第五十八話

「シュバルツ家〜五日目〜」



早朝何となく寒さを感じて目を覚ましたサラは、すぐ傍でまだぐっすり眠っているカールの顔を
のぞ                            す
覗き込み、幸せそうに微笑みながら身を擦り寄せた。
             ねぼ
すると、カールは寝惚けたままサラの体に手を伸ばし、慣れた手付きでぎゅっと抱き寄せた。

まだカールがきちんと目覚めていないとわかっていたので、サラはクスリと小さく笑って彼の
            うず
厚い胸板に顔を埋めた。

「う……ん…サラ……?」

しばらく経ってからカールはようやくうっすらと目を開き、自分の上にいるサラをぼんやりと見つ

めた。

「あぁ……え〜っと………おはよう、早いんだね」

「カール、私寒いの。温めてv」

「うん…?」

起き抜けに言われるとカールは理解するのに時間が掛かり、抱きついてくるサラを受け止め
                       かし
はしたが、キョトンとなって首を傾げた。
                                                   ふさ
その様子がとても微笑ましかったので、サラは笑顔でカールの口を塞ぎ、今日最初の口づけ

を交わした。

「こんなに早くに起こしちゃってごめんね」

「いや…」

「まだ寝てていいよ、昨日は遅かったんだから」

「君はどうするんだい?」

「ん〜、そうねぇ……。しばらくはこうしていようかな」
                                                    から
そう言ってサラはカールの隣にコロンと寝転び、彼の腕に自分の腕を絡ませ体を密着させた。
                                             かぶ           ば
一方、カールはどういう訳か寝返りを打ち、サラの上に覆い被さる形で四つん這いになった。
           みどり
カールの美しい碧色の瞳に見つめられ、サラはドキッとなると頬を赤らめながら目を伏せた。

「な、なぁに?寝ないの?」

「さっき温めてくれって言わなかったっけ?」

「言ったけど…?」

「じゃあ、寝るよりもそちらを優先しなくてはな」

「え?」

カールはキョトンとしているサラの体を毛布の様に包み込み、自分の体温で温め始めた。
                       か                                 な
しかしそれだけでは面白味に欠けると、カールは意味もなくサラの耳たぶを舐め回した。
                       や
「やっ……くすぐったいよぅ…。止めて、カール…」

「くすぐったい?気持ちいいの間違いじゃないのか?」

「それはその……と、とにかく朝からそういう事しちゃダメなの!」

「君の体を温める間しかしないよ」

「…それでもダメ」

「そんな風に言われると、余計続けたくなってしまうな……」

「もぉ……いじわるぅ……」
                                           さわ
嫌がるサラを強引にベッドに押さえ付け、カールは非常に爽やかな笑みを浮かべながら彼女

の耳たぶを口に含み、口中で舌を激しく動かした。

「あ……あぁ………」

「サラ……気持ちいいだろ?」

「いや……耳元で言わないで…」
                    ささや
「わざと言ってるんだ、君が囁きに弱いってわかってるから」

「……わざとなのはわかってる、あなたって気持ちがすぐ顔に出るから。ほら、今だって心底

嬉しそうな顔してるし……」

サラは見るからに困った様な顔をすると、カールの頬をそっと触り肩をすくめてみせた。

サラに全てを見透かされていると改めてわかったカールは内心少々動揺したが、極力平静を
よそお
装い彼女の耳を舐め続けた。

「ん……カール…」

「何だい?」

「昨日忘れたから交代して」

「??」

サラが言った言葉の意味を理解しようとカールが思案していると、彼女は返事を待たずに行動

を開始した。

「……サラ?」

突然サラに耳たぶを舐められ、驚いたカールは妙にドギマギし頬を赤らめた。

その反応に気を良くしたサラは、いつも意地悪されている仕返しと言わんばかりにカールの耳

を優しく舐め回した。

「……サ、サラ………」

「ふふふv 意地悪される側になった気分はどう?」

「ん〜、結構いいかもしれないな」

「じゃあ、今度からは私が意地悪してあげるv」

「いや、それは遠慮しておく」

「えぇ〜!?どうして?」
                           とが
素っ気ない返事にサラが思わず口を尖らせると、カールはにやりと不敵な笑みを浮かべ、わざ

とらしく彼女の耳元でぼそっと囁いた。

「意地悪する方が楽しいからさ」

「……結局そうなるのね」

「そういう事だ」

カールは嬉しそうに笑いつつ先程の続きを始めようとしたが、ふと壁に掛かっている時計を見

ると慌てて起き上がった。

「しまった…!そろそろゼフさんが来る時間だ」

「ゼフさん…?」

「シュバルツ家の領地内を長年手入れしてくれている人だよ。毎日朝早くからこの辺りを歩き

回っているから、ついでに荷物を運ぶって言ってくれてたんだ」

「大変!じゃあ、急いで支度しなくちゃ!」

二人は急いで身支度を整えると、運んでもらう荷物をまとめ始めた。

そうして二人が荷作りを終えてほっとしていると、丁度良く呼び鈴が鳴りゼフが別邸に顔を出

した。

ゼフはファーレンよりもずっと年上であったが、毎日長距離を歩き回っているお陰なのか、実際

の年齢よりもだいぶ若く見えた。

「おはようございます、ゼフさん」

「あぁ、おはよう、カール坊ちゃん」

カールがきちんと挨拶すると、ゼフは顔中をシワくちゃにして笑顔を見せ挨拶を返した。

二人の様子をじっと見守っていたサラは、頃合いを見計らってゼフの前に進み出、ペコリと頭

を下げた。

「おはようございます」

「おはよう。え〜…確かお前さんは……」

「初めまして、サラ・クローゼです」

「おぉ、そうじゃったなぁ。皆から話は聞いとるよ。わしはカール坊ちゃんが生まれる前からシュ
        つか
バルツ家に仕えておるゼフという者じゃ、よろしくな」

「よろしくお願いします」

一通り挨拶を終えると、ゼフはまじまじとサラの顔を見て深く頷いた。
       べっぴん
「噂通りの別嬪さんじゃな、カール坊ちゃんが惚れるだけの事はありますわい」

「は、はぁ…」
                                              いとま
「さて、若い二人の邪魔をするのも何じゃし、わしはそろそろお暇させてもらおうかの」

「あ、じゃあ、これお願いします」

「はいよ、わしに任せておけば安心じゃ」

ゼフはサラから受け取った荷物を軽々と持ち、二人に手を振って別邸から去って行った。

ゼフを見送ったサラは思い出した様にキッチンへ駆けて行き、いそいそと朝食を用意し始め

た。

「カール、それ運んで」

やや遅れてカールがキッチンへやって来ると、サラは早速彼に手伝いを頼んだ。

カールは子供の様な笑みを浮かべつつ、上機嫌で出来上がった朝食をダイニングルームに運

んだ。

後からサラもコーヒー入りのカップを持ってダイニングルームへ向かい、カールと仲良く談笑し

ながら朝食を食べ出した。

「カール、今日はどうする?」

「急いで帰る必要はないけど、出来れば夕方までに戻った方がいいな」

「そうよねぇ…。じゃあ、お昼ご飯食べてから出発しよっか?」

「そうだな」

「あ〜ぁ、お弁当作って山の中で食べたかったなぁ…」

「……?そうすればいいじゃないか?」

「ダメなの、ここにはお弁当箱が無いから」

「そうか……残念だな………」

カールはサラと同じ様にガッカリし、コーヒーをぐいと飲み干した。

自分の言動でカールを落ち込ませてしまい、どうしようかと悩んだサラは後片付けを始めつつ

明るい声で彼に話し掛けた。

「書斎でもう少し本を読みたかったから、お昼までここに居られて丁度良かったわ」

「サラ……」

サラの優しさが嬉しかったカールは一生懸命後片付けを手伝い、それが済むと二人一緒に書

斎へと足を運んだ。
     すで                                    す
サラは既に読む本を決めていたらしく、書斎に入ると真っ直ぐに本棚に歩み寄り背伸びした。

「ん〜、もう少し……」

どう考えてもサラの身長では届きそうにない本を取ろうとしていた為、見兼ねたカールはひょ

いとその本を取り手渡してあげた。

サラは笑顔で本を受け取ると、カールの手を引っ張って強引に長椅子に座らせ、自分は彼の
ひざ
膝の上に腰を下ろした。

「……サラ?」

「一緒に読みましょ、ね?」

「ああ、そうしよう」
                                                  めく
カールはサラの細い腰に手を回すとしっかり抱き、彼女にページを捲ってもらいながら二人で

一冊の本を読み始めた。
                      なご
そうして楽しい読書の時間が和やかに続くと思われたが、その内カールはサラの髪から香る
                     そくざ
良い匂いにクラクラし出し、即座に本を読むのを止めると彼女の端整な横顔を見つめた。

サラはすぐにカールの異変に気づいたが、気づかなかったフリをして本を読み続けた。

見るだけでは反応を見せないと判断し、カールは妙に嬉しそうな笑みを浮かべると、サラの耳

たぶを舐めて読書の邪魔をし始めた。

「あ……ダメ………今は読書中よ」

「君はそのまま読書を続けてくれ、俺は今のを続けるから」

「……また意地悪するつもり?」

「うん」
                                                   あき
カールが悪びれた様子を見せず素直に頷いてみせたので、サラは呆れた顔で小さくため息を

つき、ゆっくりと本を閉じた。

「この本借りていい?」

「え?」

「返すの遅くなっちゃうからダメ?」

「いや、いいけど……今読まないのかい?」

「だって、あなただけなんてズルイんだもん。私もするのv」

そう言ってサラはカールに抱きつき、彼の耳たぶを口に含んでから優しく舐め回した。
                                                 あいぶ
カールはくすぐったそうにしながらサラを抱き寄せ、彼女の優しい愛撫に身を任せていた。

「ふふふv 気持ちいい?」

「ああ」

「私ね、あなたの耳って結構好きなんだけど、も〜っと好きな所があるんだよ」

「も〜っと好きな所…?どこだい?」

「ここv」
                                     のどぼとけ
サラはとても色っぽい笑みを浮かべると、カールの喉仏に軽く口づけた。

カールは一瞬キョトンとしたが、サラが言った好きな所が喉仏だとわかると、嬉しい様な悲しい

様な複雑な表情を見せた。

「喉仏……が好きなのか?」

「うん、好きv」

「……他には?」

「ん〜、他はねぇ……」

サラはまじまじとカールの全身を見回すと、何か思い当たる所があったらしく瞳を輝かせた。

「全部好きv」

「全部……?」

「綺麗な碧色の瞳も好きだし、広くて厚い胸板も好きだし、要するに全部好きなの」

「そうか、良かった……」

「……でも、一つだけ余り好きじゃない所があるわ」

「えぇ!?ど、どこだい?」

サラの意外な言葉にカールはショックを隠しきれず、不安そうな顔で自分の体を見回した。

すると、サラはクスクス笑いながらカールの手を取り、指に軽く口づけしてから話し出した。

「この手はいつも私に意地悪するでしょ?昨日だっていっぱい意地悪されたし…」

「う、うん…そうだね……」

「だから余り好きじゃないの」

「……そんな事言いながら、本当は一番好きなんだろ?」

「うふふ、そうかもしれないわねv」

サラはカールの手にそっと頬擦りし、かわいらしく微笑んでみせた。

カールもつられて微笑むと、二人は正午になるまで時間を忘れていちゃつき合った。

やがて昼食の時間を迎えた二人はいつもより手早く食事を済ませ、別邸で使用した所を綺麗

に片付けてから本邸に向け出発した。

サラは外へ出ると小走りで散策を始め、帰ってからの事が心配になったカールは急いで後を

追い、ウロウロしていた彼女を優しく捕獲した。
     くだ
「サラ、下りの方が足に負担が掛かるんだ。もっとゆっくり歩いた方がいい」

「は〜い、了解であります、大佐殿。では、よろしくv」

サラはかわいらしく敬礼すると笑顔で手を差し出し、それを見たカールは彼女が何をしたいの

か理解出来ずに首を傾げた。

「……何だい?」
    つな
「手を繋いでほしいの、私がウロウロしない様にね」

「あぁ、そういう事か。わかった、手を繋いで行こう」

「うん!」
                                       きづか                   たも
カールはサラの手をしっかり握って歩き出し、彼女を気遣いながら一定のペースを保って下山

した。

カールのお陰でほとんど疲れを感じなかったサラは、目の前に本邸の姿が見えてくると突然

走り出そうとした。

手を繋いでいたので当然カールに止められ、サラは照れ臭そうに微笑むと持っていた本で顔

を隠した。

「サラさ〜んv 兄さ〜ん!」

その時突然聞き覚えのある声に名前を呼ばれ、サラは本邸の傍に立っている人物を発見す
                                         こわ
ると笑顔になったが、彼女とは対照的にカールは顔を強ばらせた。

「トーマ君だ!」

「ああ、トーマだ」

「彼も里帰りかしら?」

「……だろうな」

トーマは二人が近くまで来ると慌てて駆け寄り、カールと同じ碧色の瞳をキラキラさせながら

サラの顔を覗き込んだ。

「お久し振りです、サラさん」

「久し振りね、トーマ君。元気そうで良かったわ」

「はい!私はいつでも元気です!!そんな事よりサラさん、本当に兄さんと結婚して下さるの

ですか?」

「え、あ……う、うん、すぐにではないけど……」

「そうですか〜、やっぱり私の予想通りでしたね!」

「よ、予想…?」

「あぁ…サラさんの様な美しい方が姉になって下さるなんて……私は世界一の幸せ者ですv」

「あ、あの……トーマ君?」

「これからはサラさんではなく、姉さんと呼ばなくてはなりませんね。あ、それとも姉上の方が

よろしいですか?」

トーマは一人でペラペラと話し続け、いきなり話を振ったりしてサラを困惑させた。

そんなサラの様子を見兼ねたカールは、トーマが持っている手荷物をチラリと横目で見つつ話

し掛けた。

「トーマ、お前今来たばかりか?」

「はい、先程到着しました」

「それなら俺達よりも先に挨拶すべき人がいるだろう?当然もう済ませたんだな?」

「い、いえ…まだです……」

「早くしないと大目玉をくらう事になるぞ」

「そ、それはそうなんですが、どうせなら兄さんとサラさんもご一緒にと思いまして……」

慌てて言い訳するトーマを白い目で見、カールはなるほどと深く頷いた。

あの厳しい父に一人では会い辛いらしい。

自分も父を苦手としているが、トーマの場合は極端すぎるので、兄として少々心配になるカー

ルであった。

「まさかとは思うが、それが目的で俺達に合わせて帰って来た訳じゃないだろうな?」

「ち、違います!私はサラさんに会いたい一心で……」

「ほぉ……サラに会いたくて来たのか………」
                                                        ひょうへん
図星を指されて動揺したトーマがつい本音を言うと、カールの表情は瞬時に豹変し、声のトー

ンも恐ろしい程低くなった。
                                                               ごまか
ここまで来るとさすがにカールが怒っていると気づかない訳はなく、トーマは慌てて誤魔化し

始めた。

「あ、あははは……。い、今のは冗談ですよ、兄さん」

「そういう冗談は全く笑えん、今後俺の前では言わない様に」

「は、はい」

本当に兄弟かと疑わせる様な会話が終わったのを見計らい、サラは二人の間に割って入ると

にこやかに話し出した。

「こんな所で立ち話も何だし、早くお父様に会いに行きましょ」

「そうだな」

「はい、そうしましょう、姉さんv」

トーマはサラが相手だとコロッと態度を変え、それを見たカールは副官を見ている様だとこっそ

りため息をついた。
                                                 そろ
そうして三人が家の中に入ると、待ち構えていたらしいメイド達が揃って出迎え、彼らをファー

レン達の元へと案内した。

ファーレンはソフィアと一緒にお茶の時間を楽しんでいる最中で、カール達に余り見せた事の

ない満面の笑みを浮かべていたが、三人に気づくとすぐにいつもの厳しい表情に変わった。

ファーレンの表情の変化によって三人の存在に気づいたソフィアは、ゆっくり立ち上がると笑顔

で駆け寄って来た。

「三人揃って帰って来たのねv お帰りなさい」

「ただいま、母さん」

「ただいま、お母様」
                                                               うかが
カールとサラは笑顔で挨拶を返したが、トーマは二人の背後からファーレンの様子を伺うだけ

で何も言わなかった。

カールは少々呆れた様な笑みを浮かべると、トーマの背中をポンと押して前に出した。

「あ、えっと……ただいま戻りました、父さん、母さん」

「トーマ、元気そうね。軍に入って以来ちっとも連絡してくれないから、お母さんすっごく淋しか

ったのよ〜?」

「す、すみません、色々と忙しくて……」

「カールもそう言って全然連絡しないし……軍人ってそんなに忙しかったかしら…?」

「え、ええ、まぁ……」

トーマはソフィアと話しながらも終始ファーレンを気にしており、サラはこれからどういう展開が

訪れるのかとハラハラして様子を見守っていた。

やがて黙って話を聞いていたファーレンがジロッとトーマを見、ようやく重い口を開いた。

「軍人になったばかりなのだから忙しくて当然だ。それなのに休暇なんぞを取って里帰りとは

な……、良いご時世になったものだ」

「……………」

トーマが何も言い返せず黙り込んでいると、早くも姉の気持ちになり始めたサラがファーレンの

前にズカズカと出て行った。

「お父様、久し振りに会った息子にどうしてそんな事を言うんですか!?照れ臭いのはわかり

ますけど、素直にお帰りなさいって言ってあげるのが親ってものだと思います!」

「そうよ、あなた。照れてる場合じゃないわ」

サラだけでなくソフィアにまで言われてしまい、ファーレンは驚いて目を丸くした。
シュバルツ一家、勢揃いv
「な、何だ、お前達!?二人してトーマを甘やかそうというのか!?」

「そういう訳ではありません、ただ親子らしい会話をしてほしいだけです」

「ふん、親子らしい会話だと?今ので充分すぎるくらいじゃないか」

「どこが充分なんです?全く出来てませんけど」

「私は今までずっとこの様に息子達に接してきた。お前がどう思おうと変えるつもりはない」
                        がんこもの
「そうですか、お父様って本当に頑固者ですね。そんな事では将来カール達に親孝行してもら

えなくなりますよ?」

「む……お、親孝行してほしいなどといつ誰が言った!?」

「あ〜ぁ、さぞかし淋しい老後になるでしょうねぇ」

「……………」

とうとうサラに言いくるめられてしまったファーレンが何も言い返せずに黙り込むと、すかさず助

け船を出す為、ソフィアが笑顔で二人の間に入って行った。
                                                       せっかく
「はいはい、今日はあなたの負けという事でバトルは終わりにしましょう。折角久し振りに家族

全員が揃ったんだし、新しい家族も増えたんだから、お茶を飲みながらゆっくりお話したいわ」

「そうですね。そうしましょう、お母様」

サラはすぐに態度を変えると、お茶を用意しているソフィアの手伝いを始めた。

今のゴタゴタでファーレンの機嫌の悪さが無くなったと、カールはこっそり胸を撫で下ろし、トー
  うなが   あ
マを促して空いている席に着いた。

そうして五人でのお茶の時間が和やかに始まり、ソフィアとサラが話の中心となって数年ぶり
     だんらん
に一家団欒で談笑し合った。
                                てっ
もちろんファーレンは黙ったままで聞き役に徹していたが、ソフィアはトーマの軍人になってか

らの話を熱心に聞き出していた。

やがてメイドから夕食の準備が出来たとの報告を受け、五人はゾロゾロとダイニングルームへ

移動し、先程と同じく談笑しながら夕食を食べ始めた。

「あ、そう言えば……サラちゃん、別邸はどうだった?」

トーマの話を一通り聞き終えたソフィアは思い出した様に尋ね、キラキラと瞳を輝かせてサラ

に熱い視線を送った。

どうやらカールとサラのラブラブ話を期待している様だ。

そんな期待をされているとは全く気づかず、サラは持っていたカップをテーブルに置くと笑顔で

話し始めた。

「とても楽しかったですよ。行き帰りの道中は美しい景色を堪能出来ましたし、別邸は広くて

綺麗だったし、何より書斎には数え切れない程の本があって、私には夢の様な所でした」

「うんうん、それで?」

「へ?それでって…?」

「な〜んだ、二人の話は秘密ってわけ?」

「え……えぇ!?」

ソフィアの言葉により、サラは瞬時に別邸での一夜を思い出してしまい顔を真っ赤にした。

その隣でほぼ同時に同じ事を思い出したカールは、サラと一緒になって顔を真っ赤にしつつ、

慌ててソフィアを止めに入った。

「母さん、そんな個人的な事は聞かないで下さい」
                                     いず
「あら、別に恥ずかしがる必要なんてないのよ?何れ夫婦になるあなた達が別邸でどんな風

に一晩過ごしたのか、知りたいだけなんだからv」

「で、ですから、そういうのが個人的な事だと言ってるんです」

「ふ〜ん、私には教えられないくらい熱々で甘あま〜だったんだ、へぇ〜」

「か、母さん……」
                   かな
やはりソフィアの勢いには敵わないとカールが苦笑していると、彼らの様子を見兼ねたファー

レンが重い口を開いた。
             ひ
「ソフィア、二人を冷やかすのはもう止めてやれ。いくら面白くても、そんな事を根掘り葉掘り聞
     やぼ
くのは野暮というものだ」

「……は〜い、わかったわ」

ファーレンの一言だけでソフィアはすんなりと大人しくなり、この時ばかりは父に頼る方が話が

早く終わるとカール達はしみじみ思った。

とりあえず話が一段落したので、サラとカールは微笑み合ってからコーヒーを飲み始めたが、
                                       こぶし
隣でずっと黙り込んでいたトーマが急に立ち上がり、拳を力強く握り締めた。

「兄さん!」

「な、何だ、トーマ?」
                    と
「サラさんと一緒に別邸に泊まったのですか!?」

「あ、ああ、そうだ」

カールは正直に言ってから、しまったと顔を強ばらせつつトーマの様子を伺った。

すると、トーマは顔を真っ赤にしながらサラを淋しそうに見つめた。

「ま、まさか…サラさん……そんな………うぅ……」

トーマが何を想像したのか大体の予想が付き、カールはサラと顔を見合わせると苦笑いを浮

かべた。

彼の事だから大した想像はしていないだろう。

二人の予想通り大した想像が出来なかったトーマは、サラと一晩一緒に過ごしたという兄を羨

ましく思い感動していた。

(さすがです、兄さん…!)

いつの間にか羨ましさより尊敬の気持ちの方が強くなり、トーマは椅子に座り直すとキラキラ

した目でカールを見つめ始めた。
               まぶ
その視線が余りにも眩しかった為、居心地が悪くなったカールはサラを促して立ち上がった。

途端にトーマは淋しそうな表情になり、慌てた様子で二人に声を掛けた。

「お二人共、もう行ってしまうんですか?」

「ああ」

「では、途中までご一緒させて下さい」
                                                             なだ
トーマの申し出にカールはあからさまに嫌そうな顔をしたが、すかさずサラが彼を宥めると、フ

ァーレン達に挨拶してから三人でダイニングルームを後にした。

「そう言えば、トーマ君は休暇はいつまでなの?」

「明後日までです、兄さんの様に長期休暇は取れませんので」

「そっかぁ、もっと長かったら良かったのにね」

「はい……。折角姉さんがいらしてるのに……非常に残念です」

「そ、そうだね」

サラは自分とトーマの間にいるカールの様子を伺いながら頷いてみせた。
                                                          たび
実はサラとカールはこっそり手を繋いで歩いていたのだが、トーマが何か言う度に繋いだ手が

ピクッと反応していたのだ。
                                                         あいづち
そうして部屋に到着するまでの間、サラはドキドキしっぱなしでトーマの話に相槌を打ったり、
                        せわ
カールの手を握り返したりと終始忙しなかった。

「あ、私の部屋はここです」

そう言ってトーマが自室の前で立ち止まると、サラとカールもつられて歩みを止めた。

「へぇ、カールの部屋の隣がトーマ君の部屋なんだねぇ」

「はい、そうなんですよ」

「これだけ部屋がたくさんあるのに、どうして隣なの?」

「さぁ……父さんが決めた事なので、私はよくわからないんです」

「カール、知ってる?」
            はし
「生まれた順に端からって言ってたよ」
                                           しき
カールがすんなりと答えたので、サラとトーマは感心して頻りに頷いてみせた。

「さすが兄さん、よくご存知ですね」

「昔、母さんが言ってたんだ。……確かその時お前も聞いていただろう?」

「私は聞き覚えありませんが……?」

カールとトーマは話がかち合わずに揃って首を傾げ、二人の様子を黙って見ていたサラは

少々呆れながら話し掛けた。

「…ひょっとして、その時トーマ君はまだ小さかったんじゃないの?」

「あ……そうかもしれない」

サラの鋭い指摘に、カールはあっという顔をして昔を思い出した。

確かに、あの時トーマはまだ赤ん坊だったのだ。

「やっぱりね、それじゃあわからなくて当然だわ。あなたも意外とそそっかしい所があるんだ

ね、新たな発見♪」

「……ん、まぁ、そういう所も無くはないかな」

「ふふふ、かわいい〜vv」

「サ、サラ……!」

サラがトーマの存在を忘れ抱きつこうとしてきた為、カールは慌てて彼女を止めた。

サラはカールの行動にキョトンと首を傾げたが、少々考えてからようやく傍にトーマがいる事を

思い出し、照れ臭そうに微笑んでみせた。
                     いか                      ま
一方、トーマはカール達の如何にも恋人同士といった様子を目の当たりにし、顔を真っ赤にし

ながらも感動して目を輝かせた。

このままではトーマが何を言い出すかわかったものではないとカールが目で伝えると、サラは

コクンと頷き話を切り上げる事にした。

「えっと……それじゃ、おやすみなさい、トーマ君」

「えぇ!?……は、はい…おやすみなさい………」

トーマは思い切り残念そうな顔を見せたが、余りしつこく言うとカールの怒りを買いそうだと、

挨拶だけはきちんとして自室へ入って行った。

トーマの姿が見えなくなると、サラはカールの手を引っ張って歩き出し、真っ直ぐ浴室へと向か

った。

「ねぇ、トーマ君が来てからわかった事なんだけど……」

「うん?」

サラはカールの髪を丁寧に洗いつつ、今日一日を振り返って話し出した。

「あなたってお父様似なんだね」

「………そうか?」

「顔はどちらかと言えばお母様似だけど、性格はお父様似だよ」

「………父さんに似てるなんて、余り素直には喜べないな」

「そぉ?親子なんだから似ちゃうのは仕方ないわよ。でもかわいさではあなたの圧勝ねv」
            ほ
「………それは褒めてくれてるのか?」

「うん、そうだよv」

サラは嬉しそうに笑うと、カールの背中に抱きついた。
                         ふく
その瞬間背中に二つの柔らかい膨らみを感じ、カールは頬を赤らめながら体を硬直させた。
                                  いたずら
そんなカールの様子に気づいたサラは瞬時に悪戯を思い付き、彼の腕に手を伸ばすと更に体

を密着させた。

「カール、何照れてるの?くっついてるだけだよ?」

「む、胸が……背中に………」

「あぁ、そっか。でもこんな風に抱きついた事なら、今まで何度かあったでしょ?」

「裸では……初めてだ………」

「ふふふ、それでそんなに照れてるのね。やっぱりあなたってかわいいvv」

サラはカールの背中に力を込めて抱きつき、より一層豊満な膨らみを彼に感じさせた。
じょじょ       おさ                                    つか
徐々に気持ちを抑えられなくなってきたカールは、突然サラの手を掴むと勢い良く引っ張り、

強引に自分の膝の上へ彼女を移動させた。

途端に立場が逆転してしまい、今度はサラが体を硬直させカールを見つめた。

「カール……?」

「次は俺が洗う番だ」

「あ、う、うん、普通に洗ってね」

「普通って?」

「普通は普通だよ」

「じゃあ、俺なりの普通で洗おう」

カールは子供の様な笑顔を見せると、早速サラの髪を洗い始めた。
                      うま
サラの指導のお陰でだいぶ上手く洗える様になったので、カールはとても綺麗に彼女の青髪

を洗い上げた。

そうしてカールの手が髪から離れると、サラは彼の次の行動を察して身構えた。

すると、カールはサラが察した通りの行動を開始し、彼女の体を両手で包み込んだ状態で洗

い出した。

「やっ……も、もっと普通に洗ってってば〜!」

「これが普通だ」

「嘘ばっかり〜!やぁ……ん………ダメぇ……」
                もと
体を洗うという名目の下、カールは平然とサラの体を愛撫し続けた。
                                         た             あえ
いつしかカールの行動は完全なる前戯と化し、サラは堪えきれなくなると喘ぎ声をあげ体をく

ねらせた。
          なま
そんなサラの艶めかしい反応に、カールは徐々に我を忘れ始め、無意識に彼女の体を開かせ

ると自分を迎えさせようと動いた。

「ま、待って!ここじゃダメ……!」

「……おっと、確かにダメだな」
     なか          さ
サラの膣に自分を少々挿し込んでから、カールは今いる場所を思い出して動きを止めた。

しかし今頃ある重大な問題に気づき、カールは苦笑いを浮かべつつサラの顔を覗き込んだ。

「この続きはもう無理だな」

「……どうして?」

「隣の部屋にトーマがいるから」

「あ、そっか。……まぁ、仕方ないよ。トーマ君がいる間は我慢して、ね?」

「……ここまでして我慢出来る訳がない。今だけ君が我慢してくれ」

「え?な、何言って……」
                         なか
カールは有無を言わさず、サラの膣に先の方だけ入ったままになっているたくましいものを奥

まで一気に挿し込んだ。

その瞬間サラは声をあげそうになったが、すかさずカールに口を塞がれ、出したくても出せな
      おちい
い状況に陥った。

「んっ……ん
………」
                                             うる
激しく絡んでくる舌と激しく突き上げてくる腰に、サラは瞳を潤ませて喘ぎ、声が出せない状況

も快感を倍増させるという相乗効果を生んだ。
                         と
やがて自分の欲望をサラの膣に解き放ったカールは、彼女と一つになったまま器用に体勢を

変え、後ろからの行為に持ち込んだ。

もちろんサラに声をあげさせる訳にはいかないので、今度も彼女の口を塞ぎに行った。
                   おぼ                               も
再び口と下半身の快感に溺れ始めたサラだったが、同時に乳房まで揉みしだかれた為、さす

がに堪えられなくなってきた。

しかし抵抗しようにも体が思う様に動かず、カールの気が済むまで行為が続けられた……




                                            つ
しばらくしてカールとサラはようやく行為を終了し、湯船に浸かってまだ身を寄せ合っていた。
                                                                  ふ
カールが離そうとしなかったからなのだが、行為をするつもりなど全く無かったサラは、腑に落

ちないといった様子で彼の両腕に包まれていた。

「………サラ、怒ってるのか?」

「うん、怒ってる」

「………ごめん、そんなに嫌だなんて思わなかった……」

「………明日町へ行った時、私の買い物に付き合ってくれる?」

「ああ、もちろん付き合うよ」

「じゃあ、許してあげるv」

サラは天使の様な笑みを浮かべ、カールの胸に顔を埋めた。

自分の勝手な行動をサラが笑って許してくれたので、カールの心は感謝の気持ちでいっぱい
                       かか
になり、彼女の体を大事そうに抱えた。
                                 ほて
そうしてゆっくりと温まった後、二人は体の火照りが無くならない内に部屋へ戻り、すぐにベッ

ドへ横になった。

サラは隣に寝転んでいるカールの手を取り、自分の手と重ね合わせるとにっこり微笑んだ。

「明日楽しみだねv」

「ああ、楽しみだ」

「おやすみなさい」

「おやすみ」
          ひたい                              つ
二人は互いの額に口づけし合うと、体を密着させて眠りに就いた。










●あとがき●

ようやくシュバルツ家全員集合しました!
トーマが登場するとカールはいつも冷たくなります。
実は嫉妬心から冷たくなっているのですが、お兄ちゃんとしてはちょっぴり情けない…
サラの事になると大人気なくなるんですよね、彼は(笑)
トーマが非常にかわいそうな扱いですが、ファーレンとのやり取りは更に辛いものに。
しかしバトルの行方は女性陣の圧勝!女尊男卑って最高です!(重症)
そしてカールとサラは相変わらずラブラブv
トーマがどんなに突っ走ろうとも、二人の間には入れないのですvv
「浴室で」というのは出来心ですから許して下さい(笑)
シュバルツ家が勢揃いしてこれからどうなるのか、書き手の私も非常に楽しみですv

●次回予告●

朝からトーマの暴走が始まりましたが、カールとサラは何とか彼を落ち着かせると、注文して
いた婚約指輪を取りにビュルツブルク町へと向かいます。
指輪を受け取る前に各々の服を選び、プレゼントし合う事になったカール達。
カールはセクシーなものを探し出そうと張り切り、サラは普段着を増やしてあげたいと服をたく
さん選びます。
果たして二人はどんな服をプレゼントし合うのでしょうか?
第五十九話 「シュバルツ家〜六日目〜」 サラ…絶対守るから……

                       
<ご注意>

次の第五十九話「シュバルツ家〜六日目〜」は性描写を含みます。
お嫌いな方・苦手な方はお読みにならないで下さい。
とは言え、次回は大した事はしていません(笑) いつも通りラブラブですv