第十二話
「告白」
カールが謝りに来た日の夜、ステア達の最後の作戦が早速開始された… 「え!?落としたですって!?」 サラは驚きの余り、持っていたペンを床まで落とした。 夕食を済ませ、食後のゆったりとしたひとときを過ごしているサラに、ステア達は突然彼女が 一生懸命描いた遺跡の地図を落としてしまった、と報告したのだ。 これには何事にも動じないサラも、さすがに動揺を隠しきれなかった。 「そうなんですぅ〜」 「私達だけじゃ見つけられそうにないんです。一緒に探して下さ〜い!」 こんがん ステアとナズナは目に涙を浮かべて懇願し、サラに「イヤ」とは言わせなかった。 嘘泣きではあったが、サラに全く気付かれていないところを見ると、こういう時の彼女達の演 技力は素晴らしいものがある。 「も〜、大切なものなのに…。それでどこに落としたのか、見当は付いているの?」 「はい。皆で手分けして探せば、すぐ見つかると思います〜」 「仕方ないわねぇ」 しぶしぶ サラは渋々立ち上がると防寒具を着込み、外へ向かって歩き出した。 当然、後を追うステア達がにやにや笑っていたのは言うまでもない… ステア達の案内で地図を落としたと思われる場所へ行ってみると、そこはサラがいつも歌を歌 っていた機材置き場であった。 「この辺りで落としたの?」 「はい、そうなんです〜」 やっかい 「ずいぶんと厄介な所に落としたわねぇ…」 サラはため息混じりに言い、周囲をキョロキョロと見回し始めた。 きわ たくさんの機材が混在する中で、小さな地図を探し出すのは極めて困難だろう。 すると、ステアとナズナは少しずつサラから離れながら笑顔で声を掛けた。 「私達は向こう側から探しますので、博士はこちら側からお願いします」 「…え?」 サラが何か言うより先に、ステア達はさっさと機材の向こう側に去って行った。 ふ らち 一人ポツンと残されてしまったサラは少々腑に落ちなかったが、このままじっとしていても埒 が明かないと、一人で黙々と地図を探し始めた。 あか 今夜は丁度満月で灯りを持っていなくても充分明るく、探すのに不自由はしなかった。 そうしてしばらく歩き回っていると、ふと自分が歌を歌う為に座っていた機材が目に入った。 なつ 何となく懐かしさを感じたサラは思わず立ち止まり、その大切な場所を眺めた。 あの場所でよくカールの為に歌を歌い、楽しい時間を過ごしたものだった。 つか 気軽に言ってくれていいのにカールは毎回気を遣い、自分からは決して言い出さなかった。 だからいつもサラから歌うと言わざるを得なかったが、そう言った後のカールの笑顔が大好き だったので、これでいいと思っていた。 せつ 目を閉じると、あの優しい笑顔が昨日の事の様に思い出され切なくなった。 わだかま と カールとの蟠りが解けないまま、後少しで研究所へ帰らなければならないと思うだけで、無性 に心が痛んだ… サラが機材を見つめてぼんやりとしていると、突然背後から足音が近づいて来た。 ステア達がこんなに早く戻って来るはずがないと、サラは警戒しながら慌てて振り返り、振り 返った途端彼女の頬が真っ赤になった。 まさ 近づいて来た人物は…今正に会いたいと思っていたカールだったのだ。 サラに見つめられると、カールは嬉しい様な悲しい様な微妙な笑みを浮かべた。 「少…佐………、どうして……ここへ…?」 「…君の助手達に、探し物の手伝いをしてほしいと頼まれてね」 はか さけ カールの返事を聞いた瞬間、サラは「謀られた〜!」と心の中で叫んだ。 ステア達から地図を落としたとの報告を受けた時、二人の様子がおかしいと気付いてはいた だま のに、まんまと騙されてしまった様だ。 いや、本当は騙されるフリをして、少し期待していたのかもしれない。 あき そう思うと、サラは自分の不器用さにほとほと呆れるしかなかった。 「サラ、昨日の事なんだが…」 カールが恐る恐る話を切り出すと、サラはドキッとなって目を見開いた。 「すまなかった…。本当に……申し訳ない事をした………」 深々と頭を下げ、ハッキリと謝罪の言葉を述べるカールに対し、サラはどう返事をすれば良い のかわからず黙り込んでしまった。 それでも構わず、カールは話を続けた。 「今更何を言っても、君を傷付けたという事実を消せる訳じゃない。…けど、言い訳だと思って くれていいから、俺の話を聞いてほしいんだ」 まなざ カールに真剣な眼差しで見つめられ、サラは口で返事をせずにコクンと頷いてみせた。 カールは一瞬ほっとした様な笑みを浮かべたが、すぐ真剣な表情に戻った。 が、先程とは違い、何故か顔が赤くなっていた。 「あの時……君がもうすぐ研究所へ帰ってしまうとわかって…とてもショックだったんだ……。 その後の事は………どうしてあんな事をしたのか…自分でもわからない……。でもきっと…今 おさ までずっと抑えてきた君への想いが……ショックで抑えられなくなってしまったんだと思う…。 だから気が付いた時には…全てが終わった後で………。本当は……本当はもっと先に言う べき言葉があったのに……」 きぜん いつもの毅然とした雰囲気を完全に失って話すカールに、サラは驚いていた。 いと だが、そんな彼がとても愛おしく思え、サラは頬を赤らめたままにっこりと微笑んだ。 その笑顔を見たカールは、何故サラは責めずに微笑んでくれるのだろうと不思議に思い、彼 女が口を開くのを待った。 「少佐、それは………私の事が…好きって意味かしら?」 「そ、そう受け取ってくれていい」 カールは耳まで真っ赤になり、消え入りそうな声で答えた。 さわ そんな彼とは対照的に、サラは瞬時に落ち着きを取り戻すと、ニコッと爽やかな笑みを浮か べた。 「そっか」 意外と短い返事だった為、カールはガクッと体の力が抜け、緊張の糸が一気に切れた。 今までの緊張は一体何だったのだろうか…? カールが何を思って脱力しているのか、何となくわかったサラはクスクス笑い出した。 「好きでも何でもないのに、あんな事されたらイヤだけど、あなたは私の事を想ってしてくれた んでしょ?」 「……あ、ああ」 「じゃあ、嬉しいよv」 その言葉は一体どういう意味なのか、話の流れが全く見えなかったが、まだ照れ臭さが残っ ていたカールには、尋ねる事が出来なかった。 ごまか カールが黙り込んでしまうと、サラは照れを誤魔化す様に大きく伸びをした。 「あ〜〜、すっきりした〜」 「………?…すっきり…?」 「私ね、昨日すぐ逃げ出しちゃったから、あなたに悪い事したなって思ってたの」 「いや、あれは俺が…」 「イヤだった訳じゃないし、逃げる必要なんてなかったんだけど、初めて……だったから、ビッ クリしちゃって…」 「………俺も」 「え…?」 「俺も初めてだった」 互いに何の経験も無かった事がわかると、どういう訳か無性に笑いが込み上げ、二人は思わ ずプッと吹き出した。 「そっか〜、少佐も初めてだったんだ〜。何だか嬉しいなぁv」 「ああ、俺も嬉しい。ただ…順序が逆になってしまった事が、俺としては……」 「逆だっていいと思う。少なくとも、私は気にしてないわ」 さえぎ サラはカールの言葉を遮る様に言い、彼が思わず見とれる程の飛び切りの笑顔を見せた。 「私も好きよ、あなたの事」 「サラ…」 |
サラは笑顔で自分の想いを伝えた。 何故か全く緊張せずに言う事が出来た。 彼女の中でカールへの想いが、ハッキリとした恋心に変わっていたからだ。 たま サラの告白を聞いたカールは嬉しくて堪らなくなり、彼女を抱きしめたくなった。 しかしそう思って手を伸ばしかけた途端、サラはコロッといつもの調子に戻ってしまった。 「そろそろ戻りましょうか」 「……え?あ、ああ、そうだな…」 カールは思い切り落胆していたが、顔には出さない様に気を付けて返事を返した。 そうして二人で並んで歩き始めると、カールはようやく自分が何をしに来たのかを思い出した。 「そう言えば……すっかり忘れていたが、探し物は見つかったのかな?」 「あぁ、あれね。大丈夫、もうステア達が見つけているはずだから」 「そうか、それは良かった」 いま 未だに騙された事に気付いていないカールはサラの返事を聞くと、ほっとした様に素直に微笑 んだ。 ステア達が探し物の手伝いをしてほしいと言ったのは、サラと引き合わせる為の虚言だった ま のだが、カールは見事に真に受けてしまったらしい。 サラはカールの驚くほどの純粋さに、思わずクスッと笑ってしまった。 「うん…?どうかしたのかい?」 「ううん、何でもないよ」 かし カールは不思議そうに首を傾げていたが、サラはそれ以上何も言わなかった。 こうして二人は仲良く一緒に研究所のテントまで行き、軽く挨拶を交わしてすぐに別れた。 互いの気持ちを確認し合えたからと言って、いきなりラブラブにはなれないのだ。 特に、カールとサラの様な恋愛下手な者にとっては。 うかが サラはカールを笑顔で見送った後、こっそりテント内に入って中の様子を伺った。 中ではステアとナズナが飲み物を片手に談笑しており、サラが帰って来た事に気付くと慌て て立ち上がった。 「は、博士!?いつからそこに!?」 「今帰ったばかりよ」 「そ、そうでしたか…。えっと………ステア、地図を…」 「え、あ、うん。博士、地図は私達が見つけました、どうぞ」 ステア達は見るからに動揺しつつ、遺跡の地図をサラに差し出した。 サラは地図を受け取ると、中身を確認してにっこりと微笑んだ。 「二人共、ご苦労様」 「は、はい」 「博士もお疲れ様でした」 「じゃ、私は先に休ませてもらうわね」 そう言って、サラはすたすたと寝室に向かって歩き出した。 一瞬ステア達の目が点になり、作戦が失敗してしまったと思い込んで慌ててサラの後を追お うとした。 すると、突然サラがドアの前で立ち止まったので、二人も同時に動きを止めた。 「ありがとう」 サラは振り返らずにポツリと言い、静かに寝室へ入って行った。 サラの一言で作戦が成功した事を知ったステア達は、飛び上がって喜び合った。 「やったね!」 「大・成・功!!」 再び、二人のどんちゃん騒ぎが始まった。 じんじょう しかも今回は、念願であったカールとサラを両想いにする事が出来た為、騒ぎ方も尋常では なく、お祝いパーティは深夜まで続けられたのだった… ●あとがき● とうとうカールが告白しました。微妙な言い回しで(笑) あんな遠回しな言い方では、サラが気付かないかもしれないと思いましたが、彼女はそこま で天然ではありません。 天然キャラは苦手ですので、そういうキャラは絶対出しません。 適度に天然なのは好きなんですけどね(どっちだよ…) ようやく二人の想いが通じ合い、これからはラブラブ度が急上昇します。 そちらが大本命だっただけに、書き手の私もすごく楽しみですv クサいセリフのオンパレード、頑張ってカールに言わせたいと思います♪ あなたはその過剰なクサさに耐えられるか!? まず私が耐えられませんね(笑) 照れながら書きたいと思いますv ●次回予告● 諸事情により、演習場での滞在期間を延長する事になったサラ達。 時を同じくして雨まで降り出し、順調であった作業が完全に中断となってしまいました。 いつも通りカールの元で勉強し、テントへと帰ったサラは、小型無線機である通信を傍受しま す。 土砂降りの雨の中、サラは慌てて遺跡へ。 何の考えもなしに遺跡へ向かったと思われるサラの後を、カールは急いで追います。 果たしてサラは無事なのか…? 第十三話 「遺跡〜前編〜」 絶対、救い出す…! |