第六十三話

「コーヒー〜後編〜」



イエナ村を占拠しているニセ兵士達を排除する為、カールは村長と共に彼らのアジトと化して

いる村長宅を目指していた。

村長が案内してくれた道は村民しか知らない小道ばかりで、見回りのニセ兵士達に全く見つ

かる事なく、無事村長宅へ到着した。

カールは村長と短く挨拶を交わすと、頭の中で組み立てていたルート通り、村長宅への潜入

を開始した。

村内を見回っている者は多かったが、村長宅に残っている者は予想以上に少なく、カールは

何の障害にも見舞われずに、村長の了解を得た場所に小型爆弾を設置した。

村長の了解を得た場所とは村長宅に隣接している古い納屋。
                                        そ
その納屋を爆破する事により、ニセ兵士達の注意を逸らすと同時に、援軍が攻め込む合図に

もなっている。

納屋には大したものは置いていないとの事で、爆破には最適な場所なのである。
                                         そで
カールは遠隔操作用の爆破スイッチを腕に取り付けて袖で隠し、難なく潜入口にと決めてい
         たど
た通気口に辿り着くと屋内へ入った。

村長から聞いた話によると、ニセ兵士達のリーダーは一番大きな部屋…村民達が会議室とし

て使っている部屋にいるらしい。
                  も   あか
カールは壁の隙間から漏れる灯りを頼りに狭い通気口内を進み、リーダーがいると思われる

大部屋のすぐ傍までやって来た。
                                   のぞ
網目状になっている空気の流通口から室内を覗いてみると、大部屋には軍服を着た複数の

男達が床に座り込み、酒を片手に談笑し合っていた。

「や〜〜っと全部回収し終えたのか。ド田舎のヤツらにしてはなかなか根性あったな」

「しかし女を人質にしたら、あっさり出すところを見ると、やっぱ田舎者は田舎者らしく平和主義

者が多いみてぇだ」
                                   もう
「はっはっはっ、そういうバカがいるから俺達が儲かるって訳だな。帝国軍様々だぜ!」

「くくく、帝国軍万歳ってか♪」
                                                    すみ
帝国軍に対する暴言は完全に聞かなかった事にし、カールは部屋の隅にある山程のノーブル
                つ
イエナと、男達に酒を注いで回っている数人の若い女性に目をやった。

先程の会話から察するに、ニセ兵士達が回収しているものとはノーブルイエナ。

そして若い女性達は人質だろう。
                                                                    いか
カールは一番手前にいる人物…大部屋の上座を陣取っている中年男と、見た目からして如何
             ようぼう
にも参謀といった容貌の男の会話を耳をそばだてて聞いた。

「……で、誰が一番高値で買い取りそうなんだ?」
                     ねら
「そうですねぇ……この中で狙い目なのは帝都に住んでいる貴族達でしょうな。帝都には特に

ノーブルイエナ愛好家が多いですから、相当な額に引き上げてもポンと出す者が多いと思わ

れます」
                  とど
「うむ…。余り長くここに留まっていると、本物の帝国軍に気付かれる可能性があるからな…。

よし、三日後までに一番の高値を付けた者に売っぱらうとしよう」

ノーブルイエナの売却方法を検討している男達の会話を聞き終えると、カールは脱力して壁に

もたれ掛かった。

(…なるほど。ノーブルイエナ愛好家の中から金持ちだけを選び、闇ルートで売り付けようって
こんたん
魂胆か。この程度の奴らだったとは…。これは辺境地域で事件を起こしている者とは違うな、

お陰で仕事がやりやすくなる)

カールは大部屋から少々離れた所まで移動すると、通信機を使ってサラと連絡を取った。
                                      すぐ
サラが用意してくれた通信機は敵に探知されない優れものである為、声の大きささえ気を付

けていれば、どこでも通信可能なのだ。

「サラ、聞こえるか?」

「「ええ、電波状態良好。隊長、指示をお願いします」」

「援軍はどこまで来ている?」

「「村への道を封鎖している者達の傍まで来てます」」

「こっちへ通信出来ない様にして、道を封鎖している奴らを押さえる事は可能か?」

「「それは可能だけど……そんな強引な手を使って大丈夫なの?」」

「ああ、大丈夫だ。奴らは帝国軍を名乗るタダの盗賊だから、どこから攻撃しても簡単に落ち

るはずだ」

「「わかりました。では、十分程度待って下さい」」

カールは十分という言葉に少々驚いたが、サラなら可能だろうとその場で十分間待った。

やがて道を封鎖している者達を全員捕えたらしく、サラから指示を完了したとの報告を受ける

と、カールは移動を再開しながら次の指示を出した。

「今すぐ村を包囲する様に移動。見張り・見回りをしている者を片っ端から捕えつつ、私が納屋

を爆破するのを合図に村長の家へ踏み込んでくれ」

「「了解。………頑張ってね、カール」」

「ああ」

サラ相手に仕事口調で話してしまったと苦笑しつつ、カールは通信を切ると通気口から抜け

出し、大部屋へ続く廊下へ降り立った。
                     ひそ
そしてとりあえず物陰に身を潜ませると、大部屋から酒を取りに出て来た女性を素早く捕獲し

た。

女性は思わず悲鳴をあげそうになりつつも、カールが目の前で人差し指を立てると、うっとりと

した表情で瞬時に大人しくなった。

「私は村長さんに頼まれて、あなた方を助けに来た者です。突然で申し訳ないのですが、ご

協力して下さいませんか?」

「は、はい。あなたの頼みなら何でもお聞きします」
                                       さ
女性はうっとりとなったままだったが、ここで時間を割く訳にはいかないと、カールは急いで彼

女に逃げる方法を伝えた。

カールが言った事を何とか理解した女性は大部屋へ戻り、こっそりと他の女性達に声を掛け

ると、男達にまとめて酒を取りに行くと言い、ゾロゾロと大部屋から出て行った。

男達は酔いがピークに達している様で、女性達が戻らなくても不審がる者はいなかった。

一方、カールは通気口の中から女性達が去って行くのを見送り、急いで大部屋上部へ移動す
              うかが
ると、室内の様子を伺い始めた。

狙いはリーダー格の中年男のみ。

幸いな事に一番近くにターゲットがいるので、彼の周囲から男達が離れた瞬間を見計らい、カ
          けやぶ
ールは金網を蹴破って室内へ侵入した。
             あぜん
突然の出来事に唖然としている男達の目前で、カールは素早く銃を抜くと中年男のこめかみ

にあてがった。

「そのまま動くな。下手に動くとどうなるか、わかっているな?」

カールは帝国軍一と言われる鋭い視線で男達を見回し、銃を構えたまま彼らに指示を出し

た。

まずは男達が所持している武器を取り上げねばならない。
                 しぶしぶ
カールの指示に男達は渋々従い、わざとなのか酔っているからかはわからないが、妙にのろ

のろと武器を一カ所に集め始めた。
                                        ちくいち
カールはリーダー格の中年男と周囲の男達の動きを逐一見張り、少しでも怪しい動きをすれ
  いかく
ば威嚇の為に天井に発砲するつもりで身構えていた。
     きんぱく
そうして緊迫した空気が大部屋を支配し始めた頃、何の前触れもなく突然大部屋のドアが開

き、酒を持った女性が入って来た。
                          の
一瞬カールも男達も女性も状況を呑み込めず、動く事が出来なかったが、いち早く我に帰った
         はが
男が女性を羽交い締めにし、隠し持っていたナイフを彼女の首元へあてがった。

途端に立場が逆転し、リーダー格の中年男はカールから銃を取り上げると、彼を大部屋の中

央へ蹴って移動させた。
                                                                     は
「残念だったな、色男。一人で乗り込んで来たその心意気は認めてやるが、勇気と無謀を履

き違えてはいかんぞ」
                                               たた
中年男は不気味な程の笑顔を見せ、カールの肩をぽんぽんと叩いたかと思いきや、次の瞬
          こぶし
間彼の腹部に拳をめり込ませていた。
            うめ        ひざまず
カールは思わず呻き声をあげて跪いたが、そんなに時間は空けずにすぐ立ち上がった。
                                                                 めくば
中年男は驚いた様な表情を見せつつも、良い遊び道具が見つかったと周囲の男達に目配せ

した。
                                                        なぐ
まだ酔いが残っていた男達は歓喜の声をあげ、一人ずつ順番にカールに殴り掛かってきた。

集団で殴ってこないのは、カールを見せ物として楽しむ為だと思われる。
                                                   ばせい
その証拠に、殴り担当以外の男達は再び酒を飲み始め、カールに罵声、仲間に声援を送って

いる。
                さなか
そんな大変な状況の最中、カールは女性を捕えている男の動きだけに神経を集中していた。

納屋を爆破させる事により起こる混乱に乗じ、人質になっている女性さえ取り戻す事が出来

れば、後は駆け付けて来る本物の帝国軍兵士達に任せればいい。

チャンスは一度きり。

殴られた勢いに乗って女性を捕えている男の傍に倒れた時が、最大であり最後のチャンス。

カールの思惑に一切気付いていない男達は、殴っても殴っても起き上がってくる彼に少々恐

怖を感じながらも、飽きずにずっと殴り続けていた。

そうして数分後、カールが待ち望んでいたチャンスがようやく訪れた。

頬を思い切り殴られて倒れ込んだ先に、女性と彼女を捕えている男の姿が見えたのだ。

カールは身を起こしながら腕に取り付けている爆破スイッチを押し、納屋が爆破される大きな

音を確認してから、素早く目の前の男からナイフを奪い取った。

その行動と爆破音によってキョトンとなっている男を殴り倒し、カールが女性を救出した丁度そ

の時、大部屋のドアが勢い良く開け放たれ、本物の帝国軍兵士達が姿を現した。

「この家は我々が完全に包囲している。無駄な抵抗はしない事だ」

部隊の指揮官を務めている大尉は男達に投降する様に言うと、部下に彼らを捕えろと指示を

出し、慌てた様子でカールの元へ駆け寄って来た。

「大佐、大丈夫ですか?」
                                                                はぶ
「ああ、大した事はない。それより…思ったより早かったんだな、お陰で逃げる手間が省けた」

「クローゼ博士から指示を受けたんです。予定より爆破時間が遅いから、合図がある前に村

長の家へ潜入する様にと」

「そうか、彼女が……」

カールが嬉しそうな笑顔を見せていると、傍にいた女性が泣きそうな顔で彼に話し掛けた。

「すみません……私のせいで………」

「いや、大した傷ではないから大丈夫。気にしないで下さい」

「そんな訳にはいきません!手当てさせて下さい、お願いします!」

「手当ては自分でします。あなたは早く家へ帰り、ご両親を安心させてあげて下さい」

「で、でも………」

カールの説得に女性がなかなか応じずにいると、数人の兵士に案内されてサラが二人の元

へやって来た。
                         あんど
サラはカールの無事を確認すると安堵の表情を浮かべたが、怪我の存在に気付くと途端に心

配そうな顔になった。
                                             じんそく
とは言え、さっきの女性とは違って取り乱すという事はなく、迅速に衛生兵から救急箱を受け

取り、再びカールの所へ戻って来た。

「ここでは手当て出来ないから、村長さんに言って他の部屋を使わせてもらいましょ」

「ああ」
                                      ぬぐ                      えしゃく
カールは笑顔で頷きつつ口の端から出ている血を拭うと、サラと二人で女性に軽く会釈し、村

長を捜そうと大部屋を後にした。

玄関の方へ向かってみると、村長と人質になっていた若い女性達が二人を出迎えた。

「シュバルツさん、……大丈夫ですか?」

「大丈夫ですよ、大した怪我ではありません」

「村長さん、彼の手当てをしたいのですが、お部屋を一つ貸して下さいませんか?」

「もちろんいいですよ、どうぞこちらへ」

女性達の熱い視線に全く気付いた風もなく、カールとサラは村長の案内で客室に向かった。

その客室も当然男達に使われていた様だが、普通に休む為に使っていたらしく、他の部屋と

比べるとそんなに荒らされてはいなかった。

「多少汚れているかもしれませんが、この部屋をお使い下さい」

「ありがとうございます」

「では、私は皆の所へ戻ります。お二人の寝室は別に用意しますので、手当てが終わったら

玄関まで来て下さい」

「はい、わかりました」
                                       す
サラは客室から去って行く村長を笑顔で見送ると、直ぐさまカールの元へ駆け寄って彼の頬を

撫でた。
               すで
サラの大きな瞳には既に涙が浮かんでおり、表面上は冷静に見えたが、胸中は相当動揺し

ていた様だ。

「カール…こんなに怪我して………私……」

サラが泣き出してしまうと感じた瞬間、カールは彼女をぎゅっと抱きしめていた。

全て無事に解決したのだ、彼女が涙を流す理由など何もない。
                                                あふ
カールの無言の制止は彼の温もりと共に着実に伝わり、サラは溢れそうになっていた涙を慌
    ふ
てて拭き取ると、照れ臭そうに微笑みながら救急箱から包帯などを取り出した。

「手当てするから上着を脱いで下さい、大佐」

「了解」

カールはささっと上着を脱いだが、自分の体を見ると少々驚いてしまった。
                   ひど
怪我の状態が思ったより酷かったからだ。
          さ
急所は全て避け、ダメージを極力軽減させたつもりだったが、やはり殴られている時間が長す

ぎたらしい。

どんなにダメージを軽減させたとしても、回数が多ければ体にはそれ相応の負担が掛かる。

あの時援軍の到着が少しでも遅かったらダメだったかもしれない、とカールは思わず苦笑いを

浮かべた。

「君に来てもらって正解だったな」

「え……?」

「今回の作戦が成功したのは君の活躍のお陰だ。ありがとう、サラ」

「何言ってるのよ、カール。私、お礼なんて言われる程の事はしてないわ。あなたの指示に従

っただけで、他は何もしてないもん。作戦成功の鍵は指揮官が握っているものよ、だから成功

したのはあなたのお陰v」

「いや、君のお陰だよ」

「違うもん、あなたのお陰だもん」

二人は数回同じ事を言い合ったが、途中でプッと吹き出して笑った。

そして一呼吸置いてから、二人は同時に同じ言葉を口にした。

『二人のお陰』

今回の作戦は二人でなければ成功しなかった。

それがわかった為に、笑いが込み上げてきたのだ。

サラはクスクス笑いながらもテキパキと手当てを行い、カールも笑いながら手当てを受けてい

たが、心の奥底ではやはり彼女のお陰だと思っていた。
                                                きづか
サラはどんな時もカールの軍人としてのプライドを傷付けまいと気遣ってくれる。

男がプライドを傷付けられると、どんなに苦しむかわかっているから。

わかった上でサラは必ず一歩引き、カールを前に出す。

元からそういう性格なのかもしれないが、カールの心はサラへの感謝の気持ちでいっぱいに

なっていた。

「よし、体の方は全部終わったわね。後は顔だけど……」

サラはカールの顔を両手で包み、まじまじと口元にある傷を観察した。
                              だぼく
体の傷は数え切れない程あったが全て打撲、顔の傷は一カ所だけだったが切り傷であった。

殴られている間中例の冷たい目をしていたので、顔を狙おうという勇気のある者がほとんどい

なかった様だ。
                 ぬ                                     な
口元となると消毒液を塗る訳にはいかない為、サラは迷う事なくその傷を舐め始めた。
手当てもラブラブv
「サ、サラ…!?」

「あ、ごめんなさい。痛かった…?」

「いや、痛くはないけど……」

口元を舐められるという初めての体験にカールは妙にドギマギし、顔を瞬時に真っ赤にした
                         ひざ
が、何だかんだ言いながらサラを膝の上へ移動させ、抱き合う様な体勢で手当てを受けた。

やがて傷を舐め終えたサラはそこへガーゼを貼り、腰から手を離しそうにないカールに微笑ん

でみせた。

「手当て完了しました、大佐」

「ああ、ありがとう」

「じゃ、村長さんの所へ行きましょう」

「そんなに急ぐ必要はないよ、もう少しここにいよう」

「でも……」

サラは困った様な顔を見せたが、近づいてくるカールの唇に素直に応じた。

一度目は軽い口づけ、そして二度目からは濃厚な口づけに移行しようと思ったカールだった

が、舌を入れる為に口を開いた途端、口元にある傷がピリッと自己主張した。

サラはカールの異変に気付くとすぐに唇を離し、彼の口元に貼っているガーゼを優しく押さえ

直した。

「ここが治るまで、しばらく我慢してもらわないと」

「………我慢出来るかなぁ?」

「出来るわよ。というより、我慢しなさい。治ったら、いっぱいしていいからv」

「よし、じゃあ頑張る」

二人は子供の様に笑い合うと玄関へ移動し、村長の案内で別の民家の寝室に足を運んだ。

するとそこへ大尉が顔を出してカールに報告を行い、もうこんな時間だからと彼らもイエナ村で

休む事になった。
                                                    ねどこ
深夜ではあったが、感謝の気持ちからか村民達はせっせと兵士達の寝床を用意し、東の空

が明るみ始めた頃、イエナ村はようやく元の静けさを取り戻した。

いつ如何なる時も指揮官として行動してしまうカールは、全員が寝静まるのを待ってから、疲

れ果てた体をベッドへ投げ出した。

「こら、もっとゆっくり動かないとダメだよ」

すかさず声を掛けてきたのはもちろんサラ。

カールの事を心配し、彼女もまだ休んでいなかったのだ。

カールは半分夢心地になりながら、自分を心配してくれるサラに感謝の気持ちを伝えようと、

彼女の体に手を伸ばした。
                                                       つ
しかし結局途中で力尽き、カールはサラの豊満な乳房を枕にして眠りに就いた。
                                                            かか
サラはやれやれと苦笑したが、カールの体に優しく毛布を掛け、彼を大事そうに抱えて後を追

った。





翌日正午近くなった頃に村は目を覚まし、その日から早速コーヒー豆の取り引きを再開した。
                                            しめ                     うたげ
と同時に、カールを始めとする帝国軍兵士達に感謝の意を示し、村の中心部でささやかな宴

が開かれた。

ニセ兵士達を連行する為に半数以上の兵士が基地へ帰ってしまったが、それでも村民達は
          ちそう
たくさんのご馳走を用意し、酒ではなく村自慢のコーヒーを彼らに振る舞った。

カールとサラも村民からコーヒーを受け取り、多くの人に囲まれて宴を楽しんでいた。
                                          なか
二人の元へは代わる代わる礼を言う村民が訪れ、宴の半ばまではゆっくりする暇がなかった

が、大きな村ではないお陰で途中からはのんびりとコーヒーを味わう事が出来る様になった。

そうしてカールとサラがにこやかに談笑していると、二人の傍に数人の若い女性が集まってき

た。

女性達はしばらくもじもじした後、小さく頷き合うと頬を赤らめながらカールを見上げた。

「あ、あの……昨日は本当にありがとうございました」

一人が代表して感謝の言葉を言うと、女性達は一斉にペコリと頭を下げた。

カールはその女性達が昨夜村長宅で救出した女性達だとわかり、にっこりと優しい笑顔を浮

かべてみせた。

「ご無事で何よりでした」

カールの笑顔に女性達はぽや〜んとなり、彼がもう一度声を掛けるまで時が止まったままで

あった。
            ひじ
女性達は互いに肘で腕をつつき合うと、感謝の言葉を言った女性が再び代表してカールに話

し掛けた。

「あの…えっと……いきなりこんな事を聞くなんて失礼だとは思いますが……」

「何でしょう?」

「今、恋人はいらっしゃいますか?」

突然投げ掛けられた場違いな質問にカールは目を丸くして驚いたが、無意識に隣にいるサラ

の腕を引っ張り、女性達の前へ移動させた。
                          かし
サラも女性達も訳がわからず首を傾げ、カールの行動を理解するのに多少時間が掛かった。

やがてカールの恋人が目の前にいるサラだとわかると、女性達は相当なショックを受けた様

でガックリと肩を落とした。

「そ、そうだったんですか…。てっきり部下の兵士さんかと思ってました……」

「彼女は軍人ではないんですよ。今回は助っ人として手伝ってくれたんです」
                                                                じぎ
カールが見るからに嬉しそうに説明すると女性達は更にガックリし、二人に何度もお辞儀しな

がら足早に去って行った。

カールは不思議そうに女性達を見送り、隣で同じく不思議そうな顔をしているサラと顔を見合

わせた。

二人共、恐ろしい程鈍感なのである。

女性達にとっては、カールは危ないところを助けてくれた王子様と言えなくもない。
       そろ
彼女らは揃ってカールに惚れてしまった様だ。

しかし当の本人とその恋人は女性達の思いに全く気付かず、いつもの様にたくさんの恋心は
ひそ
密かに消え去っていった…





イエナ村でのささやかな宴は夕暮れと共に終息を迎え、カールは基地へ帰る大尉に報告書を
たく
託すと、ようやく全ての任務を完了した。

今回の任務は休暇を利用して従事していたのだが、ニセ兵士達を逮捕出来たお陰でその休

暇は正式な任務となり、カールはそれならと翌日から改めて休暇を取る事にした。
せっかく                                のが
折角サラと二人で遠出しているのだ、この機会を逃す手はない。

それに傷付いた体を治す事も重要だ。

「サラ、俺は二、三日この村に留まるつもりなんだが、君はどうする?」

「う〜ん、どうしようかなぁ…」

二人は答えがわかっているのに一緒に悩むフリをし、最終的にはカールがサラに甘える形で

落ち着いた。

「ずっと俺の傍にいて、手厚く看護してくれないか?」

「ふふふ、仕方ないなぁ。わかったわ、ず〜っと傍で看護してあげるv」

「ありがとう」

カールが嬉しそうな笑顔で礼を言うと、サラもつられて笑顔になった。

名目上は『看護』であったが、本心はどちらも同じ。

カールとサラは二人きりの旅行を満喫しつつ、ニセ兵士達によって荒らされた民家の片付けを

進んで手伝った。

村を救うだけでなく、事後処理までこなすカール達の活躍振りに村民達はいたく感動し、お土

産にと二人にたくさんのノーブルイエナを贈った。

帝国軍人として当然の事をしただけだったが、カールは思わぬ収穫に驚きながらも感謝し、謹

んでノーブルイエナを受け取った。

イエナ村で過ごす最後の夜、二人は村長宅で夕食をご馳走になって部屋へ戻ると、室内にあ

る大量のノーブルイエナを眺めながら雑談を始めた。

「良かったね、カール」

「ああ」
                    もら
「でも……こんなにたくさん貰っちゃって大丈夫なのかな?取り引きを再開したばかりで大変

なはずなのに……」

「大丈夫、いざという時は軍から援助するつもりだ」

「そっか。さすが帝国軍、頼りになるわねv」
     ほ
サラに褒められるとカールは嬉しそうに笑ったが、すぐに真剣な表情になって声のトーンを落と

した。
       ちゅうおう
「最近軍は帝都にばかり目を向けていると思うんだ。だからこそ辺境を狙った事件が多発して

いるんだが、これからはもっと周りにも目を向けていかなくてはな」

「うん、そうだね」

サラは自分に言い聞かせる様に話すカールに頷いてみせると、彼を優しく抱き寄せて髪を撫

でた。
                                        はず
彼の様な軍人がいてくれたら、帝国軍はもう道を踏み外す事はないだろう。
    い
あの忌まわしい戦争も忘れる事が出来る…。
     かす                                         つか
サラが微かに悲しそうな表情を見せると、カールは彼女の両手を掴んでそっと引き寄せた。

すとんとサラはカールの膝の上へ座り、二人は何も言わずに口づけを交わした。

「そろそろ大丈夫みたいだ」

「…大丈夫って何が?」

「口を大きく開けても問題無いって事だよ。さぁ、始めよう」

「は、始めるって…?」

「治ったら、いっぱいしていいって言っただろ?」

「……まだ治りきってないと思うんだけど?」

「ちゃんと加減してするさ。基地へ戻ったら、またしばらく会えなくなるし、今夜は徹底的にして
      たくわ
気持ちを蓄えておきたいんだ。君はどうだい?」

「徹底的っていうのは無理かもしれないけど、私も蓄えておきたいな。会えなくても淋しくなら

ない様に…」
     けなげ                                             ふさ
非常に健気な事を言うサラをぎゅっと抱きしめると、カールは彼女の口を塞ぎながらベッドへ押

し倒した。

サラはカールの怪我を気遣いつつ、彼の温もりに包まれると安心した笑顔を見せ、二人はい

つも通り幸せな夜を過ごした。





翌朝カールとサラは村民達に見送られながらイエナ村を後にし、大量のコーヒー豆と共に帰路

に就いた。
                                              い
そうしてその日の内に基地へ戻ったカールは早速コーヒーを煎れ、ノーブルイエナの香りと味
                 た                        さば
を充分堪能してから、溜まりに溜まった書類をご機嫌で捌いたのだった。










●あとがき●

久々にカールが男前な話になりましたv
殴られても殴られても起き上がってくる不死身人物カール。怪しげ人物でもあります(笑)
軍人らしいお話に仕上がって自己満足していますが、実はラブシーンがメインであります!
カールの口元をペロペロ〜vv いや〜んvな演出ですね♪
前編のあとがきに書きました通り、このコーヒーのお話は私の夢が元になっていますが、夢は
所詮夢。途中までしか見てません(爆)
人質になった女性を救えた!と思った瞬間起きてしまいました。
という訳で、メインのラブシーンは付け足し(笑)
医者でもあるサラなら手当てシーンはあって当然ですし、口元には何も塗れないだろうと、あ
あいうラブラブな手当てになりましたv
そして女性達の扱いも付け足し。いつもあんな感じでカール達は鈍感街道まっしぐらです。
お気に入りのコーヒー豆を手に入れ、愛する女性といちゃいちゃ出来て良かったね、カールv
イラストもカール幸せvな感じになりました(前編よりも大人向けっぽい…)

●次回予告●

辺境地域での事件は収まる事を知らず、ガーディアンフォースだけでなく、軍も必死に事件解
決に携わっていました。
そんなある日、第一装甲師団に新たな任務が舞い込んできます。
その任務を担当しているガーディアンはカールの弟トーマ。
カールは弟と共に仕事をするのは余り気が進みませんでしたが、事態は急を要するとの事
で、事件が起こっている町へ急いで向かいます。
アニメの主人公&ヒロインがいよいよ登場!
第六十四話 「好敵手」  サラが……私の妻になる女性が君達に会いたがっているんだ。