第六十話

「シュバルツ家〜七日目〜」



今日はトーマが基地へ帰る日。
     ごと                                 いらいら
当然の如くトーマは朝からサラについて回り、カールを苛々させていた。
                             ちくいち
淋しいのはわからなくもないが、サラに逐一話し掛けるのはどうか、とカールは苛々しっぱなし

であった。

そんなカールを気にしてか、サラはトーマと二人で話さず三人で話す様に心掛け、兄弟の仲を

取り持とうと必死になっていた。

「そう言えば、お二人の結婚式の日取りは決まったんですか?」

「え、あ、日取り、ね……。カール、日取りは……?」

「今はまだ未定だ」

「そうなんですかぁ…。でもお二人はもう婚約者同士……サラさんの事を姉と思っても問題な

いですね、兄さん?」

「ああ。だが、必要以上に馴れ馴れしくしない様に。わかったな?」
                               わきま
「はい、もちろんです。姉弟と言えども場を弁えて行動しますよ、兄さん」

「良い心掛けだ。お前も成長したな、トーマ」
       ほ
カールに褒められて照れ臭そうに微笑むトーマを見、本当は仲が良い兄弟なのだとサラは改

めて思った。
                                                いだ
サラは一人っ子である為、兄弟に対して非常に憧れの気持ちを抱いている。

確かにサラが思った通り、カールとトーマは仲の良い兄弟であるが、彼女の事に関してだけ

は仲が悪いとしか言いようがなかった。

何故なら、カールは極度のヤキモチ焼き。
たと
例え相手が弟であろうとも、サラに馴れ馴れしくする男は全て敵と認識する。

従って、サラが一緒の時は冷たい態度を取る事が多いカールだったが、いつもそんな風では

大人気ないと、トーマが帰る頃には穏やかに接する様になっていた。
           ぞろ   なご
そうして家族勢揃いの和やかな昼食を終え、トーマは帰り支度を整えると、両親と兄姉に挨拶

する為リビングへ顔を出した。

「トーマ、もう帰っちゃうなんて淋しいわ〜。軍司令部に掛け合って、休暇を延長してもらいまし

ょうよ〜」

「か、母さん、それは無理な話ですよ」

「そんな事ないわ、お父さんの名前を出せば大丈夫なはずよ。お母さんが連絡してあげましょ

うか?」

この人なら本気で連絡し兼ねない、と焦ったトーマは助けを求める様に父を見つめた。

ファーレンはトーマの視線に何の返事も返さなかったが、黙ってソフィアの肩に手を乗せ制止
 うなが
を促した。
                          たび
実はこのやり取りは誰かが旅立つ度に行われる恒例行事となっている。
                                                           すが
ソフィアはファーレンの制止の手をイヤイヤと振り払い、泣きそうな目でトーマに縋り付いた。

しかし結局はファーレンの無言の制止に従い、ソフィアはトーマを見送ろうとカール達と共に格

納庫へ向かった。

「トーマ、たまには顔を見せに帰って来てね」

「はい、もちろんです」

トーマは目に涙を浮かべるソフィアに優しく返事をすると、今度は兄と姉に挨拶しようと二人に

向かって微笑んでみせた。

「兄さん、姉さん、次にお会い出来る日を楽しみにしています」

「私も楽しみにしてるわ。それまで元気でね、トーマ君」

「はい、姉さんv」

「トーマ、これからも初心を忘れず精進するんだぞ」

「ははは、父さんにも同じ事を言われそうですね。これからも精進します、安心して下さい、兄

さん」

士官したての頃に比べると、大変頼もしい物言いをするトーマ。

カールはトーマの成長を心から喜んでいたがあからさまに態度には出さず、兄としての目で弟

を見守っていた。

そうして家族に見守られながらトーマはディバイソンに乗り込むと、軽く手を振ってから第七陸

戦部隊の基地へと帰って行った。

「………次、いつ会えるかなぁ?」

「会おうと思えばいつでも会えるさ」

「うん、そうだね」
                   つな
カールとサラが仲良く手を繋いで話していると、ソフィアは二人の邪魔をしてはいけないと、気
  き
を利かせて足早に家へ姿を消した。

カールはソフィアを笑顔で見送ると、サラと共に庭へ散歩に出る事にした。

今日はどこへ連れて行ってくれるのか?

サラはドキドキワクワクしつつ、カールに導かれるままシュバルツ家の敷地内を散策し始め

た。
 なつ
「懐かしいな……」

シュバルツ家の敷地内は、カールにとっては遊び慣れた自分のテリトリー。
                                       きせき  たど
思わず懐かしさを感じたカールは、幼い頃の自分の軌跡を辿る様に敷地内を突き進み、サラ

をある場所へと案内した。

そこに広がる光景を見た瞬間、カールもサラも子供の様な笑顔になっていた。

「わぁ〜、ここなぁに?」

「俺の秘密基地」

カールは自慢気に言ってみせた。

そう、カールが案内した場所とは彼が子供の頃に作った秘密基地。

家族や友達にも教えた事のない、カールの大切な場所であった。

もう二十年程放置してあった為、ほとんどがボロボロになっていたが、大木に打ち付けた屋根
                             かろ             たも
代わりの板や、上に登る為のロープは辛うじて昔の状態を保っていた。

「へぇ、あなたの秘密基地かぁ。やっぱり男の子って、そういうのを作るのが好きなんだねぇ。

それにしても……なかなか大掛かりな基地を作ったのね、子供なのにさすがだわ」
                                                                 つる
サラは秘密基地全体を見回してから、基地の本部と思われる大木へ向かうと、上から吊され

ているロープを手に取り引っ張ってみた。
                                         てごた
まだ登る事は可能だと主張する様に、ロープは確かな手応えを感じさせた。

サラに続いてカールもロープを引っ張り、今の自分の体重を支えられるか確認を行った。

どうやらまだ大丈夫の様だ。

「サラ、上へ行ってみるか?」

「うん、行くv でも私……木登りって余りした事がないから、行けるかわからないよ?」

「大丈夫、俺が安全な道を教えるから」

「了解しました、隊長。よろしくお願いしますv」

サラがかわいらしく敬礼してみせると、カールは子供の様に笑った。

ひょっとしたら、今カールの心は子供に戻っているのかもしれない。

そう思うと無性に嬉しさが沸き起こり、サラも負けじと子供の様な笑顔でロープを握ると、カー

ルの指示に従って木登りを開始した。

「………登る前からいい眺めを見れるとは思わなかったなぁ」

「え…?いい眺めって………………………………………………………あっ!」
      つぶや
カールの呟きが何を意味しているのかわかった途端、サラは慌てて傍にある太い枝に逃げ込
           すそ              ふく
み、スカートの裾を押さえながら頬を膨らませた。

「それが目的で私を先に登らせたのね!?」

「まさか。いざという時に何かと対処しやすいから、君に先に登ってもらったんだよ」

「そ、そんな風に言われたら…何も言い返せなくなっちゃうじゃない……」

「あはは。実を言うと、君が言った事を完全には否定出来ないんだけどね」

「えぇ…!?もぉ、カールったら……」

正直に白状されたらされたでまた返事に困る。

サラが何も言えずに黙り込むと、カールは彼女が立っている枝までひょいひょいと登り、傍で
      さわ
ニカッと爽やかに笑ってみせた。

「ここからは二人で登ろう」

「……うん」

二人はロープを使って再び木登りを始め、カールはサラの体をしっかりと支えながら上を目指

した。
                                        とぎ
そうして大木を半分まで登り切ると一部分だけ枝が途切れ、周囲の景色が見渡せる場所に

到着した。

「わぁ、いい眺めね〜v」

「ここは見張り台なんだ。と言っても、見張りはせずに昼寝ばかりする場所になっていたが」

「ふふふ、確かにここで昼寝すると気持ち良さそうねv」

サラは太い枝に腰掛けると、カールの腕をちょいちょいと引っ張り、座る様に促した。

カールはサラのすぐ隣に腰を下ろし、二人は目前に広がる美しい景色を眺め始めた。

「ここの事を教えたのは君が初めてだ」

「トーマ君にも教えてなかったの?」

「ああ、トーマにも秘密にしていた。俺の……大切な場所だったから」

「そっか……。じゃあ、私には特別に教えてくれたんだねv」

「そうだよ、君は特別だ」

『特別』という言葉は、この世でたった一人にしか使わない言葉。

だからこそ聞いた時の喜びは計り知れない。
     あふ                                         うず
サラは溢れんばかりの満面の笑みを浮かべ、カールの胸に顔を埋めて抱きついた。

「………今度来る時は」

「ん…?」

「今度ここに来る時は一緒にお昼寝しようね」

「ああ、そうしよう」

カールは嬉しそうに頷いてみせると、唇を奪おうとサラの頬に手を伸ばした。

「あ、危ないよ、カール」

座るのに適した枝ではあったが、少しでもバランスを崩すと落ちてしまうかもしれない。
             みき
そう思ったサラは幹の方へ逃げようとしたが、カールも彼女に合わせて移動したので、逆に逃

げ場を失ってしまった。
                                               ふさ
カールはサラの体を幹に固定させ、彼女を安心させてから口を塞いだ。
                                                                 から
何度も何度も唇を重ね、永遠に飽きる事はないと感じつつ、カールとサラは互いの舌を絡ませ

合っていた。
                                       なごりお
やがて太陽が沈み始めた事に気付いたカールは、名残惜しそうに唇を離したが、サラの腰か

らは手を離さずに夕日を眺めた。

「………そろそろ帰ろうか?」

「もう少し……こうしていたい………」

「そうか……じゃあ、もう少しだけ……」

カールも同じ気持ちだったのでサラの腰を持ち直し、二人はぎゅっと抱き合って愛する人の温

もりを感じていた。





完全に日が暮れる前に帰宅したカールとサラは、家へ入ったと同時にソフィアに捕まってしま

い、早速とばかりに冷やかし攻撃を受ける事になってしまった。

「どこ行ってたの〜?やっぱりラブラブだったの〜??」

「え、あ、はぁ…まぁ………そ、そういう事になりますかねぇ…」
         うらや
「いや〜ん、羨まし〜いv もぉ〜、カールってば幸せ者ねぇ。サラちゃんみたいなかわいい子

をお嫁さんに出来てvv」

「………母さん」

「なぁに?」

「そろそろ夕食の時間ではないですか?」

「あ、そう言えばそうだったわね」

ソフィアはポンと両手を鳴らすと、二人の手を引っ張ってダイニングルームへ向かった。

三人からやや遅れてファーレンがダイニングルームに顔を出し、家族揃っての最後の夕食会

が始まった。

「あ〜ぁ、今日はトーマとお別れだったのに、明日はカールとサラちゃんともお別れなのね

ぇ…。淋しくなるわ…」
                                                        なげ
ソフィアはカール達との別れが余程悲しいらしく、食事中だというのに終始嘆きの言葉を呟い

ていた。

やがて食事が終わるとソフィアは本領を発揮し、目に涙を浮かべながらカールに詰め寄った。

「ねぇ、休暇は延長出来ないの〜?」

「今日トーマも言ってましたが、それは無理な話ですよ」

「どうして〜?あなたはもう大佐なんだから、それくらいの融通は利くでしょ?」

「大佐だからと言って何をしても良いとは限りません。母さんだってわかっているでしょう?」

「わ、わかってるけど……でも………あ、そうだ。ねぇねぇ、サラちゃん」
                                           しぼ
カールでは話にならないと判断し、ソフィアはサラ一人に絞って話す事にした。

突然話を振られたサラは驚いて目を丸くしたが、笑顔でソフィアに返事を返した。

「何でしょう、お母様?」

「思い切って明日カールと結婚して、ここで一緒に暮らしましょ、ね?」

「え……………えぇ!?あ、明日なんて突然すぎますよ!」

「そんな事ないわ。結婚はおめでたい事なんだから、突然しても皆祝福してくれるはずよv」

「そ、そういう問題ではなくて……」

「ウェディングドレスは私が徹夜で用意するし、町の人に来てもらえば盛大な式を行えるわv」

「……………」

サラはとうとう何も言い返せなくなってしまい、助けを求める様に隣に座っているカールを見上

げた。

すると、カールもお手上げだと言わんばかりに肩をすくめ、二人は最終手段に出ようと深く頷き

合った。

こういう時はあの人に助けてもらうのが一番なのだ。

「お父様はどう思われます?ちょっと無理があると思いませんか?」

サラが恐る恐る尋ねてみると、ファーレンはやれやれといった様子で重い口を開いた。

「ソフィア、無理を言ってはいけない。カールも大佐としてすべき事が数え切れない程あるだろ

うし、それに……その…サ…サラも国立研究所を放っておく訳にはいくまい。とりあえず結婚

は身辺の整理が済んでから行う方がいいだろう」

「でもぉ…二人がいなくなったら淋しいんですもの〜。あなたもそうでしょ?」

「お前には私がいるじゃないか、それの何が不満なんだ?」

いつもは人前では決して言わない様な事をファーレンが口にした為、ソフィアは一瞬キョトンと
            じょじょ
してしまったが、徐々に喜びが沸き起こり満面の笑みを浮かべた。

やはり父の力は偉大だ、とカール達は両親を静かに見守っていた。

「不満なんてないわ。あなたがいてくれるだけで私……すごく幸せですものv」

「………そうか」

ファーレンははにかんだ様な笑顔を見せると、今の内に行けとカールに目で合図を送った。

カールはコクンと頷いてみせ、サラを連れて足早にダイニングルームを後にした。

「やっぱりお母様を止められるのはお父様だけね」

「ああ、これで何とか明日は順調に出発出来そうだな」

「ふふふ、そうだね」

カールとサラは安心した様に微笑み合うと浴室へ向かい、最後だからという理由で入浴時間

を長めに取り、しっかりと温まってから自室へ戻った。

自室に入るとカールは早速とばかりにコーヒーを用意し始め、サラは彼からコーヒー入りのカッ

プを受け取ってソファーに腰掛けた。

「明日帰るんだよねぇ…」

サラはゆっくりとコーヒーを飲みながら、シュバルツ邸での日々を思い出すと感慨深げに呟き、

隣に座っているカールを見つめた。

サラの熱い視線に気付いたカールは優しく微笑んでみせ、彼女の内に秘めた淋しい気持ちを

落ち着かせようと、穏やかな声で話し出した。

「いつかはここが、君にとってのもう一つの故郷になるんだ。今離れるのは辛いだろうけど、故

郷になればきっと辛くなくなる。ケルン町の様に、いつでも帰る事の出来る場所だからね」

「……うん、そうね。ありがと、カール」
いつでも帰る事の出来る場所…
カールのお陰で淋しい気持ちは綺麗サッパリ無くなり、サラは満面の笑みを浮かべると、彼の

腕の中へ飛び込んで行った。

「ここへ来てから楽しい事ばかりだったけど、今日は特に楽しかったわ」

「特に?」

「今日は子供の頃のあなたに会えた気がしたの。だから…すごく嬉しかった……」

カールもサラも、互いに相手の人生を半分も知らない。

だからこそ少しでも知る事が出来ると、喜びで胸がいっぱいになる。
  まさ
今正に、サラがその状態にあった。
                         すさ
そして知ってもらえた方の喜びも凄まじいものがある。

カールは嬉しさと気恥ずかしさを同時に感じ、思わずにやけてしまう口元を慌てて元に戻す

と、サラの耳に口を寄せた。

「子供の俺だけじゃなく、大人の俺も見せようか?」

「……もぉ、すぐそういう事に話を発展させるんだから」

「イヤかい?」

「イヤじゃないけど………あ、それなら大人の私も見せてあげるv」

「大人の私?」

「いいからいいから。少しだけ向こう向いてて」
                                                              かし
サラに強引に後ろを向けさせられ、カールは一体何をするつもりなのだろうと、首を傾げながら

彼女が声をかけてくるのを待った。

サラはカールが見ていない事を確認すると、昨日町で買って来たものを取り出し、『大人の

私』になる為の準備を始めた。

そうして準備を終えたサラはカールの背後へ移動し、彼の腕をそっと引っ張ると、自分の方へ

顔を向けさせた。

カールはサラの姿を見た途端驚いて目を見開き、そんな彼にサラは照れ臭そうに微笑んでみ

せた。

「どお?似合う?」

サラが『大人の私』になる為にした準備とは、昨日買った服に着替える事であった。

昨日買った服とはもちろんあのセクシーなネグリジェ。

しかもネグリジェの下にわざわざ黒い下着まで着けていた。

見せるなら両方一緒に、と思ったのだろう。
            なま
カールはサラの艶めかしい姿を上から下まで呆然と見回し、思い出した様に目の前にある茶

色の瞳を見つめた。

「すごく似合ってるよ、でも……」

「でも?」

「下着は必要ないな」

「………下着が無かったら全部見えちゃうよ?」

「それでいいんだ。下着で隠したら、透けてる意味が無くなってしまうだろ?」

「で、でも……」

「どちらにしても後で脱ぐ事になるんだし、今の内に脱いで……いや、俺が脱がせてやるよ」

「え……ちょ、ちょっと待って………やん………」
                                                         は
カールは抵抗しようとするサラをソファーに固定し、素早く下着を上下共引き剥がすと、もう一

度彼女の艶めかしい姿を堪能し始めた。

カールに腕を押さえ付けられていた為、サラは力で抵抗するのは無理と判断し、口で抵抗を
こころ
試みる事にした。

「カール、離して…お願い……」

「恥ずかしいのか?」

「うん、恥ずかしい……」

「……きっとベッドへ行けば恥ずかしくなくなるはずだ、ベッドへ行こう」

カールは有無を言わさずにサラを抱き上げると、ベッドへ運んでコロンと寝かせ、彼女の上に
      ば
四つん這いになった。

「どうだい?まだ恥ずかしいかい?」

「少しだけ恥ずかしいけど、もう平気みたい」

「それは良かった」

そう言いながらカールが口づけしようとすると、彼の首元からキラリとネックレスが顔を出し、ネ

ックレスに通している婚約指輪が相方であるもう一つの婚約指輪に当たった。

今日は二人共婚約指輪付きネックレスを身に着けていたのだ。

カールとサラは思わず互いの婚約指輪に目をやると、幸せそうな笑顔で微笑み合った。

そしてもう一度誓いの口づけを交わし、二人は共に快楽の世界へと旅立った。

「好き………大好き、カール……」

「俺も……大好きだよ、サラ……」
                                                         つらぬ
サラの愛の言葉にカールは口で返事をしつつ体でも答え、彼女の体を何度も貫き続けた。
                                                       ふ
こうしてシュバルツ邸での最後の夜は、二人の熱々さに比例して着実に更けていった…



                           *



シュバルツ邸に来てから丸七日が過ぎ、カール達は里帰り最終日の朝を迎えた。

今日は昨日のトーマに続いてカールとサラが帰る日。
                                                       と
ではあるが、昨日とは違ってソフィアは大騒ぎする事なく、笑顔で朝食を摂っていた。

ファーレンが言った言葉の効力が持続している様だ。

カールとサラはこっそり胸を撫で下ろしつつ、それでもまだ自信無さそうにソフィアを見守って

いた。
                                      しぶ
やがて家族揃っての朝食を終えると、ファーレンが渋い顔を見せる中、ソフィアは久々にキッチ

ンに立ち、カール達の為にお弁当を用意し始めた。

「はい、お母さん特製のお弁当よv」

「ありがとう、母さん」

「ありがとうございます、お母様」

カールとサラはソフィアにそれぞれ礼を言い、巨大なお弁当を受け取った。
                        たずさ
そうして整理した荷物とお弁当を携え、二人がせっせとセイバータイガーに積み込んでいる

と、ソフィアが数人のメイドを連れてやって来た。

見送りは一人より大勢の方がいいと思ったのだろう。

カール達は出発準備を終えるとソフィアの元へ向かい、笑顔で別れの挨拶を交わした。

「それじゃ、行ってきます」

「行ってらっしゃい、カール、サラちゃん」

「また遊びに来ますね」

「ええ、約束よ。………あ、言い忘れていた事があるんだけど、聞いてくれる?」

「はい。何でしょうか?」

ソフィアはカールとサラの腕を引っ張り、メイド達に聞こえない様に小声で話し始めた。

「結婚する前に、子供作っちゃっていいからねv」

「な、何を言い出すんですか、母さん!?」

「何って…別に変な事は言ってないわよ。私はただ早く孫の顔が見たいだけv サラちゃん、カ

ールもあの人みたいにすごいかもしれないけど、頑張って相手してあげてねvv」

「え……あ、はい、努力します」

「母さん!」

「あら、怒るなんて怪しいわねぇ。サラちゃんの体の事、よ〜く考えて行動しなきゃダメよ?」

「わ、わかってるよ!さぁ、出発しよう、サラ」

口では必ずソフィアに負けてしまうカールは、早く出発する方が賢明だとサラにセイバータイガ

ーに乗り込む様促した。

サラは戸惑いながらもソフィアとメイド達にペコリと頭を下げ、先にコックピットに乗り込んだカー

ルの後を追った。
                                         うる
満面の笑顔で手を振るソフィア、そして残念そうに瞳を潤ませ、手を振るメイド達に見守られる

中、カールはセイバータイガーを発進させ、サラは皆に手を振り返し続けた。
                  た
そうしてシュバルツ邸を発ち、数分程走った所で前方の丘に人影がぽつんと見えた。

あの人影は間違いなくファーレン。

しかしカールは立ち止まる事なく走り続け、父の前を通過する瞬間敬礼してみせた。

すかさずファーレンもビシッと敬礼し、親子は無言で別れの挨拶を交わした。

どちらも根っからの軍人なので、この方がしっくりくるのだろう。

サラは極力二人の間に入らない様に心掛け、ある程度距離が空いてからファーレンに手を振

り、彼女も無言の挨拶をした。

「………ひょっとして、お父様っていつもああしてるの?」

「いや、今日だけ特別だよ」

「特別…?どうして?」

「娘にはきちんと挨拶したかったんだと思う」

「………そっか」

サラは非常に嬉しそうな笑みを浮かべると、カールの胸に顔を埋めた。










●あとがき●

長かったシュバルツ邸でのお話がようやく終了しました。
しかし終了したらしたで淋しい気もします。
もっとファーレンとソフィアのラブラブっぷりを目立たせたかったなぁ…
あの二人は二人きりになると、カールとサラの様にいちゃいちゃしてます(笑)
いつまでも現役。さすがシュバルツ家の当主とその奥様v
これから先ファーレン達が出て来るお話はほとんどありませんが、毎日ラブラブで過ごしてい
ると思ってやって下さいvv
ちなみにトーマは今後ももちろん登場、出番が増える予定です。
さて、ソフィアが最後に言った言葉は本当に実現するのでしょうか?
今はまだ二人でいたいと思うので、子供は後回しになると思います。
そんな都合の良い風に出来る訳がないとは言わないで下さいねv
最後になりましたが、セクシーなネグリジェについては……ノーコメント(笑)
男心をくすぐりすぎな服でした。カールってば幸せ者〜vv(by ソフィア)

●次回予告●

帝国・共和国の辺境に位置する町にて事件が多発した為、両国の首脳陣はそれらの事件に
対処しようと、平和維持を目的とした特殊部隊「ガーディアンフォース」を組織します。
ロイドにガーディアンフォースに誰か推薦してほしい、と頼まれたカールはある人物を推薦。
しかしその直後ロイドから驚くべき事を聞き、カールは多大なショックを受けてしまいます。
第六十一話 「ガーディアンフォース」  ……カール、あなたが何と言おうと私は辞めないわ