第七十五話

「湯治〜後編〜」



休暇二日目、太陽が頭上で輝き始めた頃にサラはようやく目を覚ましたが、起き上がろうとし

ても体が思う様に動かず、仕方なく隣に眠っている愛する男性に視線を移した。

カールは実に幸せそうな寝顔で眠りこけており、体を揺する程度では起きそうもなかった。

サラはしばらくカールの寝顔を見て過ごし、腰の痛みが少しでもやわらいだのを見計らうと、ベッ

ドから降りて身支度を整え始めた。

早く朝食…兼昼食を用意しなければ、寝惚助ねぼすけさんの愛する男性が起きた時、空腹のまま待た

せる事になってしまう。

折角療養に来ているのだから、カールには何不自由なく過ごしてほしい…。

サラはぐっすり眠っているカールの頬に優しく口づけすると、彼を起こさない様にこっそり寝室

から出て行った。

それから数分後、愛する女性の温もりが感じられず目を覚ましたカールは、例の如く室内をキ

ョロキョロ見回してからサラの行動を察し、急いで身支度を整えて彼女の後を追った。

キッチンではサラが鼻歌を歌いながら昼食を作っており、その姿を見たカールは瞬時に良から

ぬ事を思い付くと、サラの背後にそ〜っと近づいて行った。

「よし、準備完了。そろそろカールを起こしに行かなきゃ…」

「その必要はないよ、サラ」

「えっ?」

突然背後から声をかけられた為、サラは飛び上がる程驚いてしまったが、その間にカールは

サラを後ろから抱きすくめ、甘い香りが漂う青髪に顔を埋めた。

もちろんそれだけでは済ますはずもなく、顔を埋めると同時にカールはサラの首筋に口づけを

落とし、そのまま優しく舌を滑らせた。

「あ……v や、やめて…カール………」

本気で抵抗する気がないらしく、サラは体を動かさずに口だけで抵抗した。

すると、カールは非常に嬉しそうな笑顔を見せ、サラの言う事を素直に聞き入れ愛撫を終了し

た。

「お昼ご飯出来てるから、運ぶの手伝って」

「了解」

二人は何事もなかった様にダイニングルームへ昼食を運ぶと、和やかな雰囲気の中で食事を

開始し、頃合いを見てサラはカールに話しかけた。

「カール、昨日はやりすぎだよ。ここへは療養に来てるんだから、疲れるまでしちゃダメ。療養

にならないわ」

「疲れるまで…? 俺は疲れるまでした覚えはないが…」

「したわよ。私だってクタクタになったんだもの、あなただって疲れたはずよ」

「いいや、疲れるまでは絶対してない。昨日は君の体力に合わせてしたんだ。もし俺の体力

に合わせていたら、今日君は立ち上がれなかったはずだよ」

「………うそ」

「嘘じゃない。君には嘘なんてつかないよ」

「…………………そっか、疲れたのは私だけだったんだ……」

サラはカールの言い分をすんなり認め、少々考え込む様な仕草を見せると、意を決した様子

で頷いた。

「でもやっぱりやりすぎだったと思うの。だから今夜は……」

「……手加減した方がいい…?」

「うん、そうしてほしい。あなたの気持ちは分かるけど、ここにいる間はしっかり療養してほしい

の。お願い…」

「……………分かった。でもその代わり、一つだけ頼みを聞いてくれないか?」

「なぁに?」

「食事の用意とか後片付けとか…俺にも手伝わせてほしいんだ。何もしないで待つだけという

のは、結構辛くてね…」

敢えて聞かなくても分かっていた事だが、サラはカールの淋しそうな笑顔を見ると、彼の想い

の全てを察する事が出来た。

カールは優しい。

特に愛する女性、サラには…。

休んでほしいというサラの優しさは本当に有難いが、彼女に何もかもを押し付けるのは、カー

ルの性に合わないのだ。

胸中で「失敗だった」と自分の行いを悔いたサラは、カールの頼みを快く笑顔で聞き入れた。

「分かったわ。じゃあ、早速後片付けを手伝ってもらおうかな」

「了解。最善を尽くします、博士」

「期待してますわ、大佐殿。ふふふv」

二人は笑顔で昼食に使った食器を運び、仲良く並んで後片付けを行った。

二人でする方が当然早く終わるし、何より二人だからこそ、後片付けも楽しんで出来る。

カールもサラもたわむれる様な感覚で食器を洗い、短時間で後片付けを終えると、午後からのス

ケジュールを二人で考え始めた。

「ここでぼ〜っとするより、外で少し体を動かしたいな」

「そうね、それなら散歩に行きましょ。前に来た時はほとんど町を見て回れなかったし、良い機

会だから観光も兼ねて、ね」

二人はスケジュールをすんなり決めると、いつも通り手を繋いで町の中心部にある商店街へ

向かった。

初日に来た時は急いでいた為に、食料品しか見る事が出来なかったので、今日は土産物屋

など様々な店を見て回り、久々の旅行を十二分に楽しんだ。

「あ、ソフトクリームだ〜♪」

商店街の傍にある広々とした公園に差し掛かった頃、サラはソフトクリームの出店を発見し、

カールを引っ張って買いに行った。

「あなたは何にする? バニラ? チョコ?」

「いや、俺の分は必要ないよ。俺は君のを少し分けてくれればいいから」

「そう? え〜っと、それじゃ……バニラにしようっと」

二人はソフトクリームを一つだけ買い求めると、広大な公園を散歩しながら落ち着ける場所を

探し、木々に囲まれた所にあるベンチを見つけて座った。

サラは子供の様な笑顔でソフトクリームを舐め、カールにもあげようとソフトクリームを彼の口

元へ運んだ。

しかしカールが一緒に食べたいと強く主張した為、サラは「何か企んでいるな」と気付きつつ

も、二人で一緒にソフトクリームに口を付けた。

始めは普通に舐めていたカールだったが、サラの予想通り途中で舐める対象を変更し、彼女

の舌を刺激し始めた。

「んっ……カール、ダメだよ。今はソフトクリームを食べてるんだから」

「あ、ごめん。つい、ね。次は大丈夫だから、もう一回一緒に食べよう」

「本当? ……じゃあ、もう一回だけだからね」

カールの言葉を信用し、サラは再びカールと一緒になってソフトクリームを舐め始めた。

すると、カールは当然の如くソフトクリームではなくサラの舌を舐め、その勢いに乗って彼女の

口を覆う様に塞いでしまった。

細い腰を力強く引き寄せ、落としそうになっているソフトクリームを支えながら、カールは気が

済むまでサラの舌を弄び続けた。

ソフトクリームのお陰でサラの口中はいつも以上に甘く、とろける様な感覚がカールの心を支

配していった。

もちろんサラもカールと同じ感覚を味わい、トロンとした表情で彼の情熱的な口づけを受け続

けていた。

やがて甘く激しい口づけが終わると、サラは瞬時に我に帰り、溶けつつあるソフトクリームを慌

てて舐め出した。

「あ〜ぁ、ほとんど溶けちゃった…。急いで食べなきゃ」

「俺も手伝おうか?」

「遠慮しておきます」

再び何か企んでいそうな顔をしているカールになかば呆れつつ、サラは宣言通り急いでソフトク

リームを平らげると、カールの手を引っ張って散歩を再開した。

心地良い風が公園の木々を優しく揺らし、そこから奏でられる木々の声に耳を傾けていると、

身も心も隅々まで癒される様な気がした。

暖かな木漏れ日の中で、カールとサラは言葉を交わす事なく微笑み合い、ただ普通に歩いて

いるだけなのに、それがとても尊いものに感じられた。

愛する人と二人で過ごす時間は、何物にも代えがたいもの。

カールもサラも二人で過ごす事が出来る喜びを改めて噛み締め、繋いだ手をより強く握り合っ

て散歩を楽しんだ。

そうして夕暮れと共にロッジに帰宅した二人は、夕食を作るのも食べるのも後片付けするのも

仲良く二人で行い、いつもと変わらぬ幸せな時間を過ごした。

やはりどんな事も二人の方が楽しい。

夕食後も幸せな時間は続き、二人……特にカールには最も楽しい事の一つである入浴の時

間がやって来た。

浴室では、サラは恥ずかしがる事なく肌をあらわにする。

カールにとっては、寝室の次に目の保養となる場所である。

カールはなるべくこっそりとサラの肢体を観察していたが、得意のポーカーフェイスもサラには

通じず、結局は手で視線を遮られてしまった。

しかし温泉に浸かると、視線を遮るものは無くなり、カールはお湯の中でサラの体を包み込ん

だ。

サラは愛撫が始まるのだと一瞬身構えたが、カールは彼女の体を包むだけで他の行動は起

こさなかった。

何もしない方がいいはずなのに、それが逆に不安になってしまったサラは、無意識にカール

の欲望をうずかせる様な表情を見せ、恐る恐る彼に声をかけた。

「カール…?」

「うん?」

「………今日は何もしないんだね」

「してほしいなら、今すぐにでもするけど?」

「し、しなくていいよ。でも……その…我慢出来るの?」

「我慢はいつでもしているから慣れてるよ。それに…」

カールは一旦言葉を切ると、にやりと不適な笑みを浮かべながらサラの耳に口を寄せた。

「お楽しみは寝室へ行ってからだよ、サラ」

男の色気漂うカールの甘い囁きに、サラは全身から力が抜けてしまった。

こうなると、全てはカールの思うまま。

寝室へ向かうまでの間、サラはカールに身を任せた状態で行動し、ベッドに押し倒された時点

でようやく我に帰った。

今頃遅いとは思いつつも、サラは今朝約束した事を再確認する為に、上にいるカールの体を

全力で制止させた。

「カール、今朝言った事覚えてる?」

「何の事かな?」

とぼけないで。……ちゃんと手加減してくれなきゃダメだよ?」

「分かってるよ、サラ。心配しなくても優しくする」

「優しく、じゃなくて……手加減って言ってるの。本当に分かってる?」

「ああ、大丈夫」

本当に分かっているのか疑わしかったが、愛撫が始まってしまうと、サラには抵抗するすべ

無いので、後はカールに全てを任せるしかなかった。

薄暗い寝室内で、始めはサラのなまめかしい声だけが響いていたが、途中からベッドのきし

音が併せて響き出すと、カールの呼吸も徐々に荒くなっていった。

カールが腰を突き上げる度に、サラは喜びを含んだ喘ぎ声をあげ、絶頂が近づきつつある事を

体が示していた。

しかしカールはサラが絶頂を迎える寸前にピタリと腰の動きを止め、彼女のなかから自分を素早

く抜き取った。

折角快感が最骨頂に達しそうだったのに、それが寸前でリセットされた為に、サラはすがる様な

目でカールを見つめた。

「………終わり?」

「ああ、終わりだ。手加減するように言ったのは君だろ?」

「それはそうだけど……私、まだ………」

「足りなかった?」

「………うん」
カール内心でにやり…(笑)
「君がもう一度と言うならするけど、また始めからになってしまうから、すぐには止められなくな

る。それでもいいかい?」

「………………………うん。お願い、カール…」

カールの策略に乗せられている事に一切気付かず、サラは彼に再開を促した。

カールは仕方ないといった表情を見せたが、胸中ではにやりとほくそ笑みつつ、再びサラの上

に乗って愛撫を開始した。

「あぅん…v カール……vv」

二度目は一度目よりも激しく。

カールは策略通りに事を進め、サラを着実に絶頂に導いていった。

絶頂を迎えるのは、サラよりもカールの方が早い。

いつもは我慢に我慢を重ね、サラと共に絶頂を迎える様にしているカールだが、今日は一人

で早めに絶頂に達し、後は愛する女性の様子を窺いながらの行為に切り替えた。

一見、サラが言った通り手加減している様に見えなくもない。

しかしカールは意地でもサラが疲れ果てるまで行為を行うつもりらしい。

その証拠に、カールはわざとサラが絶頂を迎えるのを阻止している。

そうする事により、必然的にいつもと立場が逆になり、サラが行為を続けたいという形になる

のだ。

一回一回は手加減していても、回数を重ねればサラは疲れ果てるだろう。

本当はカール自身も疲れ果てるまでしたいところだったが、それでは療養にならないというサ

ラの言い付けを律儀に守り、翌日に疲れが残らない程度に行為を続けた。

全てはカールの思惑通り……と思われたが、数度目のお預けの時点でサラは疑問をいだき、

再開をせがまずに彼に問いかけた。

「カール、まさか………わざとなの?」

「……何が?」

「…………本当にあなたって嘘を付けない人ね。思い切り顔に出てるわよ?」

「…………………………どうしてもダメかい?」

「ううん、ダメじゃないよ。あなたが続けたいなら続けてくれていいけど……でも………」

「俺の体を心配してくれるのは嬉しいけど、中途半端に終わるのも結構疲れるんだ。だから出

来れば続けたい」

カールが真剣に訴えかけると、サラは少々困惑の表情を見せたが、大して悩む事なくコクリと

頷いた。

カールの望みは全て叶えてあげたい…。

それがサラの基本的な行動方針なのだ。

カールはサラの健気さに改めて感動しつつ、お礼と言わんばかりに優しく愛撫を再開した。

今度は絶頂到達を阻止する必要はない。

一緒に気持ち良くなりたい。

途中までとは言え、数度行為を行ったお陰なのか、サラはカールとほぼ同時に絶頂に達し、

二人は一つになったまま強く抱き合った。

サラの膣がまるで別の生き物の様に激しく脈動し、カールのたくましいものを奥へ奥へと引き

込んでいった。

カールから放たれた愛の証もサラの奥深くまで引き寄せられ、二人は至福の時を迎えた。

二人揃ってうっとりと緩んだ笑みを浮かべつつ、ふと愛する人と目が合うと思わず唇を重ね、

もう一度一緒に絶頂を迎える為に行動を開始した。

後ろからはいまだに抵抗がある様なので、カールは気を遣ってサラを背後から抱きすくめる形で

共に座り、温もりを確かめ合いながら行為を行った。

体が離れた状態で後ろから、というのは怯えてしまうサラだが、カールの温もりを感じながら

であれば安心する様で、快感に完全に身を任せていた。

なまめかしい喘ぎ声が発されるサラの口に、カールが何気なく手を添えてみると、サラはその

手をペロペロと舐めた。

その反応に気を良くしたカールはサラの口中に指を入れ、同時に彼女の下の口にも指を

込むと、両方一緒に中をぐりぐりと掻き混ぜた。

「んふっ……んん………vv」

意識が飛びそうな快感の中で、サラはカールの指を無意識にしゃぶり、膣に挿し込まれた指

には大量の愛液をもって応えた。

やがてカールが口から手を離すと、サラは淋しそうな顔を見せたが、続いて自分が指をしゃぶ

られる側になった瞬間、甘えた声を出し始めた。

カールは感度の良い薬指を中心にサラの指をしゃぶり続け、頃合いを見て彼女と体を一つに

繋げると、豊満な乳房を揉みしだきながら何度目かの行為を始めた。

耳元でカールの荒い息遣いを感じていると、サラは快感がより倍増し、自分でも驚く程の大き

な声で喘いでいた。

そしてそんなサラの声を聞いていると、カールも快感が増していき、冷静な判断が出来ない程

に無我夢中で愛を確認し合った。

体の心配を完全に忘れ、結局二人はいつも通り翌日の明け方まで行為を続け、力尽きるとそ

のまま眠りに就いた。





「…………う〜ん、やっぱりこうなっちゃったかぁ……」

休暇三日目の正午頃、サラは目覚めるなり思わずうなった。

結果的には自分までその気になってしまったので、カールだけを一概には責められないが、

彼がきちんと療養出来ているのかは疑わしかった。

身も心も休めていないのなら、無理に休暇を取った意味がない。

しかし今日はもう休暇最終日。

今更何を言っても遅い状況である。

サラは寝転んだまま小さくため息をついたが、ふとカールの顔に視線を移すと、目覚めてから

今まで悩んでいたのがバカらしく思えた。

隣ですやすやと眠っているいとしい男性が、実に幸せそうな寝顔を見せていたのだ。

これなら昨夜の疲れを心配する必要はないだろう。

中途半端に終わる方が疲れる、というカールの言葉は本当だった様だ。

サラは呆れ半分嬉しさ半分でクスクス笑い、カールを起こそうと彼の頬をツンツンつついた。

カールの無防備な寝顔を見ていると、ついつつきたくなるのだ。

カールはしばらくまどろんでからようやく目を覚まし、ぼんやりしたままサラの笑顔を見つける

と、子供の様なかわいらしい笑みを浮かべた。

「おはよう、サラ」

「おはよ。体の調子はどう? 疲れは残ってない?」

「大丈夫、自分でもビックリするくらい快調だよ。やっぱりやりたいだけやって正解だったな」

「そうね。でも……私はちょっと疲れちゃったなぁ…。帰る前にもう一回温泉に入ろうかしら…」

「それはいい考えだ。じゃ、俺が連れて行ってあげるよ」

カールは突然光る様な笑顔を見せ、有無を言わさずサラをひょいと抱き上げた。

今、二人はもちろん全裸である。

サラが動けないのをいい事に、裸で浴室へ行こうという魂胆らしい。

このままだと、浴室で昨夜の続きが行われてしまうかもしれない…。

サラは慌ててカールの両頬に手を伸ばし、無理矢理自分の方へ顔を向けさせた。

「カール、今すぐ入るなんて言ってないよ?」

「今すぐ入る方が丁度いいじゃないか、裸なんだし」

「丁度良くないよ! 裸で行くなんて恥ずかしいもん」

「恥ずかしがる必要は無い。浴室では誰でも裸になるものなんだから」

「そ、それは……そうなんだけど………」

いつもはサラが言い負かす側なのに、こういう時のカールは妙に強気で、言い負かせた試し

がない。

サラはここは諦めるしかないと自分に言い聞かせ、とりあえず両手で体を隠しながら、カール

に運ばれて浴室へ向かった。

『浴室で裸』というのは当たり前の事なのだが、サラにとっては気を付けねばならない状況。

しかも今日は昨夜の行為が激しかったせいか、体が思う様に動かない。

温泉の中でサラはどんな事にも対処出来る様に身構え、じっとカールの様子を窺っていた。

…が、予想に反してカールは何の動きも見せず、ただのんびりと温泉に浸かってリラックスし

ていた。

拍子抜けしてしまったサラは思わず苦笑したが、「カールが何かする」と期待にも似た気持ち

を抱いていた事に気付くと、恥ずかしくなって顔を真っ赤にした。

「どうしたんだい、サラ?」

「……え? う、ううん、何でもない」

サラはカールの問いかけに必死に笑って誤魔化ごまかすと、少々淋しい気持ちも手伝って彼の腕に

縋り付いた。

「……ねぇ、カール」

「ん?」

「……………昨日いっぱいしたから、今日はしなくても大丈夫なの…?」

「ああ、たぶんそうだと思うよ。昨日は限界近くまでしたからね。お陰で下はまだ活動停止中

だ」

「下?」

そう言われてサラは照れる事なく視線を下に移し、カールの下半身をまじまじと観察した。

ここのお湯は、定期的に色が濃くなったり薄くなったりを繰り返している特殊な温泉。

その為、前回来た時は乳白色だったが、今回は透明に近いお湯で、中をハッキリ見る事が出

来た。

確かに本人の言う通り、カールのたくましいものは見るからに元気が無かった。

今まで行為の最中のったところしか見た事が無かったので、サラは萎えた様子に多大なシ

ョックを受け、大きな瞳をうるうると潤ませた。

「いつもはもっと大きいのに……。カール、大丈夫なの? 病気じゃないよね?」

男にとっては至って普通の事なのに、サラが余りにも心配するので、カールは思わず吹き出し

てしまった。

「あはは、病気な訳ないよ。いつもがこの状態で、君を抱く時だけ大きくなるんだよ」

「……え? そ、そうなの!?」

かなり大まかな説明ではあったが、サラを驚かせるには事足りた。

「君ってどんな事も幅広く詳しいのに、男の体については何も知らないんだね」

「…………」

恥ずかしさが極限まで達し、サラは顔だけでなく全身が真っ赤になった。

医師免許を持っているのだから、男性の体についてもよく知っている。

しかしそれは医学上の話であって、性交に関する知識は無いに等しい。

妙に詳しくても、それはそれで変な話だが、知らないが故に恥ずかしい思いをしてしまった。

知識の豊富さを売りにしている科学者としては、非常にガッカリする出来事であった。

サラが落胆の表情を見せている事に気付いたカールは、何も考えずにとんでもない事を言っ

てしまったと後悔し、慌てて彼女に謝った。

「ごめん、サラ」

「……え?」

「男の体の事なんか知らなくていいよ。変に詳しくなられたら逆に困るし…」

「そぉ…? 勉強しようと思ったんだけど、あなたがそう言うなら止めておくわ」

「ああ、そうしてくれ。ある程度の事なら、俺が手取り足取り教えるから」

他の男ではなく自分の体の事であれば、サラに色々と知ってもらいたい。

きっとこれまで以上に楽しめるはずだ。

そんなよこしまな考えを抱きつつ、カールがにやにやしていると、サラは瞬時に彼の思惑を察し、

男性の体については聞かない方が身の為だと、その話題は忘れる事にした。

今は体の疲れを取る方が先決。

そう気持ちを切り替えたサラは、腰を中心に自分でマッサージを始めたが、その様を見たカー

ルが突然張り切り出し、何の了解も得ずに勝手に手伝い出した。

「やんv もぉ、くすぐったいよ、カール」

「くすぐったい? おかしいなぁ…もっと力を入れる方がいいのかなぁ…。じゃあ、これは?」

「ちょ、ちょっと待って。マッサージは自分で出来るから、手伝ってくれなくてもいいよ」

「遠慮しなくていい。俺もやってもらったんだし、出来る限り手伝うよ」

カールの言い分は一見正論に聞こえる。

しかし顔は真剣なのに、口元は緩みっぱなし。

マッサージにかこつけて、別の事をするつもりなのだろう。

どんな時も考えが邪な方に行ってしまうのは、男ならではと言えなくもないが、もちろん褒めら

れた事ではない。

サラは何とか止めようと説得を試みたが、手伝う気満々になっているカールを止められるはず

もなく、当然の様にいちゃいちゃが目的のマッサージが始まった。

「あん………だめぇ…vv」

「ダメじゃないだろう? 気持ちいいはずだ」

「ち〜が〜う〜! あなたがしているのはマッサージじゃないもん、気持ち良くないよ」

「サラ、嘘はいけないな。体はちゃんと気持ちいいって反応してるぞ?」

「そ、それは………違う気持ち良さで……だから…………」

サラはダメだと分かりつつ説得を続けようとしたが、徐々に近づいてくるカールに口を塞がれて

しまい、マッサージそっちのけで濃厚な口づけが始まった。

このまま行為が始まってしまうのだ…と、サラが諦め切った様子で体から力を抜くと、カール

はすんなりと口づけを終了し、動きが鈍い状態のサラを支えながら立ち上がった。

状況がよく理解出来なかったサラはキョトンとしていたが、そんな彼女にカールは爽やかな笑

みを浮かべてみせた。

「今日はもう君に無理はさせない、安心してくれ」

「……いいの?」

「いいも悪いもないよ。ここには療養に来たんだし、君にも休んでもらいたい。……今更遅いか

もしれないけど、ね」

昨日まで散々我が儘を聞いてもらっていたので、カールが決まりが悪そうな顔で療養の話題

を出すと、サラはにっこりと心からの笑顔を見せた。

「全然遅くないよ、カール。ありがとう、すごく嬉しいv」

サラの笑顔はカールに見事に伝染し、二人は笑顔で入浴を済ませると、きちんとしたマッサー

ジをする為に寝室へ移動した。

サラから簡単に指南を受けたカールは、慎重に彼女の体を揉み解していき、昨夜の疲れを癒

そうと懸命に努力した。

「うん、そこそこ。すっごく気持ちいい…v」

「なるほど、このラインがいいんだね。強さは今のままでいいかい?」

「丁度いいよ、あなたもマッサージ師の素質があるみたいねv」

「君ほどではないよ」

二人は和気藹々と互いの体をマッサージし合い、程良く疲れが取れた頃にようやく遅めの昼

食を摂り始めた。

今回は以前と違って飛行ゾイドのレドラーで来ているので、慌てて帰る必要はない。

カールもサラも二人だけの時間を最後まで満喫しようと、リビングにあるソファーで時間を忘れ

ていちゃつき合った。

体を一つにする方法は行為だけではない、というカールの主張から、二人は唇で体を一つに

繋げ、じっくりと時間をかけて口づけを行った。

「……は……ん
……vv」

カールに上唇をゆっくり舐め回されると、サラは快感の余り体をピクピクと震わせた。

その反応に気を良くしたカールは、舌をサラの下唇に移動させ、より一層ゆっくりといやらしく

舐め回した。

カールの舌の動きに合わせてサラは逐一反応し、思わず零してしまう吐息を彼の口中へと送

り込んだ。

口づけをする時は、決まってサラは固く目を閉じているのだが、間近から注がれる熱い視線に

堪えかねて目を開くと、思い切りカールと目が合った。

恥ずかしくなったサラが唇を離そうとすると、カールは逃がすものかと彼女の体を引き寄せ、

目を合わせたまま深く舌を挿し込んだ。

「ん……ん〜〜vvv」

サラは一瞬抵抗する様な素振りを見せつつも、すぐに快感の波に飲まれていき、カールの情

熱的な口づけに従順に応えた。

カールはこのままサラを抱きたい衝動に駆られたが、今日はダメだと必死に自分に言い聞か

せ、頃合いを見て何とか口づけを終えた。

快感に完全に溺れていたサラは、カールが離れると途端に淋しそうな表情を浮かべ、もじもじ

しながら彼の肩に手を伸ばした。

「カール……あのね、私………」

「…まだ腰痛い?」

「ううん、違うの…。そうじゃなくて……その………帰る前にもう一度…………抱いてほしい

の……」

「え…?」

「………ダメ?」

「いや、ダメじゃないけど……腰は大丈夫なのかい?」

「もう平気、だから……お願いv」

敢えて言うまでもなく、カールはサラのお強請ねだりに弱い。

大きな瞳を潤ませ、いつになく色っぽい声で甘えてくるサラに、カールはすぐさま欲情し、彼女

をその場に押し倒して愛撫を始めた。

互いに望んでいた通りに事が進み、二人は幸せを噛み締めながら体を重ね、その幸せの余

韻に浸ったまま、思い出の地を後にした。

今回はサラのレドラーで来ていたので、まず目指したのは第一装甲師団の基地。

副官のヒュースに見つかりたくないカールは、女性通信兵に裏工作を頼み、なるべくこっそり

と格納庫に降り立つと、周囲に兵士がいないのを確認してから愛しい女性に微笑みかけた。

「ありがとう、サラ。体も充分療養出来たし、本当に楽しい旅行だったよ」

「どういたしまして。私もすごく楽しかったわ、また今度一緒に行こうねv」

「ああ、喜んで」

二人は笑顔で軽く口づけを交わすと、名残惜しむ事なく離れた。

例え体が離れても、確かめ合った温もりは心にまで届いている。

だから一時いっときの別れを悲しむ必要はないのだ。

「じゃ、またね」

「気を付けて」

「うん、ありがと」

いつもの様に短い言葉だけで別れの挨拶を交わし、カールがある程度の距離まで離れると、

サラはレドラーを再起動させ、コックピットから笑顔で手を振ってみせた。

カールもつられて笑顔で手を振り返し、それを見届けたサラは第一装甲師団の基地から飛び

去って行った。

サラのレドラーを見送ったカールは晴々はればれとした笑顔で自室へ戻り、翌日から再び怒涛の様な

忙しさの毎日を送り始めた。

が、以前に比べると疲れの度合いは雲泥うんでいの差。

サラのお陰で心労が綺麗サッパリ無くなったからだろう。

カールはサラに改めて感謝しつつ、彼女の助言通り適度に体を休ませながら仕事に励んだの

だった。










●あとがき●

見事にただのラブラブ話でしたね〜
これから起こる戦いに向けてのワンクッションという位置付けなんですが…
ラブラブは要所要所に入れ込む予定なので、何の為のワンクッションなのか、自分でもよく分
かってません(笑)
一度やってみたかった『お預け』に初挑戦し、受け受けしいサラに燃えました!(変態;)
それに対する形だった攻め攻めカールは完全なる攻めにはなれず、やはり優しいカールで落
ち着きました。
サラをず〜っと苛め続けるのは楽しくないですからね〜。
愛し合っているから、お互いが気持ち良くなれる様にと考えてしまうんですねv
そしてそして、お預けのついで(?)に『お強請り』にも挑戦☆
この二つの言葉を同時に使う日が来るとは、夢にも思っていませんでした!
今回お強請りは軽い感じで仕上げたので、今度はもっと濃い内容で使いたいですv
最後に恒例のイラストについての言い訳(補足と書きたいが…)
かなり逃げの表現で、今まで通りギリギリです。
ベッドシーンをイラスト化するのは、本当に勇気が要ります(笑)
どうにか誤魔化せるシーンをイラストにしましたが、前後のシーンはヤバイので、二人の表情
をどうしようか、すごく悩みました。
結局途中とは思えない様な表情で落ち着きましたが、いつかきちんと年齢制限したページ
で、ちゃんとした大人向けイラストを描いてみたいですv
絡み絵は難しいんですけどね…。
ちなみに、白い点々は風呂上りって事で、水を表現してます(言わないと分からない;)

●次回予告●
ガーディアンフォースの面々と戦った後、姿を暗ましたレイヴンを捕獲すべく、カール達第一装
甲師団は動き出します。
余り時間はかからずに無事レイヴンを発見しましたが、彼の傍には巨大なマユの姿が…。
バンからの情報によると、そのマユはジェノザウラーが進化する為に変化した姿、との事。
すぐさまカールはマユの破壊に乗り出します。
第七十六話「進化」  レイヴン、ジェノザウラーは必ず仕留めてみせる…!