大広間にやって来たカールは、すぐテーブルの上に置かれている黒百合に気

付き、もっとよく観察しようとテーブルへ駆け寄った。

そしてじっくりと黒百合を観察した後、自然にサラと目が合い、カールは嬉しそうに微笑んでみ

せた。

「ありがとう、とても綺麗だ」

「ふふふ、喜んでもらえて良かったわ」
                                                    そそ
サラは照れ臭そうに微笑み、カールに椅子を勧めるとカップに紅茶を注ぎ始めた。

椅子に座り、差し出されたカップを受け取ったカールは、黒百合を見つめながら前に思った事
      つぶや
をこっそり呟いた。

「……まるで俺達みたいだな」

「え…?」

「あ、いや、その……」
                                        くちご
カールは自分が言った言葉に照れてしまって思わず口籠もったが、その言葉をしっかり聞い

ていたサラは嬉しそうな笑顔を見せ、彼の隣の席に腰を下ろした。

「あなたもそう思っていたのね。実は私も同じ事を思っていたの」

「君も…?」

「うん。だって……恋人同士みたいに寄り添って咲いているんだもん。そう見えちゃうのは仕方

ないよ」

頬を赤らめながらもじもじするサラを、カールはそっと抱き寄せた。

「こんな風に咲いているんだね」

「うん、そうだよ」
                   うず
サラはカールの胸に顔を埋めると、ゆっくりと目を閉じた。

こうするとカールの温もりが全身に伝わってくる気がして、とても幸せな気持ちになれた。

それからも二人は二輪の黒百合の様に寄り添ったまま談笑し、楽しい時間を過ごした。





やがて日が暮れると、サラは夕食を作りにキッチンへ向かい、カールは彼女が料理を作って
                        た
いる間もずっと傍にいて会話を絶やさなかった。
                                                あいづち
とは言っても、今日はいつも通りサラがよくしゃべっていたので、相槌を打っているだけだった

が、カールにとってはそれが一番幸せなひとときであった。
                             てっ
食事中もカールは終始笑顔で聞き役に徹し、嬉しそうにサラの話に耳を傾けていた。
                                                                 さっそう
夕食を終えるとサラはいそいそと後片付けを始め、これなら手伝えると思ったカールは颯爽と

キッチンへ向かった。

「あれ?どうしたの?」

「手伝うよ」

「そっか。じゃ、お願いしちゃおうかな」
    こころよ                               ふきん
サラは快くカールの申し出を受け、洗い終えた食器と布巾を手渡した。
                                  ふ
カールは慣れない手付きで一生懸命食器を拭き、慎重に棚に直した。

隣で洗い物を続けていたサラは、まるで母親になった様な気分になりながら、懸命に手伝うカ

ールを見守っていた。

「はい、終わり。ご苦労様v」
                 ねぎら
サラが棚の扉を閉めて労いの言葉を言うと、カールは心底安心した笑みを浮かべ、布巾を台

の上にそっと置いた。

サラはそんなカールを微笑ましく思っていたが、ふとある重要な事を思い出すと、彼の手をぎ

ゅっと握った。

「カール、お願いがあるの」

「何だい?」

「これから研究所内を見回りに行くんだけど………一緒に来てくれる?」

「ああ、いいよ」

カールは軽く返事をし、サラの手を握り返した。

そうして二人は研究所内の見回りを開始し、まず最初に研究室の方へ向かうと、セキュリティ

ーシステムの作動具合をチェックした。

サラはささっと端末を操作し、一つ一つ点検していったが、途中で頭を押さえると長いため息を

ついた。

「何か異常があったのか?」

「どこかの窓が開いているみたいなの」

「場所は?」

「えっと………居住区の方だと思う」

「……だと思う?」
       けげん                                                   か
カールが怪訝そうな顔をして聞き返すと、サラは苦笑いを浮かべて頭をぽりぽりと掻いてみせ

た。

「えへへ、実はまだ使い慣れてないの。こういう事はずっと男性陣に任せていたから、私もス

テア達も余り使ってなくて…。今は用心の為に毎晩交代で見回っているのよ」

「…そうだったのか。まぁ、見に行けばいいんだし、大丈夫だろう」

カールは余り詳しく聞こうとはせず、サラの手を引っ張り、さっさと歩き出した。

男性陣がいなくなった原因を作ったのはプロイツェンだとわかっていた為、聞く気になれなかっ

たのだ。

サラも聞いてほしくないと思っていたので黙って歩き続けたが、途中で思い出した様にカール

の腕を強く抱きしめた。
                                    はさ                       かいちゅう
すると、カールは必然的に腕が柔らかいものに挟まれてしまい、思わず持っていた懐中電灯
                        こら
を落としそうになったが、必死に堪えてサラに話し掛けた。

「ど、どうしたんだい?」

「……しばらくこうして行っちゃダメ?」

「べ、別にいいけど、何かあったのか?」
                     こわ
「……うん、あのね…………怖いの…」
    すが
サラは縋る様な目をして今の気持ちを正直に伝え、その告白を聞いたカールは一瞬意外そう

な顔をしたが、すぐ笑顔に戻って彼女を優しく見つめた。

(サラにも苦手なものがあったのか…)

カールはしみじみと思いながら、サラが自分を頼ってくれた喜びに打ち震えた。

サラはどんなに辛い事があっても決して感情を表に出さず、我慢しようとする性格なので、い

つになったら心を許してくれるのだろうと、カールはずっと気掛かりに思っていた。

本人は心を許しているつもりだった様だが、無意識に大切な人に心配を掛けたくないという思

いが働き、実は一度も表立って行動していなかったのだ。

だが、今回は余程我慢出来なかったらしく、必死にカールの腕にしがみつき、大きな瞳に涙を

浮かべていた。

「…暗いのが怖いのか?」

「う、うん、暗いのも怖いけど………その……教えてもいいけど、笑わない…?」

「ああ、笑わない」

「…じゃあ、教えてあげる。あのね……………お化けが怖いの」

「お化け!?」

カールは笑いはしなかったが、余りにも予想外の返事だった為に目が点になってしまった。
                                   ふく
カールの反応にサラは思わずむっとなり、頬を膨らませた。
怖いものは怖い…
「何よぅ、科学者が非科学的なものを怖がるなんておかしいって思ったんでしょ!?」

「え、あ、いや…」

「怖いものは怖いんだもん。仕方ないじゃない……」

サラは怒り出すのかと思いきや急に元気が無くなり、まるで言い訳の様に呟いた。

そんなサラがかわいくて仕方がないカールは、彼女を落ち着かせようと強く抱きしめた。

「おかしいなんて思ってないよ。ただ…」

「ただ…?」

「君がとてもかわいいから、言葉が出なくなってしまったんだ」

カールが正直に気持ちを言葉にすると、サラの顔が火を吹いた様に真っ赤になり、慌てて目を

伏せた。

サラが納得してくれたと察したカールは、彼女を腕に抱きつかせて見回りを再開した。





二人は研究所の正面玄関へ向かい、研究室や倉庫をぐるっと回ると、最後に窓が開いている

という居住区にやって来た。
                         くまな
カールは暗い廊下を懐中電灯で隈無く照らし、開いている窓を探した。

「あ、あの窓だ」

意外とあっさり見つけたカールは、早速閉めようと窓に手を掛けたが、どういう訳か途中までし

か閉まらなかった。
                               わく   はず
その窓をよく観察してみると、窓ガラスが枠から外れている事がわかり、サラに懐中電灯で手

元を照らしてもらいながら元に戻した。

「どお?」

「ん、もう大丈夫だ」

そう言ってカールは窓を閉め、しっかりと鍵を掛けた。





ズ……ズズ………





不意に何かがずり落ちる様な音が聞こえ、驚いたサラは思わずカールにしがみついた。

「な、なな、な、何の音?」

「見に行ってみよう」

「え、で、でも……」
                                                            つか
サラは行きたくなかったが、カールがずんずん歩き出してしまった為、彼の腕に掴まっている

と必然的について行かざるを得なくなった。

音がした方へ向かうと、そこはステア達助手の部屋が並んでいる廊下で、落ちるものなど何

もないと思われる場所であった。





ズズ………ガターン!!




              たど
二人がその廊下に辿り着いた時、突然何かが崩れ落ちた様な大きな音が響き、サラは恐怖

の余り声も出せずにカールに抱きついた。

カールはサラをしっかり受け止めつつ懐中電灯で前方を照らすと、すぐ音の原因を発見した。
                 つ
「サラ、安心してくれ。積んであった箱が落ちただけだ」

「…………………え、箱?」

サラが恐る恐る振り返ってみると、カールの言う通り床に箱がいくつも落ちていた。

それを見た瞬間、サラはカールが研究所へ来る時に慌ててあちこちを片付けていたステア達

の事を思い出し、その箱を無理に積み上げた犯人が彼女達だとわかった。

「とりあえず大まかに片付けようか?」

「あ、そのままにしておいて。ステア達に片付けさせるから」

「そうか。じゃあ、もう見回りは終了だな」

「ええ、私の部屋へ行きましょう」

サラは無事見回りが終わったのでほっと胸を撫で下ろし、カールを自室へ案内した。

以前一度だけ部屋の前まで行った事はあるが、入るのは初めてだった為、カールはドキドキ

しながらサラの後について行った。
                                   せいとん
室内に入ると中は思ったより広く、とても綺麗に整頓されてあった。

「綺麗な部屋だね」

「必要最小限のものしかないから、そう見えるだけよ」

サラは照れ臭そうに笑って言い、部屋の奥にある引き出しをゴソゴソし始めた。
                   あ
「ねぇ、これからシャワー浴びようと思うんだけど、一緒に入る?」

「え?いや…その……」

「髪綺麗に洗ってあげるから、一緒に入りましょv」
                        なか
サラはカールの返事を待たず、半ば強制的と言える口調に誘った。
      きぜん
いつもは毅然とした態度で意見を言うのに、こういう時は極端に優柔不断になる為、サラから

言う方がすんなりと決まるのだ。

今回も例によってカールはサラの誘いにコクリと頷き、持ってきた着替えを大広間に忘れた事

を思い出すと、慌てて取りに戻った。

カールを待っている間に、サラはバスタオルなど必要なものを用意し、先に部屋の横にある浴

室へ向かった。

やや遅れて浴室にやって来たカールは、サラの部屋に浴室があるとは思わなかったらしく、
       しき
感心して頻りに頷いた。

「部屋は広いし、風呂まであるなんてすごいな」

「まぁ、一応博士だからね。これくらいの待遇は普通だよ」

「へぇ、これが普通なのか。博士ってすごいんだなぁ」

カールが子供の様な顔をして深く頷いてみせると、サラは小さくクスリと笑った。

「じゃ、入りましょうか。あなたは先に入ってね」

「あ、う、うん」
                                                      あ
カールは妙に急いで服を脱ぎ、先に浴室へ入ったが、待つ程の時間を空けずにサラも続けて

入って来た。
                          そな
非常に身長差がある為、カールに備え付けの椅子に座ってもらい、サラはいそいそと彼の髪

を洗い始めた。

「私が髪を洗っている間に体を洗っておいてね。一人用の浴室だから、一人ずつしか洗うスペ

ースが無いの」

「ああ、わかった」

一人用の浴室というだけあって、二人で入るには多少無理のある広さだったが、サラがほっ

そりとした体型だった為、どうにかなった様だ。

それでも狭いのには変わりなく、さすがに二人同時に洗う事は出来なかった。
                                               ぶさた
サラが髪を洗い終える前に体を洗い終えたカールは、手持ち無沙汰になってしまったが、動い

てはいけないとなるべくじっとしていた。

サラはそんなカールの頑張りに気付くと、クスクス笑いながら髪を洗い上げ、続けて彼の背中

を洗い始めた。

「無理にじっとしなくてもいいんだよ?」

「ん、でも、洗ってもらってるから」

「ふふふ、あなたって本当にかわいいね〜vv」

「……サラ、男に対してかわいいという表現はおかしいぞ」

「そお?いいじゃない、本当にかわいいんだから」

「……………」

「はい、終わり。じゃ、先に出て待っててね」
                   たた
サラは広い背中をぽんと叩いて笑顔で言ったが、カールは何故かすぐに動かなかった。

「……どうしたの?」

サラが心配になって声を掛けると、カールはハッと我に帰って頬を赤らめた。

「…あ、う、うん、先に出てる」
                                                                    かし
そう言うなりカールは逃げる様に浴室から出て行き、一人になったサラはキョトンとして首を傾

げていた。
                                       かま
あからさまに不自然な態度だったが、そんな事には構っていられず、カールはぼんやりしたま

ま服を着てベッドへ向かった。

「はぁ……やっぱりダメか………」

カールはため息混じりに呟き、ベッドに力なく腰を下ろした。

本当は自分が洗ってもらった後、お礼にサラの背中を洗ってあげたいと思っていたのだが、恥

ずかしくて言い出せなかったらしい。

しかも言った後にサラに嫌がられる可能性もある為、タイミングを見計らう必要があり、一度無

理だと思ってしまうと、諦めるしかなかったのだ。

そうしてカールが暗い顔で肩を落としていると、浴室からサラが心配そうに駆け寄って来た。

「大丈夫?気分悪いの?」

「ん、大丈夫。何でもないよ」

カールがにっこり笑ってみせると、サラは安心した様に微笑んで彼の隣に腰掛けた。
                                     じょじょ
それから二人はしばらく黙ったまま動かなくなり、徐々に気まずい空気が流れ始めた為、この

ままではダメだとカールはサラに話し掛けた。

「皆が休暇中という事は……今日は俺がいたからいいけど、明日からは一人で見回りをする

のかい?」

「ううん、明日の夜には最初のグループが帰って来るから大丈夫よ」

「最初のグループ?」

「ええ。皆を三つのグループに分けて、一日ずつずらして出発してもらったの。だから最初のグ

ループが明日の夜に帰って来るってわけ」

「そうか、なら安心だな」
                                                                  から
カールは心底ほっとして笑顔で頷き、サラもつられて微笑みながら彼の手に自分の手を絡ま

せてぎゅっと握った。

「…ほんとはね、今日あなたが来てくれなかったらどうしようってずっと不安だったの。一人だ

と怖いし、あなたが一緒にいてくれたら一番安心出来ると思ったから…。でもそれだけじゃなく

て……研究所で二人きりになれる機会なんて二度と無いかもしれないし、せっかくのチャンス

を無駄にしたくなかったの。だから………来てくれてありがとう」

「サラ……」
     けなげ                たま
サラの健気さにカールは嬉しくて堪らなくなり、彼女の体をそっと抱き寄せた。

「俺の方こそありがとう。君と二人きりになれて、とても嬉しいよ」

「私も……嬉しい…v」

二人はしばらく見つめ合った後、ゆっくりと顔を近づけていって唇を重ねた。

軽い口づけを何度も交わし、途中で濃厚な口づけに切り替えると、カールはサラをベッドへ押

し倒した。

「…いいね?」

「うん」
              ば
サラの上に四つん這いになったカールは、恐らくこれだろうと予想してベッド脇にあるスイッチ
           あか
を押し、部屋の灯りが消えた事を確認すると、別のスイッチを押して傍の小さな灯りを点灯さ

せた。
                       おび
そしてサラの服に手を伸ばし、怯えさせない様に慎重に脱がし始めた。
                    ふ                                        したい
サラは恥ずかしそうに目を伏せていたが、カールは初めての時と同じ様に彼女の肢体に見と
                   たんのう
れ、その美しさをじっくりと堪能した。
                      あいぶ                                 あえ
やがてカールは非常に優しく愛撫を開始し、じっくり前戯を行ってサラを何度も喘がせた。

すると、サラが初めての時よりも大きめに声をあげた為、カールはより一層興奮して自分を止

められなくなってしまい、行為が必要以上に激しくなっていった。

が、途中でふとサラとの約束を思い出したカールは、激しく動かしていた腰を止め、彼女の体
    なごりお
から名残惜しそうに離れた。

サラは行為が終わった事に少し経ってから気付き、まだ肩で荒く息をしていたが、足下にいる

カールの様子が気になって声を掛けた。

「…カール………足りないの…?」

「………………………ああ」

「………じゃあ、もう少しだけならいいよ」

「…いいのか?」

「うん。あなたが満足出来ていないなら、加減してもらう意味がないもん」
                                                            なか
サラが非常にかわいい事を言ったので、カールは礼だと言わんばかりに彼女の膣へ再び自

分を突き立てた。

「あぁ……!」
              うる
途端にサラは瞳を潤ませて激しく喘ぎ、カールに抱きついた。

カールは幸せそうに微笑みながらサラの体を何度も突き上げ、結局は初めての時と同じくらい
          よふ
激しくなり、夜更けまで行為を続けたのだった…










●あとがき●

怪しいシーンで前半終了となりました(笑)
やはりこのテのシーンの表現力が上達しない…、また勉強しに行かなくてはならないかも。
でも18禁サイトって、何度も見に行きたいとは思えない所なんですよね…。
仕方ないので、これからも自己流で頑張りたいと思います。
黒百合がとうとう二輪に!
どうやって繁殖させたのかと申しますと、恐らくクローン技術だと思われます。
Ziにクローン技術があるのかは謎ですが、真実はサラのみぞ知る(笑)
そして今回の見所はカールの頑張りv
家事なんてこれまで一度もした事のない彼が頑張りました。食器を拭いただけですが(苦笑)
何とも微笑ましいですね、懸命なカールvv
サラと二人の時は本当にただの青年になっています。
それが当然なのに、今まではその当然の事が当然でなかった…
カールの苦難の人生が伺えますね。
若くして少佐にまで昇進し、年上の部下達に囲まれて過ごしてきたカールには、弱味を見せ
る相手が存在しなかったのです。が、サラの登場により彼の人生は一転。
感情を素直に出せる女性がいる事で、カールの心は救われたと思います。
だからこそ今まで以上に頑張れるのです。
彼の妙な落ち着きはここからきていると私は考えています。
最後に、サラが苦手としているお化けについての補足。
演習場にいた頃は夜間散歩に出ていたりと、結構平気ではないかと思われた方がいるかもし
れませんが、演習場は灯りがたくさんあったから大丈夫だったのです。
サラが心の底から怖いと思っているのは『暗闇』。お化けはその延長線で苦手らしいです。
暗闇が怖くなった原因はサラの過去にあります。
そのお話も後々出てくる予定です(後々ばかり…)

●次回予告●

国立研究所にて、二人だけで夜を明かしたカールとサラ。
翌日も朝から二人だけの時間を満喫します。
ルドルフの事やプロイツェンの企みなど気になる事は山ほどありますが、二人でいる時は全て
を忘れ、愛する人との安らぎのひとときを過ごします。
第二十七話 「開花〜後編〜」  それじゃ、ダメかしら…?

                        
<ご注意>

次の第二十七話「開花〜後編〜」は性描写に近い表現が出て来ます。
お嫌いな方・苦手な方はお読みにならないで下さい。
前編をお読みになった方なら大丈夫だとは思いますが(笑)