第七十話

「一日師団長〜後編〜」



ヒュースの要請により一日師団長となったサラは、訓練棟にてカールと体術を使った勝負をす

る事になった。

カールとサラは体術用の胴着に着替えると、体術用スペースの中心で対峙した。

いつの間にか周囲には数え切れない程の兵士が集まっており、彼らの手には目の前の素晴

らしい光景を収める為のカメラが握られていた。
                     まれ
サラが胴着を着る事自体が稀であり、レアな写真が手に入ると、兵士達の周りは異常な程の

熱気が立ち込めていた。

しかし当の本人達……特にカールは周りの熱気など全く気にならなかった。

何故なら、カールは初めて見るサラの胴着姿に見とれていたからだ。

サラは既に戦う前の精神統一をしており、こちらもカールの様子に気付いた風はなかった。

今の状態でまともな勝負が出来るかどうか疑わしかったが、審判を務める兵士は二本先取し

た方が勝ちという三本勝負で戦う事を二人に伝え、双方が納得したと頷くのを見届けてから、

勝負開始の合図を出した。

サラはすぐさま身構えて相手の攻撃に備えたが、カールはぼんやりと突っ立ったまま、動く気

配を見せなかった。

「……カール、本気で戦うつもりがないなら、どうして勝負を引き受けたの?」

「………………あれ?もう始まってるのか? すまない、つい見とれてしまった」

「『つい』とか言ってる場合じゃないわよ。今は真剣勝負の真っ最中なんだから!」

受身の体術を主に習っていたサラだったが、カールが全く本気にならないのに苛立ちを覚え、

思い切って自分から仕掛けてみる事にした。

カールはあっさりサラの攻撃を避けると、一本目で終わりにしようと素早く反撃に出た。

しかしサラは真っ直ぐ仕掛けてくる攻撃には強いので、カールの攻撃を上手く受け流し、その

力を利用して彼を軽く投げ飛ばした。

「一本!」

審判の声に兵士達は一斉に歓声をあげ、揃ってサラにカメラを向けた。
まぶ
眩しいほどのフラッシュを浴びながら、サラは先に一本取って喜んでいると思われたが、何故

か彼女の表情は不満そうであった。

一方、カールははにかんだ笑みを見せつつ立ち上がり、いそいそと乱れた胴着を整えた。

「噂通りの強さだね、さすがクローゼ大佐」

「…………。カール、本気で戦ってくれないと怒るわよ?」

「………わかった」

カールは渋々頷くと、審判の合図と同時に攻撃を仕掛け、力を受け流される前に素早くサラの

胴着を掴んだ。
                            すべ
一度捕まってしまうとサラに抵抗する術は無く、二本目は一本目よりも早く勝負がついた。

サラは急いで乱れた胴着を整えると、三本目に向けて戦略を考え始めた。
うかつ
迂闊に近づくと返り討ちに遭ってしまう。

特に良い策が思い浮かばないので、最初から得意の受身の戦法で戦う事にした。

三本目の開始の合図が出された途端、素早く身構えるサラを見、カールは彼女の戦術を察し

て動きを止めた。

先に仕掛けると負ける…。

そう判断して動きを止めたのだが、このままでは勝負が終わりそうにないので、カールはサラ
     か
の裏を掻く行動に出た。

わざとサラに力を受け流させ、その反動を利用しようとする彼女と同時に動き、一緒に床へ倒

れ込んだ。
                                                     の
二人同時だと勝負はつかない為、カールは間髪入れずにサラの上に圧し掛かった。

未だかつて使った事がない技だったが、サラに降参させる為にはこれしかないと、彼女の腕
                          ひね
の関節を少々痛みを感じる程度に捻って押さえ付けた。

「…………あ、あれって……寝技、だよな…? やっぱり大佐のヤツ…!!」

目の前で繰り広げられている光景を見るなり、ヒュースは勝負を中断させようとしたが、周囲

の兵士達に瞬時に取り押さえられてしまった。

カールが寝技を使うなんて初めての事。

しかも相手は憧れのサラ。

良い所を邪魔されたくないのだ。
       かたず
兵士達が固唾を呑んで見守る中、カールは少しずつ腕に力を込めながらサラに話しかけた。

「サラ、早く降参するんだ。腕が折れてしまうぞ?」

「や、やだ……まだ…負けてないもん…!」

「仕方ないな…」
                                                  ささや
カールは審判に聞かれない様にする為、サラの耳元へ口を寄せて囁いた。

「早く降参しないと…今夜は君をめちゃくちゃにするぞ」

「!?」
                                                みどり
カールの囁きに弱いサラはピクンと反応し、恐る恐る間近にある碧色の瞳を見上げた。

カールがそんな事を冗談では言わないと分かっていたので、サラは一瞬腑に落ちないといっ

た表情を見せたが、意地を張らずに審判に降参する旨を伝えた。

ようやく寝技から解放され、サラが早まった鼓動を落ち着かせていると、カールが満面の笑顔

で手を差し出した。

サラもつられて思わず笑顔を見せ、差し出された手に掴まって立ち上がった。

そのタイミングを見計らっていたのか、審判がカール達の間に入って勝敗の結果を宣言し、二

人の勝負はカールの勝利で終わりを迎えた。

四方から拍手を浴び、カールとサラは嬉しそうに微笑み合っていたが、その和やかな雰囲気

をぶち壊す形で、ヒュースが二人の元へ駆け寄って来た。

「サラさん! 大丈夫ですか!?」

「うん、平気。カールが……じゃなくて、大佐がちゃんと手加減してくれたから」

「あれのどこが手加減なんですか!? 公衆の面前で襲われそうになったんですよ!?」

「お、襲われそうに……って…。それは考えすぎよ、中佐。私達は普通に勝負しただけだも

の。ねぇ、カー……シュバルツ大佐?」

サラが同意を求めると、カールはわざとらしく妙に力強く頷き、ヒュースにいつもの冷たい笑み

を浮かべてみせた。

さすがに冷笑を浮かべるカールとまともに戦おうとは思わないのか、ヒュースは必死に見えな

かったフリをし、少々引きつった笑顔でサラに話しかけた。

「ところで、サラさん。汗をおかきになったでしょう? シャワーでもどうですか?」

「うん、そうね。このまま着替えるの気持ち悪いし」

「その方がいいですよ。一日師団長としての最後のお仕事、皆への挨拶が残っていますか

ら」

「もう最後かぁ…。じゃあ、ちょっとシャワー浴びて来るね」

鍛錬室に隣接する更衣室にシャワー室がある事は、着替えの時に見て知っている。

サラが迷う事無く更衣室に向かって歩き出すと、彼女の後をこそこそと追う兵士が続出した。
           のぞ
ハッキリ言って覗ける訳がないのだが、男性用と女性用のシャワー室が隣り合っているせい

か、傍で聞き耳を立てるだけでもいいと思っての行動らしい。

しかしそんな事をファンクラブの会長であるヒュースが許すはずもなく、すかさず兵士達を通せ

ん坊して大声で注意し始めた。
にわか                                             かや
俄かに騒がしくなった鍛錬室だったが、女性兵士だけは完全に蚊帳の外で、彼女達はこっそ

り頷き合うと、強引にカールを連れて更衣室へ向かった。

「大佐、どうぞお入り下さいv」

「な、何を言っているんだ? ここは女性用の更衣室じゃないか、冗談にも程があるぞ」

「冗談なんかじゃありませんよv 今はクローゼ大佐だけが使用しておられますので、大佐が

お入りになられても何の問題もございません。お二人で仲良くお使い下さいvv」

女性兵士の言葉に、カールは一瞬納得しかけた。

確かに、婚約者であるサラと一緒にシャワーを浴びるのはおかしくない話である。

しかしそこは女性用更衣室。決してサラ専用ではない。

内心凄まじい葛藤を繰り返していたが、女性兵士達の眩しい程の笑顔攻撃を受けてしまった

カールは、渋々ながら女性用更衣室に入る事を決意した。

彼女らの好意を裏切る訳にはいかない。 ……という事にしておこう。

まずは男性用更衣室に軍服を取りに行き、それから恐る恐る女性用更衣室に足を踏み入れ

た。

内装は男性用と全く変わらなかったが、室内に漂う香りはほのかに甘く、女性用なのだと改

めて感じさせられた。

入ったからにはシャワーを浴びてしまおうと、カールは持っていた軍服を傍の棚に置き、ささっ

と胴着を脱ぎ捨てると、シャワー室へ移動した。
                  しつら
仕切りにより個室の様に設えられたシャワー室がたくさん並んでいる中で、耳を澄ましてみる

と水音は当然一つで、カールは真っ直ぐ音がする個室に向かった。

個室とは言え、体部分のみ隠す様に板で仕切りをしただけの構造だったので、外側から容易
    うかが
に中を窺う事が出来た。
                       なめ
美しい青髪……  女性らしい滑らかな身体のライン……

カールは思わず見とれそうになったが、今はのんびり観察している場合ではないと、急いで目

の前のドアを開き、愛する女性を後ろから優しく抱きしめた。

「わぁっっ!? ………ん? な、な〜んだ、カールじゃない。ビックリさせないでよ、もぉ…」

普段一緒にシャワーを浴びているせいか、サラはカールが同じシャワー室にいる事に何の疑
   いだ
問も抱かなかった。

が、よくよく今いる場所を思い出してみると、不思議そうな顔で彼を見上げた。

「…私………間違っちゃった…?」

「間違ったって何が?」

「あなたがここにいるって事は…つまり………ここは男性用シャワー室?」

「いや、女性用シャワー室だよ」

「そ、そっか〜。間違ったと思って焦っちゃったわ。良かった良かった。……………ん?ここが

女性用って事は……どうしてここにあなたがいるの!?」

ようやくサラが一番重要な事に気付いてくれたので、カールは急いで事情を説明し、一緒にシ

ャワーを浴びさせてほしいと頼んだ。

サラは快くその頼みを聞き入れ、早速とばかりにシャワーを一緒に浴びようとしたが、良から
     ひら
ぬ事を閃いたカールは彼女の腕を掴んで壁に押し付けた。

「…カール、どうしたの?」

「もう少し運動しないか?」

「し、しないわ! だから早く手を……んっ……だ、だめぇ………」

カールの思惑を察したサラは慌てて抵抗を試みたが、時既に遅く、愛撫が開始されてしまった

後であった。

もし今いる場所がカールの自室なら、このまま愛撫に身を任せただろう。

しかしここは、女性用更衣室内にあるシャワー室。

こんな所でそんな事をするのは、良くないどころの騒ぎではない。
     こんしん
サラは渾身の力で何とか乳房を弄ぶ手を払ったが、濃厚な口づけだけは素直に受け続け、そ

れが終わると潤んだ瞳でカールを見上げた。

「今はこれだけで我慢して。ね?」

「……分かってる。すまない、焦ってしまって」

「ふふふ、焦らなくても私は逃げないから安心してv」

サラの優しい言葉にカールは緩んだ笑みを見せ、コクリと頷くと急いでシャワーを再開した。

今更と言えなくもないが、余り時間がかかり過ぎると、女性兵士達に怪しまれてしまう。

実はそういう展開を期待し、女性兵士達はカールを女性用更衣室へと招き入れたのだが…

二人は彼女らの企みに一切気付かず、急いでシャワーを浴び終えると、素早く身支度を整え

た。

予想よりも早くカール達が更衣室から出て来たせいか、女性兵士達は二人の姿を見るなり揃

って残念そうな顔をしたが、瞬時に立ち直って全員でゾロゾロと格納庫へ移動した。

最初の挨拶と同じく、最後の挨拶も格納庫で行われるのだ。

更衣室へ行こうとする兵士を必死になって止めていたヒュースは、サラ達からやや遅れて格

納庫入りし、カールが女性用更衣室でシャワーを浴びたという事実を知らぬまま、最後の挨拶

の準備を始めた。

誰も教えなかっただけだが、世の中には知らないままでいる方が幸せな事もあるものだ。

やがて格納庫内に第一装甲師団の面々が勢揃いすると、ヒュースに促されたサラが前に進

み出、一日師団長としての最後の仕事となる挨拶を行った。

「皆さん、今日は一日師団長として貴重な経験が出来ました。すごく楽しかったです。皆さん

の日々の努力がガイロス帝国をより良い国に育てていって下さると思います。今後は私もガ

ーディアンフォース科学班として、皆さんをサポート出来るように努力し、共に頑張って参りま

す。これからもどうぞよろしくお願い致します。本当にありがとうございました」

最後の挨拶を終えたサラがペコリと頭を下げると、四方から盛大な拍手が沸き起こった。
                                かたわ
サラは照れ臭そうに微笑みながらカールの傍らへ戻ったが、そこへすかさず兵士達に解散の

指示を出し終えたヒュースが現れ、彼と共に軍服を着ていない二人の男性がやって来た。

ヒュースの説明によると、その二人は帝都にある新聞社の記者とカメラマンで、一日師団長

の事を記事にする為にサラにインタビューをしたい、との事だった。

取材の割にはサラが一日師団長をしている間姿を見せなかった彼らだが、どうやら兵士達に
まぎ
紛れて写真を撮っていたらしい。

サラの熱狂的なファンである兵士達を押し退けてまで取材する勇気が無く、結局最後の最後

にようやくヒュースを捕獲し、インタビューにこぎつけた様だ。

サラは快くインタビューを引き受けたが、必然的にカールと離れ離れになってしまう形となっ

た。

インタビューにカールは関係無いからである。

ヒュースの陰謀を感じつつも、いつもの笑顔を浮かべるカールと別れ、サラは客室にてインタ

ビューを受ける事となった。

カールがいない事に何となく淋しさを感じていたが顔には出さず、記者の平凡な質問に簡単

に答えた後、写真撮影を行ってインタビューは無事終了した。

早めに終えようと努力していたサラだったが、時計を見てみるともう夕食を食べる様な時間に

なっていた。

一緒に夕食を食べようというヒュースに連れられて、サラが食堂へ向かうと、食堂の入口でタ

イミング良くカールと再会した。

サラは思わず嬉しそうな笑みを見せたが、彼の傍へは行く事が叶わなかった。

食堂に入った途端、たくさんの兵士達が入れ代わり立ち代わり謝礼を言いに来たからだ。

嬉しくはあったが、本心ではカールの傍へ行きたいという思いがあって、サラは微妙な笑顔で

兵士達と接していた。

カールとは時折遠距離から目を合わせるだけだった。

その様子から、自分だけでなくサラも淋しい思いをしていると分かったカールは、早めに自室

へ戻る方が賢明だろうと急いで夕食を済ませ、彼女に目で合図を送ってから足早に食堂を後

にした。

基地内において、サラの安息の場所は自分の部屋以外にない。きっと帰って来る。

本でも読みながら待とう。

そう思って自室で読書を開始したカールだったが、一時間経っても二時間経ってもサラは姿を

現さなかった。

そうして三時間が経過しようとした頃、ようやくドアのロックを解除する音が聞こえ、慌てて室

内に入って来たサラは、そのままの勢いでカールの腕の中へ飛び込んできた。
癒しの時…
「疲れちゃった………」

「………中佐かい?」

「うん…。あなたの部屋へ行こうと思って部屋から出たら、中佐がすぐに駆けつけて来て通せ

ん坊するの。何度挑戦しても見つかっちゃうから、女性兵士さん達に協力してもらって、何とか

脱出に成功したのよ」

「中佐のヤツ………見張ってたんだな」

「そうみたいね。あ〜息苦しかった〜〜。やっと落ち着けるわ〜v」

サラが大きく伸びをすると、カールは小さく笑いながら彼女の腰に手を回し、ぎゅっと優しく抱

き寄せた。

サラもカールの肩に手を伸ばし、二人は心行くまで熱い抱擁を続けると、笑顔で口づけを交わ

した。

「じゃ、行こうか」

「え?行くってどこへ…?」

「ここでは誰が聞き耳を立てているか分からないからね、安全な場所へ移動しよう」

「そうね。でもゾイドで移動するとすぐに皆にバレちゃうと思うんだけど?」

「いや、ゾイドでは移動しない。歩いて行ける距離にある所だから」

「そっか、それなら安心だね」
                                 まぎ
二人はヒュースに見つからない様に闇夜に紛れて移動を始め、カールが言った通り基地から

少し歩いた所にある目的の場所へ程なく到着した。

カールの説明によると、そこは他の部隊が駐留する時に使用する寄宿舎で、今はもちろん他

の部隊はいないのだから無人である。

確かに安全な場所と言えるだろう。

どうやらカールは以前からその寄宿舎を狙っていたらしく、正面玄関を開く為の自分専用のカ

ードキーまで用意していた。

カールの案内で二人は真っ直ぐ上官用の個室へ向かい、室内に入るとすぐにベッドへ身を投

げ出した。

二人の格好は既に普段着。

このまま眠っても何の問題も無い。

しかし今夜はすんなりと眠るつもりは毛頭ないので、カールは早速とばかりにサラの体から衣
    は
服を剥ぎ取り始めた。

数ヶ月もの間出来なかったせいか、カールはサラの肢体を見るだけで我を忘れそうになった

が、鋼の自制心で何とか燃える心を抑え、きちんと手順を踏んでいった。

サラが気持ちいいと感じる部分に口づけし、舌を滑らせ、指を這わせて丁寧に愛撫する。

愛撫の順番はその日のカールの気分によって変わる為、サラは彼の行動に逐一反応し、体
     ぞ
をのけ反らせて喘ぎ続けた。

サラの反応がいつもより過敏になっていると気付いたカールは、思いだけでなく体も自分と同

じく淋しい思いをしていたのだと察し、嬉しくて顔をにやけさせた。

「君も出来なくて淋しかったんだね?」

「そ、そんな事……ないもん…」

「そんな事ある、だろ? 今日はいつもより声が大きいじゃないか」

カールの言葉を肯定する様に、サラは顔を真っ赤にして黙り込んだ。

そんなサラの様子にカールは満足げな笑みを浮かべると、わざとらしくゆっくりと彼女の口を塞
                                 なか
ぎ、口中に舌を侵入させると同時に、自身を膣に挿し込んだ。
                                                                  はば
サラは全身を震わせる様に反応し、思わず声をあげそうになったが、カールの口と舌に阻ま
                 つな
れ、二人は体を一つに繋げたまま濃厚な口づけを始めた。

深くなればなるほど、二人の舌が絡まる音がいやらしく室内に響いた。

やがて様子を見る為か、カールが口を解放すると、サラはもう一つの彼との繋がりを強く感じ、

喘ぎながら話し出した。

「……カール、まだ………始めたばかり……はぁ…あ………は、早いよぅ………」

「…もう充分濡れてるから問題ない。それに……君と早く一つになりたくて仕方なかったんだ」

「カール……」

ようやく挿入時の快感に慣れてきたのか、サラは話す余裕が出来ると、にっこりと微笑んでみ

せた。

「私も……あなたと早く一つになりたかったの…v」

「さっき早いって言わなかったっけ?」

「だって……あなたっていつも…その……最初に時間かけてくれるから………」

「君が痛くないようにしているだけだよ。でも今日は早くても大丈夫だっただろう?」

「うん。……やっぱり久しぶりだから体が敏感になっちゃってるのかなぁ…?」

「きっとそうだよ。じゃ、折角敏感になっているんだし、一緒にもっと気持ち良くなろう」

「あぅん……あっ…v カール……っ………vv」

カールが腰を動かし始めると、サラは見るからに気持ち良さそうに喘ぎ、二人は共に快感に溺

れていった。

数ヶ月ぶりに行う行為は非常に情熱的で激しく、カールは見事なテクニックで次々と体勢を変

え、サラを絶頂まで導きながら自身も絶頂を向かえ、互いの愛を何度も確認し合った。

本当は明日も仕事なので早めに休まねばならなかったが、二人は時間を忘れて体を求め合

い、結局力尽きて眠りに就いたのは、翌日の明け方であった。

とりあえず一時間程深く眠り、ほとんどまどろむ事なく目を覚ましたカールは、隣に眠っている
いと
愛しい女性の寝顔を眺めた後、ついでに毛布をめくって肢体もじっくり眺め始めた。
                              あざ
サラの白い肌には、自分が付けた赤い痣……所有印が至る所に点在しており、昨夜の行為

の激しさを物語っていた。

久しぶりだった為、少々やり過ぎてしまった様だ。
                   あかし
しかしその所有印は愛の証でもある、とカールがにやついていると、ふと自分の体に付いてい

る赤い痣の存在に気付いた。

これは正しくサラが付けた所有印。

サラは自分のものであると同時に、自分はサラのものであると改めて実感しつつ、カールは素

早く身支度を整え出した。

今日はのんびりしている暇はない。

朝からあのうるさい副官殿とバトルはしたくないので、急いでサラを客室へ戻す必要がある。

このまま寝かせてやりたかったが、今回ばかりは仕方ないと、カールはサラを優しく揺り起こ

した。

「ん…………カール……? なぁに…?」

「サラ、寝たばかりのところすまないが、そろそろ部屋に戻ろう」

「………あ、そっか。分かったわ、すぐ支度するね」

サラは見るからに眠そうに目をこすり、のろのろと起き出してベッドから降りようとした。

すると、サラがふらっと崩れ落ちそうになった為、カールは慌てて彼女の体を受け止めた。

「どうしたんだい…?」

「腰が痛くて……」

「…ごめん、俺が手加減しなかったから………」

「謝らなくていいよ。昨日は手加減なんてしてほしくなかったもんv」

非常に嬉しい事を言ってくれるサラにカールは子供の様な笑顔を見せ、彼女の体を支えなが

ら身支度を手伝うと、『お姫様抱っこ』で足早に寄宿舎を後にした。

基地へ戻ると真っ直ぐ客室へ向かい、周囲に誰もいないのを確認してから、二人は室内に駆

け込んで行った。

「ここなら安心だ。今日はゆっくり休んでくれ」

「うん、ありがと……」

自分だけ休むのは申し訳ないという気持ちから、サラが心配そうな顔をしていると、カールは
     ひたい
彼女の額に優しく口づけし、にっこりと笑ってみせた。

「俺の事は心配いらない。おやすみ、サラ」

「……おやすみなさい」

サラは渋々ベッドへ横になったが、まだ心配そうな顔を見せ続けるので、カールはベッド脇に

腰を下ろすと、彼女の潤んだ唇に自らの唇を押し付けた。

「休め」と言い聞かせる様に深く激しく舌を絡ませ、長い口づけを終えると、サラはカールに見

守られる中、静かに眠りに落ちていった。

カールはしばらくサラの寝顔を眺めてから、よし!と勢い良くベッドから立ち上がり、軽い足取

りで客室のドアを開いた。

すると、目の前に突然ぬっとヒュースが現れ、早速とばかりにカールに突っかかってきた。

「何故大佐がサラさんのお部屋から出て来るんですか!? 理由をキッチリ説明して頂きまし

ょうか!」

「……今朝彼女から気分が悪いとの連絡を受けてな、様子を見に来たんだ」

「えぇ!? サラさんが!? それは大変だ!! ………と言いたいところですが、大佐では

なく軍医が様子を見に行くべきだったのではないですか?」

「軍医に診せるほど悪くはない。恐らく昨日の疲れが出たんだろう、慣れない事ばかりしたか

らな。しばらく休めば元気になるはずだ」

「……………本当ですか? ……では、念の為私も様子を見ておきます」

そう言うなりヒュースが客室に入ろうとすると、カールはすかさずドアを閉め、部隊の隊長であ

る自分しか開けられない様に厳重にロックした。
いわゆる
所謂、隊長権限というヤツである。

「な、何をするんですか、大佐!?」

「彼女はもう眠っているんだ。静かにしたまえ、中佐」
                                       いさ
小声ではあったが、カールは鋭い口調でヒュースを諌めると、朝食を食べる為にさっさと食堂

へ歩き出した。

カールにロックされてしまってはもう打つ手がない…。

ヒュースは長いため息をつきながら、トボトボと客室から去って行った。

その日、サラは昼までゆっくり休み、誰にも邪魔されずにカールと昼食を摂ってから、ヒュース

とは軽く挨拶を交わしただけで国立研究所へ帰って行った。



こうしてヒュースの『愛しのサラさんに一日師団長をやってもらっちゃおうv』という企みは、上官
             つい
の手により見事に潰えたのだった……










●あとがき●

今回の話はギャグです。はい、大変ギャグでした。
2部からのストーリーの方針としましては、本編(アニメ)でどうでもいい話をしている時は長編
でもギャグ的な話にしようと思っております。
たま〜にシリアスも入れる予定ではありますが、基本上記な感じです。
とは言え、カールは毎度変わらずサラにメロってます(死語?)
今回は久しぶりというのもあって、カールもサラもかなり燃えたようですが、若いって良い事で
すね!(笑)
メインは一日師団長なので、頑張ってアレなシーンははしょったつもりではありますが、結局メ
インを食ってしまったかもしれません。
でもラブストーリーだから万事良しという事にしますv
ヒュースの頑張りが日に日に空回りとなっていて、何だか哀れに思えてならないんですが、彼
にも恋のお相手を作ってあげた方がいいのでしょうか…?
…面白味が無くなりそうなので止めときます(我ながら酷い;)
ヒュースには良き副官として、そしてファンクラブの代表として、今後も頑張って頂きます。
頑張れ、ヒュース!

●次回予告●

恵まれない軍人に愛の手を!
そんない〜加減な名目の下、帝国軍・共和国軍共催の大規模な集団見合いが行われる事に
なりました。
ルドルフとルイーズの策略により、集団見合いの仲人役にされてしまったカール、サラ、ハー
マン、ミシェールの四人は、参加者集めから司会進行などテンテコマイになりながらも、ある
人物の恋の成就に奮闘します。
第七十一話「見合い〜前編〜」  これは……まずい状況だな