第六十二話

「コーヒー〜前編〜」



                                                                い
帝国軍第一装甲師団の基地内にある師団長用の執務室にて、カールはコーヒーを煎れようと

準備をしていたが、途中でピタッと動きを止めた。

彼のお気に入りのコーヒー豆…ノーブルイエナがあと数杯分しか残っていなかったのだ。

傍にある戸棚を開けてみると、買い置きした分も無くなっている事がわかった。

(……そう言えば、ずっと買いに行ってなかったからなぁ…)

ここ最近戦後処理の忙しさに拍車が掛かり、コーヒー豆の補充をすっかり忘れていた。

何事も用意周到なカールにしては珍しい事だったが、それ程忙しい毎日を送っていたのだか

ら忘れるのも無理はない。
               なじ
カールは急いで顔馴染みの業者と連絡を取り、いつも通り大量に注文しようとしたが、業者の

男性から返ってきた返事は彼が予想もしない内容であった。

何とコーヒー豆が無いと言うのだ。

ノーブルイエナというコーヒー豆は愛好家が多く、常に高値で取り引きされている最高級のコ

ーヒー豆である。

よって品切れになる事もしばしばあったが、それは店頭での話。

直接顔馴染みの業者に問い合わせているのに、商品が無いとは非常におかしな話だ。

「……は?無い?」

「数日前から産地と連絡が取れなくなってましてね。今じゃ在庫がスッカリ底をついて、我々も

お手上げ状態なんです」

「直接取りに行けばいいんじゃないですか?」
                                            たど
「はい。そう考えて取りに行った者もいたのですが、産地へ辿り着けなかったそうなんです」

「辿り着けなかった…?どうしてですか?」

「……あなたなら何とかして下さると思うので話しますが、実は途中で軍の方に止められたら

しいんです」

「軍に…?」

「産地であるイエナ村への道は一つしか無くて、その道の途中に帝国軍の部隊が駐留してい

ると聞きました。大佐はその部隊の事をご存知ですか?」

「いや、イエナ村方面へは部隊を派遣していないはずだが…」

「そうですか…。もしやと思っていましたが、やはりおかしいですね……」

業者の男性が困った様子で黙り込むと、カールは極力明るい笑顔で頷いてみせた。

「イエナ村の事は私が調べてみます。ですから、皆さんはしばらく様子を見ていて下さいませ

んか?」

「大佐ならそうおっしゃって下さると信じておりました!イエナ村の事、よろしくお願いします」

カールは業者の男性との通信を終えると、帝国軍各部隊が今どこにいるのかを調べ始めた。

すると、思った通りイエナ村方面へは部隊は一つも出向いていなかった。

イエナ村近辺は共和国との戦争時でも比較的平和な所であった為、部隊を派遣する必要性

が無かったのだ。

しかし先程の話では、帝国軍の部隊が駐留しているという。

ひょっとしたら、ガーディアンフォース設立のキッカケとなった事件と何か関係があるのかもし

れない。

イエナ村は帝国最東端に位置しており、辺境中の辺境である。
                               つな
辺境地域で続発している事件と何らかの繋がりがあると考えられなくもない。

が、現時点では確証はないので、大部隊である第一装甲師団が動く訳にはいかない。

悩みに悩んだ末カールが思い付いた打開策は、一人で単独調査を行う事。

自分のお気に入りのコーヒー豆の為だけに部下を巻き込む事は出来ない、と思っての苦肉の

策である。

しかしいざという時はイエナ村付近を担当している部隊に応援を要請する事にし、カールはま

ず情報収集から始めた。

何をするにしても、最初はやはり状況を把握しなくてはならない。

そうしてカールがいそいそと情報収集の準備をしていると、国立研究所から通信が入った。

自分に直通で通信してくるという事は、相手はサラ以外に考えられない。

急いで応答してみると、予想通りサラからの通信であった。

「やあ、サラ。どうしたんだい?」

「カール、イエナ村の事知ってる?」

「え……?イエナ村?」

「そう、あなたのお気に入りのコーヒー豆ノーブルイエナの産地だよ。実は今その村で一騒動

起こってるらしいの」

「な…!?何故君がその事を知っているんだ!?」

先程業者の男性から内密に教えてもらったばかりの事をサラが言い出した為、カールは驚い

て思わず椅子から立ち上がった。

そんなカールを落ち着かせようとサラはモニターに顔を近づけ、大きな瞳をキラリと光らせた。

「私は何でも知っているんですv」

「そ、それはよくわかっているが……しかし…情報が早すぎる様な……」

「えへへ。実を言うと、さっきノーブルイエナを注文しようとしたら、在庫が無いって言われちゃ

って…。で、ひょっとしたらあなたも困ってるんじゃないかって、急いで情報収集したんだよ」

「そうか…。君の情報網なら素早く情報収集出来て当然だよな。それで、何かわかったのか

い?」

「残念ながら詳しい事は何もわからなかったの。すっごく奥まった所にある村だし、通信も思う

ように出来ない場所だから。ただ一つわかった事は、帝国軍を名乗る何者かがイエナ村を封

鎖しちゃってるって事だけ」

「俺もその事は業者の人から聞いたけど、あの村には部隊なんて派遣されてないんだ」
                                    ひんぱつ
「そうなのよ、おかしな話よね。もしかしたら最近頻発している辺境地域の事件と何か関係が

あるのかも…」
            にら
「ああ、俺もそう睨んでいる。だから、明日直接調査に行って来るよ」

「第一装甲師団の皆で?」

「いや、俺一人で」

カールの短い返事に、サラは彼の考えを瞬時に理解すると深く頷いてみせた。

こういう時こそ彼の力になりたい。

軍が動く時は何も手助け出来ないが、カールが単独で動くなら自分も多少役に立てるはず。
                      おもも                      す
そう思ったサラは突然神妙な面持ちになり、カールの目を真っ直ぐに見つめた。

「カール、私も行く」

「君も…?それはダメだ、どんな危険があるかわからない様な所へ君を連れては行けない」

「そう。じゃあ一緒には行かない、一人で行くわ」
               がんこ
「………君は俺より頑固だからなぁ。俺がどんなに止めても一人で行くつもりなんだね?」

「ええ、もちろん」

「わかった。では、明朝研究所へ迎えに行くよ」

「……いいの?」
                                             おちい
「いいも何も、別々に行くより一緒に行った方がどんな状況に陥っても何かと対処しやすい。

君もそう思ったんだろ?」
                  わがまま
「うん、そうだよ。………我儘言ってごめんね、カール」

「謝らなくていいよ。君は誰よりも優秀なパートナーだから、協力してくれて感謝したい程だ」
                         こた
「ふふふv じゃあ、その期待にお応え出来る様に頑張りますわ、大佐殿v」

「ご活躍期待してますよ、博士」

二人はわざと互いを他人行儀な言い方で呼び合い、プッと吹き出して笑った。
                                                        すいこう
本当は笑っている場合ではないのだが、今回の仕事は愛する人と二人で遂行するのだ。

これ以上心強い事はない。
           ひとしき
カールとサラは一頻り笑い合うと、軽く挨拶を交わして通信を切り、明日に備えて早めに眠り
  つ
に就いた。





翌日の早朝、カールは部隊のマークを隠したセイバータイガーに乗り、約束通りサラを迎えに

国立研究所へ向かった。
                  すで
研究所の正面玄関には既にサラが準備万端で立っており、カールを笑顔で出迎えた。

「おはよう、サラ」

「し〜〜〜!」
せっかく
折角挨拶をしたのに直ぐさま制止され、カールが少々不満そうな顔をしていると、サラは笑顔

でコックピットに乗り込み、キャノピーを閉めてからようやく口を開いた。

「おはよ、カール」

「……どうしてすぐに挨拶してくれなかったんだ?」

「今日の事はステア達には内緒にしているの。だからなるべくコッソリしようと思って」

「そうだったのか…。しかしセイバータイガーの足音ですぐにバレると思うんだが…?」

「そう、それが一番の問題なのよ。カール、皆が起き出してこない内に急いで出発して」

「了解」

カールは素早くセイバータイガーを再発進させ、急いで国立研究所を後にした。
     とおざか
サラは遠離っていく研究所の様子を見守り、もう大丈夫と判断すると大きな荷物をコックピット
                                            ひざ
の奥へ置き、ゴソゴソと小型パソコンを取り出してカールの膝の上に座った。

「到着するまで、もう一度情報を集めてみるね」

「ああ、頼む」

本当に心強いパートナーだと改めて思いつつ、カールは帝国最東端にあるイエナ村を目指し、

セイバータイガーを走らせた。

機動力のあるゾイドではあるが、イエナ村まで相当な距離がある。

どんなに急いでも夕刻、下手をしたら日が落ちてからの到着になるかもしれない。
                                                      かたむ
そんな心構えでイエナ村を目指していたカール達だったが、太陽が西に傾き始めた頃、イエナ

村まであと数キロの地点で足止めを食らってしまった。
                                            ふさ
業者の男性が話していた通り、軍服を着た男達が行く手を塞いだのだ。
                                       かが
カールはサラと小さく頷き合うと、セイバータイガーを屈ませてキャノピーを開いた。

途端に男達は銃を構えたが、カールは落ち着いた様子で素早く彼らの階級章を見回し、一番

階級が高い男性ににこやかに話し掛けた。
ずいぶん
「随分と物々しいですね。何かあったんですか?」

「………旅行者か?」

「はい。昨日式を挙げまして、今は新婚旅行中なんです」

カールとサラが見るからに幸せそうに微笑み合っていると、セイバータイガーを取り囲んでいた

男達は問題無しと判断したらしく、銃を下ろして隊長と思われる男性の元へ集まって来た。

その様子を静かに見守りつつ、カールは彼らの背後に停められているゾイドに目をやり、コッソ

リとチェックを行った。

そうする内に一見帝国軍兵士の男達は散開し、二人の傍には隊長らしき男性だけが残った。

「……で、あんた達はこれからどこに向かうつもりなんだ?」

「イエナ村です。おいしいコーヒー豆があると聞いたので、お土産に買って行こうかと思いまし

てね」

「あ〜、あんた達もコーヒー目当てか。折角の新婚旅行なのに申し訳ないんだが、今イエナ村

への道は軍で封鎖してんだ」

「封鎖…?何故封鎖なんてしているんですか?」

「ほら、最近辺境地域で事件が多発しているだろ?イエナ村でも事件が起きちまってさ〜、危

険だから軍で封鎖してるって訳だ。すまんが他へ行ってくれんか?」

「そういう事なら諦めるしかなさそうですね。わかりました、他をあたってみます」

カールは隊長と思われる男性にペコリと頭を下げ、キャノピーを閉じるとセイバータイガーを起

動させた。

「どうする?」

「ここから右手の方に森があっただろう?」

「うん、あの森はイエナ村の方まで続いてるみたいよ」

「奴らのレーダーに引っ掛からない場所まで戻ってから森に入ろう。森の中を進むのは多少時

間は掛かるが、奴らに見つからずに村へ行くにはこの方法しかない」

「ある程度の距離ならレーダーに引っ掛からない様に出来るから、少しは時間短縮出来るよ」

「それは有難い。じゃあ、今すぐ出発して村の近くで皆が寝静まるのを待ち、それから潜入し

よう」

「うん、そうしましょう」

二人はテキパキと行動方針を決めると、一旦村から遠離る様に移動し、帝国軍兵士を名乗る
                          たも
男達がいる場所から一定の距離を保ちつつ、森の中を進み始めた。

その道中サラは黙々と小型パソコンを操作し、村へ潜入する為の準備をしていた。
    かくらん
「電波攪乱成功。1キロまでなら近づいても大丈夫だよ」

「よし、それなら遠回りする必要は無いし、思ったより早く到着出来そうだな」

こうして二人は日が完全に暮れた頃イエナ村付近に到着し、暗闇の中で村人達が寝静まる

のをのんびりと待ち始めた。

「お弁当二食分持ってきて正解だったわv」

頃合いを見計らってサラはカバンから巨大なお弁当を取り出し、それをカールに手渡すと続い
               そそ
てコーヒーをカップに注いだ。

サラが水筒に入れて持ってきたコーヒーはもちろんノーブルイエナ。

国立研究所にあった残り少ないコーヒー豆を使って用意したものだ。
                                        ほおば
カールはサラが作ってくれたおいしいお弁当を笑顔で頬張り、食べ終えるとコーヒーを口に運

んだ。

「やはりノーブルイエナはうまいなぁ」

「あら、おいしいのはコーヒーだけ?」

「君が作ってくれたお弁当ももちろんおいしかったよ。ご馳走様でした」

「喜んで頂けた様で良かったですわ、大佐殿v」

サラは満面の笑みを浮かべながらお弁当を片付け始め、その様子をじっと見守っていたカー
            ひらめ
ルはピンと何かを閃き、彼女が自分の膝の上に戻るのを待ってから話し掛けた。

「満腹状態では潜入作戦に支障が出るかもしれない。腹ごなしに少し運動しないか?」

「それは良い案だけど……運動なんて、ここでは出来ないよ?」

「いや、出来る事が一つだけある」

「なぁに?」

「君も俺も気持ち良くなれる運動。コックピット内で出来る唯一の運動だ」

「……………」
運動…?(笑)
サラにしら〜っとした目で見つめられてしまい、さすがにこんな時にそういう事を提案するのは

まずかったと、カールは慌てて言葉を付け足した。

「い、今のは冗談だ。作戦前で君が緊張しているんじゃないかって思ったから、冗談でも言っ
       と
て緊張を解きほぐそうとしただけだ」

「嘘ばっかり!」

「う………ごめん」

「……あなたって本当に嘘を付くのが下手ね。でも…あなたのそういう所、私は大好きだよv」

サラはカールの頬を優しく撫でると、そのまま顔を近づけて彼の口を塞いだ。
                から
直ぐさまカールは舌を絡め始め、二人は心行くまで互いの舌を求め合った。

「ん……。………ふふふ、ノーブルイエナの味がするね」

「ああ。君のと丁度良く混ざり合ってて、すごくおいしかったよ。もっと飲ませてほしいな」

「もぉ……。作戦前にそんな事ばかり言っちゃダメですよ、大佐」

サラはごく自然にカールの腕の中から抜け出し、巨大なカバンからリュックを取り出すと、そこ

へ必要な物資を詰め始めた。

「ねぇ、さっきの人達ってやっぱり偽者だったの?」

「ああ、偽者だ。奴らのゾイドには一応陸戦部隊のマークが付けられていたが、よく見ると十

三だったんだ」

「十三?」

「第十三陸戦部隊って事さ。でも帝国軍陸戦部隊は十二までしかない、だから奴らは偽者な

んだ」

「結構おおっぴらに活動しているクセに、わかりやすい変装なのね」

「辺境地域では軍の事を詳しく知らない人が多いから、イエナ村の人達もわからずに奴らに従

ってるんじゃないかな」

「これは早急に何とかしないとマズイわね」

「俺達が助けに来たんだから大丈夫だよ。何と言っても、君と俺は最強コンビだし」

「ふふふ、そうね。でも大人数相手だと勝算が低いから、応援を呼んでおいた方がいいかも」

「それもそうだな。しかしここから通信するのは……」

「大丈夫、私に任せてちょうだい」

リュックに物資を詰め終えたサラは、カールの膝の上に戻ると素早く小型パソコンを操作し始

めた。

カールが大人しく待っていると、モニターにイエナ村から一番近い基地にいる通信兵の姿が映

った。

「私は第一装甲師団長カール・リヒテン・シュバルツ。突然で申し訳ないんだが、そちらの基

地の責任者を呼んで頂きたい」

こういう時、軍内で顔を知られていると話がスムーズに進む。

応答した通信兵は突然の通信に驚いてはいたものの、カールの顔と名前はよく知っていたの

で、すんなりと上官に通信を繋いだ。
                                                               こころよ
その基地の責任者である大尉も当然カールの事を知っており、彼からの応援要請を快く引き
                     てはず
受け、早速部隊を派遣する手筈を整えてくれた。

これでカールの計画通り、自分が頭を押さえている間に周りをも押さえる事が可能となった。

「さて準備は全て整ったし、そろそろ出発しようか?」

「了解です、隊長」

サラはかわいらしく敬礼してみせ、リュックを持ってコックピットから降りようとしたが、途中でど

ういう訳かカールに止められた。

サラがキョトンとしていると、カールは先にコックピットから降り、彼女の手からリュックを取り上

げ肩にかけた。
                                                      つか
カールの優しさに喜びを感じつつ、サラは差し出された彼の大きな手に掴まって地面に降り立

った。

そうして二人は手を繋いで歩き出し、村の入口は見張りがいたので避け、わざと道が無い所

から村の中へ入った。

しかし小さな村だった為か、いきなり見回りをしていたと思われるニセ兵士に見つかってしま

い、カールとサラは慌てて逃げ出した。

「思ったより警備が厳重だな」

「………カール、こういう状況なのに素晴らしい落ち着きね」

「焦っても意味ないからね。じゃ、そろそろ近くの民家に転がり込もう」

「えぇ!?転がり込むの!?」

「う〜む、それはさすがに強引すぎるか……」

二人はとりあえず路地裏へ逃げ込むと、村の現状を知る為にも村人と接触しようと素早く相談
                                 うかが
し合い、近くまで来ているニセ兵士の様子を伺い始めた。

何とかタイミングを見計らって民家に入れてもらおうと思っていたのだが、そうこうする内にニセ

兵士に仲間を呼ばれてしまった為、動くに動けない状況に陥った。

仕方なくカールとサラが大人しくしていると、二人の背後から誰かが小声で声を掛けてきた。

二人は飛び上がる程驚いたが、恐る恐る振り返ってみると、傍に建っている民家の裏口から

一人の老人が顔を出していた。

「こっちです、早く!」

老人に手招きされた瞬間カールはすかさずサラの手を取り、その裏口へ急いで駆け込んだ。
                                                                かば
しかしカールは安全と判断して入った訳ではないらしく、裏口を静かに閉めるとサラを庇う様な

体勢で老人を見つめた。

すると、老人は両手を頭上まで上げてみせ、武器などは持っていないと主張した。

「そんなに警戒なさらないで下さい、私はこの村の者です」
     おだ
老人が穏やかに話し出すとカールは警戒を解き、サラと微笑み合ってから彼に頭を下げた。

「突然のご無礼をお許し下さい」

「いえ、お気になさらずに。それで、あなた方は一体…?」

「私はカール・リヒテン・シュバルツと申します。彼女はサラ・クローゼ。我々はこの村に駐留し

ている者達を調査する為に参りました」

「調査……。………あなた方は軍の方ですね?」
          つか
カールは気を遣って職業を言わなかったのだが、老人は完全に見抜いていた様だ。
                             こわ
老人の問いにカールとサラは一瞬顔を強ばらせつつも、ここで嘘を付いても仕方ないと頷き合

った。

「そうです。彼女は違いますが、私は軍に属する人間です。しかしこの村を封鎖している者達

とは何の関係もありません。それだけはわかって下さい」

カールが真剣に訴えかけると、老人は顔をしわくちゃにして笑った。

「皆まで言わなくてもわかっていますよ、シュバルツさん。だからこそ奴らに追われていたあな

た方をお助けしたのです」

「では……」

「はい、私も出来る限りお手伝いしたいと思っています。……自分の村の事なのにお恥ずかし
                           すべ
いですが、私達には奴らに抵抗する術がありません。ですから、少しでもあなた方の助けにな

れる様努力します。どうかイエナ村を奴らの手から取り戻して下さい」

先程とは正反対に、今度は老人が真剣に訴えかけ、カールは笑顔で頷いてみせると手を差し

出した。

老人もすぐに手を差し出し、二人はガッチリと握手し合った。

「よろしくお願いします」
                                   ふてい やから
「お任せ下さい。誇りある帝国軍を名乗る様な不逞の輩は必ず排除してみせます」

「さて、とりあえず今日はこちらでお休み下さい。すぐにお部屋をご用意しますので」
                       たた
「いえ、今夜の内に奴らの頭を叩きます」

「え……?今夜……ですか?」

「先程我々……侵入者を発見した事で奴らは今異常な程警戒していると思われます。です
                                    たか くく
が、だからこそ我々が今夜出て来る訳がないと高を括り、警戒してはいても心は油断している

でしょう。そこを上手く突けば、奴らの頭を容易に叩く事が出来ます」

カールの無謀とも言える発言に、老人は始めは戸惑いの表情を見せていたが、彼の言葉に
        つか
は人の心を掴む力があるらしく、すぐに納得した様子で頷いてみせた。

そして「それならば」と老人は作戦会議を行う為に二人をリビングへ通し、急いでメモ用紙に地

図を書き始めた。

「それはどこの地図ですか?」

「私の家の地図です。奴らは私の家を根城にしているので、リーダーもここにいます」

「そうなんですか……ご自宅を奴らに………」

「あはは、そんな顔をしないで下さい。私は村長として村民を守る義務があります。ですから、

他の民家を荒らされる前に自宅を明け渡したのです。お陰で村民に被害が出ずに済みまし

た」

カール達はさらりと言われた老人の言葉に驚き、目を丸くして彼を見つめた。

「あ、あなたは村長さんだったんですか!?」

「はい、そうです。……あ、そう言えばまだ言ってませんでしたね」

老人…イエナ村の村長は照れ臭そうに微笑みながら、書き終えた自宅の地図を二人の前へ

置き、家の構造などを説明した。
      しょうさい
これだけ詳細な情報を手に入れたのだから、ニセ兵士達の頭を叩く事は予想以上に容易かも

しれない。

そう思ったカールは数分で地図を暗記し、サラが用意してくれた特別製の通信機と小型爆弾

のチェックを行った。

通信機はわかるが、何故小型爆弾まで用意出来たのか…?

カールが疑問の視線を投げ掛けると、サラは小悪魔の様な笑みを見せ、「企業秘密ですv」と

言うだけだった。

こういう時は下手に問い詰めない方がいい。

カールは一応納得したと頷き、チェックを終えた通信機と小型爆弾、ロープなどの潜入に必要

なものを素早く身に着けた。

そうしてふと隣にいるサラが潜入準備をしているのを見ると、カールは彼女の腕を強く掴んで

止めた。

「サラ、君はここに残るんだ。奴らの所へは俺一人で行く」

「一人で…?でも今回の任務は二人で頑張ろうって……」

「君には通信の仲介をしてもらいたい。君なら奴らにバレない様に出来るだろ?」

「う、うん……それは出来るけど………」

「バックアップも立派な任務だ。頼みましたよ、博士」

カールは見るからに心配そうな顔をしているサラの肩を優しく叩くと、暗闇の中で目立ってしま
                      まぶか かぶ
う髪を隠そうと黒いニット帽を目深に被った。

村長の家へは村長本人が案内してくれるという事で、カールは彼と共に正面玄関へ移動を開

始した。

先程裏口から入ったので、正面玄関の方が見つかる可能性が低いと思ったのだ。

「待って、カール」

外の様子を伺っているカール達の元へ、サラが静かに駆け寄って来た。
                                      ひたい
サラはカールの腕を引っ張ると、背伸びをして彼の額にそっと口づけし、精いっぱいの笑みを

浮かべてみせた。

「気を付けて」

「ああ、ありがとう」

カールもサラの額にそっと口づけし、二人は直ぐさま真剣な表情になると深く頷き合った。

見回りをしているニセ兵士の動きを見、大丈夫と判断したところでカールと村長は正面玄関か

ら飛び出して行った。










●あとがき●

実はこのコーヒーのお話は私の夢が元になっているお話です。
夢の中で私は……何とカールになってました(笑) サラになりたかったなぁ…
そのままではおかしな所満載だったので、多少の修正を加えて長編小説に登場させました。
「まだおかしいぞ!」というのは禁句、自分でもわかってますから(爆)
夢が元になっているお話は初めてでしたが、如何でしたでしょうか?
私が見る夢は妙にストーリー性があって、小説の元にしやすい内容が多いです。
だからこそ長編に使うに至った訳ですが、カールの下心やサラの謎な部分が追加・強調され
てしまい、後でどう処理しようかと悩んでいます。
しかも陸戦部隊は第十二までしかないという勝手な設定も気になります(笑)
「1ダースは12」だから数字的に良いかも、と単純に第十二までにしました。
バトルストーリーを調べればすぐわかる事かもしれませんが、始めから関係なく書いているの
で、六十二話目にしてわざわざ合わせるのはおかしいと、完全自分設定になってます。
メールや掲示板でのご指摘はしないで下さいねv
ちなみにノーブルイエナの名前の由来は、ノーブル=英語で「高潔な」 イエナ=ドイツの地名
となっています。頑張ってかわいい名前を探してみましたv
イラストは大人向けなものを描こうとして見事に撃沈されてしまいました(笑)

●次回予告●

イエナ村を封鎖しているニセ兵士達を排除する為、カールは単身彼らのアジトへ潜入。
サラの強力なバックアップもあり、着々と排除の準備を進めて早速作戦開始!
始めはカールが優勢でしたが、後一歩というところでニセ兵士が村の女性を人質にし、形勢
が一気に不利になってしまいます。
果たして、カールは無事にイエナ村を救う事が出来るのでしょうか?
第六十三話 「コーヒー〜後編〜」  君に来てもらって正解だったな