第六十六話
「ダブルデート〜後編〜」
遊園地での楽しいデートの後、サラの案内で四人がやって来たのは、帝都ガイガロスにある 最高級ホテルであった。 カールは大した反応を見せなかったが、ハーマンとミシェールはポカンとした表情で建物を見 上げ、不安そうにサラへと視線を落とした。 初デートなので資金は十二分に用意してはいるが、さすがに最高級ホテルへ泊まるとなると ふところ 懐が淋しくなってしまう。 ハーマン達の不安を察したサラは軽い足取りで二人の前へ移動し、クルリと振り返ると明るく 笑ってみせた。 「このホテルのオーナーとは知り合いだから、今日は特別に格安でスイートルームを用意して もらったんだよv」 「格安でスイートルーム!?そりゃすげぇ!!」 「でしょ?じゃ、行きましょ♪」 ふっしょく ハーマン達の不安を見事に払拭し、サラは三人を先導してホテル内に入ると、オーナーと話 す為に一人でフロントへ向かった。 残る三人がしばらく待っていると、オーナーと話し終えたサラが三人の元へ戻って来たが、ど ういう訳か不自然な程困った表情を浮かべており、ハーマンとミシェールを交互に何度も見上 げた。 「サラ、どうかしたの?」 「緊急事態発生よ。オーナーに三部屋用意してくれるように頼んだつもりだったんだけど、何 かの手違いで二部屋しか用意出来なかったらしいの」 あ 「他の部屋は空いてないのか?」 「残念ながら、今日は満室で空きがないそうよ」 『という事はつまり……』 四人は互いの顔をゆっくりと見回し、どういう風に部屋割りをするのかで悩み始めた。 カールとサラは始めから決まっている様なものだったが、ハーマンとミシェールは突然の出来 事に戸惑い、なかなか結論を出せずにいた。 たた やがてある結論に達したハーマンは、ミシェールではなくカールの肩をぽんと叩いた。 「男と女に分かれて泊まろう」 「…は?俺はサラと同じ部屋にしか泊まらんぞ」 ぜいたく 「今日くらい別の部屋でもいいだろ〜?贅沢言うなよ、シュバルツ」 せっかく ないがし 「贅沢を言っているのはお前の方だ。折角の初デートなのに、ミシェールを蔑ろにするつもり か?」 「な、なな、な、な、蔑ろになんかする訳ないだろ!?」 「だったらミシェールと同じ部屋にするんだな」 のぞ カールとハーマンのやり取りを一通り見た後、サラは黙り込んでいるミシェールの顔を覗き込 んだ。 「ミシェール、あなたはどうしたい?」 「え………私?私は…………」 よど ミシェールが頬を赤らめながら言い淀んでいると、カールとサラに背中を押されたハーマンが 恐る恐る彼女に尋ねた。 「ミ……ミ、ミシェール、あのさ………その…………お、俺と同じ部屋でいいか?」 「同じ……部屋…?」 「い、嫌だったら嫌ってハッキリ言ってくれ。俺、別の所を探すから」 「ううん、嫌じゃないわ。私…………あなたと同じ部屋でいいよ」 そう言ってくれる事を望んではいたが、ミシェールの返事にハーマンは飛び上がる程驚き、ど う対処すれば良いのかとアタフタし始めた。 本心を言ってしまえば嬉しい……嬉しすぎる。 しかし若い男女が同じ部屋で一晩過ごすという事は、間違いが起こる可能性が…… 想像だけが単独で突っ走り、ハーマンは照れたりにやけたりと百面相していた。 自分にもそういう時期が無くもなかったカールは、ここは放っておくしかないとハーマンを放置 し、四人はホテルのスタッフの案内で今夜泊まる部屋へと移動した。 「じゃ、十分ほど休憩を入れてから夕食にしましょうか。後で呼びに行くから、それまでゆっくり しててv」 「ええ、また後でね」 女性陣はにこやかにそれぞれの部屋へ入って行ったが、ハーマンはぽや〜んとした状態で 廊下に突っ立ったままで、カールはそんな彼を見て長いため息をついた。 自分にもこんな時期があったのかと思うと、恥ずかしくて穴があったら入りたい気分になった。 きっとハーマンも数年後そう思うに違いない。 カールは一応助け船を、とハーマンの目を覚まさせる事にした。 「おい、ハーマン」 「………………」 うま あいそ 「ずっとそんな風だと、上手くいくものも上手くいかなくなるぞ。ミシェールに愛想を尽かされな いように気を付けるんだな」 「………え!?あ……そ、そうだな、気を付ける」 ミシェールの名が出た時点でようやくハーマンは正気に戻り、ぎくしゃくしてはいたが力強い 足取りで室内へ姿を消した。 カールはやれやれと自分に割り当てられた部屋に入ると、先に入っていたサラを捕獲して大 きなソファーに一緒に腰掛けた。 「サラ、始めから二部屋しか予約してなかっただろ?」 「えへへ、やっぱりあなたにはバレちゃったわね」 「結構強引な手に出たんだな。ミシェールはともかく、ハーマンが暴走してしまったらどうする んだ?」 「う〜ん……それが一番の問題なんだよねぇ…。でもミシェールは一緒の部屋でいいって言っ てくれたし、ハーマンが暴走しても大丈夫なはずよ」 「そうだな。キッカケは人任せだったが、後は本人達に頑張ってもらうしかないな」 いたずら カールとサラは悪戯っ子の様にクスクス笑い合い、ソファーでしばらくいちゃいちゃしてから、頃 合いを見計らってハーマン達の部屋へ足を運んだ。 カールがノックすると、ほぼ同時にハーマンがドアを開き、慌てた様子で部屋から出て来た。 『密室に二人きり』という状況に慣れていなかった為、ハーマンもミシェールも会話がない状態 のまま休憩時間を過ごしていた様だ。 従って、カール達が呼びに来るのを心待ちにしていたのだと思われる。 ハーマンに続いてミシェールも慌てて部屋から飛び出し、照れ臭そうに頬を赤らめながらサラ の隣へ移動した。 あ サラとカールは顔を見合わせて苦笑したが、敢えて何も言わずにホテル上部にあるレストラン へ向かった。 きおく 最高級ホテルというだけあって中のレストランも最高級であったが、だからと言って気後れは と せず、四人は至って普通に夕食を摂っていた。 わざわ しかしその普通さが災いし、食後のデザートを食べ始めた頃、サラがハーマンとミシェールを 驚かせる行動に出た。 自分と違うデザートを食べているカールに、食べさせてほしいとおねだりしたのだ。 「一口だけでいいからちょうだいv」 「仕方ないなぁ、一口だけだぞ」 カール達は本当に普段している事をしただけなのだが、ハーマン達は体を硬直させたまま二 なかむつ 人の仲睦まじい様子を凝視していた。 おい 「ん〜美味しい〜〜v お礼に私からもあげるね」 サラは自分のデザートをフォークで手頃なサイズに切り分け、カールの口までゆっくりと運ん だ。 そうしてカールがパクッとデザートを頬張ると、ハーマンは思わず握り締めていたフォークを落 としてしまった。 その音に今度はカールが驚く番となり、慌ててハーマン達の方へ振り向いたが、サラが持っ ているフォークの位置は変わらなかったので、フォークに残っていた生クリームが口の端にベ ッタリと付いた。 「あ〜、もうカールったら。取ってあげるから動かないでね」 「う、うん…」 言われた通りカールがじっとしていると、サラは彼の口の端に付いている生クリームをペロリと な 舐め取った。 すさ これにはカールも驚いてしまったが、ハーマンとミシェールの驚きは凄まじいものがあり、持ち 直したはずのフォークを再び落とした。 サラはハーマン達の反応を見なかった事にし、カールの口元をナプキンで綺麗に拭くと、何事 もなかった様に黙々とデザートを食べ始めた。 やがてハッと我に帰ったハーマンは横目でチラリとミシェールを見、ぎこちない手付きでデザ ートを口に運ぶと、カールのマネをして口の端にわざと生クリームを付けてみた。 ドキドキしながら舐め取ってくれるのを待つハーマン。 彼の思いを察して困惑の表情を浮かべるミシェール。 カールとサラが心配そうに見守る中、ミシェールが出した結論は…… 「……ロブ、クリームが付いてるわよ」 そう言ってミシェールは舐め取らずにナプキンで生クリームを拭き取り、ハーマンは『ガ〜 ン!』という音が聞こえてきそうな程のショックを受けた。 モノクロになってしまったハーマンを気にしてか、サラは全員がデザートを食べ終えるのを見計 らい、三人にある提案を出した。 「このホテルの最上階にバーがあるらしいの。折角だから行ってみない?」 「そ、そうね、行ってみましょ」 ミシェールはサラの提案に慌てて同意すると、隣にいるショックを受けたままのハーマンの様 うかが 子を伺った。 他の人であれば気付かなかっただろうが、愛する女性の視線にはさすがに気付かない訳は なく、ハーマンは必死に笑顔を作ると頷いてみせた。 カールももちろんサラの提案に賛成し、四人はホテルの最上階にあるバーへと移動した。 とも バーの中は大人の世界なだけあって薄暗く、あちこちに温かな光を灯すランプが置かれてい た。 バーという所に初めて来た女性陣は嬉しそうに周囲を見回し、男性陣を連れてテーブル席に 着くと、早速とばかりに店員に注文を始めた。 そろ 男性陣は当然酒を注文、しかし女性陣はバーだというのに揃ってオレンジジュースを注文し た。 酒好きのハーマンは妙に驚いた表情を見せ、不思議そうにミシェールとサラに尋ねた。 「二人共、オレンジジュースでいいのか?」 「ええ、お酒は余り得意じゃないの。ねぇ、サラ?」 「うん。私達の事は気にしなくていいから、二人は好きなだけ飲んでね」 ゆる 自分達の為にわざわざバーへ来てくれたのかと男性陣は感激し、見るからに緩んだ笑顔で 愛する女性を眺めていた。 しばらくして注文した品が運ばれてくると、すかさずサラが乾杯しようと言い出し、彼女の合図 で乾杯する事になった。 全員がグラスを手に持ったのを確認し、サラは満面の笑顔で『初デートに乾杯v』と言うと、素 早くオレンジジュースを一口飲んだ。 止める間もなく乾杯されてしまった為、ハーマンとミシェールは顔を真っ赤にしつつ急いでグラ スに口を付け、とりあえずサラと同じ様に一口だけ飲んで動きを止めた。 一方、カールは至って落ち着いた様子でグラスを口に運び、酒の味を充分堪能してからサラ に話し掛けた。 「君が酒を飲めないなんて知らなかったよ、新たな発見だな」 「ふふふ、そうねv でも全く飲めないって事もないんだよ。前に一度飲んだ事があるんだけ ど、次の日ステア達に『外ではお酒禁止!』って言われちゃって、それから飲まないようにし てるの」 「……酒癖が悪かったのか?」 「さぁ、どうなのかな?お酒を飲んだ直後から記憶が飛んじゃってるし、皆はその時の事話し てくれないし、何が起こったのか自分ではサッパリなのよ」 「……………」 周囲の反応を見る限り、サラは相当酒癖が悪い様だ。 怖いので絶対酒は飲まさないでおこうとカールがこっそり決意していると、前の席に座ってい るハーマンが彼に目線だけで合図を送ってきた。 カールは一瞬キョトンとなったが、ハーマンが必死に訴えかけてくるので、やれやれとグラスを 持って立ち上がった。 はず 「サラ、ミシェール、少しの間席を外していいか?」 「どこ行くの?」 「カウンター席で飲んでくる」 「あぁ、男同士で話し合いね。わかったわ、こっちも女同士で話し合いしてるねv」 愛する女性に笑顔で見送られながら、カールとハーマンは足早にカウンター席へと移動した。 しかし折角移動したというのに、ハーマンが何も言い出さずに酒を飲み続けるだけであった 為、カールは先輩らしく優しく尋ねてみる事にした。 「……で、俺に何を聞きたいんだ?」 「………あ、あのさ…………その……」 「何だ、さっさと話せ」 「ミ、ミミ、ミ、ミ、ミシェールが……お、お、俺と一緒の部屋に………とと、と、泊まってもいい って言ったって事は………こ、こここ、こ、今夜は何が起きても構わないって事だよな!?」 「………そうだな、そう解釈しても問題ないと思う。きっとミシェールも多少は期待しているだろ うからな」 「や、やっぱりそうだよな!じゃあ、今夜は張り切って……」 急に元気になったと思いきや、また元のだんまりに戻るハーマン。 何か不安になる要素があったのかとカールが様子を見ていると、ハーマンは照れ臭そうにグ ラスの中の氷を回しつつ話し出した。 「ま、まだ結婚してないのに、そんな事していいのか…?」 「じゃあ、しなければいいだろ」 「そ、それは無理だ。一晩同じ部屋で過ごして我慢出来る訳がない。お前もそうだろ?」 「まぁな。どちらにしても、ミシェールとは行く行く結婚するつもりなんだろう?ならば何の問題 もない」 「そ、そうか、問題ないのか。よし、それなら今夜頑張って……」 またしても立ち直った瞬間にだんまりに戻るハーマン。 不安なのはわからなくもないが、何度繰り返すつもりなのだろうか…? まぎ いい加減アドバイスするのにも飽きてきたカールは、酒を飲んで気を紛らわせつつ、ハーマン が口を開くのを根気良く待った。 おもも やがて心の整理が出来たのか、ハーマンは真剣な面持ちでカールに頭を下げてみせた。 しの 「恥を忍んで聞くから、先輩として良いアドバイスを頼む」 「了解した。俺にわかる範囲でいいなら、出来る限りアドバイスしよう」 「すまんな、シュバルツ。それで、だな………ど、どうやってそういう展開に持っていけばいい んだ?俺にはサッパリわからんのだ」 「ハッキリ言えばいいんじゃないか?彼女とは気心知れた仲なんだから、ちゃんと言葉にすれ ばわかってくれるさ」 「ちゃんと言葉に……出来るだろうか…?」 「ここぞというところで男を見せなければ、ミシェールに愛想を尽かされるのは確実だな。とに おび いか かくそういう事に関しては、女性の方が怯えやすい傾向にある。男は如何に女性を落ち着か せる事が出来るかが成功の鍵だ。どんなに緊張していても表面上は冷静に、女性の緊張を と 解きほぐす事だけを考えて行動するんだ。そうすれば全てが上手くいく……はずだ」 じょうぜつ 普段どちらかと言えば無口なカールが突然饒舌になったのだが、ハーマンは不自然に思う事 なく彼の話を黙って聞いていた。 今は他の事を気にしている余裕が無いのだろう。 だからこそ、カールも的確なアドバイスをしようと饒舌になったのだと思われる。 男同士でなければ出来ない話し合いは、その後はもっと奥まった内容に突入していき、結局 一時間近くも続いたのだった。 |
その頃、女性陣はというと……男性陣とほぼ同じ話題で話し込んでいた。 「ねぇ、サラ。こ、今夜はやっぱり………何かある、よね…?」 「ミシェール、もしかして………ハーマンと同じ部屋はイヤだった?」 「ううん、イヤじゃないよ。ただ……いきなりだから心の準備が出来てなくて………」 「そっか……。でもハーマンの事、大好きなんでしょ?」 「う、うん……大好き…」 「じゃあ、大丈夫だよv 大好きな人と身も心も結ばれるんだもの、これ以上幸せな事はない わ」 「幸せ、かぁ…。うん、そうだよね。私、頑張ってみる」 ミシェールが力強く頷いてみせると、サラも満面の笑顔で頷き、二人はもう一度乾杯してオレ ンジジュースを飲んだ。 そしてそのまま違う話題に移るかと思われたが、ミシェールに感化されたサラはオレンジジュ こぶし ースを一気に飲み干し、ぎゅっと拳を握り締めた。 「よ〜し、私もミシェールを見習って頑張ろう!」 「え………頑張るって何を…?」 「いつもカールに全部任せちゃってるから、今夜は頑張って積極的になろうと思ってv」 「せ、積極的!?」 いま 「うん、そう。私、未だにそういう事する時緊張しちゃってるの。だから少しは成長しないと、ね」 「………やっぱり大変なんだねぇ。不安になってきちゃった……」 「最初は誰だって不安なものだよ、私もすっごく不安だったもん。でも大丈夫、きっとハーマン なら何とかしてくれるはずよ」 「そ、そうよね、最初は誰だって不安だよね。じゃあ、早めに心の準備を済ませておいた方が いいかしら…?」 「その方がいいかもしれないわね。部屋に入った途端、ガバッて可能性もあるしv」 「や、やだ……サラったらもう………」 顔を真っ赤にしているミシェールを微笑ましく思いつつ、サラはカウンター席で話し込んでいる カール達に目をやり、二人には聞こえていないのに小声で話し始めた。 「こういう事を普通に話せるのってあなただけだから、今日話せて良かったわ」 「私もよ。これからも色々と相談に乗ってね、サラ」 「了解v 大して知識は無いけど、出来る限り助言します。でもその代わり、私の相談にも乗っ てね」 「もちろんよv」 サラとミシェールは互いに協力を要請し合うと、男性陣と同様に奥まった話へと突入していっ たが、そんな二人の元へ見知らぬ男達が近づいて来た。 どうやらサラ達をナンパするつもりらしい。 しかし男達がサラとミシェールに声を掛けた途端、両者の間に二人の男性が割り込んだ。 二人の男性とは、もちろんカールとハーマンである。 先程まで周囲に全く目が行かない様な状態であったのに、こういう時は二人共妙に素早い。 ヤキモチ焼きな二人ならではの行動と言える。 にら カールとハーマンは男達をギロリと睨み、無言の圧力を掛けて即退散させると、瞬時に表情を 変えて愛する女性に微笑みかけた。 こうして男性陣・女性陣に分かれての話し合いは無事終了し、四人はバーを後にして自分達 の部屋へと歩き出した。 とき いよいよ運命の刻が迫る…!! ハーマンは何度も何度も深呼吸して心を落ち着かせ、ミシェールは祈る様な仕草で心の準備 を行い、カールとサラはそんな二人を見守りながら歩いていた。 たど そうして部屋の前に辿り着くと、四人は何かを確認するかの様に立ち止まり、女性陣だけが 挨拶を交わした。 「じゃ、また明日」 「うん、また明日ね」 「頑張ってね、ミシェール。私も頑張るからv」 「う、うん……頑張る………」 ミシェールが頬を赤らめながら頷くと、サラの言葉の意味を察したハーマンも頬を赤らめ、二人 は見るからにぎくしゃくした足取りで室内に入って行った。 サラはハーマン達を笑顔で見送ると急いで自分の部屋に入り、壁に耳をあてがって隣室の様 子を伺い始めた。 余程気になるらしいが、このまま蔑ろにされても困るので、カールはサラを強引に壁から引き 離した。 「サラ、そんな事をしても二人の声は聞こえないぞ」 「やっぱりそうよねぇ……でも気になっちゃって…。ハーマンが暴走したら、急いで駆け付けな きゃいけないし……」 「ああいう事は本人達に任せておけばいい。他人が首を突っ込むような事じゃない」 「だ、だって……私、ミシェールが心配で………」 「そんなに心配する必要はないよ。ハーマンには俺から色々と伝授しておいた、恐らく暴走す る事はないはずだ」 「そ、そうなんだ…。あなたが伝授したのなら安心だけど、一体どういう事を伝授したの?」 「主に心構えだな。詳しい事を教えるとなると、君の体の事まで話さなくてはならなくなるか ら、先の事は余り教えないようにしたよ」 先輩として当然の事をしたつもりだったが、カールが無意識に嬉しそうに話すと、サラはクスリ と小さく笑った。 「何だかんだ言って、あなたもハーマンの事が心配だったのねv」 「心配というか何というか……今回のダブルデートは俺達のデートでもある訳だし、向こうに何 か問題が起きたら、こっちにまで多少の影響が出そうだからな。問題が起きないようにするの は当然の事だよ」 「ふふふv 親友の事になるといつも素直じゃなくなるわね、カール」 「……………」 図星を指されて黙り込むカールを微笑ましく思いつつ、サラは彼の手を引いて浴室へ向かう と、テキパキと服を脱ぎ始めた。 その光景を見てカールも慌てて服を脱ぎ出したが、そんな彼にサラは驚くべき言葉を投げ掛 けた。 「今夜は全部洗ってあげるねv」 「全部…?」 「そう、全部。ミシェールが頑張るって言ってたから、私も頑張って積極的になろうと思ってv」 サラの大胆すぎる発言にカールは照れ笑いを浮かべ、彼女に導かれるまま浴室内に入ると、 髪を洗ってもらう為にしゃがみ込んだ。 サラは全ての事に頑張るつもりらしく、カールの髪をいつも以上に丁寧に洗い、続いて背中を 綺麗に洗い流すと彼の前へ移動した。 すると、すかさずカールが抱きしめようとしたが、サラは彼の手を優しく払い、腕や広い胸板を 丁寧に洗い上げた。 こうして残るは下半身のみとなり、カールが期待と不安でドキドキする中、サラは何度か深呼 吸してから彼の下半身を洗い始めた。 しかしまだ恥ずかしさが消えていない様で、サラは先にお尻の方から洗い、最後に再びカー ルの前へ戻って来た。 なるべく上を見ない様にしながら足先から上に向かって洗っていくと、必然的に終着点はカー ルのたくましいものになってしまった。 サラは恐る恐るカール自身に手を伸ばし、急いで洗い終えようとしたが、しばらく触れている じょじょ ぼっき 内にそこが徐々に勃起し始めた。 当然サラは驚いて手を離したが、一度反応したものはそう簡単に元には戻らないので、カー ルは困った表情で考え込んだ。 おさ ここで一度すれば治まるかもしれない…。 だが、それでは積極的になると言ってくれたサラの気持ちを裏切る事になってしまう。 カールが難しい顔をして悩んでいると、サラは何も言わずに彼の体にシャワーをかけ、泡を洗 い流してから次の行動に移った。 「……サラ!?」 ためら 驚きの余り硬直するカールの目の前で、サラは躊躇う事なく彼自身を口に含んだ。 あご おちい 大きすぎて顎が外れそうな感覚に陥りながらも、サラは口中で何とか舌を動かし、カールに気 持ち良くなってもらおうと懸命に努力した。 初めての時より多少は余裕があるのか、サラの舌の動きは思い切りが良く、カールを確実に 快楽の世界へと導いていった。 「くぅっ…………サラ……!」 みずか やがて快感が絶頂に達したカールの体から大量の液体が放出されたが、サラは逃げずに自 らの口で全てを受け止め、そのままコクンと飲み込んだ。 ひざまづ うる サラの行動に再び驚いたカールは慌てて跪き、瞳を潤ませている彼女に問い掛けた。 「……サラ、何故飲んだんだ?いや、それよりも何故いきなりあんな事を…?」 「今夜は……積極的になるって言ったでしょ…?」 「それはそうだが……無理して飲まなくても良かったのに………」 「無理なんかしてないわ。あなたがくれたものは全部欲しいから…だから飲んだの……」 「……………そうか。ありがとう、サラ」 カールは気持ちを必死に言葉にするサラを優しく抱き寄せ、心から感謝の言葉を伝えた。 サラが言う積極的とは、彼女のいつもの行動方針を発展させたもの。 全てはカールを喜ばせる為だけに頑張っているのだ。 カールは嬉しくて仕方がないといった笑顔を見せ、お礼にサラの髪を丁寧に洗い出した。 いかが サラはカールの手の動きに完全に身を任せていたが、その手が如何わしい動きを見せ始める と、慌てずすぐに抵抗した。 「ダメ、今夜は私が頑張るんだから」 「じゃあ、ここから出た後も頑張ってくれるのかい?」 「うん。私なりに精いっぱい頑張りますv」 サラの返事を聞いたカールは満足気に頷き、それならと急いで入浴を済ませると、二人は髪 や体をバスタオルで拭いただけで何も身に着けずに寝室へ移動した。 どんな風に頑張ってくれるのか、とカールがドキドキワクワクしていると、サラは彼をベッドに座 またが らせ、その上に跨る形で自分も座った。 おさ すぐにでも行為を始められる体勢だった為、カールは自分を抑えようと必死になっていたが、 ふさ から サラは笑顔で彼の口を塞ぎ、恥ずかしさを感じながらも舌を絡め始めた。 だえき 互いの唾液を飲み合いつつ、深く激しい口づけを続けていると、サラは一番敏感な部分に触 れてくるカールの存在を感じ、思い出した様に口づけを終えた。 「カール、私の体を支えてて」 「………?……わかった」 訳がわからぬままカールが細い腰を持つと、サラは少しだけ腰を浮かし、先程まで自分の体 つか に触れていたカールのたくましいものをそっと掴んで自身の入口まで導いた。 こわごわ つな そして怖々だったが再びカールの上に座った瞬間、二人の体は一つに繋がった。 「あぅ……ん………v」 といき も 二人は同時に快感を感じると、サラは色っぽい声をあげ、カールは思わず吐息を漏らした。 ずいぶん い 随分と大胆な行動ではあったが、サラが挿れただけで動けなくなってしまったので、カールは 心配そうに腕の中にいる彼女の顔を覗き込んだ。 「……サラ?」 「……………待って、今……動くから………」 そう言ってサラはゆっくりと腰を上下に動かし、いつもカールが一方的にしている事を初めて彼 女の方からやってみせた。 自分が動くのもいいが、相手が動いてくれるのもなかなか良いものだ。 おぼ カールは気持ち良さそうに自分も腰を動かし、サラの手助けをしながら快感に溺れていった。 「はぁっ………はぁ………ん………………カール…気持ちいい……?」 「ああ……すごくいい…。だからもっと………動いてくれ……」 「うん…頑張る……」 こた サラはカールの要望に応えようと彼に抱きつき、腰を動かすスピードを必死に速めた。 しだい サラもカールも体に伝わる快感で次第に呼吸が荒くなっていき、それでも相手の唇を求め合 いながら、全身を一つにしようと深く行為を続けた。 やがて二人はほぼ同時に絶頂を迎え、一つになった部分から互いの愛液が混ざり合ったもの あふ すが が溢れ出るのを感じると、サラは体をふるふると震わせてカールに縋り付いた。 「はぁ…………カール……私からはもう………」 「ありがとう、とても気持ち良かったよ。後は俺に全て任せてくれ」 カールはサラの青髪を優しく撫でると、体を一つにしたまま素早く体勢を変え、彼女をベッドへ 押し倒した。 すで すべ 一度行為を行ったお陰か、サラの入口は既に滑りが良くなっていたが、何でもきっちりしてし まうカールは入口から自身を抜き取り、代わりに指を挿れて改めて前戯を開始した。 「あっ……ふぁ…………………ミシェール達…大丈夫かなぁ……?」 「………まだあいつらの事を考えているのか?仕方ないな、激しくして忘れさせてあげるよ」 「やぁっ………やめ………………あぁん……v」 行為の最中にミシェール達の話題が出た為、腹が立ったカールはサラの体を少々乱暴に扱 い、自分達の事だけを考える様に仕向けていった。 すると、サラは素直に他の事を考えなくなり、カールの愛撫に大人しく身を任せ出した。 カールは非常に嬉しそうな笑みを浮かべ、サラと再び一つになって二度目の行為を始めた。 翌朝、サラは時計を見るなり慌てて飛び起きた。 もう正午近い時間だったのだ。 二人だけなら問題ない時間だったが、今回はそうはいかない。 確実にハーマンとミシェールを待たせてしまっている時間だ。 ねぼ まなこ サラは隣でぐっすり眠っているカールを優しく揺り起こし、寝惚け眼の彼の着替えを手伝って から、最後に自分の身支度を整えて部屋を出た。 もうハーマン達は朝食を食べ終え、今頃は部屋でのんびりしていると予想されたが、サラ達が 廊下に出ると同時に彼らも慌てた様子で部屋から飛び出して来た。 さと 二組のカップルは部屋を一歩出た所で動きを止め、互いに同じ理由で寝坊したのだと悟り合 うと、サラは何事もなかった様に明るく挨拶した。 「おはよう。二人も寝坊しちゃったんだね」 「う、うん……」 「じゃ、ちょっと遅いけど朝食を食べに行きましょう」 サラがいつもと変わらぬ態度で先導し始めると、ハーマンとミシェールはほっとした様子で彼 女について行った。 自分の助言が役に立ったかどうか、多少気になったカールはレストランにて朝食を食べ終える のを見計らい、ハーマンにこっそりと聞いてみる事にした。 「……で、どうだったんだ?」 「……………どうって何がだ?」 「ミシェールとは上手くいったのか?」 「う………………」 ハーマンが言葉を詰まらせると、カールはやれやれとため息をついた。 「やはりダメだったんだな」 「ダ、ダメじゃないぞ!確かに一回目は失敗したが、二回目はちゃんと成功し……」 そそ ハーマンは隣から注がれる熱い視線に気付いた瞬間、言わなくてもいい事を言ってしまったと つぐ 口を噤み、ギギギと隣の席に座っているミシェールの方へ顔を向けた。 ミシェールはハーマンと目が合うと顔を真っ赤にし、助けを求める様に前の席に座っているサ ラを見つめた。 サラは親友の為ならと笑顔で頷いたが、話題は変えずに軽い調子で話し出した。 「一回目が失敗でも、二回目で成功したのなら何の問題もないと思うけど?」 「そ、そうか…?しかし俺としてはやっぱり一回で成功させたかったんだが……」 「そんなに気にしちゃダメよ、相手は全然気にしてないんだから。ね、ミシェール?」 「う、うん、気にしてないわ」 「そ、そうか!?それならいいか、うん!」 何とも思っていない女性と愛する女性とでは言葉の重みが違うらしく、ハーマンはミシェール の一言であっさり元気になり、食後のコーヒーをぐいと一気に飲み干した。 これでようやく一段落ついたと思われたが、そこへすかさずカールが茶々を入れた。 い 「昨日俺が折角心構えを教えてやったというのに、それを全く活かせないとはな…。一回でも 失敗は失敗だ、女性に恥をかかせるなんて最低だな」 「う、うるさい!偉そうな事ばかり言っているが、お前もどうせ失敗したクチだろ!?」 「ふん、俺は一回で成功させたに決まってるだろ。お前なんかと一緒にするな」 うらや 「な、なにぃ!?い、一回で成功!?……………う、羨ましい……」 せんぼう 先程までの食ってかかっていた勢いを完全に失い、ハーマンは羨望の目でカールを見始め た。 うわて 女性の事に関しては、勉強家である分カールの方が上手の様だ。 さま しかしながら、そういう事でどちらも一喜一憂している様を見ると、男という生き物は非常に単 純であると感じられた。 まさ さが これは正しく男の性と言えるだろう。 あき 女性陣は呆れた様子で男性陣を見守っていたが、二人のやり取りを見ている内に徐々にか わいさを感じ始め、思わずプッと吹き出してしまった。 かし ますます 何故笑われたのか、理由がわからなかった男性陣が揃って首を傾げると、女性陣は益々か かか わいさを実感し、お腹を抱えて笑い続けたのだった。 ●あとがき 今回は二度目の年齢制限となりましたが、如何でしたでしょうか? またしても年齢制限する程の内容ではなかった…と自分では思っています。 二組のカップルによるダブルデート、最後はどちらも大人な展開に突入したクセに、ハーマンと ミシェールの方は完全カット!(笑) 後編はカップル別に書いた方が良かったかもしれませんが、さすがにハマミシェで丸々一話 は書けないので、いつも通りカールとサラの方だけをピックアップする事になりました。 頑張るサラ萌えv たまにはサラ×カールも良いですねvv サラの頑張りが一番の見所ですが、二番目の見所はもちろん男女に分かれての話し合い♪ 男同士の会話はよくわからないので適当に考えましたが、あの二人なら恋愛事でなくてもあ んな感じだと思います。 一方、サラとミシェールの方は相変わらず仲良しさんv 今後も色々と協力していくでしょう。 今回のダブルデート話は男性陣のかわいさ、女性陣の仲の良さ、カールとサラの初逆転、ハ ーマンとミシェールの初体験などなど、見所満載な内容になりましたv ●次回予告 戦後処理に勤しむカール達第一装甲師団は、任務完了後基地へ戻る際、微弱な非常通信を 傍受します。 発信元は帝国領国境の要塞、ホルスヤード兵器解体工場。 応答しても何の返事も返ってこないので、確認の為にカールは工場へ向かう事にします。 しかしその時既に工場は敵の手に落ちており、カール達も罠にはめられてしまいます。 第六十七話 「居場所〜前編〜」 さようなら、シュバルツ大佐。 |