第七十四話
「湯治〜前編〜」
弟であるトーマの入院、昔友達だったラルフの裏切りと、短期間に様々な不幸に見舞われて しまったカールだったが、どれも個人的な出来事である為に、軍内では心休まる時が持てな い状態が続いていた。 そうでなくても、国の情勢が徐々に悪化しているのだ。 大部隊の指揮官であるカールが、のん気に休む訳にはいかない。 しかし事情を知らない兵士達ですら、カールが無理をしていると気付きつつあり、第一装甲師 団は不安を抱えたまま任務に携わっていた。 そんなある日の朝、心と体の疲労が積もりに積もった結果、カールが執務室で倒れてしまっ た。 そうなるだろうと誰もが予測していたせいか、第一装甲師団の面々は動揺する事なく待機し、 副官のヒュースと衛生兵数人がカールを医務室へと運んだ。 ピクリとも動かないカールをベッドに寝かせ、ふぅと一息ついたヒュースは周囲の衛生兵達を 見回し、小声でコソコソと話し始めた。 「分かっているとは思うが、この事はサラさんには内緒にしてくれよ?」 「心得ております、中佐」 衛生兵達の返事にヒュースは満足気に頷くと、軍医にカールを全面的に任せ、彼の代わりを 務める為に自分の執務室へと戻って行った。 全てはヒュースの思惑通りに進んでいくと思われたが、彼でも流石に女性兵士達の隠密行動 には一切気付かず、カールが倒れたという情報はすんなりとサラの元に届いた。 その一報を受け取ったサラは急遽研究を中断し、レドラーで第一装甲師団の基地へと急い だ。 「………………・。…………です」 夢の中にいる様な感覚の中で、カールは聞き覚えのある声を聞いた。 (…声が………聞こえる………) 「はい、…………それで…………………」 (誰だろう……? …………サラ…?) ぼんやりとした視界の中に美しい青髪が映り、カールはようやく目を覚ますと、傍で話してい るのがサラと軍医である事が分かった。 サラは軍医と話し終えると、カールが目覚めた事に気付き、ほっとした様子で安堵の表情を浮 かべた。 「カール、良かった…。気分はどう?」 「気分? いつもと大して変わらないけど…」 まだハッキリと目が覚めていないのか、カールが首を傾げながら答えている間に、二人に気を 遣ったらしく、軍医が静かに医務室から出て行った。 その時になって、カールは今自分がいる場所が医務室であると分かり、サラを見つめてキョト ンとなった。 「どうして君がここに…?」 「どうしたも何も、あなたが倒れたって聞いたから飛んで来たんだよ!」 「倒れた…? ………あぁ、そう言えば……」 「そう言えば、じゃないわよ、もぉ〜。忙しいのは分かるけど、定期的にちゃんと休まなきゃダメ でしょ?」 「うん……。でも今はそうも言っていられない状況だから…」 確かに状況も悪いが、カールの場合は心労も凄まじいものがある。 今のカールには休息が必要、と確信を持ったサラは医務室内の通信機を操作し、ある人物と 連絡を取った。 ある人物とは…… 『お久しぶりです、先生』 「久しぶり、ルドルフ君。忙しい時にごめんね」 『いえいえ、先生の為なら喜んで時間を作らせて頂きますよ』 サラが通信した相手は、ガイロス帝国皇帝ルドルフであった。 カールは驚きの余り目が点になってしまったが、彼の反応はこの際無視して、サラはルドルフ と話し出した。 「実はあなたに折り入ってお願いがあるの」 『先生がお願いなんて珍しいですね。分かりました、僕に出来る範囲の事であればお手伝い します。もちろん無理難題はダメですよ?』 「あはは、大丈夫よv あなたの力なら、簡単に出来ちゃう事だから」 サラは意味深にカールの方をチラリと横目で見てから、本題をルドルフに話した。 「あなたもよく知っていると思うけど、今帝国軍は凄まじい忙しさに見舞われているわ。皆忙し い合間を縫って休暇を取っているそうなの。でも休暇を取らずに働き続けなくちゃいけない人 が私の知り合いにいてね、その人にどうしても休んでほしいのよ」 『……事情は分かりました。それで僕はその人の為に何をすればいいのですか?』 「休暇を取るように、その人に言ってほしいの。皇帝であるあなたの言葉なら、ちゃんと聞き入 れてくれると思うから…」 サラが誰の事を話しているのか、ルドルフは敢えて名を聞かなくても理解していた。 その人……カールの仕事熱心さは、軍内で知らぬ者はいない。 当然ルドルフの耳にも入っている。 それにサラがそこまでして大事にする人物と言えば、カール以外に考えられないのだ。 全てを踏まえた上で、ルドルフは笑顔で深く頷いてみせた。 『実は僕も、その人には前々から休んでもらいたいと思っていたんですよ。それでは、その人 に明日から三日間休暇を取って頂きましょう。面倒な手続きは必要ありません。僕が直々に 命令した、という事にしておけば誰も文句は言いません。本人には先生からお伝え下さい』 「ありがとう。我が儘言っちゃってごめんなさい」 『いえ。先生のお役に立てて僕も嬉しいですから、お気になさらずに。それでは、またお会い 出来る日を楽しみにしてます』 「ええ、私も楽しみにしてるね」 ルドルフとの和やかな通信を終えると、サラは非常に優雅な仕草でベッドへ歩み寄り、目が 点になったままのカールの顔を覗き込んだ。 「ですって。明日からあなたはお休みよv」 「…サラ、君って人は………」 「あなたは働きすぎなの。任務が大切なのは分かるけど、自分の事ももっと大切にしなくちゃ ダメだよ。今日みたいにあなたが倒れちゃったら皆が心配するし、私だって……私だって心配 で……」 これまでは強気の態度だったが、とうとう我慢が限界に達したらしく、サラが思わず言葉を詰 まらせてしまうと、カールは彼女を両手でそっと抱き寄せた。 確かにカールを心配する者は大勢いる。 しかし誰よりも心配しているのは、彼を心から愛しているサラなのだ。 「…サラ、心配かけてすまなかった。これからはもっと自分を大切にする、だから……もうそん な顔しないでくれ」 「カール……」 カールの優しい言葉を聞いただけで、サラにすぐ笑顔が戻った。 サラの元気の源は『カールの笑顔』 カールが笑顔を見せてくれると、サラの心は幸せでいっぱいになる。 そしてそれはカールにも言える事で、サラの笑顔を見ると、身も心も隅々まで幸せを感じる事 が出来た。 「カール、まだ横になっていた方がいいわ」 「君はこれからどうするんだい?」 「もちろんあなたを看病するよ。だから安心して休んでね」 「ありがとう、サラ」 「どういたしましてv」 サラはカールをベッドへ寝かせると、傍にある椅子に座って笑顔で看病を始めた。 しかしカールは普通の看病をしてほしくなかったので、思い切ってサラに甘えてみる事にし た。 「サラ、もっと恋人らしい看病をしてほしいんだが…」 「恋人らしい看病? どうすればいいの?」 「靴を脱いで、こっちに来てくれ」 カールに言われるままにサラは靴を脱ぎ、カールに導かれるままに彼の上に馬乗りになっ た。 「これでどういう風に看病すればいいの?」 「…………………………今日は白か…」 「白? ………あ!?」 サラはカールが何を見て「白」と言ったのか瞬時に理解し、慌ててスカートを両手で押さえた。 そう、カールが言ったのはサラが穿いている下着の色であった。 恥ずかしさで顔が真っ赤になってしまったサラは、頬を大きく膨らませながら怒り出した。 「そんな事する為に、私をここに座らせたのね!?」 「違うよ、たまたま見えただけだ」 「たまたまなら、わざわざ言う必要はないはずよ。看病なんて言っておいて、本当はいやらし い事するつもりでしょ!?」 「ああ、その通り」 「やっぱりね、あなたはいつもそうやって…………え? 本当……なの…?」 てっきり「冗談だ」という返事が返ってくると思っていたのに、予想と正反対の返事が返ってき た為、サラは驚きの余り固まってしまった。 そんなサラをカールは優しく引き寄せると、濃厚な口づけを交わしつつ、宣言通りいやらしい事 を始めた。 「んっ………ちょ、ちょっと待って、カール」 久々だったせいか、サラは一瞬受け入れそうになったが、カールの手がスカートの中に侵入 するとハッと我に帰り、急いでその手を止めた。 今いる場所は、いつ誰がやって来るか分からない場所。 そんな所でさすがにいちゃいちゃする訳にはいかない。 それはカールも充分承知しているはずなのだが、今日の彼は甘える気満々で、サラの腰から 手を離しそうになかった。 「今日は我慢して、ね?」 「嫌だ、我慢出来ない」 「………カール、我が儘言ってくれるのは嬉しいけど、今は安静にしていないとダメだよ」 「分かってるよ、サラ。さっきのは冗談だ。……でも君の顔を見ながら寝たいから、出来れば 手が届く所にいてほしい」 「手が届く所、かぁ…。じゃあ、今日は特別に添い寝してあげるv」 そう言ってサラはベッドにコロンと寝転び、カールの頭を両手で優しく包み込むと、小声で子守 歌を歌い始めた。 カールは幸せそうにサラの豊満な胸に顔を埋め、安心しきった様子ですんなり眠りに就いた。 サラもカールにつられて眠りそうになったが、何とか堪えて愛する男性の額に口づけすると、 そっとベッドから抜け出して明日の準備を始めた。 カールが一時でも仕事を忘れられる様に、二人でゆっくりのんびり出来る所へ彼を連れて行き たい。 サラはあれこれ調べてみた結果、二人にとって大切な思い出の場所である温泉町を思い出 し、早速とばかりにロッジに予約を入れた。 ロッジ運営者に多少無理を聞いてもらったお陰で、明日の準備は万全の形で終わり、サラは 定位置…カールの隣りに寝転んで添い寝を再開した。 太陽が西の彼方に沈み、空に美しい星々が輝き始めた頃、カールは空腹を感じて目を覚ます と、手探りで愛する女性を捜した。 しかし添い寝してくれているはずのサラの温もりが感じられなかったので、カールは慌てて飛 び起き、キョロキョロと医務室内を見回した。 すると、カールが目覚める事が分かっていた様なタイミングで、サラが夕食を持って医務室に 戻って来た。 「あら、丁度良かったわ。夕食持って来たの、食べられる?」 「ああ、大丈夫。半日何も食べてないから、腹ペコなんだ」 「それは良かったわ。じゃ、食べさせてあげるねv」 サラはいそいそとベッドに腰掛けると、食べさせる為に準備を始めたが、カールはまだ照れが 残っている様で、居心地悪そうにもじもじしていた。 しかしサラは敢えて何も言わず、スプーンで掬ったお粥にふぅ〜っと息を吹きかけて冷ます と、カールの口の前まで運んだ。 「はい、あ〜んしてv」 「う…うん」 カールは照れながらも嬉しさで顔を緩ませつつ、サラが運んでくれるお粥を頬張った。 その時になって、ようやく夕食のメニューが見た事のないものだと気付いたカールは、もしやと 思いながらサラに尋ねた。 「サラ、ひょっとしてこの夕食は君が?」 「うん、キッチンを借りて作らせてもらったの。皆と同じものだと、食べるの辛いかなって思っ て、ね」 「そうか…。君が作ってくれた食事なら、食べるだけで元気になれそうだよ」 「ふふふ、本当?」 「ああ、愛情がたっぷり入ってるからね」 「そうね、愛情だけは誰にも負けないくらい入ってるよv」 「だからより一層美味しくなる。ありがとう、サラ」 サラはカールの褒め言葉には無条件で喜びを感じる事が出来る。 今日もカールの褒め言葉に喜びを感じたサラは、幸せいっぱいの笑みを浮かべ、夕食を彼の 口に運び続けた。 やがて全てを平らげたカールはサラを連れて自室へ戻り、大事を取って再びベッドへ横になっ た。 サラも続いて定位置に身を沈めると、カールの髪を撫でながら明日からの事を話し始めた。 「明日から二人で旅行に行きましょ。泊まる所はもう手配してあるから」 「どこへ行くんだい?」 「それは行ってからのお楽しみv 身も心も癒される場所だから、療養するには丁度いいと思う よ」 「へぇ、楽しみだね」 「うん、楽しみ♪」 二人きりの旅行は、カールの実家に帰郷した時以来である。 今回の旅行はサラが勝手に決めた事ではあったが、カールが望んでいた事でもあったので、 二人は笑顔で互いの額に口づけし合い、明日に備えて早めに眠りに就いた。 休暇一日目の朝、カールは邪魔が入らない様にとサラを先に彼女のレドラーに乗せ、それか ら休暇の事を伝える為にヒュースの元へ向かった。 ヒュースは昨日の仕事が捌き切れていないらしく、朝早くから執務室で仕事に励んでいたが、 カールの姿を見るなり気持ち悪い程の笑顔を浮かべた。 カールに大変なところを見られたくないのだろう。 カールが何事も無かった様に休暇の話を切り出すと、その話は既に伝わっていた様で、ヒュ ースは任せろと言わんばかりの笑顔を見せた。 カールはサラが基地に来ている事を知られていなかったのだと内心ほっとしつつ、ヒュースに 全て任せると伝え、長居は無用なので足早に副官用執務室を後にした。 サラと二人だけの旅行の事を考えると、ついつい緩んでしまう口元を必死に抑えながら、カー ルが格納庫にやって来ると、たくさんの女性兵士達が彼を出迎えた。 先程サラを連れて来た時は整備兵が数人いただけだったが、何故こんなにも集まっているの だろうか…? 今になってカールは、ヒュースがサラが来ている事に気付かなかった理由が分かった。 女性兵士達のお陰だ。 彼女達の暗躍のお陰で、誰にも邪魔される事なく出発出来るのだ。 カールはサラが待つレドラーに乗り込むと、敬礼している女性兵士達に感謝の気持ちを伝える 為、深々と頭を下げてみせた。 すると、それだけで女性兵士達はいたく感激し、瞳をうるうるさせながら手を振って二人を見送 った。 サラが着替えなどを取りに戻るとの事で、二人はまず国立研究所に寄り、それからようやく本 来の目的地目指して出発した。 「やっぱりレドラーだと早いねぇ…。あ、もう少しで目的地が見えてくる頃だよ」 数時間レドラーを飛ばし、サラは頃合いを見計らってカールに目的地付近である事を伝え、二 人は一緒になって眼下を見回した。 「……あ、ここって…」 「ふふふ、やっぱり覚えててくれたんだv」 「もちろんさ。俺達の……大切な思い出の場所だからね」 二人がやって来たのは、数年前二人で初めて旅行した時に訪れた温泉町。 忘れるはずがない思い出の場所である。 カールは昨夜サラが言っていた「身も心も癒される場所」の意味を瞬時に理解し、嬉しそうに サラに微笑みかけた。 温泉で身を癒し、愛する人で心を癒す……最高の療養法だろう。 サラの案内で今日から泊まるロッジ前にレドラーを降り立たせ、カールは改めてロッジを見上 げると、再び見覚えのある場所だと気付いた。 サラが気を利かせてくれた様で、そのロッジはあのロッジ……二人で初めて旅行した時に泊 まったロッジだったのだ。 「……サラ」 「なぁに?」 「…ありがとう」 「どういたしまして。じゃ、早く荷物置いて買出しに行きましょ」 サラは照れ臭さを誤魔化そうと軽い調子で返事を返し、カールを急かして商店街へ足を運ん だ。 三日分の食材を買い揃えるのは大変かと思われたが、サラはもう既に三日分のレシピを決め ていたらしく、思ったより短時間で買い物を終え、早々にロッジへ引き返した。 サラがいつになくせかせかしているのは、カールを早く休ませたいと思っての事の様だ。 ロッジへ戻ると、当然の様にサラはカールをソファーで休ませ、それから買って来たものを冷 蔵庫に入れると、間髪入れずに昼食の準備を始めた。 「サラ、俺も何か手伝おうか?」 「ダメ。折角療養に来てるんだから、あなたはゆっくり休んでて」 「しかし……」 「ここにいる間は、あなたは何もしなくていいわ。私に全部任せて、ね?」 「う、うん…」 始めからダメだろうと思いながら手伝いを申し出てみたのだが、やはりサラには口で勝てなか った。 カールはガッカリした様子でソファーに座り直したが、何もしないでいるのは性に合わないの で、サラの傍で昼食作りを見学する事にした。 これならサラに止められる事はない。 自信満々でカールがにこにこしていると、サラははにかんだ様な笑みを浮かべ、熱い視線を 感じながら調理を続けた。 しばらくしてキッチン内に食欲をそそるいい匂いが漂い始めると、別の欲まで刺激されてしま ったのか、カールが調理を終えつつあるサラを後ろから抱きしめた。 「こら、料理が冷めちゃうよ。離して、カール」 「少しだけだから」 「もぉ…………んっ…v」 抱きしめるだけかと思いきや、カールはサラの口を自らの口でそっと塞ぎ、満足出来るまで優 しく舌を絡めてからようやく手を離した。 |
「………。………もぉ、ちょっと冷めちゃったじゃない…。温め直さなきゃ…」 「ごめん」 「笑顔で謝らないで。本当にあなたって分かり易いんだから…」 口づけはカールにとってもサラにとっても嬉しい事。 サラも口では怒っていても顔は笑っており、二人は和気藹々と昼食の準備を済ませると、ダイ ニングルームにて和やかな食事の時間が始まった。 昨日の夕食もそうだったが、今日の昼食も体の事を考えた健康的な献立で、カールはサラの 心遣いに感動しながら軽く三人前を平らげた。 どんな時も食欲は衰えないらしい。 そして食後の楽しみは、サラの食事をしている時のかわいらしい仕草を観察する事。 今日もいつも通りかわいらしい仕草に目を見張り、サラが食事を終えると、カールは彼女の後 についてキッチンへ向かった。 どうやら後片付けまで見学するつもりの様だ。 サラは呆れた様に苦笑したが、もちろん止めはせず、後片付けをしながらカールに午後の予 定を尋ねた。 「ねぇ、これからどうする?」 「どうって?」 「外へ出かけるのもいいし、ここでお話するのもいいし、あなたがしたい事をしてくれていいよ。 私はどこでもあなたについて行くから」 「う〜ん………あ、じゃあ、寝室へ行こう」 「………………寝室はダメ、夜まで我慢して」 「……う〜ん…………それだと、特に行きたい所はないかなぁ…」 昼間から寝る事以外思い付かないところを見ると、体は幾分良くなったが、思考回路は正常 に戻っていないらしい。 どんなに待っても、カールが良い返事を返してこないので、サラはそれならと彼を温泉に誘っ た。 「前に来た時は一回しか入れなかったから、今回はいっぱい入ってたっぷり骨休めしましょv」 「そうだね」 サラの提案にカールは阿吽の呼吸で賛成し、二人はロッジ内の露天風呂へ向かった。 脱衣所で服を脱ぎ捨て、一糸纏わぬ姿になった二人は露天風呂を見回し、感慨深そうに微 笑み合った。 この露天風呂は、二人で初めて一緒に入浴したお風呂。 今では二人で入浴する事は普通になってしまったが、初めての場所で改めて入浴するとなる と、カールもサラも無性に恥ずかしさを感じ、頬を赤らめながら視線を彷徨わせた。 「………何だか…緊張してきちゃった……」 「…あの時も緊張してた?」 「うん、すっごく緊張してたよ。あなたは?」 「俺ももちろんそうさ。君の体……見たいけど、見てはいけないような気がしたから、ね」 「でも結局は見たクセに〜」 「あはは、やっぱりバレてたかぁ」 思い出話をして緊張を解きほぐした二人は、いつも通り互いの髪や体を洗い合い、頭上に輝く 太陽を仰ぎつつ温泉に浸かった。 夜空の星々を見ながらもいいが、太陽の温かな光の中で温泉に入るのもなかなか良いもの だ。 カールは温泉の中で両手を思い切り伸ばし、見るからに気持ち良さそうに深く息を吐いた。 「あ〜、やっぱり温泉って気持ちいいなぁ…」 「そうだねぇ…」 生来ののんびり屋であるカールとサラは、のほほんとした様子で日頃の疲れを癒し、時間を 忘れて温泉を堪能した。 余程疲れが溜まっていたのか、カールは温泉の中で半分寝そうになったが、サラが注意して くれたお陰で、逆上せる事なく入浴を終えた。 しかしまだ夢心地状態のままであったカールは、サラがドライヤーで彼の髪を乾かしてくれて いる間も、長い青髪を乾かしている間も終始ぼんやりしていた。 それならより疲れを取ってもらおうと、サラはカールを連れて寝室へ行き、ベッドへうつ伏せに なってほしいとお願いした。 「うつ伏せ? 何をするんだい?」 「すぐに分かるから、早くはやくぅ〜」 訳が分からぬまま、カールがベッドにうつ伏せになると、サラは素早く彼の上へ移動し、両手 を広い背中に乗せた。 そして触診で位置を確認しながら、カールの背中を手で力強く押さえ始めた。 どうやらサラはマッサージをしたい様だ。 カールは始めは驚いていたが、サラのマッサージが殊の外気持ち良く、リラックスしきった様 子で目を閉じた。 「俄仕込みだけどどう? 気持ちいい?」 「……ああ、すごくいい。専属のマッサージ師になってほしいくらいだよ」 「ふふふ、本当?」 「君ならマッサージの後にもっと気持ちいい事も出来るし、ぜひなってほしいな」 「……………もぉ、すぐいやらしい方の話を持っていくんだから…」 サラは嬉しい様な呆れた様な笑みを浮かべ、カールの背中を押す力を少々強めて意地悪して みたが、カールは全く動じず、逆により一層気持ち良かった様で、深く息を吐いた。 余程体が凝っているのだろう。 毎日の訓練で体を動かしてはいるが、最近はデスクワークが増えた為に凝りが溜まってしま ったらしい。 サラは背中だけでなく肩や腰、頭や足まで丁寧に揉み解し、カールの全身の凝りを癒そうと 懸命に努力した。 やがて一通りマッサージを終えたサラは、静かになっているカールの顔を覗き込むと、クスリ と小さく微笑んだ。 マッサージが気持ち良かったお陰なのか、カールはすっかり眠りこけていたのだ。 サラは苦しくならない様にとカールを仰向けにし、彼の体に毛布をかけると、自分も隣に寝転 んだ。 カールの幸せそうな寝顔を見ていると、サラも心から幸せを実感出来、彼の髪を優しく撫でな がら一緒に眠りに落ちていった。 数時間後、日が暮れて空が闇に包まれ始めた頃、カールは薄暗くなった寝室で目を覚ます と、手探りで愛しい女性を捜した。 この行動は最早癖と化している様だ。 しかし昨日と同じ様に今日も近くにサラの温もりが感じられず、カールはムクリと起き上がって 周囲を見回した。 (……あ、そうか。きっと晩ご飯を作ってくれてるんだな) そう思ってカールがベッドから立ち上がった丁度その時、夕食の準備を終えたサラが寝室に 顔を出した。 「偉い偉い、自分で起きられたんだね。晩ご飯出来たから来て」 カールはサラに手を引かれてダイニングルームに向かい、上機嫌で彼女の手料理を食べ始め た。 サラと一緒に過ごせるだけで充分癒されるが、彼女の手料理により内からも癒される様な気 がして、カールはいつもと変わらぬ量をペロリと平らげ、食後のコーヒーも笑顔で飲んでいた。 カールが笑顔を見せてくれるとサラにも笑顔が伝染し、二人は和やかに食後の一時を満喫す ると、もう一度体を温めようと温泉に入る事にした。 「やっぱり星を見ながらっていいよね〜v」 「ああ、そうだね。でも俺は星を見るより君を見ていたいな」 「カールったら……もぉ…。…………仕方ないなぁ…見るだけならいいよ」 サラから許可が下りると、カールは早速とばかりに行動を開始し、サラの体を温泉から持ち上 げた。 サラは温泉に浸かった状態なら見てもいいという意味で言ったのだが、カールは自分の都合 のいい様に解釈したらしく、彼女の体を温泉から露にさせた上でじっくりと観察した。 「や、やだ! そういう意味で見ていいって言った訳じゃないよぅ!」 「俺はそういう意味で言ったんだよ。今更遅いぞ、サラ」 カールはにやりと不適な笑みを浮かべると、温泉を囲んでいる岩の一つにサラを座らせ、彼女 の体を指でそっと撫で始めた。 体に滴る温泉を掬い取る様に、カールがわざとゆっくり愛撫を続けると、それに反比例する形 でサラは徐々に敏感になっていった。 頃合いを見計らっていたカールは、少しずつ愛撫を激しいものへと変えていったが、どういう訳 かサラの一番敏感な部分には指一本触れようとしなかった。 「はぁ………あん……………カール……」 「ん? どうしたんだい、サラ?」 「あ、あの………私……」 「何だい?」 「…………お願い……」 サラは普段微塵も見せた事のない媚びる様な表情で、愛撫を続けるカールに縋り付いた。 サラが何を望んでいるのか、カールは百も承知だったが、気付かぬフリをして問いかけを続け た。 「俺にどうしてほしいんだい? ちゃんと言ってくれないと分からないよ」 「んっ……v わ、分かってるクセに……」 「ああ、分かってるよ。俺が分かるのは何をすればいいかって事だけだ。場所は君が教えてく れないと困る」 「そ、そんな………あぁんvv」 「サラ、どこに触れてほしいんだい? 素直に言ってごらん」 「や、やだ……」 恥ずかしくて首を必死に横に振るサラがかわいくて仕方がないカールは、そのかわいい顔を 見る為に尚も問いかけ続けた。 「俺に触れてほしい所があるはずだ。君が教えてくれない限り、俺はそこには一切触れない。 それでもいいのかい?」 「………やだもん…言わないもん……」 「そうか、じゃあ……」 カールはサラの体への愛撫をより一層激しくし、サラが我慢出来なくなるのを根気良く待っ た。 カールの目的は、サラの口から入口に触れてほしいと言わせる事。 カールにしては珍しく、今回は焦らす作戦でサラをその気にさせようという魂胆の様だ。 ハッキリ言ってカールも我慢しなければならない状況であったが、どちらかが観念する事によ り行為は必然的に始まるので、どう転んでもカールには得となる作戦であった。 「あ……やっ………カールぅ……vv」 「…サラ、そろそろ教えてくれないか? 俺にも我慢に限界がある……」 「………い、言えない……あぁっ…vv」 「君は本当に頑固者だね。……仕方ない、君が触れてほしいと思っている所を俺が当ててあ げよう」 カールは彼を求めてひくつくサラの入口に指を添え、そこに広がる青色の茂みを無造作に掻き 分けた。 途端にサラは喜びを含んだ喘ぎ声をあげ、彼女の入口からカールを誘う様に愛液が溢れ始め た。 「……ここだね、サラ?」 「ん……あっ……そこ…v」 「ここがいいんだね?」 「いい………いいの…vvv」 カールに一番触れてほしかった部分に触れてもらえたお陰なのか、サラは先程とは打って変 わって気持ちを素直に言葉にし、彼を急かす様に甘えた表情を見せた。 「カール……」 「……もっと?」 「…あなたも一緒に……」 「……ああ、一緒に気持ち良くなろう」 どんな時もサラは『一人より二人』という考えを貫く。 例えカールが傍にいたとしても、一人で気持ち良くなるのは同時に淋しさを感じてしまうから だ。 幸せな事は全部二人で…。 カールはサラの望みを叶える為、そして自分も気持ち良くなる為に彼女と体を一つにした。 肌が外気に晒されてから幾分時が経っていたが、行為に夢中になっている二人は寒さを全く 感じず、逆に全身が熱いと思う程互いを求め合った。 「んぁ……v カール………vv」 サラは終始色っぽい声をあげていたが、カールは話す余裕が無い程行為に集中しており、欲 望をサラの膣に解き放つと、ようやく口を開く事が出来た。 「…サラ、場所を変えよう」 「…………え…?」 「ここだと体が痛いだろ?」 「う、うん…」 「今夜はじっくりしたいから、続きは体に負担がかからないベッドでしよう」 「じ、じっくり……?」 サラは少々戸惑いの表情を見せたが、こういう時のカールは止められないと分かっているの で、彼に引っ張られる形で入浴を終えた。 バスタオルで濡れた体を拭き、長い青髪をドライヤーで乾かしながら、サラはカールの様子を 静かに見守っていた。 裸で行こうと言い出すかもしれないので、身構えていたのだ。 しかしカールは至って普通に部屋着に袖を通し、サラが支度を終えるのを今か今かと待ち始 めた。 先程ほんのり意地悪した為か、今度はサラが望む様に行動するつもりらしい。 サラは心の中でほっと胸を撫で下ろすと、カールと仲良く手を繋いで寝室へ行き、子供の様に ベッドへ飛び込んで行った。 「さっきすっごく意地悪だったね」 「そうか?」 「うん、意地悪だった。私を困らせて楽しんでたでしょ?」 「君の困った顔って妙にそそられるからね、仕方ない事だよ」 「もぉ、そうやってすぐ自分の意見を正当化させようとするんだから…」 サラが嬉しい様な呆れた様な微妙な笑みを見せると、カールは見事にそそられてしまい、素 早く彼女の上に四つん這いになった。 青髪をゆっくりと撫で、桜色の唇で指を止めると、サラの口を少しだけ開かせ、自らの口で塞 いだ。 優しく舌を絡めながら、カールはサラの体から衣服を剥ぎ取り、白い肌が露になると情熱的な 口づけを終えた。 いつもなら、この時点でサラはカールに全てを任せ、愛撫が始まるのを従順に待っているのだ が、今日は妙に緊張した様子で、体がカチカチに固まっていた。 そんなサラの様子に気付いたカールは、不思議そうに彼女の顔を覗き込んだ。 「サラ、どうしたんだい?」 「……ここ、初めての場所だから………何だか…変な気分なの……」 「そうか…、あの時の事を思い出して緊張してるんだね。じゃあ、俺もあの時みたいに頑張っ て君の緊張を解きほぐしてみせるよ」 初体験時の自分の軌跡を辿る様に、カールは愛撫を開始し、宣言通りサラの緊張を解きほぐ していった。 カールのお陰で無事緊張が解れたサラは、お礼をしようと彼の体に所有印を付け、彼を迎え る為に体を開いた。 浴室で一度行為を行ってはいたが、多少時間が経過していたので、サラの入口は少々狭い 状態にあった。 しかしカールが自分を少し挿し込んだ瞬間、サラの入口は愛する男性を迎える喜びで脈動し 始め、奥へ奥へと導いていった。 「はぅん……v カールぅ………vv」 サラは心地よい快感の中でうわ言の様に愛する男性の名を呼び、それに答えるかの様にカー ルは腰を動かし続けた。 下半身は現状を維持したまま、カールは豊満な乳房への愛撫も併せて行い、逐一かわいい 反応を見せるサラの口を塞いだ。 「んふ………んっ…………v」 思う様に喘ぎ声をあげられず、サラが苦しそうな仕草を見せ始めると、カールは意地悪をせず すぐに口を解放し、代わりに腰の動きを早めた。 「ひゃぁんvv ……はぁっ…あぁっ………v」 「……サラ………」 「カール……v」 絶頂に達する寸前にカールが名を囁くと、サラもつられて名を呟き、二人は力強く抱きついて 同時に絶頂を迎えた。 そのままサラは荒く息をしながら絶頂の余韻に浸っていたが、カールは次なる行為に向けて 早々と行動を開始し、サラの体をひょいと持ち上げて体勢を変えた。 途端にサラはピクンと反応し、余韻に充分浸る事なく、新たな快感に身を任せ出した。 今や二人はただの男と女。 種を存続させるという、生物が生まれながらに持っている本能の赴くままに行動し、東の空が 明るみ始めるまで何度も何度も体を重ね続けた。 ●あとがき● 『気苦労が多いカールを癒そう☆』というコンセプトで出来たお話です。 癒し役はもちろんサラ。ラブラブ一直線! 前後編に分ける程の話ではないと思われるかもしれませんが、これでもか!とラブシーンを増 やした結果、見事に長い話になってしまいました(笑) 前編も後編もラブラブしかしてません。そう言い切る自信があります(無駄な自信;) カールが普通の青年である事を表現する為に、サラのスカートの中を覗くという暴挙に出てみ ました☆ 白にしたのは、覗いた時に分かり易いから(安直v) 引いちゃった方、すみません。でもカールもごく普通の青年ですから仕方ないですよね〜 かなり微妙な所なんですが、今回は年齢制限しませんでした。 後編も微妙ですが制限しません。これくらい大丈夫…ですよね? 意地悪カールと、その意地悪に困るサラに素晴らしく萌えを感じてしまいます。 サラを苛めてほくそ笑むカール……堪らん!(重症) 苛めると言っても、気持ち良い事して苛める…ここがミ・ソv 初体験をした場所で初心に帰り、ただの男と女になって過ごした夜…。 後編もこの調子で突っ走ります! 最後に恒例のイラストについての補足(言い訳)ですが… サラは普段着にエプロンを着けているだけです。ええ、そうですとも。 メイドだなんて、これっぽっちも考えてません!(笑) ご主人様・カールとメイド・サラ……短編で萌えそうな題材ですねv ●次回予告● 思い出の地である温泉町にて、和やかに過ごすカールとサラ。 二人でいるだけで、カールもサラも疲れが消え失せます。 今だけは仕事を忘れ、愛する人の温もりを感じよう…。 第七十五話「湯治〜後編〜」 足りなかった? <ご注意> 次の第七十五話「湯治〜後編〜」は性描写を含みます。 お嫌いな方・苦手な方はお読みにならないで下さい。 |