第六十九話

「一日師団長〜前編〜」



                                し
戦後処理の遅れにより、凄まじい忙しさを強いられているカール達だったが、連日奔走してい
        も
ては体が保たない為、数週間に一度は必ず基地へ戻り、兵士達は体を休めていた。

もちろん彼らの足として活躍しているゾイド達も骨休めに入り、基地へ戻っている間に全員が

休暇を取る様に心掛けていた。

そして第一装甲師団も例に漏れず、辺境地域で起きた事件を解決するという任務を終える

と、体を休ませる為に基地へと戻って来たが、今回は休暇の合間にちょっとした行事が行わ

れる事になった。

しかも師団長のカールには内密にされている極秘行事である。

立案者は副官のヒュースで、彼はその行事の為に寝る間も惜しんで準備を進めてきた。

ヒュース主催の極秘行事、それは……ある人物に一日だけ師団長を務めてもらうというもの

であった。

カールに怪しまれない様に、行事当日の朝内容だけは彼に伝え、誰が師団長を務めるかとい

う点は当然伏せておき、「丁度良い機会」と休暇を取る様に勧め、彼を基地から追い出す。

後は一日師団長を務める人物との楽しい時間が待っている。

絶対に失敗は許されない。
                        あお
ヒュースは数人の兵士に協力を仰ぎ、着々と準備を整えていった。

そうして行事当日の朝を迎えると、ヒュースは予定通りカールに一日師団長の話を伝えた。

「一日……師団長?」

「そうです。民間の方々に我々の仕事を知ってもらう、その一環となる行事です」

「そんな話は聞いていないが…」

「あれ?書類は届きませんでした?」

「ああ、届いていない」
                    まぎ
「そうですか…他の書類に紛れてしまったのかもしれませんねぇ。しかしもう行事は中止出来

ません、一日師団長に選ばれた方はもうこちらに来られてますから」

「中止にするつもりはない、来られているのならやって貰おう。…で、一体どんな人物が一日

師団長を務めるんだ?」

「女性です。その方が周りも好感を持ってくれると思いまして」
                    うかが
「そうか。では、一応挨拶に伺っておこう。どこにいるんだね?」
                                                              いかが
「挨拶なんかしなくていいですよ、大佐。それよりも、折角ですから休暇を取っては如何です

か?ここ数ヶ月一度も休暇を取っていらっしゃらないでしょう?」

「それは有難い話だが、師団長として挨拶はしておかないと、その女性に失礼だろう?」

「大丈夫です、我々が責任を持っておもてなし致しますから。大佐は何の心配もなさらずに休

暇を楽しんできて下さい」

ヒュースに気持ち悪い程の満面の笑顔を見せられ、直感で何かあるなと感じたカールは、休

暇は取らずに軍司令部へ行くと彼に伝え、足早に執務室を後にした。

数人の兵士が尾行している事に気付きつつ、カールは真っ直ぐ格納庫へ向かうとセイバータ
                                                          た
イガーに乗り込み、事情を知らない整備兵達が見守る中、逃げる様に基地を発った。

とりあえず始めは司令部に向かって走り、基地のレーダーに引っ掛からない所まで来ると、カ

ールは至って普通に通信を入れた。

通信先はもちろん自分の基地である。

通信相手を何とか仲間に引き入れ、一日師団長の事を詳しく教えてもらおうと思っていたが、

応答した女性通信兵は頼むまでもなく、カールがこっそり基地へと戻れる様に手筈を整えてく

れた。

どうやら女性兵士は全員カールの味方らしい。

こうしてカールはヒュース達に見つかる事なく基地へ舞い戻り、女性兵士達の案内で一日師

団長の女性が待機している部屋へ向かった。

「私達は外で見張ってますから、大佐は早く中へ」

「ありがとう」

言葉は真剣そのものだが、顔は明らかににやついている女性兵士達を疑問に思いながらも、

カールは案内された部屋のドアをノックし、素早く中へ足を踏み入れた。

返事を待たずに入室したので、カールが部屋の主に謝ろうとすると、軍服姿の女性が先に彼

に話し掛けた。

「あ、カール。挨拶に来てくれたんだねv」

「え………………サ、サラ!? 君が一日師団長だったのか!?」

「うん、そうだよ。………まさか知らなかったの?」

「ああ。………そうか、それで中佐は俺を追い出したんだな」
                        あき
カールはヒュースの企みを察し、呆れた様子で苦笑したが、ふと軍服姿のサラの全身を見る

と、驚いて目を丸くした。

「な、何だ、そのミニスカートは!?」

「あ、これ? やっぱり短すぎるよねぇ…。変だとは思ったんだけど、中佐が用意してくれたも

のだから一応着てみたの」

「中佐のヤツ……何考えてるんだ? そんな格好では師団長なんか出来る訳がないのに…」

何となくヒュースの狙いが分かった様な気がしたカールは、そうはいくかと廊下で見張りをして

いる女性兵士を呼び、急いでズボンを持って来る様に指示を出した。

女性兵士が慌てて部屋から飛び出して行くと、カールはソファーに身を投げ出し、すかさずサ
  ひざ
ラを膝の上に座らせた。

「中佐達は余程君の太股が見たいらしいな」

「そお? 太股なんて見ても面白くないと思うんだけど?」

「男は好きなんだ、そういうのが。俺も君のだったら好きだしね。だが、君のを見ていい男は俺

だけだ。他のヤツには絶対見せたくない。こんな綺麗な足……誰が見せてやるものか…!」

「ダ、ダメ……カール………」
                      な
カールが力説しながら太股を撫で回すので、サラはピクピク反応しつつも抵抗した。
                                つ
すると、その反応によりカールの心に火が点いてしまい、彼の手がスカートの奥にまで侵入し

てきた。

「んv ……ダ、ダメ…だよ………あん…v」

サラが抗えば抗う程カールの手は奥深くへと進み、やがて足の付け根に到達すると、下着越

しに彼女の一番敏感な部分を刺激し始めた。
                                                           ふさ
思わずサラが大きく声をあげそうになると、カールは間髪入れずに彼女の口を塞ぎ、同時に空
                         はず
いている方の手で上着のボタンを外し出した。

ここ数ヶ月まともな休暇が取れず、会えても時間が短くて口づけしか出来なかったせいか、カ

ールは今いる場所も置かれている状況も忘れ、夢中でサラの全てを求めた。
                  いだ
サラも同じ様な気持ちを抱いてはいたが、さすがに今はダメだとカールの体を必死に押し返

し、何とか愛撫を中断させた。

「師団長が師団長に手を出すなんてダメだよ、カール」

「……そうだな。でも夜になったら……いいだろ?」

「ふふふ、いいわよv だからそれまでは我慢してね、大佐殿」

「了解した」

二人は微笑み合いながら再び口づけを交わそうと顔を近づけたが、後一歩というところでドア

をノックする音が聞こえ、中断せざるを得なくなってしまった。

カールはこっそり舌打ちしてからサラを膝から下ろし、廊下にいる女性兵士からズボンを受け
                     さわ
取ると、何事もなかった様に爽やかな笑顔で礼を言った。

女性兵士は顔を瞬時に真っ赤にさせ、カールに何度も頭を下げながら部屋から出て行った。

女性兵士達の不可思議な反応にはもう慣れてしまっているので、カールは急いで着替える様

に言ってサラにズボンを手渡した。

これなら安心、とサラはミニスカートを脱ごうとしたが、カールの熱っぽい視線に気付くと、すぐ

に動きを止めた。

「カール、向こう向いてて」

「何故だい?」

「何故って……女性の着替えは見ちゃいけないのよ」

「君のはもう何度も見ているから、問題はないと思うが?」

「ダメなものはダメなの。ほら、早く向こう向きなさい」
          しか
サラに母親に叱られる様な口調で言われ、カールははにかんだ笑顔を見せると、言われた通

り素直に後ろを向いた。

実を言うと、父に叱られる事はあっても母に叱られる事は皆無だった為、サラに叱られるのは

結構好きだったりするのだ。

やがてズボンに着替え終えたサラは、カールの前まで移動してクルリと回ってみせた。

「どお?」

「よく似合ってるよ、これで一安心だな」

「そうだねv」
                         なご
全てが一段落し、カールとサラが和やかに微笑み合っていると、妙にリズム感のあるノックの

音が部屋に響いた。

「サラさ〜ん、そろそろ皆にご挨拶をお願いしま〜〜すv」

「は〜い」

サラは元気に返事を返してドアを開こうとしたが、声で誰が呼びに来たのか分かったカールは

彼女を止め、自分が代わりにドアを開いた。

ドアの向こうにいたのは当然副官のヒュースで、サラを出迎えようと満面の笑みを浮かべてい

たが、カールの姿が目に入った途端笑顔が凍り付いた。

「やあ、中佐。もう準備は整ったのかね?」

口調はいつも通り落ち着いていたが、顔は極寒を感じさせる冷笑を浮かべているカールに、ヒ

ュースは慌てて何度も頷いてみせ、助けを求める様にサラを見つめた。

カールが怒り出してはいけないと、サラが笑顔で二人の間に割って入ると、その時初めて彼

女の全身を見たヒュースは、ミニスカートではない事に気付いて驚いた。

「サラさん、私がお渡しした軍服はどうされたんですか?」

「あぁ、あれね、あれは……」

「あんな短いスカートで師団長が務まると思うのか? 下心がありすぎるぞ、中佐」

「べ、別に下心があってミニスカートにした訳ではありません! その方がアイドル性が上がる

と思ったんです!!」

「アイドル性…だと? 話にならんな。行こう、サラ」

カールがサラを連れて歩き出そうとすると、すかさずヒュースが二人の行く手を遮った。

「ご案内は副官の私がします。大佐はご遠慮下さい!」
                                   にな
「確かに副官は師団長を補佐するという役目を担っている。が、彼女は一日だけの師団長だ。
                   じきじき
それならば師団長の私が直々に補佐する方がいい。サラ、君はどう思う?」

「そうねぇ……師団長のあなたに補佐してもらう方がいいかなぁ…。中佐に迷惑はかけられな

いし…」

「という訳で、決まりだ、中佐。彼女の事は私に任せて、君はいつも通り副官業務に勤しんで

くれ」

「か、勝手に決めないで下さい! 今日は何もしなくてもいいようにスケジュールを調整してい

るんです! だからサラさんの補佐は私がします!!」

「いいや、私の方が適任だ。中佐、上官である私の指示に従えないと言うのかね?」

「サラさんの事に関しては、例え上官の指示であろうとも従えませんな」

久方振りに熱い戦いを繰り広げるカールとヒュース。
男と男の戦い(笑)
困ったサラは再度二人の間に割って入り、満面の笑顔で戦いを仲裁した。

「お仕事がないのなら、二人に補佐してほしいわ。その方が心強いものv」

「そ、そうですね! では今日はサラさんと私、
ついでに大佐の三人で頑張りましょうv」

ヒュースはカール相手の時とあからさまに態度を変え、笑顔で二人を先導し始めた。
                            こっけい
何度見ても彼の態度の変わりようは滑稽である。

カールはいい加減諦めればいいのにと常々思っているが、どうやらヒュースは完全にサラのフ

ァンと化しており、恋愛に発展させようとは考えていない様だ。

従って、カールとサラが婚約した事にも特に関知する気配を見せない。

その点だけで考えれば大変喜ばしい事だったが、サラの私設親衛隊になりつつあるヒュース

と戦うのは正直言って面倒だ。

何とかサラと関わりを持たせない様に出来ないか、とカールが考え込んでいる内に、三人は

兵士達が待つ格納庫へ到着した。

一部の兵士はカールの姿を見るなり顔が青ざめたが、ほぼ全ての兵士はカールとサラの二

人を見て目を輝かせた。

男性兵士だけでなく女性兵士も、カール達をセットにして憧れている者が多いのだ。

しかも今日はサラも軍服を着ており、貴重な二人の姿をカメラに収めようと、隠し撮りを決行す

る者も少なくなかった。

やがてヒュースに促されたサラが挨拶をしようと前に進み出ると、兵士達はすぐにしんと静ま

り返った。

「おはようございます、第一装甲師団の皆さん。本日、一日師団長を務めさせて頂く事になり

ました、サラ・クローゼです。階級は大佐という事になっています。至らぬ点が多々あるとは思

いますが、カー……シュバルツ大佐とブラント中佐の力をお借りして、師団長を勤め上げたい

と思っています。今日一日、よろしくお願いします」

『よろしくお願いします!!』

サラの挨拶に兵士達は口を揃えて返事を返し、ビシッと実に美しく全員が敬礼してみせた。

サラも満面の笑顔で敬礼すると、ヒュースから解散の号令がかかり、兵士達は通常業務へと

戻って行った。

格納庫内に残ったサラ達はまず整備兵達の仕事ぶりとゾイドを見学し、彼らに激励の言葉を

贈ってから、次の見学場所へと移動を開始した。

ハッキリ言って見学は師団長の仕事ではないのだが、皆の様子を見回る事は一応業務の内

なので、カールは先導を続けるヒュースと彼から説明を受けているサラの後に黙ってついて行

った。

通信兵達が詰めているオペレーター室で他の基地との通信訓練をしたり、女性兵士を集めて

女性同士で話し合いをしてみたりと、サラは女性ならではの視点でカール達に意見し、順調

に師団長業務をこなしていった。

そして昼食を食べる為に訪れた食堂でも見学を行い、食堂のおばさん達と熱く語り合ったり、

新メニューを試食させてもらったり、食堂はいつも以上に賑やかであった。

昼食を終えてからは基地内にある訓練棟へ移動し、訓練に勤しんでいる兵士達の様子を見

学し始めた。

今は半分休暇状態なので、ほとんどの兵士が訓練棟に詰めており、どの施設も兵士達で溢

れかえっていた。

訓練棟内の見学は順番をサラに決めてもらおうとの事で、三人は彼女が最初に目を付けた射

撃場へ足を運んだ。

「わぁ〜、すっごく広いんだね」

「そうなんですよ。帝国にある基地の中で一、二を争う程の広さを誇る、我が部隊自慢の射撃

場なんです」

「へぇ、さすが第一装甲師団の基地ね。あ、カール……じゃなくて、シュバルツ大佐、ちょっと

撃ってみせて下さい」

「射撃なら私も得意ですから、私がお見せしますよ、クローゼ大佐v」

そう言ってヒュースは返事を待たずに勝手に銃を用意し、遠くの方にポツンと見えている的に

向かって射撃訓練を開始した。

本人が得意と言うだけあって、そこそこの腕前ではあったが、カールの方が上手だろうと判断

したサラは傍にあった銃を手に取り、キラキラした笑顔で彼に差し出した。

カールは渋々といった様子で受け取ったが、ヒュースの隣に行って銃を構えた瞬間、目つきが

ガラリと変わった。

カールの射撃の腕前は帝国軍内でも広く知られているので、周囲で訓練に励んでいた兵士
    す
達は直ぐさま銃を下ろし、サラと一緒になって笑顔で見学し始めた。

兵士達の熱い視線にヒュースも思わず銃を下ろし、静まり返る射撃場内にカールが放った銃

撃音だけが美しく響いた。

動きに全く無駄がなく、迷いも一切無かった。

数秒でカールの射撃の結果が近くのモニターに表示され、その結果を見た兵士達から称賛の

声があがった。

的にあけられた穴は中心の一ヵ所のみ。

要するに、一発目にあけた穴に全弾命中させたという事だ。

カールが静かに銃を下ろすと、サラは拍手をしながら彼の傍へ歩み寄った。

「すごいわ! 全部中心に命中させたのねv」

「いや、全部じゃない。二、三発中心から少しずれてしまったよ。君が見てたから緊張したの

かもしれない」

「少しって……数ミリ以内なんてずれた内に入らないわよ。さすがね、カール…じゃなくて、シ

ュバルツ大佐v」

「お褒め頂き光栄です、クローゼ大佐」

カールとサラが完全に二人の世界に入ってしまうと、兵士達はうっとりとその光景に見とれて
                       ぎょうそう
いたが、ヒュースだけは怒りの形相で二人の間に割り込み、次はどこへ行くのかと見学の再

開を促した。

サラは一瞬困った様な顔を見せつつも、師団長らしく振る舞わねばと次の見学場所を選び出

し、三人はコンピュータと擬似戦闘が出来るシミュレーションルームへ向かった。

コンピュータ相手なら、とサラが一度戦ってみる事になり、カールとヒュースは大きなモニター

で戦況を見守っていたが、数分も経たない内に『YOU WIN!』の文字が浮かび上がった。

兵士の中には何度挑戦しても勝てない者もいるというのに、サラは初戦であっさり勝ってしま

った。

周囲にいた兵士達からは称賛の声と共に驚きの声もあがり、このまま上官になってくれたら

いいのに…とコソコソ話す者まで出て来た。
                                       けいれん
そうなる事を最も恐れているカールは、眉をピクピク痙攣させながら兵士達の話を聞いていた

が、彼の気持ちを百も承知のサラは、聞こえなかったフリをして二人の元へ戻って来た。

「ねぇ、このシミュレーションって人同士で対戦は出来ないの?」

「もちろん出来ますよ。良かったら私と対戦してみますか?」

「ええ。お願いします、中佐」

サラとヒュースが向かい合う形で操縦席に座ると、カールは当然愛する女性の背後に移動

し、戦況を静かに見守り始めた。

最初はヒュースがあからさまに手加減しており、サラが圧倒的に優勢で、そのまま彼女を勝

たせるつもりと思われたが、途中から徐々に接戦になっていった。

気になったカールがヒュースの様子を伺ってみると、何やら顔に焦りが色濃く出ていた。

どうやらサラが予想以上に強かった様だ。

例え負けるつもりで戦い始めたと言えども、余りにもあっさり負けるのは軍人のプライドが許さ

ないのだろう。

しかしヒュースの様子に気付いていないサラは攻撃の手を休めず、結局彼女の完全勝利とい

う形でシミュレーションが終わった。

「わぁ、勝っちゃった〜。中佐、手加減してくれたんだね。ありがとうv」

「い、いえ……喜んで頂けて良かったです…」

実を言うと一生懸命戦った上で負けてしまったのだが、そんな事は口が裂けても言えないの

で、ヒュースは引きつった笑みを見せながら返事をした。

全てを知っていたカールは思わず吹き出しそうになるのを必死に堪え、熱っぽい視線を向けて
           かし
くるサラに首を傾げてみせた。

「何だい?」

「あなたとも対戦してみたいの。戦ってくれる?」

「俺は遠慮しておく、中佐の二の舞にはなりたくないからね」

「二の舞…? どういう事?」

「中佐に聞けば分かるさ。中佐、彼女に説明してやってくれ」

カールがわざと話を振ると、ヒュースはビクッと体を震わせ、笑って誤魔化しながら慌てて次の

見学場所へ行く様に促した。

サラはキョトンと不思議そうな顔をしていたが、続いてカールにも促されてしまった為、仕方な

くシミュレーションルームを後にし、訓練棟内で一番兵士が集まっている巨大なトレーニング

ルームへとやって来た。
             きょうじん
そこには兵士達が強靱な肉体を作り上げる為の機器が所狭しと並べられており、中心には体

術などを行う為の広々としたスペースが設けられていたりと、一目で設備が充実している事が

分かった。

サラは目を輝かせて様々な機器を見て回り、ヒュースの勧めでいくつかの機器を体験しつつ、

最後に中心にある体術用スペースへ行くと、丁度兵士達が紅白戦を行っている最中であっ

た。

男女関係なく繰り広げられる真剣勝負。

サラは常に女性を応援し、熱い声援を送り続けていたが、紅白戦が終了すると不敵な笑みを

浮かべてヒュースに話し掛けた。

「中佐、私も戦ってみたいんだけど?」

「あぁ、サラさ……クローゼ大佐は体術がお得意でしたね。いいですよ、私がお相手します」

「中佐って第一装甲師団で一番強いの?」

「え……い、いえ、一番ではないですが、それが何か?」
                                                 がい
「第一装甲師団で一番強い人と戦ってみたいの、その方が戦い甲斐があるから」

「一番強い人……ですか?」

ヒュースは困った様な顔を見せたが、思わず隣にいる上官に目をやり、話を聞いていた兵士

達も同じ人物に視線を集中させた。

皆の無言の答えで一番強い人を察したサラは、その人物……カールに早速勝負を申し込ん

だ。

「シュバルツ大佐、私と戦って下さいませんか?」

「師団長のお願いなら断る訳にはいきませんね。喜んでお相手させて頂きます」
                  あうん
カール達の話し合いは阿吽の呼吸で終了し、すんなり話が決まったと思いきや、二人の間に

当然の様にヒュースが割り込んできた。

「ダメです、サラさん! 危険です!!」

「大丈夫よ、中佐。私だってそこそこ強いし、危なくなったら即降参するから」
                                                    かこつ
「そういう意味の危険ではありません! 大佐の事ですから、勝負に託けて何かするに決まっ

てます! あなたにそんな危険な事をさせる訳にはいきません!!」

「あはは、考えすぎよ、中佐。彼はそんな人ではないわ」

サラは軽く受け流したが、ヒュースが尚も言葉を続けようとすると、彼の肩を力強く掴んで止め

る者がいた。

誰もが予想した通り、ヒュースを止めたのはカールで、いつもの極寒を思わせる冷たい笑みを

浮かべていた。

「中佐、上官の指示に従えぬとは感心できないな」

「べ、別に従わないとは言ってません! ただ大佐が……」

「私が……何かね?」

カールが笑顔を見せれば見せる程ヒュースは恐怖を感じ、必死になって彼から目を逸らしな

がらサラに頷いてみせた。

「し、仕方ありませんね。師団長であるあなたが望むのであれば、従わない訳には参りませ

ん。しかしいざという時には私がお助け致しますので、安心してシュバルツ大佐との勝負に挑

んで下さい」

「ええ。ありがとう、中佐」

一悶着あったがようやく話がまとまり、カールとサラの真剣勝負が行われる事になった。










●あとがき●

一日師団長話、如何でしたでしょうか?
…いや、まだ前半なんで終わってないですが。
芸能人などがたま〜にやっている一日警察署長のようなものを一度やってみたいという発想
から、今回の話が出来上がりました。
第一装甲師団の基地内の様子も何となく表現してみましたが、何だか訳の分からない基地
になってしまいました(笑)
イメージとしましては、高校の体育館。
軍関係の事を調べたりするのは面倒(死)なので、私がこうだったら面白そうvと思った施設に
仕立て上げました。
絶対本気にしないで下さいねv(する人はいないと思うけど…)
サラのミニスカートについてですが、研究所の制服で既にミニスカート(タイト)をはいているの
ですが、それよりも更に短いスカート(フリル)でした。
だからカールがあんなに怒ったんですねv
結局あのミニスカート姿はカールの目の保養になっただけでしたが、いつかイラスト化したいと
企んでおります。サラの脚線美を描きたい!(笑)

●次回予告●

一日師団長として第一装甲師団で働くサラ。そして彼女を補佐するカールとヒュース。
訓練にも参加しようと、サラはカールと体術で対決する事になりました。
しかし第一装甲師団最強と言われるカールには勝てる見込みは皆無でした。
それでもサラは懸命にカールに立ち向かって行きます。
第七十話 「一日師団長〜後編〜」  早く降参しないと…今夜は君をめちゃくちゃにするぞ

                        <ご注意>

次の「一日師団長〜後編〜」は性描写を含みます。
お嫌いな方・苦手な方はお読みにならないで下さい。