第五十九話

「シュバルツ家〜六日目〜」



早朝、カールはどういう訳か基地にいる時と同じ時刻に目が覚めた。

そんなに寝起きが良い方ではないので、完全に目が覚めるまでベッドでゴロゴロしていようと
                   や
思ったが、途中ですぐに止める事にした。
         いと
隣には彼の愛しい女性が眠っており、眠気覚ましに丁度良い方法を思い付いたのだ。
                                         ば
カールは早速行動を開始し、素早くサラの上に四つん這いになった。
                                                          おさ
それだけで充分目が覚めたが、サラのかわいらしい寝顔を見ていると感情を抑えられなくな

り、止めようという気が一切起きなかった。
                           まく                     あらわ
サラが着ているパジャマを少しずつ捲り上げ、彼女の豊満な乳房が露になると、カールはこっ
            な
そり舌を近づけ舐め始めた。

「ん………」

まだ夢の中にいるサラは、体に伝わる快感に無意識に声をあげた。

これでは隣室のトーマに気付かれてしまうと、カールは急いでシーツから顔を出し、サラの口
 ふさ     から
を塞ぐと舌を絡め始めた。

もちろんその間も、彼の手はずっとサラの乳房をまさぐり続けていた。

「んっ……!」
                                                                  もてあそ
今のカールの行動により、一気に目が覚めたサラは重ねている唇はそのままに、乳房を弄ぶ

彼の指を必死に払いのけた。

カールは指を払われても全く動じず、サラの全身を包み込むと舌をより一層激しく絡ませた。

「………は……ぁ………カール……」

「おはよう、サラ」
                                       うる
サラは起き抜けから濃厚な口づけを受けた為に瞳を潤ませていたが、そんな彼女にカールは
さわ
爽やかな笑顔で挨拶してみせた。

その笑顔に思わず見とれてしまったサラは返事を忘れ、うっとりとカールを見つめた。

すると、カールはその目は自分を誘っているのだと勘違いし、再びサラの口を塞いで濃厚な口

づけを始めた。
                                             じょじょ
しばらくの間サラが大人しく口づけを受けていると、カールも徐々に気持ち良くなっていき、口

づけを終えても彼女の上から離れられなくなってしまった。

「カール……いつまでそこにいるの?」

「一生」

「………真顔で冗談言わないで」

「冗談じゃない、本気だ」

「もぉ……またそんな事言って………」

サラはカールが本気で言っているとわかっていたが冗談と決め付け、彼の腕の中から逃げよ
  こころ
うと試みた。

しかし愛しい女性をそう簡単に逃がすものかと、カールは強引にサラの首筋に口づけを始め

た。

「カール……朝からそういう事しちゃダメ………」

「少しくらいなら構わないだろ?」

「少しでも……ダメだよぅ………やん………」
            いか
そうして二人が如何にも恋人同士といった様子でベッドでいちゃついていると、突然妙に元気

の良いノックの音が室内に響いた。

音だけで訪ねて来た人物の予想が付いたカールは一瞬無視しようと思ったが、それでは大人

気ないとベッドから降り、ドアの前へ移動した。

「誰だ?」

「あ、兄さん、トーマです」
     たが
予想に違わぬ人物の声にカールは思い切り脱力し、げんなりとした表情でドアを開いた。

「おはようございます、兄さん」

「ああ、おはよう。……で、何の用だ?」

「朝食が出来たそうなので、呼びに来たんです」

何故トーマが呼びに来る必要があるのかわからなかったが、大方サラ目当てだろうとカール

は思った。

するとカールが思った通り、トーマは不自然な程室内をジロジロと見ていた。
                                               さえぎ
サラはまだベッド上にいるはずなので、カールはトーマの視線を遮る様に立ちはだかった。

「人の部屋をジロジロ見るな」

「あ、すみません。ですが、こちらに姉さんもいらっしゃいますよね?挨拶しておきたいのです

けど……」

「今は無理だ、挨拶なら後にしてくれ」

「そうですか…、わかりました。では、先にダイニングルームへ行ってます……」

「ああ、俺達もすぐ後を追う」
                                 す                              すで
カールは極力笑顔を作ってトーマを見送り、直ぐさまベッドへ戻ったが、その時サラは既に身

支度を終えつつあった。

カールがあからさまに残念そうな顔をすると、サラはクスリと笑って彼の服を差し出した。

「早く支度しないと、またお父様に怒られちゃうよ?」

「……わかってる」
     ふ
どんな負の感情も、サラの笑顔を見るだけですんなり無くなる。

カールは優しく微笑みながら服を受け取り、急いで身支度を整えた。
                                               にら
そして二人は足早にダイニングルームへ向かい、ファーレンに睨まれる事なく席に着く事が出

来た。

「おはようございます、姉さんv」

「お、おはよう、トーマ君」

朝から異常に元気の良いトーマに挨拶され、サラは少々たじろぎながら挨拶を返した。
                                   しつけ たまもの
それでも食事の時間が始まると、幼い頃からの躾の賜物なのか、トーマは急に大人しくなり、

サラに一言も話し掛けずに黙々と朝食を食べていた。

が、それは食事中だけの話で、食べ終えるとトーマは途端にペラペラと話し出し、サラは彼の
                                               あいづち
話し相手にならざるを得ない状況になり、微妙な笑顔で何度も相槌を打っていた。

(トーマ君って……絶対お母様似だわ………)
                                               おもかげ いだ
次から次へと話題を展開させるトーマに、前日までのソフィアの面影を抱きつつ、サラはゆっく

りと食後のコーヒーを飲み続けた。

「ところで姉さん、今日のご予定は決まっているんですか?」

「え、ええ。町へお買い物に行く予定だけど……」

ご機嫌で話し続けていたトーマに突然質問され、サラは思わず正直に答えてしまってから、す
                  こわ
ぐに嫌な予感がして顔を強ばらせた。

その予感は見事に的中し、トーマがとんでもない事を言い出した。

「町へ行くのですね?では私もお供させて下さい、色々ご案内しますv」

「えぇ!?お、お供!?」

予想通りの展開ではあったがサラは思い切り動揺し、彼女の隣で静かにコーヒーを飲んでい

たカールは、ピタッと動きを止めトーマを睨んだ。

しかしトーマがその痛い視線に気付きそうになかった為、サラはテーブルの下でこっそりとカ

ールの手を握り、笑顔で首を横に振ってみせた。

「トーマ君、悪いんだけど、今日は一緒に行けないわ」

「ど、どうしてですか!?」

「大事な用があるの。だから案内はまたの機会にしてもらえないかな?」

「…………。……わかりました」

「ごめんね」

「いえ、お気遣いなく」
                                         よそお
トーマは見るからに残念そうな顔をしつつ、極力平静を装って返事を返した。

トーマには悪いと思ったが、今日は何と言っても婚約指輪を受け取る大事な日。

町へは絶対二人だけで行きたい。
                                   うなが
食後のコーヒーを飲み終えると、カールはサラを促してすぐに席を立ち、ファーレン達に軽く会

釈してからダイニングルームを後にした。

「すまない、大人気ない事して……」

「ふふふ、いいのよ。ヤキモチ焼いてくれて、すっごく嬉しいからv」

「そ、そうか……それならいいんだが………」

車庫へ向かうまでに交わした他愛のない会話により、カールは改めて自分がヤキモチを焼い

ていた事に気付かされた。

しかしヤキモチを焼く事さえも幸せに思え、カールはご機嫌で車に乗り込んだ。

どうやら婚約指輪を手に入れる喜びで、相当浮き足立っている様だ。

そんなカールの様子に気付いたサラも彼と同じ様に喜び、町へ到着するまでの道中、二人は

終始そわそわし続けていた。




                                    ふもと
シュバルツ家の領地である山脈をぐるっと周り、麓にあるビュルツブルク町へ到着すると、二

人は指輪を受け取るのは後回しにし、先に買い物を済ませる事にした。

「カール、こっちこっち」

サラはもう行く店を決めていたらしく、車から降りるなりカールの手を引っ張って歩き出した。

サラに連れられてとある店の前にやって来たカールは、一目見ただけで何を売っている店か

わかり体を硬直させた。

何と女性用下着の専門店だったのだ……!

「こ、この店に入るのか?」

「うん、そうv」

サラは笑顔で頷くとすぐに店内へ入ろうとしたが、カールがその場から動こうとしなかった為、
             かし
立ち止まって首を傾げた。

「どうしたの?」

「………俺は外で待ってる」

「今日は私の買い物に付き合ってくれるって約束したでしょ?」

「そ、それはそうなんだが……ここはちょっと………」
                               やぶ
「誇りある帝国軍人ともあろう者が約束を破ると言うの?」

「う………わ、わかった、一緒に入るよ」

「よろしい。ふふふv」

見事にカールを言い負かしたサラは満足気に微笑み、彼の手を力強く引っ張って店内に入っ

た。

女性用下着の専門店というだけあって、入口付近から色とりどりの下着が展示されており、

サラは早速どれを買おうかと品定めを開始した。

自動的に店内を歩き回る事になったカールは、周囲の目を異常に気にしつつサラの後ろ姿だ

けを見て進んでいた。

だが、カールが思う程、店内にいる女性達は彼を変な目で見てはいなかった。

どちらかと言えば、突然現れたカールに皆してうっとりとなっていたのだ。

そんな事とは露知らず、カールは男である自分がこの様な店に入って来た為に向けられてい

る非難の目だ、と思い込んでいた。

「あらぁ、カール坊っちゃん、お久し振り〜」

奥にいた店主と思われる中年の女性に声を掛けられ、カールは少々引きつってはいたが笑み

を浮かべてみせた。

「どうも、お久し振りです」

「坊っちゃんが私の店に来るなんて初めてねぇ。かわいい恋人の為に頑張ってるのねv」

「は、はぁ……」

「あはは、そんなに緊張しないでゆっくり見てってちょうだいな」

「ど、どうも」

店主の女性と一通りの挨拶を済ませると、カールは周囲を全く見ずに真っ直ぐサラの元へと

帰った。

すると、カールが戻るなりサラは彼の手を引っ張り、無理矢理展示されている下着の前へ連

れて行った。

「あなたはどんな下着が好きなの?」

「…………は?」

「だから、どんな下着が好きかって聞いてるの」

サラは同じ質問を二度も言ったが、カールは顔を真っ赤にするだけで答えられなかった。
         しゅうしゅう
このままでは収拾がつかなくなると、サラはこの店に来た理由をカールに伝える事にした。

「カール、私ね、あなた好みの下着がほしいの」

「ど、どうして俺好みなんだい?君が身に着けるんだから、君好みのものでいいじゃないか」

「それじゃあダメなのよ。あなたに喜んでもらいたいから、あなた好みのがほしいの」

「……俺の為を思っての事だったのか…。でも俺は君が身に着けるなら、どんなものでも俺好

みになるよ」

聞く側が照れてしまう様な事をカールは真顔で言い、サラだけでなく周囲にいた客や店主ま

でもが顔を赤らめた。

サラはすぐに周りの様子に気付くと、早く下着を買って店を出るのが賢明だろうと判断し、慌て

て質問を変えた。

「聞き方を変えるわ。あなたの好きな色は何色?」

「好きな色?………たぶん黒かな。青も好きだけど、黒い服の方が多く持ってるし」

「黒ね。じゃ、後は私に任せといて」

サラはカールを連れて店主の前まで行き、色は黒で自分のサイズのものがあるかどうか尋ね

た。

サラの下着のサイズは豊満な胸を見ればわかる通り非常に大きく、これまで取り扱っていな
                                            そろ
い店の方が多かったが、この店にはほぼ全てのサイズが揃っており、店主はすぐに下着を用

意してくれた。

「試着する?」

「はい、お願いします」

サラはカールに試着室の前で待つ様に言うと店主と共に中へ入り、早速黒い下着を試着して

みた。

「うん、ピッタリだね。これなら直しはいらないよ」

「そうですね。じゃあ、これにします」
   せっかく
「あ、折角だから坊っちゃんに見せてあげたら?呼んで来てあげるv」

「え、あ、あの……」

上半身下着のみのサラを試着室に残し、店主はさっさと出て行くとカールを無理矢理中へ押

し込んだ。
                                              なま
カールは突然の出来事に驚きキョトンとなっていたが、サラの艶めかしい姿を見た途端、目が

胸元に釘付けになった。

「……ど、どぉ?」

今更隠しても仕方ないので、サラが恥ずかしそうにしながら尋ねると、体を硬直させていたカ

ールは少々間を置いてからコクリと頷いてみせた。

「い、いいよ、すごく似合ってる」

「そっか、良かった。黒い下着なんて初めてだからちょっと抵抗があったんだけど、着てみたら

結構平気だったの。これ買うね」

「ああ」

カールは笑顔で返事をするとすぐに試着室から出て行き、一人になったサラはのんびりと身支

度を整え彼の後を追った。

「これとこれ、お願いします」

「はいよ、お買い上げありがとね」

店主はサラから黒い下着の上下をセットで受け取り、慣れた手付きで綺麗に包装すると、差し

出された紙幣と交換した。

サラは満面の笑顔でペコリと頭を下げ、手を振る店主に見送られながらカールと共に下着専

門店を後にした。

町の大通りをしばらく進み、もう正午近くなっている事に気付いた二人は、迷わず先日行った

定食屋へ足を運んだ。
                                              あ
店内に入ると、店のおばさんが笑顔で出迎えてくれ、二人を空いている席へと案内した。

「今日は何にする?」

「俺はいつもの」

「私は……えっと………日替わり定食をお願いします」

「はいよ。じゃ、ちょっと待っててね」

店のおばさんは大きな体をこれでもかと振りつつ厨房に入って行き、数分後二人が注文した

料理を持って戻って来た。

「お待ちどう様。ゆっくりして行ってね」

『はい、ありがとうございます』
                                                      こぼ
カールとサラは見事にハモって返事をし、思わず顔を見合わせて笑みを零すと、目の前に置

かれている昼食を食べ始めた。

カールは優雅な仕草で素早く全てを平らげ、彼とは対照的にかわいらしい仕草でゆっくり食べ

ているサラを嬉しそうに見つめた。

「おいしいかい?」

「うんv この間のオリジナル定食も良かったけど、これもすごくおいしいよvv」

「そうか、それは良かった」

カールから遅れる事数十分後、サラはようやく日替わり定食を食べ終え、食後のコーヒーを飲

みながら午後からの予定を相談し始めた。

「銀細工屋さんへは最後でいいんでしょ?」

「ああ、最後で構わない」

「じゃあ、午後からはあなたの服を買いに行きましょv」

「俺の……?」

「うん。良い機会だから、私が見立ててプレゼントしちゃうvv」

「いや、俺だけなんて悪いよ。俺からもぜひ何かプレゼントさせてくれ」

「それじゃあ、お互いの服をそれぞれ選んでプレゼントし合いましょ。その方が面白そうだしv」

「ああ、そうだね。どんなのにしようかなぁ…?」

「変なの選んじゃダメだよ?」

「変なのって?」

「だから……その………いやらしいの、とか……」

「そうか、そういうのがほしいんだね。頑張って探してみるとしよう」

「ち、違うよぅ!もぉ…カールったら……」

サラは頬を赤らめつつ席を立つと、カールと共に混雑を極めている定食屋を後にした。

そして再び大通りに出ると、男物と女物を両方取り揃えている巨大洋服店へ向かった。

入口から見て右側に女物、左側に男物の服が所狭しと並べられており、サラとカールはプレ

ゼントする服を選ぼうと別行動を開始した。

数分後、サラがあれこれ悩みながら買うものを検討していると、カールが妙に嬉しそうな顔をし

て彼女の元へやって来た。

「サラ、これどうかな?」

そう言ってカールが差し出したのはスカートだったが、驚く程丈が短いものであった。

本当に『いやらしいの』を選んできた様だ。
     あき
サラは呆れた様子で苦笑したが、一応カールが持って来たスカートを体にあてがってみた。

………やはり見た目通り非常に短い。
                          は
「これだと、あなたと二人の時しか穿けないよ?」

「ああ、それでいいんだ。では、これに決定だな」

「ちょ、ちょっと待って!まだ決定するのは早いよ、もう少し見てみましょ、ね?」

「う〜ん……。じゃあ、もっと過激なのを探してくるよ」

「カール、待って!やっぱり一緒に見て回りましょ、変なの選ばれると困るから」

足早に女物の服の方へ向かうカールを慌てて呼び止め、サラは彼の手をしっかと握ると服選

びを再開した。

「あ、これどう?」

サラは目を付けていた服を手に取り、カールの体にあてがった。

サラが選んだ服はクリーム色の上着、カールが絶対に選びそうにない明るい色であった。

「始めはピンク色にしようかと思ったんだけど、こっちの方がいいでしょ?」

「あ、ああ。ピンクは着るのに勇気がいるし、そっちの方がいいな」

「じゃ、一つ決定ね。次は……」

サラはカールを連れて店中を見て回り、目に付いた服を片っ端から手に取ると、試着が必要

なものは試着してもらい、結局二人の手には服の山が二つ出来上がった。

「………これ全部買うのか?」
                                           がい
「うん。このお店って品揃えが豊富だから、すご〜く選び甲斐があったわv」

「こんなにいらないと思うんだが……?」

「いるわよ。あなたって普段軍服ばかり着ているから、普通の服は余り持っていないでしょ?

だからいっぱいプレゼントしようと思ったの」

「君の気持ちは有難いが、それだと俺も君の服をたくさん選ばないといけないから、正直言っ

て辛いな。女物ってよくわからないしさ……」

「心配しなくても大丈夫。私は服をたくさん持ってるから、私のは一着だけでいいよ」

「しかし、それでは君が……」

「その一着をじっくり選んでくれたら私は満足だから、深く考えないで服を探しましょ」

「う、うん……」

サラが服をたくさん持っているのは知っていたが、自分だけ大量に買ってもらうのは男として
なさ
情けない。

しかしサラが選んだ服の数に対抗出来る程、女性の服を見立てる自信は無かった為、カール

は大人しく彼女と共に服探しを再開した。

(服はたくさん持ってるから……服以外のものを選んだ方がいいかなぁ……)

カールはカバンなどの身の回りの品を探し始めたが、途中でふと気になるものが目に入り歩

みを止めた。

カールが気になったものとは、寝具コーナーの奥に展示されているセクシーなネグリジェ。

どういう風にセクシーなのかと言うと、何と全体が透け透けの生地で作られており、ハッキリ

言って着る意味が全く無いものであった。

とは言え、男心をくすぐるという点では他のものより群を抜いている。

そうしてカールがネグリジェを凝視したまま動こうとしなかったので、サラはやれやれと肩をす
              のぞ
くめながら彼の顔を覗き込んだ。

「変な想像はしちゃダメだよ」

「………え!?ど、どうしてわかったんだ!?」

「あなたって感情がすぐ顔に出るから、わかりやすいんだもん」

「そ、そうか……」

「……で、これでいいの?」

「……?いいって何が?」

「私へのプレゼント、これでいいのか聞いてるの」

「…………………………………いいのか?」

「あんな顔を見せられちゃったら、着てあげない訳にかいかないでしょ」

「じゃ、じゃあこれにする」

「今度着てみせてあげるから、楽しみにしててねv」

「ああ、もちろんだ」
                                                    ゆる
表向きはいつもの爽やかな笑みを浮かべていたが、胸中では非常に緩んだ笑みを浮かべる

カールであった……





大量の荷物で両手が塞がってしまった二人は、指輪を取りに行くのは手が空いてからと車に

荷物を運び、それから銀細工屋へ急いで向かった。
                                       わ
カールとサラが店内に入ると、二人が来るのを待ち侘びていたらしく、店主が満面の笑顔で出

迎え指輪を差し出した。

「お二人のサイズぴったりに作りましたが、ここで一度着けてみますか?」

「いえ、それは帰ってからにします」

「では、直しが必要であれば明日にでも持って来て下さい」

「はい、ありがとうございます」

店主は指輪とネックレスをそれぞれ小箱に綺麗に包装し、カールが差し出した紙幣と交換す

ると、笑顔で二人に頭を下げた。

カール達もペコリとお辞儀し、緩んだ笑顔で銀細工屋を後にした。

「よし、これで全部終わったな。買い忘れたものはないか?」

「お母様に頼まれたものもちゃんと買ったし、大丈夫だよ」

「じゃ、暗くならない内に帰るとするか」

「うん、帰ろ」
                              つ
二人はいそいそと車に乗り込み家路に就いたが、山の中腹まで登った所でふとある場所の

事を思い出したカールは、サラをそこへ連れて行こうと途中で車を停めた。
                                              たずさ          つな
サラがキョトンとしていると、カールは指輪が入っている小箱を携え、彼女と手を繋いで森へ入

った。
                            とぎ
しばらく歩いているとやがて木々が途切れ、目の前に大きな湖が現れた。

「わぁ、きれ〜いvv」

サラは湖を見るなり歓喜の声をあげ、カールに向かってにっこりと微笑んでみせた。

カールもつられて微笑みつつ、持って来た小箱から指輪を取り出すと、サラの手をそっと握っ

た。

「カール……?」
                                    あかし            おく
「サラ、俺は君を一生守ってみせる。その誓いの証としてこの指輪を贈ります、受け取ってくれ

るね?」

「はい、喜んで」

真っ赤な夕日に照らされる中、カールはサラの左手の薬指に口づけしてから指輪をはめた。

「じゃ、次は私ね」

サラは照れ笑いを浮かべつつ、カールが持っている小箱から指輪を取り出すと、彼の手を優し

く握った。

「私もあなたを一生守ってみせるわ。その誓いの証としてこの指輪を贈ります、受け取って下

さい」

「ああ、喜んで」

サラもカールと同じく彼の左手の薬指に口づけし、指輪をはめると満面の笑みを浮かべた。

夕日が湖面に美しく反射し、二人の周囲だけ別世界になっている様な気分になりながら、カ

ールとサラは誓いの口づけを交わした。
誓いの口づけ…
「………サラ、ここで少しいいか?」

「え……い、いいも何も………外だし……帰るの遅くなっちゃうし……ダメだよ」

「でも帰ったら隣にトーマがいるから、何も出来なくなってしまうぞ?」

「私はそれで構わないけど……?」

「……………………」
                                                               ゆだ
カールの真剣な目の訴えにサラは結局根負けしてしまい、彼の手にすんなりと身を委ねた。

徐々に日が沈み、辺りが暗闇に包まれる中、外では恥ずかしいというサラの意見から、カー

ルは服を着たまま座って行為を行い、二人は互いの愛を確認するかの様に体を重ねた。

ようやく後ろからの行為に慣れてきたらしく、カールが体勢を後ろ向きに変えてもサラは一切

抵抗せず、快感に完全に身を任せていた。

カールは指輪を着けている左手でサラの指輪を着けている左手をぎゅっと握り、行為を続けな

がら再び誓いの口づけを交わした。

「サラ…絶対守るから……」

「んぁ……あ……カール………」

「愛してるよ、サラ……」

「私も……私も愛してるわ、カール……」
                   ささや
二人は何度も愛の言葉を囁きながら行為を続け、ほぼ同時に快楽の最骨頂に到達すると、

全身から力が抜け地面に寝転んだ。

そうしてしばらく荒く息をした後、二人はどちらともなく手を伸ばし、寝転んだ状態でしっかりと

抱き合った。

「……そろそろ帰る?」

「ああ、帰った方がいいな」

「もう少しここにいて……夜中に帰っちゃおうか?」

「帰ったら父さんがカンカン、母さんがにやにやするだろうな」

「ふふふ、そうねv じゃあ、そうならない様に急いで帰りましょうか?」

「そうだね」
                                    わがまま
カールはサラが身支度を終えるのを見計らうと、我儘を聞いてもらったお礼のつもりなのか、

彼女を抱き上げて車まで運び、両親が自分の言った通りにならない様に急いで帰宅した。

慌てた様子で帰って来た二人の左手の薬指に光る指輪を見、ソフィアが早速とばかりに冷や

かし、トーマが感動で涙を流したのは言うまでもない……










●あとがき●

ようやく出来上がりました、婚約指輪v
最後のシーンで二人が言った言葉は一応プロポーズですvv
指輪を着ける前に、指に口づけさせたのは私の趣味だったり(笑)
その方が神聖な儀式の様で素敵だと思いまして…
そして今回は二人の買い物シーンを入れてみましたv
カールの趣味が伺える展開となりましたが、まさか透け透けネグリジェを買うとは…
最初に持って来たミニスカートより更にダメな買い物です。
でも後日サラに頑張って着てもらう予定ですv 良かったね、カールvv
実家に帰る事により、生来の素直な部分が過剰に出ているカールでありました。
ちなみにイラストは「ちゅ〜描きたい病」の為、誓いの口づけを描きました。
たま〜に描きたくなるのです、これぞラブシーン!という感じでv
いつになくハイテンションで描いたイラストでしたが、背景は見事に失敗しました。
何を描いたのか、自分でもわかりません。夕日…?湖…?雲…?謎だ……
見なかった事にして下さい。重要なのはちゅ〜ですからv
文章だけでなく、イラストももっと精進していこうと思います…

●次回予告●

短い休暇を終え、トーマが基地へ帰る事になりました。
朝からソフィアが駄々をこねたりと一悶着ありましたが、トーマは再び旅立ちます。
トーマを見送った後、カールは散歩ついでにサラをある場所へと案内します。
そこでサラが見たものとは…?
第六十話「シュバルツ家〜七日目〜」  もう少し……こうしていたい………

                       
<ご注意>

次の第六十話「シュバルツ家〜七日目〜」は性描写を含みます。
お嫌いな方・苦手な方はお読みにならないで下さい。