第二十三話

「戦い〜前編〜」


帝国軍による共和国への侵攻は日増しに激しくなり、カールを指揮官とする第四陸戦部隊も

新たな作戦を言い渡されて出陣していた。
                                             とりで
今回の作戦は、共和国軍の戦術拠点の一つであるクロノス砦を落とす事。
                                           れんけい
カールの部隊と、先日少佐に昇進したマルクスの部隊が連携して砦攻めを行う予定になって

いる。

二つの部隊を連携させるという作戦はカールが立てたものであり、大規模な戦いを避ける為

の苦肉の策でもあった。

自分の意見が司令部にすんなりと通ったので、カールは内心喜んでいたが、そんな素振りは

一切見せない様にしていた。





マルクスの部隊よりやや侵攻が遅れていたカールの部隊は、先程ようやく補給部隊と合流
  じんそく
し、迅速に補給を受け始めた。

自身の為に配備されたゾイド、アイアンコングを眺めながら、カールは補給が終わるのをのん

びりと待っていた。

急いで行く必要などないからだ。
                                                              さいそく
するとそこへ、当然の様にマルクスから通信が入り、カールは急いで来る様にとの催促だと思

うと、やれやれといった様子で応答した。

「少し前進しすぎではないか?マルクス少佐」

「ですが、逆にそちらの部隊は予定より遅れています。どのようにお考えなのですか?これで

はプロイツェン閣下に申し開き出来ませんよ」
                                    すで
「補給部隊とのランデブーに少々手こずったが、既に態勢は整っている」

「では、少佐のアイアンコングも…?」

「ああ、先程届いたところだ。これから全力で進撃する、私が行くまでそこで待機してくれ」

「私はプロイツェン閣下からレイヴンの後方支援を任されています。従って、レイヴンの侵攻に

歩調を合わせざるを得ない」
                       このえへい
レイヴンとはプロイツェン直属の近衛兵で、常に単独行動を取る事で有名な兵士。

ゾイド乗りとしては素晴らしい腕前を持っているが、実はまだ十四歳の少年である。

そのレイヴンがマルクスの部隊より先行し、共和国軍のスリーパーを全滅させたとの報告を

受けていた為、カールは一応正当な理由だと思ったが、それを口実にしてマルクスが単独行
              くぎ
動に走らない様に釘を刺しておく事にした。
                                          しき         な
「プロイツェンにゴマをするのもいいが少佐、共和国の士気は高いぞ。嘗めてかかると痛い目

に合う。だからこそ私の部隊と連携し、クロノス砦を攻撃するという作戦の持つ意味は大き

いのだ、わかるな?」

「連絡を差し上げたのはその話をする為なのですよ、シュバルツ少佐。今朝司令部から伝令

が来まして、作戦が変更になりました」
                                  ひそ
マルクスの言葉を聞いた途端、カールは眉を顰めた。
                                                                ひか
「クロノス砦はここにいる私の部隊のみで攻撃。シュバルツ少佐の部隊はその後ろに控える

反乱軍最後の戦術拠点、マウントオッサ要塞攻略まで温存。これが新たな命令です」

「……!どういう事だ…!?」
                                  さ
新たな作戦は、確実に共和国軍との戦闘を避けられないものであった。

自分の立てた作戦がギリギリになって突然変更された事で、カールは動揺の色を隠し切れ

なかった。

そんなカールの動揺を知りながら、マルクスはいつもと変わらぬ態度で話を続けた。

「復唱願えますか?少佐」

「……砦攻めはマルクス少佐の部隊のみで行う。私の部隊はマウントオッサ要塞攻略まで温

存」

「明朝作戦を開始します。よろしければ、少佐もこちらへ」
    うかが
「……伺おう、お手並み拝見だ」

「クロノスは私の部隊だけで充分です」

マルクスはカールとの無線連絡を終えると、思わずにやりと笑っていた。

実はカールの作戦を変更させたのは他ならぬマルクス本人で、自分の出世の為だけに司令

部に進言したのだ。

今回の作戦が成功すれば、彼にとって目の上のたんこぶであるカールを降格させるだけでな

く、自分の部下にする事も可能。
         ぜ  ひ        おさ
この戦いは是が非でも勝利を収めてやろうと、マルクスは野心に燃えていた。




                                               せんきょ
作戦変更の連絡を受けた日の夜、カールはマルクスの部隊が占拠している町に到着した。

その町は元々共和国領の町であったが、住んでいた人々は皆逃げ出してしまった後らしく、

帝国軍の兵士以外は人影がなかった。
                                                                まぎ
カールは作戦が変更になった事にまだ納得がいかなかった為、散歩でもして気分を紛らわせ

ようと、人っ子一人いない町中をあてもなく歩き出した。

暗い夜道をしばらく歩いていると、暗闇の中でふとレイヴンと彼のオーガノイド、シャドーの姿

が目に入った。

どうやらレイヴン達は彼らの愛機であるゾイド、セイバータイガーの方へ向かっている様だ。

レイヴンがいつも単独で行動しているとは知っていたが、こんな時間に出掛けるのはどう考え

ても不自然だと感じ、カールは彼を呼び止めようと声を掛けた。

「作戦開始は夜明けではないのか?」

「……シュバルツ」

「勝手な行動はマルクス少佐の作戦に…」
                はず
「あなたが砦攻めから外されたのは何故だ?」
           さえぎ
カールの言葉を遮り、レイヴンが鋭い質問を投げ掛けてきた。
                                                      たんたん
その質問にカールは答える事が出来なかったが、レイヴンは気にせずに淡々と話し続けた。

「あなたとマルクス少佐の部隊が合流すれば、その圧倒的な戦力を前に、共和国は停戦の

話し合いを持ち掛けてくるかもしれない…。あなたはそう考えていたのでしょう?だから連携

作戦を立てたんだ」

「…………」

「でも、プロイツェンは話し合いなんか望んでいない。作戦が変更になったのは、きっとプロイ

ツェンが軍のお偉いさんに圧力を掛けたからだ。少佐なら、僕に言われなくても大体察しはつ

いていたと思うけど?」

「……何が言いたい?」
                               にら                 ものお
カールはまだあどけなさの残るレイヴンを睨み付けたが、彼は全く物怖じせず、にやりと不敵

な笑みを浮かべてみせた。

「簡単な事さ。プロイツェンはすごい力を持っている。そんなプロイツェンに自由を与えられてい

る僕には誰も命令する事は出来ない。僕は好きな時に出て好きなように戦う。あんな砦、僕

一人で落とせるよ」

「……戦争は楽しいか?」
                                         たた つぶ
「共和国があるから戦争が続くんだ。だから、共和国を叩き潰す」

「乱暴な理屈だな」
    すじ
「でも筋は通ってるよ。他に聞きたい事は?」

余裕のある笑みを浮かべ、レイヴンはカールを見上げた。

だが、カールは黙り込んだままレイヴンを睨む事しか出来なかった。

「では」
           えしゃく                                   と
レイヴンは軽く会釈してセイバータイガーに乗り込み、暗闇の中に溶け込んでいった。

(サラ……本当に良い子だと思うか…?)
                                                                   いだ
以前サラが言っていた事を思い出したカールは、苦笑しながらレイヴンに更なる不信感を抱い

た。
いつでもサラの事を考えてます(笑)
レイヴンが言った通り、作戦が変更になったのは裏でプロイツェンが手を回したからに違いな

い。

わかってはいても認めたくなかったカールは、子供であるレイヴンにハッキリと言われた為

に、プロイツェンの力を痛い程感じる事になった。
        な  すべ                                           はがゆ
これからも成す術が無く、プロイツェンに従わなくてはならない自分を、心底歯痒く思うカール

であった。





翌朝、カールは作戦本部のテントへ足早に向かった。

すると、マルクスが相変わらずイヤな笑みを浮かべて彼を出迎え、早速作戦内容を説明し始

めた。

「レッドホーンによる砲撃の後、モルガ部隊を突入させます」
                         いきようよう
マルクスは余程自信があるのか意気揚々と説明し、それを黙って聞いていたカールは、昨夜

から姿を消したままのレイヴンの事が気になっていた。

ゾイド乗りとしての腕前は大人以上だが、彼はまだ子供なのだ。

「レイヴンの所在は不明だ。このまま作戦を開始すれば、砲撃に巻き込むかもしれんぞ」

「最終的に反乱軍を叩く事が出来れば、レイヴンがどうなろうと、プロイツェン閣下もお気にな

さらないでしょう」

マルクスは出世の為なら、誰がどうなろうと知った事ではない様だ。
                                                                いか
レイヴンの後方支援を任されていたクセに、そのレイヴンを簡単に切り捨てるとは、如何にも

プロイツェンの配下らしい行動だ。

上司が上司なら、部下も部下といったところであろうか。

そう思うと、カールはもうマルクスを止める気すら起きなかった。





「砲撃開始!」

マルクスの声を合図に、彼の部下は一斉にクロノス砦に向かって砲撃を開始した。

マルクスは絶対的な自信があるらしく、攻撃を続ける様に指示を出していたが、カールは冷静

に戦況を見守っていた。

(おかしい……、敵の攻撃が単調すぎる…)

共和国軍は帝国軍の砲撃が始まっても全く動じる気配がなく、しかも一定間隔で反撃してお
                                さっかく おちい
り、まるで訓練用のゾイドと戦っている様な錯覚に陥ってしまいそうだった。

カールはまさかと思いつつ、まだ確証が無い為もうしばらく様子を見る事にした。

「敵からの反撃はありません」

「ふん、恐れをなして逃げ出したか…」

部下から戦況報告を受け、マルクスは勝利を確信した笑みを浮かべたが、カールはその報告

を聞いた途端、瞬時に顔色を変えた。
 わな
「罠だ!!」

「え…!?」

マルクスがカールの言葉に驚いて振り向こうとした瞬間、ドォンと猛烈な爆音が鳴り響いた。

マルクスは慌てて外の様子を見に行ったが、彼の目の前で多くの部下を巻き添えにしなが

ら、クロノス砦が大きな音を立てて崩れ始めた。

後からカールもテントから出ると、ガックリと肩を落とすマルクスの傍に立ち、崩れ行くクロノス

砦を眺めた。





クロノス砦崩壊後、帝国軍では必死の救助作業が行われ、衛生兵が慌ただしく走り回り、傷

付いた兵士を次々と運び出した。

その様子を呆然と眺めているマルクスの元へ、カールはゆっくりと歩み寄った。
     いさ
「とんだ勇み足だったな。…しょうがあるまい、あの状況では誰もが引っかかる。幸いにして我

が隊は無傷だ。状況の把握が済み次第、次の作戦の準備に取り掛かろう」

「はっ…」

マルクスは悔しそうに返事をしたが、カールはそれでも良いと、先に作戦本部のテントへ戻っ

た。





それからしばらくの間、カールは自分の部隊がクロノス砦近くまで来るのを待ち、マルクスの

部隊と合流させると、急いで部隊編成の組み直しを行った。

そしてそれが済むと、兵士全員に休息を取る様にと指示を出し、カールもテントでのんびりとコ

ーヒーを飲みながら次の作戦を立て始めた。

今度こそ二つの部隊を連携させる作戦を実行したかったので、カールは司令部に無線連絡を

入れた。
                                      しょうだく
すると、司令部はカールが立てた作戦をすんなりと承諾し、先のクロノス砦での失敗によるマ
           あわ
ルクスの処分も併せて通達した。

再びカールの部下に逆戻りとなってしまったマルクスは、彼からその事を伝えられると、悔し

そうに歯を食いしばった。

カールはそんなマルクスを静かに見つめ、もう彼が先走る様な事はないだろうと少し安心する

のだった。





帝国軍が休息を取り始めて八時間程経った頃、知将として帝国にもその名を知られているク

ルーガーが共和国軍の指揮官であるとの情報が入り、カールはなるほどと頷いた。

彼なら、砦を自爆させるという大胆な作戦を立ててもおかしくない人物だ。

カールは部下から様々な報告を受けながら、コーヒーをゆっくりと口に運び、傍に立っている

マルクスに話し掛けた。

「共和国軍の指揮官はクルーガーか…」

「もう退役したと聞いておりましたが……」
                                      ろうかい
「御家の一大事で復帰したんだろう。大ベテランの老獪な作戦にまんまとやられたな」

「私はそうは思いません。我々の第一目標であるクロノス砦は、完全に壊滅状態なのですか

ら」

「モルガ部隊の半数を失ったがな」

カールが少し……いや、かなり皮肉を込めて言うと、マルクスは悔しそうに目を伏せた。
                                   つな    た
これを機に、どうにかマルクスとプロイツェンの繋がりを断ちたかったカールは、忠告めいた事

を言った。
           こ                         ぜんぷく
「まぁ、これに懲りて、以後現場を知らぬ元帥殿に全幅の信頼を寄せぬ事だ」
                   きも めい
「はっ。貴重なるご助言、肝に銘じておきます」
                    さだ                                          あわ
本当にそう思っているのか定かではなかったが、カールはとりあえず納得し、今度は哀れみ

の表情を浮かべた。

「せっかく昇進しても、また私の部下になるとは気の毒だな、マルクス少佐」

「いえ、今度は私がシュバルツ少佐のお手並みを拝見させて頂こうと思います」

「よかろう」
                 さっそう                                   かぶ
カールは笑顔で頷いて颯爽と立ち上がると、机の上に置いてあった軍帽を被った。

「各小隊に通達しろ。出撃する」

「はっ」
                          そろ
マルクスと報告に来ていた兵士は揃って敬礼し、足早にテントから出て行った。

皆を見送り、一人になったカールはほっと胸を撫で下ろした。

これで何とか停戦に持ち込む事が出来そうだ。

後は共和国がどう対応してくるかに掛かっていた。





休息を終え、再び進撃を開始した帝国軍はいきなり難題にぶつかった。

次の攻撃目標であるマウントオッサ要塞へ向かうには、クロノス砦跡地を通らなくてはならな
                              がれき
いのだが、そこには砦崩壊時に出来た瓦礫が山の様に転がっており、それを撤去しなくては

とても前に進めそうになかったのだ。
                                       ゆうよ
回り道を行けば、その分余計に共和国側に時間的猶予を与えてしまう為、カールは部下に瓦

礫撤去の指示を出し、地道に進む事にした。

アイアンコングから降り、撤去作業の様子を見守っていたカールの元へマルクスがやって来

て、ため息混じりに話し始めた。
                                                      やぶ
「瓦礫の撤去に既に二時間、とんだ時間のロスですな。偶然とは言え、破れかぶれの作戦が

ここまで我が軍の進撃を遅らせるとは…」

「……本気で言っているのか?」

「は…?」

カールが言った言葉の意味が理解出来ず、マルクスは間の抜けた声を出した。

一部隊を任されている指揮官が、周囲の状況を把握出来ていないなんて事はあってはならな
                                          あき
いのに、マルクスが何もわかっていないので、カールは呆れながら説明し始めた。
               こうむ
「砦爆破で我が軍が被った戦力的損失、更に瓦礫による再進撃の遅れ…。全て敵の計算通

りだ、偶然などではない」

「………!」

マルクスは今頃自分達が置かれている状況に気付き、目を丸くして驚いた。
                あ
「もしこの戦いで名を挙げたいのなら、クルーガーという男を甘く見ない事だ」

「は、はい…」
                                              おもも
今回の忠告はきちんと聞き入れたらしく、マルクスは神妙な面持ちで頷いた。
                                         おお
その時ふと空を見上げると、雨雲と思われる雲が空を覆い始めているのが見えた。

「一雨来るか…」
      つぶや
カールは呟く様に言うと、アイアンコングに乗り込んで撤去作業が終わるのを待った。





そうして雨が降り始めた頃にようやく作業が終わり、カールはすぐに進撃の指示を出した。

天候の回復を待ち、夜明けと共に仕掛けても良かったが、恐らくこちらの動きは全てクルーガ

ーに読まれていると予想された。

よって、今夜中に動く方が相手の意表を突けるかもしれない、とカールは考えたのだ。
                                                               せんかい
帝国軍が進撃を再開してしばらくすると、上空に共和国軍の偵察機が現れ、何度か旋回して

去って行った。

(やはり……こちらの動きは全てお見通し、か…)

カールは苦笑しながら偵察機を見送ったが、その対応に不満を抱いたマルクスから非難の通

信が入った。

「シュバルツ少佐、何故偵察機をみすみす見逃したのですか?」

「…我が軍の戦力的優位は動かし難い事実だ。今更隠す必要もあるまい」

「敵に降伏する機会を与えた…。私にはそう思えましたが?」

「……どう思おうと勝手だが、争い好きの元帥殿に余計な進言はしない方がいい。……口の

軽い男を、私は好かない」

「…はい」
                              くや
マルクスはカールとの通信を終えると、悔しそうに舌打ちした。

自分の指摘に対するカールの返事が、予想していたものと余りにも違っていた為、その分余
            ぞうお
計にマルクスは憎悪の念を抱いてしまった様だ。

「本来なら、私が前衛を務めていたはずの戦いなのに…!」
        いらいら
マルクスが苛々して呟いていると、突然前方の地中から共和国軍のスリーパーが現れ、帝国

軍を一斉に攻撃した。

「な、何だ!?」
                           おろそ                    ひど
考え事をしていた為、前方の注意が疎かになっていたマルクスは、酷く動揺しながら慌てて

辺りを見回した。

「スリーパーか…。また先手を打たれたな…」
                                        さけ
カールは苦笑して呟いたが、マルクスは動揺したまま叫ぶ様に部下に指示を出した。

「は、早く撃て!反撃だ!」
                        ぎせい
「待て、マルクス。下手に動けば犠牲が増える。ここは私に任せて部隊を後退させろ」
                                        むね
カールが冷静に指示を出すと、マルクスは急いでその旨を部下に通達し、部隊を後退させ始

めた。

代わりに前に出て来たカールが操縦するアイアンコングは、スリーパーに砲撃されてもビクと

もしなかった。

「並の装甲だと思うなよ」

カールは目の前に立ちはだかるスリーパー達に照準を合わせた。

「くらえ!」

カールの攻撃により、スリーパーは一撃で全滅した。

アイアンコングは格闘専用重機動ゾイドと言われるだけあって装甲が厚いだけでなく、火力も

並大抵ではないのだ。

カールはアイアンコングの破壊力に満足気に頷き、後退した部隊をすぐに呼び戻すと、陣形を

元に戻した。

そして再び進撃を始め、ようやく目前にマウントオッサ要塞の姿が見える所までやって来た。

早速カールが砲撃の指示を出すと、帝国軍は一斉に砲撃を開始し、それに対して共和国軍

は、クロノス砦の時とは打って変わって必死に応戦し始めた。
                                                 しんぼう
どう見ても帝国軍側が圧倒的に有利な戦いであったが、カールは辛抱強く共和国軍が決断す

るのを待っていた。
                                                     くつじょく
戦わずに話し合いで戦いを終わらせるという事が、軍人にとって非常に屈辱的だとわかってい

たからこそ、じっくり考える時間を与えたのだ。

やがて共和国軍のゾイドが次々と後退し始めると、カールはこのまま攻め込むか、しばらく今
         とど     ちゅうちょ
いる場所に留まるかで躊躇した。

するとその時、突然マウントオッサ要塞の正面に見えていた壁が二つに開き、地中から何か
  せ
が迫り上がってきた。

「ゴジュラス…!?」

地中から姿を現したのは…共和国軍で最強と言われる大型ゾイド、ゴジュラスであった。

ゴジュラスのいきなりの登場に驚いたカールは、反撃するのも忘れて呆然となった。

「この要塞に反乱軍の最強兵器があるとは…!」

マルクスもカールと同じ様に驚いて呟いた。

そうしてカールが動けなくなっている間にゴジュラスからの砲撃が始まり、数十体ものモルガ

が一撃で倒されてしまった。

更に砲撃を続けるゴジュラスに対し、帝国軍は必死に応戦したが、傷一つ付ける事が出来な

かった。

「我が軍が……まるで歯が立たない…」

マルクスはゴジュラスとの力の差を痛感し、心底悔しそうに呟いた。

そのマルクスの呟きで、ハッと我に帰ったカールは自軍の状況を見、部下に指示を出した。

「全軍、撤退せよ」

すると、カールの指示を不満に思ったマルクスから、例によって抗議の通信が入った。

「逃げるのですか!?誇りある帝国軍が反乱軍を前にして逃げ出せと…!?」

「わからんのか!これ以上の戦いは無意味だ…。兵を下げろ、軍を全滅させる事が指揮官の

仕事ではない…」

カールは自分に言い聞かせる様に、落ち着いた声で言った。
        しぶしぶ
マルクスは渋々頷くと、すぐ部下達に指示を出し、部隊を後退させたのだった。










●あとがき●

アニメに沿ったお話は大概が戦いのお話なので、書いていて少々疲れます。
内容を理解するのも難しいし、セリフを書き出すのも大変だし…
でも皆様もご存じの通り、まだ戦いのお話が続きます。
サラの出番が少ないというのが、私には一番辛い所ですね。カールも、かもしれませんが。
そして今回、あのキャラがついに登場!
そう、レイヴンです。
カールはレイヴンが余り好きではない様です。特別嫌っている訳でもないですが(笑)
とは言え、サラがレイヴンの事を気に入っていると知った時点で、嫌い度が多少上昇したのは
確かです(さすがカール…)
でも私もサラと同じく、レイヴンは結構気に入っているキャラなので、マルクスやプロイツェンと
同じ扱いにはしない様に心掛けるつもりです。
どちらにせよ、余り登場しないのですけどね(苦笑)

●次回予告●

ゴジュラスの出現により、一旦は撤退を余儀なくされたカール達。
そんな彼らに司令部から次なる作戦が言い渡されます。
ついにプロイツェン自らが動き、共和国の首都ニューヘリックシティに本隊が攻め込むとの事。
カール達は陽動部隊となり、共和国軍をマウントオッサ要塞へ惹き付ける任務を任されます。
第二十四話 「戦い〜後編〜」  …死なないで………死にたくない…