第七十一話

「見合い〜前編〜」



厄介事とは、忙しい時に限って舞い込むものである。

戦後処理や辺境地域で起きている事件解決など、カールは寝る間も惜しんで毎日働いてい

たが、そんなある日彼の好敵手であり親友でもあるハーマンから妙な通信が入った。

帝国軍・共和国軍共催で集団見合いを行いたいという、とてつもなくどうでもいい話であった。

カールが思わず通信を切ろうとすると、ハーマンは慌てて止めるかと思いきや、わざとらしいと

感じさせる程の長いため息をついた。

カールはようやく何らかの事情があるのだろうと察し、やれやれと椅子に座り直すと、ハーマ

ンから詳細を聞き出した。

「おふくろ……じゃなくて、ルイーズ大統領が『出会いに恵まれない軍人に愛の手を!』とか

何とか言い出して、帝国軍も巻き込んでの集団見合いを開催する事になってな。大統領だけ

でなく、ルドルフ陛下も乗り気で、明日にも陛下から命令が来るはずだ。…という訳で、俺達

に選択の余地は無い」

「…その様だな。しかし何故俺達がそんな面倒な事をしなくてはならないんだ?適任者は他

にいくらでもいるだろう?」

「また頼みやすいヤツに頼んだだけだろ。ついでに俺達を休ませようって魂胆こんたんらしい、働きす

ぎだって言ってたからな」

「息子想いな母親で結構な事だな」

「そうか? 俺にはそんな風に思えんが……まぁ、いいか。それで、シュバルツ。お前には見

合いに参加してくれそうな女性を捜してきてもらいたい」

「難しい方を押し付ける気か?」

「お前には強力なパートナーがいるだろ? 彼女に頼めば何とかなるはずだ」

ハーマンの意見は至極尤もである。

しかしサラに迷惑をかけるのは余り気が進まないらしく、カールが難しい顔をして黙り込むと、

ハーマンは辺りをキョロキョロ見回してから、突然小声で話し始めた。

「サラに迷惑かけたくないって気持ちは分かる。だが、今回はど〜しても彼女に協力してもら

いたいんだ」

「……どういう事だ?」

「実は数ヶ月前からオコーネルの様子がおかしくてな…」

「オコーネル大尉が…? 何かあったのか?」

「いや、別に何も。任務は全部きちんとこなしてるし、一見した限りでは何の問題もない。しか

し俺は見てしまったんだ……!」

「見てしまった…って何を?」

「毎晩基地の外に出て……巾着袋きんちゃくぶくろの様なものを見ながら、ため息をついている所だ!」

「…………何だ、それは? 意味が分からんな」

「俺だって最初は分からなかったさ。でもミシェールに聞いてみたら、それはきっと恋煩こいわずらいだ

と…」

ハーマンの口から『恋煩い』などという言葉が出てくるとは思わなかった為、カールは目を丸く

して動きを止めた。

が、次の瞬間プッと吹き出して笑った。

何故笑われたのか、理由が分からなかったハーマンがムッとしていると、カールはピタッと笑

うのを止め、何事も無かった様に話を続けた。

「オコーネル大尉が恋煩い、か…。で、その事とサラに何の関係があると言うんだ?」

「オコーネルが本当に恋煩いなのか、色々調べたり本人に鎌をかけてみたりしたんだ。そした

ら何と………国立研究所って言葉に妙な反応を示したんだ!!」

「妙な反応…? まさか……恋の相手はサラだなんて言い出さないでくれよ?」

「それは心配ない。お前を敵に回す様なバカは共和国軍にはいない」

「そうか。それで国立研究所の誰に恋をしているのか、大体の見当はついているんだろう

な?」

「いや、まっっったく。そこでサラの出番って訳だ。彼女なら知っている可能性が高いと見てい

る」

「なるほど、事情は分かった。サラには俺から頼んでみるとしよう」

「よろしく頼む」

カールの返事に安心したらしく、ハーマンは開催日時や場所などを伝えると、上機嫌で通信を

切った。

彼なりにオコーネルの事を心配しているのだろう。

確かに軍人は出会いが少ない。

最近は女性兵士の数が増えたとは言え、交際相手というものは簡単には見つからない。

そう考えると、集団見合いは大変良いアイデアだと言える。

厄介な任務ではあるが、それを口実にしてサラと旅行に行ける様なものなので、仲人役をす

るのも悪い話ではない。

どうやらハーマンも同じ事を思って集団見合いの話に乗った様だ。

もちろんオコーネルの恋を応援したいという気持ちもあっただろうが、ハーマンをその気にさせ

た一番の理由はミシェールの参加。

今回の集団見合いの仲人役はハーマンとカール、そしてサラとミシェールの四人。

ルイーズとルドルフのいきな計らいである。

ただ休暇を取るより、任務でも恋人と共に過ごす方が良いと考えたらしい。

ルイーズもルドルフも、カール達の性格をよく理解している。

完全に乗せられた形ではあるが、カールは素直にサラとの旅行に喜び、早速彼女に集団見

合いの手伝いを要請しようと国立研究所に通信を入れた。

『あ、カール。なぁに?どうしたの??』

「サラ、いきなりで申し訳ないんだが…」

カールが集団見合いの事を詳細に伝え、一緒に仲人役をしてほしいと頼むと、途端にサラは

瞳をキラキラ輝かせた。

『集団お見合いか〜面白そう〜v 分かったわ、お手伝いさせて頂きますvv』

「ありがとう。……で、実はもう一つお願いしたい事があるんだ」

『何?』

「オコーネル大尉の恋を成就させるのを手伝ってほしい」

『オコーネル大尉の? ……はは〜ん、集団お見合いを口実にして、二人を引き合わせようっ

て魂胆ね。お互い惹かれ合ってるみたいだし、丁度良い機会かも♪』

サラの口振りから察するに、彼女はオコーネルの恋のお相手が誰なのか知っている様だ。

カールは心の中でほっと胸を撫で下ろしつつ、好奇心からサラにその相手について聞いてみ

る事にした。

「オコーネル大尉が恋しているという女性は、一体どんな人なんだい?」

『え…? オコーネル大尉が誰を好きなのか知らないの?』

「う、うん、知らない」

『へぇ、そうなんだ。じゃあ、今は敢えて教えないでおくわ。当日のお楽しみって事でよろしく

♪』

一度教えないと言い出したからには、どんなに問い詰めてもサラは教えてくれない。

サラの性格を熟知しているカールは、当日分かればいいと自分を納得させ、集団見合いが開

催される日時や場所、その日の朝研究所へ迎えに行く旨も併せて伝えた。

サラは笑顔でカールとの通信を終えると、駆け足で助手達がいる第一研究室へ移動し、にや

にや笑いながら助手の一人を捕獲した。

「な、何ですか、博士?」

「ふっふっふっ…。ちょっと話があるの、こっちへ来て」

サラに研究室から無理矢理連れ出されたのは……助手のナズナであった。

そう、彼女こそオコーネルの恋のお相手なのである!

ナズナはサラの妙な笑顔に不気味さを感じたが、逆らうのは恐いので、大人しく彼女について

行った。

ナズナを研究所の中庭へと連れ出したサラは、周囲に誰もいない事を確認すると、顔は相変

わらずにやけたまま話し出した。

「ナズナ、前に軍人を紹介してほしいって言ってたわよね?」

「え、あ……はい、言いましたけど、それが何か?」

「今度ね、帝国軍と共和国軍共催で集団お見合いをする事になったの。それでそのお見合い

に参加する男性陣が全員軍人らしいから、あなたに丁度良いって思ったんだけど、どうかし

ら?」

「ど、どうって…?」

「参加してみないかって言ってるの。軍人と出会える絶好のチャンスよ、張り切って参加しちゃ

いましょう! ね?」

「『ね』って言われましても、私……」

「あらぁ、軍人を紹介してほしいって言い出したのはあなたでしょ? 折角のチャンスを無駄に

するつもり? それとも……もう好きな人がいたりするの?」

「え!? い、いえ、そんな…私は別に……」

顔を真っ赤にしながら目を泳がせているナズナを見、サラは一瞬にま〜っと不気味な笑顔を

見せたが、すぐに納得した様に頷いてみせた。

「そっか。あなたにその気が無いのなら、無理にとは言わないわ。仕事中にごめんなさいね」

サラは淡々と言ってナズナの前から去ろうとしたが、途中で何かを思い出した様なわざとらし

い仕草をして振り返った。

「あ、そうそう。言い忘れてたんだけど、共和国軍側の参加者はハーマン少佐が集めるそうだ

から、彼の部下の兵士さんもたくさん参加するみたいよ」

「……え? ハーマン少佐の…?」

サラの言葉にナズナは素直に反応し、難しい顔をして何やら考え始めた。

先程まで行く気が無さそうな態度を取っていたのに、最後の言葉だけで突然行くと言い出した

ら、サラに全てバレてしまうかもしれない。

そう思ってナズナは返事に困っていたのだが、サラは既に何もかも知っている。

ナズナの思い悩む姿をしばらく眺めた後、サラは何事もなかった様に話を続けた。

「じゃ、参加って事で話を進めておくわね」

「……へ?」

「いいでしょ、ナズナ?」

「は、はい、お願いします」

この手の事に関しては鈍いはずのサラに全て見透かされていたと分かり、ナズナは苦笑いを

浮かべながらも、集団見合いに参加する事を決めた。

今過剰な反応をすれば、話が益々おかしな方向に流れていってしまうからだ。

ナズナの返事にサラは満足気な笑みを浮かべ、簡単に集団見合いの詳細を伝えると、軽い

足取りで研究室へ戻って行った。

中庭にポツンと残されたナズナは空を見上げ、お祭りの日に見た花火と共に、共和国軍の青

年士官の優しい笑顔を思い浮かべていた…



                          *



「そうか、君が……」

集団見合い当日の朝、国立研究所へとやって来たカールは、サラの隣に立っている人物を

見、ようやくオコーネルの恋のお相手を知る事が出来た。

サラの助手をしているナズナ。

妙におっとりとしているが、明るく元気な女性。

オコーネルが恋をしてしまうのも無理はないだろう。

そうカールが納得している内に、サラは終始にやにや笑いながらナズナをジープの後部座席

に押し込み、彼女の隣に自分も乗り込んだ。

カールは助手席が空いている事に少なからずガッカリしたが、今日は仕方ないとジープを発

車させた。

集団見合いが開催されるのは、帝国と共和国の境目に位置するリゾート地。

早ければ夕刻には到着出来るはずだ。

カールが集めるはずだった集団見合いの女性参加者は、サラがきっちり人数を揃え、現地集

合という事になっている。

結局カールは何もしなかった訳だが、本人だけでなく頼んだハーマンも元よりそのつもりだっ

たので、特に問題は無かった。

リゾート地に到着するまでの間、サラはナズナに共和国軍兵士の話を振り、それとなくさぐりを

入れて楽しんでいた。

ハッキリ言ってナズナは恥ずかしくてたまらなかった様だが、カールはサラの楽しそうな様子を

微笑ましく思いつつ、笑顔で聞き役に徹していた。

そうして太陽が西に傾き始めた頃、三人は集団見合いが開催されるリゾート地に到着し、現

地集合してくれた女性達と落ち合うと、見合い会場である巨大な建物へ移動した。

実はその建物は共和国大統領専用の宿泊施設で、周囲にある建物とは比べものにならない

程設備が充実している。

本来なら大統領や大統領に近しい者しか使用出来ない施設だが、今回の集団見合いの発案

者であるルイーズがぜひ使ってほしいと貸し出してくれたのだ。

建物の入口には数人のスタッフと共に、ハーマンとミシェールが待ち構えており、カール達を

笑顔で出迎えた。

「よぅ、シュバルツ、サラ。よく来てくれた、歓迎するぜ」

「ハーマン、男性陣はきっちり集められたんだろうな?」

「そりゃ〜もう完璧だ、ミシェールが手伝ってくれたからな。そっちはどうだ?」

「こちらも完璧に決まっている、サラが手伝ってくれたんだからな」

カールとハーマンは真顔で恋人の行動を自慢し合い、対抗意識丸出しで戦闘態勢に入った

が、サラとミシェールは和やかに挨拶を交わし、集団見合い参加者の女性達を連れて建物内

に入って行った。

カール達の事は放っておいた方が良いと判断したらしい。

その判断は非常に的確で、サラ達が移動を開始すると同時に、カールとハーマンは一時休戦

し、慌てて彼女らの後を追った。

「女性陣は到着したばかりだし、しばらく部屋で休んでもらってから、男性陣とご対面してもら

いましょ」

「そうね。丁度夕食と時間が合うし、見事に予定通りねv」

サラとミシェールは今後のスケジュールを簡単に確認し、女性陣を今夜泊まる部屋へと案内

すると、カールとハーマンを連れて広々としたダイニングルームへ足を運んだ。

ダイニングルームではシェフやスタッフが夕食の準備に取り掛かっており、サラ達はメニュー

や席の位置を確認し、『ご対面』に向けて着々と準備を進めていった。

今回の任務は女性陣が仕切る事になっている為、カールとハーマンは極力邪魔をしない様に

心掛け、愛する女性の頑張る姿を嬉しそうに眺めるのが唯一の仕事であった。

やがて夕食の準備が整うと、まず先に女性陣がダイニングルームに呼ばれ、その後少々時

間を置いてから男性陣が姿を現した。

全員が初顔合わせで緊張する中、サラ達の思惑通りナズナとオコーネルだけは親しそうに目

配せし合い、見合い参加者と仲人がダイニングルームに勢揃いした。

「じゃ、まずは仲人代表の挨拶から」

頃合いを見計らってサラが小声で指示を出すと、いつの間にか仲人代表にされていたハーマ

ンはギョッと驚き、隣にいるミシェール、サラ、カールの順に視線を移動させてから、自分の顔

を指差して苦笑した。

「代表って俺かよ!?」

「そうよ、早く挨拶して」

「そ、そんな事をいきなり言われても……何を言えばいいんだ?」

「難しく考えないで、適当でいいから」

「適当…? 余計難しいじゃないか……」

ハーマンはブツブツ言いながら見合い参加者の前に出、嫌な汗をかきながら挨拶を始めた。

「あ〜、え〜っと……ほ、本日はお日柄も良く…」

「ロブ、肩の力を抜いて」

背後から愛する女性に声をかけられた途端、ハーマンはピシッと姿勢を正し、硬い言葉は止

めだと言わんばかりに、砕けた物言いで自己流の挨拶を行った。

分かりやすいヤツ…とカールは冷ややかな目でハーマンを見ていたが、実は見合い参加者に

も同じ様に思われていた。

ハーマンの挨拶が無事終了すると、今度はサラが前に進み出、見合い参加者に自己紹介を

するよう促した。

男性陣、女性陣の順に一通り自己紹介をしてもらい、続いて全員にメモ用紙を配ると、第一印

象で良いと感じた相手の名前を書き出してもらった。

そこまでしなくてもいいのに…というカールとハーマンの思いを余所よそに、サラとミシェールは回

収したメモ用紙と睨めっこを開始した。
楽しそうな女性陣♪
一方、見合い参加者達はバイキング形式の夕食のお陰で各々気に入った人と自由に接触

し、すんなり打ち解け合って和気藹々と談笑し始めた。

仲人用の席に固まっていたカール達は隙を見て夕食を取りに行きつつ、先程のメモ用紙を参

考にしながら今後の行動方針を検討する事にした。

「男性陣も女性陣も、思ったよりバラつかなかったわね」

「ええ。なるべく色んなタイプの人を集めたつもりだったんだけど、逆効果だったかもしれない

わね」

「まぁ、今はまだ見た目だけの段階だから、これから中身を知っていけば、変わる可能性もあ

るわ」

「そうね。じゃあ、しばらくは様子を見るという事で」

「うん。今の内に私達も夕食済ませちゃいましょ」

サラ達が密談している横で既に夕食を食べ始めていたカールとハーマンは、とりあえず自分も

とメモ用紙に目を通し、誰に人気が集中しているのかを知った。

女性陣一番人気はナズナで、男性陣一番人気は……何とオコーネルであった。

「さっすが俺の部下! やっぱ共和国軍の軍人は帝国軍人より女にモテるんだな!!」

「……何をバカな事を言っているんだ、ハーマン?」

「バカな事? 俺は事実を言っただけだぜ?」

「何の為にオコーネル大尉を集団見合いに参加させたのか、よ〜く思い出してみろ」

そう言われて素直に目的を思い出したハーマンは、途端に深刻そうな表情でメモ用紙を見直

すと、たくさんの女性に囲まれて困っている様子のオコーネルを眺めた。

「これは……まずい状況だな」

「そうだろう? 大尉の恋を成就させたいのなら、上官のお前がもっと頑張る必要があるな」

「お、おぅ、分かった。……ところで、今頃こんな事を聞くのは気が引けるんだが…」

「何だ?」

「オコーネルが惚れてる女性って誰だ?」

ハーマンの素晴らしく初歩的な質問に、カールは全身の力がガクッと抜け、テーブルに突っ伏

した。

カールも余り人の事は言えないが、ハーマンは恐ろしい程の鈍感人間らしい。

オコーネルとナズナのあからさまな仕草をの当たりにしているはずなのに、それに全く気付

かないとは、さすがとしか言いようがない。

カールはのろのろと椅子に座り直すと、何も言わずにメモ用紙を指差した。

そこにはもちろんナズナの名が書かれていた。

「へぇ〜、ナズナ・ウィルソンか。ミシェールの足元にも及ばないが、なかなかかわいい感じの

人だな。彼女ってサラの助手をしているんだよな? 道理で国立研究所って言葉に反応した

訳だ」

ハーマンはのん気にナズナについて語っていたが、途中でハッと思い出した様にメモ用紙を

見直した。

「おい、これって……ダメなんじゃないか?」

「今頃気付くなよ。だからお前が頑張る必要があると言ったんだ」

「そ、そうか。しかしなぁ……俺に出来る事なんかあるか…?」

恋愛下手同士がうんうんうなりながら策を練っていると、サラとミシェールが夕食を持って戻って

来た。

それでも男性陣は真剣に策を練り続けたが、そんな二人を女性陣がすかさず止めた。

「余計な事はしちゃダメよ、二人共」

「そうよ、成り行きに任せた方が案外上手くいったりするんだから」

愛する女性にそう言われては、カールもハーマンも大人しくせざるを得ない。

やはり今回の任務は女性陣に全て任せる方が得策、とカール達は食事を再開した。

そうして夕食を食べながら、四人はオコーネルとナズナの動きのみ気を配っていたが、オコー

ネルは女性達に、ナズナは男性陣に囲まれたままで一切進展を見せなかった。

「うむむ……全然動かないわねぇ…」

「仕方ないわよ、サラ。軍人さんって純情な人が多いから」

「そうよねぇ…」

サラとミシェールは隣に座っている愛する男性を見、呆れた様子で肩を竦めた。

カールとハーマンはキョトンとなったが、女性陣の言葉の真意が分からず首を傾げていた。

男性陣のかわいい仕草を微笑ましく思っていたサラ達だったが、そろそろ干渉しないと話が進

みそうにないと気付き、場を和ませる為にもちょっとしたゲームを行う事にした。

大したゲームではなかったが、全員強制参加で協力し合わないと出来ないものだったお陰

か、ようやく見合い参加者に新たな動きが見られる様になった。

すると、タイミングを見計らっていたと思われるオコーネルが、人だかりを抜けてナズナの傍に

歩み寄って行った。

当然の如く、その様子をハーマン、ミシェール、カール、サラの四人が固唾かたずを呑んで見守って

いた。

「あ、あの、ナズナさん…」

「オコーネル大尉、お久しぶりです」

「は、はい、お久しぶりです。お、お元気でしたか?」

「ええ、もちろん。元気だけが取柄ですから。大尉もお元気そうで何よりです」

見合い参加者とは思えない会話が繰り広げられていたが、オコーネルとナズナは仲良く談笑

し合い、結局誰も間に入り込めない程和気藹々としていた。

他の見合い参加者を見てみると、恋人に発展しそうな雰囲気をかもし出している者達が続々と

現れ始め、頃合いと判断したサラは一日目の見合い終了を宣言した。

一同に非難の声があがったが、サラは慌てず騒がず皆を制止し、見合い自体は終わるが、話

を続けたい者は続けて良いと付け加えた。

サラの言葉を聞いて安心したらしく、見合い参加者達は談笑を再開し、オコーネルとナズナも

楽しそうに話し出した。

「では、邪魔者は退散しましょう」

「そうね」

サラ達四人はそろそろとダイニングルームを後にすると、自分達に割り当てられた部屋の前ま

で移動した。

「明日も忙しくなるだろうから、早めに休みましょう」

「うん。それじゃ、おやすみなさい」

「おやすみ〜」

女性陣はにこやかに、男性陣は無言で挨拶を交わし、二組のカップルはそれぞれの部屋に

入って行った。

が、男性陣は早めに休む気など毛頭なかった。

折角のチャンスだ、かさなくては男ではない!

「サラ、少し外へ散歩に出ないか?」

「うん、いいよv」

カールの下心に全く気付かず、サラは二人きりの時間を満喫しようと笑顔で頷いた。

実はカールがわざわざサラを外へ誘ったのには理由がある。

隣の部屋にいるハーマン達に、サラの声を聞かせない為だ。

カールとサラが部屋から出て数分後、カールと全く同じ考えを抱いたハーマンが、ミシェールを

外へ連れ出した。

妙な所で気が合うカールとハーマンであった…





一方、その頃ダイニングルームでは少しずつ部屋へ戻る者が現れ、徐々に人数が減りつつあ

った。

皆ハードスケジュールだったせいか、酷く疲れている様だ。

軍人である男性陣はまだまだ大丈夫だったが、女性陣の事を考えて今日の見合いはあっさり

とお開きとなった。

オコーネルはガックリと肩を落としていたが、彼の横ではナズナが何やらゴソゴソしていた。

よ〜く観察してみると、ナズナの手には大きなカメラが握られていた。

「……ナズナさん、カメラなんて用意してどうするんですか?」

「ふふふっ……もちろんラブラブ写真を撮るんです!」

「…またコンテストがあるんですか?」

「いえ、コンテストは無いですけど、何て言ったらいいか…私の趣味みたいなものなんです」

「趣味…ですか?」

「ええ。それじゃ、行って参ります」

「あ、ま、待って下さい!」

オコーネルは何とかナズナを呼び止める事に成功し、写真を撮るのを手伝わせてほしいと懇

願した。

オコーネルにしては大胆な申し出だったので、ナズナは目を丸くして驚いたが、一人より二人

の方が良い写真を撮れるだろうと申し出を快く受けた。

本当はオコーネルもナズナも一緒にいたかっただけなのだが、照れ臭さを誤魔化す為に、写

真を撮るという口実を利用した様だ。

二人は早速とばかりにカール達の部屋へ移動し、無人だと分かると駆け足で外へ向かった。

大統領専用の宿泊施設は鬱蒼うっそうとした森に囲まれており、視界は余り良くなかったが、所々に

灯りがともされているお陰で、捜索活動に大した支障は出なかった。





「………んっ…ダメv ………ダメだってば……v」

一足先に森へ散歩に出ていたカールとサラは、手頃なサイズの大木の根元に腰掛け、当然

の様にいちゃいちゃしていた。

「カール……外はやだ………」

「大丈夫、こんな時間にこんな所まで誰も来ないよ」

「そんなの分からないよ…? …んぁっ……あ……v」

カールに舌で耳を刺激され、サラは快感を感じて思わず色っぽい声をあげた。

その声を聞いた瞬間、カールは嬉しそうに目を細めたが、自分達の元へ近づきつつある人の

気配を察知すると、スカートの中へ滑り込ませていた手を急いで出した。

カールの行動にサラがキョトンとしていると、突然傍にある茂みの中から二人の人物が出て来

た。

「あ……」

「あ……」

四人は互いの顔を見るなり、ポカンとした表情で動きを止めた。

茂みから出て来た人物とは、ハーマンとミシェールであった。

何の為にここにいるのか、四人は瞬時に悟り合ったが、女性陣は頬を赤らめるだけで何も言

えず、男性陣だけが普通に言葉を交わした。

「俺達は東へ行く」

「では、俺達は西へ行くとしよう」

カール達なりに気を遣ったらしく、互いの邪魔をしない様に二組のカップルは正反対の方向へ

歩き出した。

愛する男性に手を引かれながら、サラとミシェールは軽く会釈し合い、それぞれ東と西の森の

中へ姿を消した。










●あとがき●

今回はルイーズの言葉通り「出会いに恵まれない軍人に愛の手を!」がテーマです。
カールとサラ、ハーマンとミシェール、二組のカップルのラブラブも見せつつ、オコーネルの恋
をもっと掘り下げてみよう☆という趣旨で出来たお話です。
オコーネルとナズナの密かな想いが皆に知られてしまった訳ですが、もちろんそれだけでは
終わらせません!
人の恋愛に首を突っ込む女性陣の微笑ましい姿と、いつも対抗意識丸出しの男性陣の笑え
る姿を、後編も描いていきたいと思ってますv
一応メインはオコーネル×ナズナですが、要所要所でカール×サラに突っ走ります(笑)
世界情勢的にこんなのん気な事をしている場合ではないはずなんですが、本家の方ではバン
やルドルフがドタバタを繰り広げていますし、特に問題視はしてません。
前後の話があれだけシリアスなのに、間にポンとギャグ話を入れられるのは流石としか言い
ようがない!(←実は褒めてない;)
レイヴンも一話分よく待っててくれたなぁ……良いヤツじゃないか!(笑)
そのお陰で長編小説も間にポンとギャグを入れたり出来るので、結構助かったりしています。
シリアスばかりじゃ辛いですから…。
最後に「ちょっとしたゲーム」についてですが…
あれはどんなものでも構いません。お読みになった方のご想像にお任せします。
結婚式の二次会でやる様なゲーム、そんな感じでイメージしてやって下さい。
詳細は面倒なので、省いてしまいました(いいのか…?)

●次回予告●

帝国軍・共和国軍共催で行われている集団見合いにて、オコーネルの恋を成就させる為に奮
闘するカール達仲人の面々。
しかし恋模様は移り変わりが激しく、なかなか発展しようとしません。
果たして、オコーネルとナズナの関係はどうなってしまうのか…?
その時、仲人達はどうしているのか?
第七十二話「見合い〜後編〜」  変ねぇ…。昨日何かあったのかしら…?

                        <ご注意>

次の第七十二話「見合い〜後編〜」は性描写を含みます。
お嫌いな方・苦手な方はお読みにならないで下さい。