第六十五話
「ダブルデート〜前編〜」
「大佐、共和国から通信が入っております」 つな 「共和国から…?わかった、繋いでくれ」 共和国からの通信はそんなに珍しい事ではなかったが、大概は副官や通信兵を通じて情報 じか が伝わる為、カールに直に通信してくる者はほとんどいない。 カールが誰だろうと思いながら応答してみると、モニターに見覚えのある顔が映った。 す 思わずカールは通信を切り、イヤな幻覚を見てしまったと苦笑していたが、直ぐさま通信兵か ら連絡が入り、モニターに再び見覚えのある顔が出現した。 「おい!何でいきなり通信を切ったんだ!?」 「…………………何だ、幻覚じゃなかったのか……」 「げんかく〜?何言ってるんだ、お前?」 「あぁ、すまない。どうやら電波状態が悪かったようだ」 「マジかよ!?天下の帝国軍も意外とダメなんだなぁ」 もちろん『電波状態が悪かった』というのは嘘である。 しかし単純な通信相手はその嘘を見抜く事が出来なかった。 カールは内心でほくそ笑みつつ、通信相手の共和国軍青年士官…ハーマンに話し掛けた。 「何の用だ?」 「実はな……その〜………あの〜…………」 「早く用件を言え。こっちも忙しいんだ」 「……お前に聞きたい事があってな」 「聞きたい事…?」 「デ……デ、デデ、デ、デートというものはどこへ行けばいいんだ?頼む、教えてくれ!」 余りにも場違いなハーマンの質問にカールはポカンとなり、無意識にモニターを切るスイッチ へと手を伸ばしていた。 「ま、待て、切るな!落ち着け、シュバルツ!」 「俺はいつでも落ち着いているが?」 か 「嘘つけ!……ま、とにかく話を聞いてくれ。俺の人生が懸かってるんだ」 おおげさ 「そんな大袈裟な…」 「それ程の一大事って事だ!」 ハーマンの必死な様子を見、カールはようやく話を真剣に聞く気になると、スイッチへ伸ばして いた手を下ろした。 おもも ハーマンはほっと胸を撫で下ろし、深呼吸をしてから神妙な面持ちで本題を話し始めた。 「昨日おふくろから突然連絡があってな…。俺とミシェールの休暇を合わせたからデートしてこ いって言うんだ」 「……………それのどこが一大事なんだ?」 「どこからどう見ても一大事だろうが!俺達はまだ一度もちゃんとしたデートをしていないんだ からな!!」 「偉そうに言う事か…?」 「う……ま、まぁ、そういう訳なんだ。だからデートに最適な場所を教えてくれ。お前なら知って るだろ?」 「デートに最適な場所、か……」 「出来れば初心者向けで、俺が緊張しないような所がいいんだが………」 「初心者向け?難しい注文だな……」 うな 男二人が唸りながら悩んでいると、彼らの間……カールとモニターの間に誰かが割り込んで きた。 「ねぇねぇ、ダブルデートはどう?」 「うわっ!?な、何だ!?」 突然モニターに映った人物に驚き、ハーマンは椅子から勢い良く落ちてしまった。 のぞ その様子をあらあらと覗き込んだのは、たまたま基地に遊びに来ていたサラであった。 ハーマンは慌てて体勢を立て直すと、モニターの向こうにいるカールに食ってかかった。 「お前、基地に女を連れ込むなよ!」 「連れ込んだ訳ではない、遊びに来ただけだ」 「あ、遊びに来たって…お前なぁ……」 あき せわ ハーマンは怒ったり呆れたり忙しなかったが、二人の間に割り込んだままのサラは気にせず 話を進めた。 「ハーマン、もう一度聞くけどダブルデートはどう?」 「ダ、ダブル……デート…?」 「うん。二組のカップルが一緒にデートするの。片方がデートに慣れているカップルなら、多少 問題が起きてもすぐ対処出来るし、初心者向けのデートと言えるわ」 「そ、そうか……確かに初心者向けだな……。で、そのデートに慣れているカップルっていうの は……」 「もちろん私達よv ね、カール?」 サラが満面の笑顔で同意を求めると、カールも満面の笑顔で深く頷いた。 まさ あうん 正しく、阿吽の呼吸である。 ハーマンは胸中で「このバカップルめ」と呆れたが、ここはサラの案を受け入れる方が良いと 判断し、二人にダブルデートを依頼する事にした。 「忙しいのに申し訳ないんだが、ダブルデートをお願いしていいか?」 「水臭い事言わないで、ハーマン。私達は大切な親友の為なら何でもするわ」 「ありがとう。じゃあ、後はどこへ行くかだが……」 「あ、デートプランは私に立てさせてくれないかな?ちゃ〜んと女の子が喜びそうな所を選ぶ から」 「それは有難い申し出だが、そんなに全部を押し付けてしまっていいのか?」 「ええ、いいわよ。こういう事はベテランにお任せ下さいなv」 「そうだな。お言葉に甘えさせてもらうよ」 「じゃ、詳しい事が決まったら連絡するね」 「ああ、よろしくな」 安心した笑顔を見せていたハーマンの姿がモニターから消えると、サラはにや〜と不敵な笑 みを浮かべた。 その笑みに疑問を持ったカールは、何となくサラの思惑に気付いてしまって苦笑した。 「サラ、まさかその為に今日ここへ…?」 「あらら、バレちゃった?よくわかったわね」 「わかるさ。君の考えは全てお見通しだよ」 「ふふふ、やっぱりあなたには敵わないわねぇ」 から サラはかわいらしい仕草でカールの手を取ると、指を絡ませて遊びながら詳細を話し始めた。 「昨日ルイーズ大統領から連絡があったの。たぶんハーマンの次に通信したんだと思うんだ けど、『デートの段取りをつけたから協力して』ってお願いされちゃって……」 「母親が応援を要請……。苦労してるんだな」 にら 「みたいね。で、ハーマンの事だから、きっとあなたに相談するって睨んだのよ」 「たまたま他の者に連絡が取れなかっただけじゃないのか?」 「こういう事は親友にしか相談しないものよ」 ハーマンの事をハッキリと『親友』と断言されてしまい、カールはどう返事を返せばいいのかわ からず、困った様子で肩をすくめた。 はばか 初めて出来た本当の友人ではあるが、その事を表立って口にするのは今はまだ憚られる。 今まで親友と呼べる存在がいなかっただけに、改めて親友と思い接するのは照れ臭いのだ。 そんなカールの思いを百も承知のサラは、クスクス笑いながら彼の頬を撫でた。 「同性にしか相談出来ない事ってあると思うの。あなたもいつかハーマンに相談する時が来る はずよ」 「そうかな…?」 「そうだよv その時は思いっ切りハーマンに頼ってね。今回の事であなたに借りが出来たん だし」 「ああ、そうさせてもらおう。……しかし大丈夫なのか?ダブルデートなんて俺達も初めてだろ う?」 「大丈夫、私に全部任せておいて。最高のデートプランを立ててみせるわv」 サラの言葉は無条件で心から信頼出来る。 ひざ カールは笑顔で頷くと、膝の上に座っているサラを両手で包み込み、唇を重ねようと顔を近づ けていった。 すると、甘い雰囲気を完全にぶち壊す様なタイミングでドアをノックする音が聞こえた。 執務室ではさすがに無視は出来ないと、カールは慌ててサラを膝から下ろし、何事もなかった 様にドアの向こうに声を掛けた。 慌てた様子で執務室へ駆け込んで来たのは……第一装甲師団の副官であり、サラのファン クラブの会長でもあるヒュースであった。 その後、いつも通りのやり取りが繰り広げられ、いつも通りサラが間に入って男達は落ち着き を取り戻し、いつも通り日が暮れていった。 * 数日後、サラはカール、ハーマン、ミシェールの三人に連絡を取り、ダブルデートに必要なもの を用意する様に伝えた。 ダブルデートに必要なものとは『お泊まりセット』 何と泊まりがけのデートになったらしい。 初デートなのに…と戸惑いを隠せないハーマン達を見事に言い負かし、サラは着々とダブル デートの準備を進めていった。 デートの行き先など、詳しい事はカールにも全て内緒にしており、デート当日サラに会うまで、 三人は期待と不安でドキドキする毎日を送っていた。 そうして迎えたダブルデート当日、四人は朝早くに帝都ガイガロスに集合し、サラの案内で最 近建設されたばかりの巨大な遊園地へ足を運んだ。 まさか遊園地に来るとは思ってもいなかった男性陣はポカンとなり、彼らとは正反対に女性陣 は嬉しそうに入場券を買い求めた。 「どお?バッチリ初心者向けでしょ?」 サラは入場券を皆に配りながら自信満々に言ったが、同意したのはミシェールだけで、カール とハーマンは困ったと言いたげな表情で眉をハの字にした。 「確かに初心者向けだとは思うが……」 「初心者向けというより、子供向けじゃないのか?」 「遊園地は子供向けの施設だっていう考えはもう古いわよ、二人共。この遊園地はね、何とカ ップル向けに作られた遊園地なのv」 『カ、カップル向け!?』 「ええ、だからここにしたの。初心者だけでなく、ベテランも楽しめちゃうデートスポットだよv」 初心者には定番の場所が最適、そして自分達も楽しめる所を探した結果、カップル向けに作 られた遊園地を選ぶに至った様だ。 だからこそ、自信を持って案内したのだろう。 そう言われてみれば、周囲にはカップルの姿しか見受けられない。 男性陣はそれならとようやく納得し、それぞれ持っていた二人分の荷物を入口のスタッフに預 そろ けると、四人揃ってドキドキしながら遊園地内に入った。 実は四人共遊園地に来るのは初めてなのである。 幼い頃からそういう場所とは無縁の生活を送っていた為、大人になってから来る事になるとは 少々気恥ずかしくもあったが、四人は子供の様な笑顔で遊園地を見回していた。 カップル向けに作られたというだけあって、乗り物はほぼ全て二人乗り仕様。 カップルが楽しめる様にと趣向を凝らしたものが多く、正しくデートに最適な場所であった。 そしていざ出発という時になると、男性陣は女性陣が持っているお弁当入りのカバンを受け取 り、彼女達を紳士的にエスコートする形で歩き出した。 しかし双方のカップルで異なる点が一つだけ存在した。 カールとサラは仲良く手を繋いでいたのだが、ハーマンとミシェールは並んで歩いているだけ で、手を繋いでいなかったのだ。 うらや ハーマンはカール達を羨ましそうに眺めつつ、自分達もと思い切ってミシェールの手を握ろうと したが、勇気が足りないらしく全て空振りに終わった。 よそ こっそり落ち込むハーマンと彼を心配するミシェールを余所に、カールとサラはどの乗り物に乗 ろうかと相談を始めた。 「やっぱり最初はスピードがあるものがいいな〜」 「スピードがあるもの……ジェットコースターってヤツか?」 「そうそう。記念すべき最初の乗り物だから、インパクトがあるものの方がいいと思うの。二人 はどう思う?」 サラは満面の笑顔でハーマン達に声を掛けたが、片方は落ち込んだまま、もう片方は心配し たままで返事を返さなかった。 ハーマンが何を思って落ち込んでいるのか察したサラは、強引に彼とミシェールの手を取って 重ねさせると、満足気に微笑んでみせた。 ハーマンもミシェールも驚いて顔を真っ赤にしたが、キッカケを与えてもらったお陰で手を繋ぐ 事が出来た。 「じゃ、そろそろ出発しましょう」 サラはカールと手を繋ぎ直すと、ジェットコースターに向かって軽い足取りで歩き始めた。 ハーマン達に同意は得ていなかったが、二人の浮かれた様子を見る限り異存はない様だ。 やがてジェットコースターの乗り口に到着すると、四人は多少の待ち時間の後ジェットコースタ ーに乗り、遊園地での最初の乗り物を充分に楽しんだ。 仕事柄ゾイドに乗る事が多い男性陣は少々物足りなかった様だが、女性陣が大変喜んだの で、その物足りなさもすぐに消え去っていった。 最初のジェットコースターで勢いを付けた為か、次に乗る乗り物もすんなりと決まり、四人の心 は完全に子供に戻っていた。 そうして様々な乗り物やアトラクションを楽しみ、午前最後にやって来たのは……ハーマンが どうしてもと選んだお化け屋敷。 カールは瞬時にハーマンの思惑を察したが、彼らの事はどうでもいいので、お化け屋敷を見つ こお うかが めて凍り付いているサラの様子を心配そうに伺った。 「サラ、大丈夫かい…?」 「だ……だ、だだ、だ、だいじょ……ぶだよ。さ、さぁ……入りま…しょう」 「無理しなくていいよ。俺達は外で待とう」 せっかく 「へ…平気……心配しないで。あなたが一緒だし……折角来たんだから入る…」 ミシェールもサラはお化けが苦手だと知っていた為、見るからに心配そうにしていたが、事情 を知らないハーマンは上機嫌で三人を先導し、結局全員お化け屋敷に入る事になった。 入口でスタッフに止められ、前のカップルが入ってから五分程間隔を空けて入る様にと説明を 受けると、ハーマンとミシェールが先に入り、その五分後にカールとサラは薄暗いお化け屋敷 内へ入って行った。 最初は暗いだけでお化けの姿は見当たらなかったが、サラはカールの手を力強く握り締め、 ビクビクしながら歩いていた。 「……サラ、無理に入らなくても良かったのに、どうして入ったんだ?」 「だ、だって……ミシェール達いい雰囲気になってるし、私が入らないって言ったら白けちゃう と思って……」 「君って人は……」 今日の主役はハーマンとミシェール。 よって、自分の事は後回しになっているのだろう。 カールはサラの人の良さに少々呆れると同時に、そこが彼女ならではの長所なのだと嬉しく なった。 カールが優しい笑顔を見せると、サラも安心したのか笑みを浮かべ、彼の腕にそっともたれ掛 かった。 しかし今いる場所はお化け屋敷。 サラにとって心から安心出来る場所とはもちろん言えない。 ゆる ふん 気持ちが緩みつつあったサラがふと傍にある扉に目をやると、絶妙なタイミングでお化けに扮 したスタッフが飛び出して来た。 「!?」 カールも一応驚きはしたが、サラの驚きの度合は尋常ではなく、声も出せずに固まってしまっ た。 そしてそのままパタッと倒れ込み、カールは慌ててサラの体を受け止めた。 「だ、大丈夫ですか!?」 本来なら話してはいけないはずのお化け役のスタッフも慌てて駆け寄り、二人に心配そうに 声を掛けた。 カールはサラの状態を素早く確認すると、彼女を極力優しく抱き上げてスタッフに微笑んでみ せた。 「大丈夫、気を失っているだけです。すみませんが、非常口へ案内して頂けませんか?」 「は、はい、どうぞこちらへ」 お化け役のスタッフの案内でカールはスタッフ用通路を進み、非常口から外に出るとお化け 屋敷の出口を目指して歩き出した。 やがて前方からお化け屋敷の出口が見えてくると、カール達に気付いたハーマンとミシェール が駆け寄って来た。 「どうしたんだ!?大丈夫か!?」 「気を失っているだけだから心配ない。少し休めば目を覚ますだろう」 「それなら丁度いい場所があるわ。そこで休ませてあげましょう」 しばふ ミシェールは昼食場所にと決めていた広場へ二人を案内し、サラが目を覚ますまで芝生の上 で座って待つ事にした。 ささや 周囲には愛を囁き合うカップルが多数いて賑やかだったが、カール達は黙ってサラの様子を 見守っていた。 お化け屋敷なんて選ばなければ良かったと自分を責めるハーマン。 そんなハーマンとサラを心配してオロオロするミシェール。 このままではサラが目を覚ましても、元の良い雰囲気には戻れないだろう。 そうなるとサラが悲しむに違いない。 ふっしょく カールは今の重い空気を何とか払拭する為、サラがすぐに目覚める方法を実行に移そうと決 意した。 「二人共、向こうを向いててくれないか?」 「……は?いきなり何言い出すんだ?」 「いいから向こうを向け。絶対こっちを見るんじゃないぞ」 ふさ 訳がわからぬままハーマンとミシェールが後ろを向くと、カールはサラの口をそっと塞いだ。 軽い口づけをして少々様子を見、まだと判断するとカールは舌を絡め始めた。 途端にサラはピクンと反応して目を覚ましたが、カールは気付かなかったフリをして口づけを 続けた。 「……んん………v」 こころ サラは抵抗を試みようとしつつもカールに抱きつき、近くにハーマン達がいるのも忘れて大人 しく口づけを受けた。 ハーマンとミシェールは直に見なくても二人が何をしているのか察し、頬を赤らめながら事が 終わるのを待っていた。 |
しばらくしてようやく我に帰ったカールが唇を離すと、サラはトロンとした目で彼を見上げ、まだ 夢心地の状態にあった。 「サラ、目が覚めたかい?」 「カール……私………」 「もう大丈夫だね。今ので元気になっただろう?」 「うん……元気になったよ…v」 じょじょ カール達が二人の世界に入ったまま一向に戻って来ない為、ハーマンは徐々に待つのが面 倒臭くなっていった。 時刻はもう昼過ぎ。 早くお弁当を食べさせろ、と腹の虫が激しく騒いでいる。 「………おい、いい加減終われよ」 我慢が限界に達したハーマンが低い声で言うと、カールとサラはあっという顔をし、苦笑しな がら座り直した。 ふた そして女性陣はいそいそと昼食を準備し始め、それぞれ作ってきたお弁当の蓋を同時に開け ると、男性陣から「おぉ〜」と歓声が上がった。 おい ひと どちらのお弁当も非常に美味しそうだったが、カールもハーマンも愛する女性が作ったお弁当 しか見ていなかった。 『いただきます』 四人は子供の様に声を揃えて言うと、笑顔でお弁当を食べ始めた。 カールとハーマンはいつも通りの凄まじいスピードで食べつつも、途中で忘れずにお弁当の感 の 想を述べた。 「やはりサラの料理は最高だな」 「やっぱミシェールの料理はうめぇな〜」 二人共同じ様な事を言うとピタリと動きを止め、対抗意識丸出しで睨み合った。 愛する女性のお弁当が一番!と男性陣が無言で主張し合っていると、それとは対照的に女 あいあい 性陣は仲良く互いのお弁当を食べ合い、和気藹々と食事を楽しんでいた。 なご 女性陣の和やかな様子を見ていると、すぐに主張し合うのがバカらしく思え、カールとハーマ ンは睨み合いながら相手のお弁当を食べてみた。 すると、二人はおっと驚いた様な表情を浮かべ、互いの顔に視線を移すと深く頷き合った。 どうやらどちらも美味しかったらしい。 二人は直ぐさま休戦態勢に入り、子供の様な笑顔で食事を再開した。 男性陣が落ち着くのを見計らい、サラはにやりと不敵な笑みを浮かべてミシェールに話し掛け た。 「ねぇねぇ、ミシェール。どうだった?」 「どうって何が?」 「もぉ〜わかってるクセに〜〜。お化け屋敷で進展はあったのかって聞いてるのv」 「え、し、進展!?」 ミシェールの過剰な反応、そして食べるのに夢中になっていたはずのハーマンが固まったの を確認し、サラは嬉しそうに笑って二人の顔を覗き込んだ。 「やっぱり何かあったんだv」 「それが目的でわざわざお化け屋敷を選んだらしいからな。何かあったに決まってる」 サラだけでなくカールにも全てを見透かされてしまい、ミシェールは顔を真っ赤にして黙り込 み、ハーマンは慌てて抗議し始めた。 「ち、違うぞ!俺はただお化け屋敷に一度入ってみたかっただけで、あんな事やそんな事を期 待していた訳じゃない!た、確かにお化けに驚いたミシェールが抱きついてくれたが、それは よこしま たまたまであって、俺には邪な気持ちは一切無かった!わかったか!?」 のぞ こういう場合、慌てるのは図星を突かれたからだと、ハーマンを除く全員がわかっていた。 たくら しかも慌てすぎて企みを自白しているところを見ると、ハーマンは本当にわかりやすい性格 で、冷やかす対象としては最高の相手であった。 とは言え、サラはミシェールを困らせたくはないので、お化け屋敷の話題はハーマンの主張に から 納得する形で終了させ、空になったお弁当箱をテキパキと片付け始めた。 「午後からはどうする?」 「そうだなぁ……。腹ごなしに体を動かしたいな」 「それならオススメの場所があるわ」 サラは三人の前に遊園地の地図を広げてみせ、ある一点を指し示した。 サラが指し示したのは、ゲームコーナーと書かれた場所。 体を動かす様なゲームをして腹ごなししようという訳だ。 そのテのものが大好きな男性陣が目を輝かせると、女性陣は笑顔で頷き合い、ゾロゾロとゲ ームコーナーへ移動した。 「……おっ!?まずはあれで勝負しようぜ、シュバルツ」 早速良いものを見つけたのか、ハーマンはカールに声を掛けると、ズンズンと一人でゲームコ ーナー内へ入って行った。 いつの間に勝負する事になったのだろう…? かし ハーマンの後を追う三人は首を傾げつつ、彼が見つけたゲーム機の元へ向かった。 「二つあるから同時にやろう」 カールは一度もやると言っていないのに、ハーマンは勝手に話を進めてゲーム機に小銭を投 入した。 ハーマンが見つけたゲーム機は、コンピュータ相手に腕相撲するというもの。 どう考えても、力勝負以外の何物でもない。 自分に有利なゲーム機を選んだらしいが、そこまでして勝ちたいのかとカールは呆れてしまっ た。 いど さが しかし挑まれれば応じるのが男の性。 もと 絶対勝ってやるという決意の下、カールはハーマンの隣にあるゲーム機に小銭を入れた。 こうして女性陣が声援を送る中、カールとハーマンはコンピュータ相手の腕相撲を開始し、白 熱した戦いを繰り広げた。 たび 五回戦で勝つ度に相手が強くなるというルールだったが、勝負の結果は…… お ハーマン全勝、カールは最後の最後で惜しくも一回だけ負けた。 「よっしゃ〜!俺の勝ち!!やったぜ、ミシェール!」 見るからに子供に戻ってはしゃぐハーマンを冷ややかな目で見、カールはやれやれとため息 をついた。 得意分野なのだから、勝てて当たり前の勝負だと始めからわかっていたはずだ。 おとなげ それなのに、この大袈裟なはしゃぎ方は大人気ない。 くや いら 余程勝ちたかったと思われるが、負けて悔しい思いをしているカールは、ハーマンの行動に苛 だ 立ちを隠せなかった。 そんなカールの苛立ちに気付いたサラは、急いで周囲のゲーム機を見回すと、彼が得意そう なものを探し出した。 「ねぇ、次はあれで勝負したら?」 サラが指し示す方を見てみると、そこには大きな射的場があった。 ハーマンが得意分野を選んだのだから自分も、とカールは射的で勝負を申し込む事にした。 よいん ひた 勝利の余韻に浸っていたハーマンは余り深く考えずにその勝負を受け、射的場のスタッフに たま お金を払うと、おもちゃの銃とコルク製の弾を十発分受け取った。 カールもハーマンと同じものをスタッフから受け取ると、二人は並んで射的位置に着いた。 まと 二人の目前には的となるぬいぐるみやお菓子が並べられており、それらに弾を当てて倒せば もら 景品として貰えるルールだ。 「サラ、どれが欲しい?」 「え〜っとねぇ……あ、あのセイバータイガーのぬいぐるみがいいv」 「よし。じゃあ、一発目はセイバータイガーだな」 さっそう ねら さだ カールは颯爽とおもちゃの銃を構えると、セイバータイガーのぬいぐるみに狙いを定めた。 一発で当たる訳がない、と決め付けていたハーマンはにやにやと様子を見ていたが、カール がいとも簡単に当ててみせると、ギョッと目を見開いて驚いた。 「どうした?撃たないのか?」 カールは次のコルク弾を銃に込めつつ、不敵な笑みを浮かべてハーマンに尋ねた。 かす ムッとなったハーマンはすぐに銃を構えたが、彼が放ったコルク弾は的に掠りもしなかった。 思わずカールが鼻で笑うと、ハーマンはムキになって数発連続でコルク弾を放った。 何とか二発命中させる事が出来たが、どう見てもハズレと思われるものに当たってしまった。 ごと 一方、カールは一発毎にサラに欲しいものを聞き、その全てを命中させて彼女にプレゼントし ていた。 ハーマンもミシェールに欲しいものを聞いてプレゼントしようと頑張ったが、結局彼女の手には 最初に欲しいと言ったプテラスのぬいぐるみとハズレの小さなぬいぐるみやお菓子が四つ、要 するに十発中五発しか的に当てる事が出来なかった。 えもの 悔しそうにしているハーマンの横では、カールが最後となる獲物に狙いを定めていた。 カールの残弾は二発。 その二発を使い、客寄せの為に置かれている大きなぬいぐるみを頂くつもりだ。 周囲の誰もが無理だと思っていたが、カールは二発のコルク弾を連続して当てる事により、大 きなぬいぐるみを倒す事に成功した。 「わぁ〜、やったぁv アイアンコングのぬいぐるみだ〜vv」 飛び上がって喜ぶサラに大きなアイアンコングのぬいぐるみを手渡し、カールは再びハーマン に不敵な笑みを浮かべてみせた。 じだんだ 先程の勝負と立場が見事に逆になり、ハーマンは苛々と地団駄を踏むと、次の勝負を行う為 に新たなゲーム機を探し始めた。 「次こそは絶対勝つ!二対一で俺の勝ちだ!」 う 「ふん、返り討ちにしてやろう」 「スト〜〜〜〜ップ!!今日はこれまで!」 サラは燃えてきた男性陣の前に立ちはだかり、両手を広げて勝負を止めた。 「これまでって……決着はまだ付いてないぞ?」 「今日は何をしにここへ来たんだっけ?二人共もちろん覚えているわよね?」 「う………デ、デートだ…」 「覚えているならいいわ。今日の勝負は一対一の引き分けって事で、気持ち良く終わりにしま しょう」 「……そうだな」 サラの言葉に男性陣は素直に従い、ガックリしている射的場のスタッフから大きな紙袋を貰う と、女性陣が両手いっぱいに持っているぬいぐるみを一つにまとめてゲームコーナーを後にし た。 そうして次はどの乗り物に乗ろうかと相談しながら歩いていると、ハーマンは紙袋からプテラ スのぬいぐるみを取り出して長いため息をついた。 「あ〜ぁ、プテラスしか獲れないとはなぁ…。共和国軍最強のゴジュラスもあったのに……」 「残念だが、あれは客寄せ用のものだ。余程の腕がなければ獲れなかったと思うぞ」 「そ、そうなのか!?しかしプテラス一つってのがなぁ……」 お いわ 「確かにプテラス一つは淋しいな。何と言ってもプテラスは、お前が乗ると必ず墜ちるという曰 く付きのゾイドだからイメージが悪いしな」 「……………シュバルツ、ケンカ売ってるのか?」 「俺は本当の事を言っただけだが?」 カールの言う通り、ハーマンが飛行ゾイドに乗ると必ず墜ちるという伝説が、共和国軍を中心 に広く語り伝えられている。 ハーマン自身も多少は自覚していたが、こんなにハッキリ言われたのは初めてであった。 皆ハーマンに遠慮して言わなかったと思われるが、カールはもちろん遠慮などしない。 対等の立場にいるからこそ、全てを遠慮なく言えるのだ。 ハーマンは一瞬ムッとした表情を見せつつも、ハッキリ言ってくれた事に対しては余り悪い気 ごうかい たた はせず、豪快に笑ってカールの肩をバシバシ叩いた。 いつもと違う反応にカールは内心驚いたが、素早くハーマンの手を払うと、少々呆れた様子で 微笑んでみせた。 女性陣は男性陣のやり取りを微笑ましく思いながら、頃合いを見計らって次の乗り物へ誘い、 遊園地内にある乗り物を全部制覇しようと精力的に動き出した。 くく たくさんの乗り物やアトラクションを存分に楽しみ、最後の締め括りにと予定していた観覧車に たど 辿り着いた時には、西の空に太陽が沈み始めており、周囲の建物が赤く染まっていた。 今上へ行けば、素晴らしい景色を堪能出来るだろう。 四人は当然の様に男女二人ずつに分かれて観覧車に乗り込み、ゆったりとしたスピードで上 へと向かった。 「わぁ、きれいvv」 サラは初めて乗る観覧車に感動しつつ、周囲の美しい景色にも感動して目を輝かせた。 カールももちろん観覧車は初めてだったが、彼の目には景色よりもサラが中心となって映って いた。 それでも一応景色にも目をやったカールは、サラの言葉に同意する様に頷いてみせてから、 彼女の腕を引っ張って体を密着させた。 今日ようやく訪れた二人だけの時間…。 カールは笑顔で長い青髪を撫で、サラは彼の手の動きにくすぐったそうに身をくねらせていた が、途中でふと下に視線を落とすと動きを止めた。 「ねぇ、あれ見て」 そう言われてサラの目線の先を見てみると、ハーマンとミシェールの姿が目に入った。 いつの間に進展したのか、ハーマン達は仲良く肩を寄せ合って座っていた。 「ふふふ、いい雰囲気みたいね。観覧車を最後にして正解だったわv」 うま 「一時はどうなる事かと思ったが、上手くいったようだな」 「ええ。このままラブラブ一直線ねv」 「俺達も、だろ?」 「うんvv」 おさ うず サラは伸ばされたカールの腕にすっぽりと収まると、たくましい胸板に顔を埋め、終始幸せそ うに微笑んでいた。 ●あとがき● 久々のデート話、如何でしたでしょうか? 今回はカール×サラだけでなく、ハーマン×ミシェールも加わった二組のダブルデート! 書いている私は本当に楽しかったですv バカップルぶりが伝われば本望であります!(笑) カールとハーマンの勝負、サラとミシェールの仲良し具合も見所の一つだったりしますが、一 番主張したかったのはやはりカールとサラのラブラブv お化けを見て気を失ってしまうサラにすご〜く萌えますvv そして「王子の口づけで目を覚ます姫君」というシチュエーションに萌えまくり!!(重症) ちょっぴりハーマンとミシェールが蔑ろになっている様な気もしましたが、最後にはきちんとこ ちらのカップルもラブラブv Ziに遊園地なんてあるの?という疑問をさらりと無視し、カップル限定遊園地を勝手に作って しまいました。 平和だった二年間に建設していたのだ、と考えてやって下さい。 ちなみに挿絵についてですが、サラとミシェールは同じお店で買った服を着ています。 今回のダブルデートの為に、二人で買いに行った様です。 だからわざとデザインを似せてみましたv(という事にしておいて下さい;) それにしてもZiに遊園地だけでなくゲームセンターもあるなんて……私もビックリしました(笑) セイバータイガーやプテラスなどのぬいぐるみ、本当にあったら欲しいですv ●次回予告● 遊園地でのデートを満喫し、夜は最高級ホテルに泊まる事になったカール達一行。 サラのわざとらしい策略により、ハーマンとミシェールは相部屋になり、純情な二人は終始照 れてしまいます。 夕食の後に立ち寄ったバーにて、四人は男女に分かれて話し合いをする事に。 ハーマンとミシェールがいよいよ大人の階段を登りますv 第六十六話 「ダブルデート〜後編〜」 ちゃんと言葉に……出来るだろうか…? <ご注意> 次の第六十六話「ダブルデート〜後編〜」は性描写を含みます。 またしても年齢制限をしなくてはならない内容になっていますので、14禁です。 ダブルデートなのに、いつも通りカール×サラ中心の内容になっています。 今回もまたご注意のページを設け、ワンクッション置きます。 十四歳未満の方、そういう描写がお嫌いな方、苦手な方はお読みにならないで下さい。 |