第五十四話

「シュバルツ家〜一日目〜」



「……という訳で、今度連れて来てねv」

「という訳って……全く理由になってないじゃないですか」

「細かい事は気にしちゃダ・メv 早く連れて来ないと、あの人怒り出すわよ?」

「……本当に父さんがそう言ったんですか?」

「ええ、そうよ。じゃ、よろしくね。楽しみにしてるわv」

第一装甲師団の基地内にある通信室で、カールはある女性との通信を終えると長いため息を

ついた。

(困った事になったな……。一緒に行ってくれるだろうか…?)

ある女性とはカールの母親だったのだが、久方振りに通信してきたと思ったら、彼女にとんで

もない頼み事をされてしまった。

いつかはこういう日が来るだろうと予想していたカールは、やれやれといった表情で通信機を

操作し始めた。

今度の通信相手はサラ。

母からの頼み事を実行に移すにはサラに協力してもらわなくてはならない。
                                      よち
断られる可能性は『大』だが、カールには選択の余地が無いので、サラが承知するまで頼み

込むしかないだろう。

やがてモニターにサラの姿が映ると、その瞬間カールは気をぎゅっと引き締めた。

「どうしたの?カール」

「サラ、いきなりで申し訳ないんだが……頼みがあるんだ」

「あなたが頼み事なんて珍しいわね。どんな頼み?」

「実はさっき母から連絡があって……次の休暇に里帰りする様に言われたんだ」

「………ご家族に何かあったの?」

「いや、何もない。単に顔見せに帰って来いって事だと思う」

「そうなんだ、ちょっと焦っちゃった。……で、頼みって?」

サラが本題に入ろうとすると、カールは頬を赤らめ黙り込んでしまった。

「カール……?」

「あ、あのさ…今度の里帰りは俺だけじゃなくて俺の……け、結婚相手も連れて帰れって言

われてて……それで………」

「それで私に一緒に行ってほしいって訳ね」

「あ、ああ」

察しの良いサラはすぐに全てを理解したが、そんな彼女の表情が固まっていた為、カールは

恐る恐る尋ねた。

「…行ってくれるかい?」

「前にも言ったけど、私まだ結婚は考えていないのよ。それに申し込まれてもいないし…」

サラはチラッとカールを横目で見ながら悩んでいるフリをしてみた。

すると、カールはみるみる困り顔になり、今申し込むべきなのだろうかと悩み始めた。

本気で悩んでいるカールを見、嬉しくなったサラはクスクス笑い出した。

彼女は始めから断るつもりなどなかったのだ。

「ふふふ、仕方ないなぁ。困ってるみたいだし、行ってあげちゃおうかな」

「そ、そうか、良かった…」

「でも結婚はまだしないからね、それだけは忘れないで」

「ああ、ついて来てくれるだけでいいよ。ありがとう」

カールはほっとした表情で礼を言いながら、いつか絶対にサラに結婚を申し込もうと決意して

いた。

サラが結婚しても良いと思う時まで待つ自信がカールにはあった。

だからこそ、それまでは彼女を見守っていこうと思うのだった。
                                                         にら
カールがそんな事を考えているとは全く気づかず、サラはスケジュール表と睨めっこしていた。

「えっと……じゃあ、次の休暇は長いのよね?」

「ああ、一週間ぐらいかな」

「わぁ、一週間もあなたとお出掛け!?そんなに長いの、初めてだねv」

「色々案内するよ」

「うん、楽しみにしてるねv」

カールはサラとの通信を終えると、改めてほっと胸を撫で下ろした。

実は母はある人物の言葉を伝言してくれただけであった為、あの頼み事をした張本人はカー

ルの父だったのだ。
                                                      おさ
軍人の先輩にあたる父は昔から非常に厳格な人で、常に優秀な成績を修めていたカールに
          きょうい
とってもずっと脅威の存在であった。

その父に嫁を連れて来いと言われては、連れて行くより他どうしようもない。

幸いサラが一緒に行くと言ってくれたお陰で、何とか父にとやかく言われる事は無くなった

が、まだ重大な問題が残っていた。

サラを連れて帰れば、父はすぐにでも結婚しろと言い出すだろう。
                                                                   さま
しかしサラにはまだその気は無く、双方共絶対に折れない性格なので、二人の対立する様が

目に浮かんだ。
              おちい                           さか
もしその様な状況に陥ってしまったとしたら、その時は父に逆らってでもサラを守り抜こうと、カ

ールは決意を新たにするのだった。



                           *



数日後、空がまだ薄暗い早朝にカールはサラを迎えに国立研究所へやって来た。

正面玄関には例によってステア達が待ち構えており、カールがセイバータイガーのコックピット

から顔を出すと、全員一斉にペコリと頭を下げた。

『おはようございます、シュバルツ大佐v』

「ああ、おはよう。…サラはまだ来ていないのかい?」

「大佐ったら、せっかちですねぇ」
        あせ            じき
「そんなに焦らなくても博士は直に来ますよ。だからそれまでは私達とお話しましょうv」
                                    どとう
ステア達はカールと話をしようと、いつもの様に怒濤の勢いで話し始めた。

カールが困って黙り込んでいると、正面玄関のドアが勢い良く開け放たれ、サラが慌てた様

子で駆けて来た。

「待たせちゃってごめんなさい!準備に手間取ってしまって…」

「いや、そんなに待ってないさ」
       さわ
カールは爽やかな笑顔で返事をし、サラの荷物を受け取るとコックピットの奥へと置いた。

その傍でステア達はカールの笑顔によってぽ〜っとなり、頬を赤らめつつ二人を眺めていた。

「皆、後はよろしくね」

「はい、研究所の事は私達に任せて下さい」
                       そろ
ステア達はまるで軍人の様に揃って敬礼し、それを見届けたサラは満足そうに頷くとセイバー

タイガーに乗り込んだ。
                                                   つか
そうして助手の面々に見守られる中、カールはサラを肩にしっかりと掴まらせ、故郷に向けて

セイバータイガーを発進させた。

研究所を出発してしばらくすると、カールはふとサラの耳元を見、嬉しそうに微笑んだ。

サラはカールがプレゼントしたラピスラズリのイヤリングを身に着けていたのだ。

「それ、気に入ってくれたんだね」
                     もら
「うん、だって……あなたに貰ったものだから…」

サラが照れ臭そうにもじもじしながら言うと、その仕草を微笑ましく思ったカールは彼女の髪に
    ほおず
そっと頬擦りし始めた。

「あ、危ないよ、カール」

「大丈夫、そんなヘマはしない」

「もぉ……」
                                                     うず
サラは困った様な嬉しい様な微妙な笑みを浮かべ、カールの胸に顔を埋めた。





その後数時間セイバータイガーを走らせ、途中でサラが作ったお弁当を食べる為に休憩を入

れたりもしたが旅は終始順調そのもので、カールの家があるビュルツブルク高原に予定よりも

早く到着した。

帝国北部に位置するビュルツブルク高原は四方を高い山々に囲まれ、冬場は完全な銀世界
                                           と
になるという程の雪国であったが、今は初夏なので雪は解けてすっかり無くなっており、心地

よい風が吹く旅行には最適な場所となっていた。

「結構遠いんだねぇ」

サラは初めて訪れる土地に興味津々といった様子で、コックピットから嬉しそうに外を眺めて

いた。
             みす
カールは前方を見据えたまま、サラの言葉に答えるかの様に目の前に見えている広大な山

脈を指差した。

「あの山脈の中腹辺りに俺の家がある」

「……え?あ、あんな所にあるの!?まだまだ先は長いわね……」
                              す
「そうでもないさ。家まではここから真っ直ぐ行けばいいだけだから、案外すぐだよ」

「そう、それならいいんだけど…」

サラは不安が残る表情で言ったが、カールの言う通りそれから一時間も掛からない内に彼の

家の敷地内に入った。
                                                  とんきょう
周囲をキョロキョロと見回したサラはその大きさに驚き、思わず素っ頓狂な声をあげた。

「は!?これって庭!?」
                                       おさ
「ん〜、庭というか何というか、シュバルツ家が代々治めている土地なんだ」

「はぁ〜、すごいんだねぇ、シュバルツ家って」

今いる場所から見える土地全てがシュバルツ家の領地らしい。
                               あっけ
そのとてつもない広さに、サラはただただ呆気に取られるしかなかった。

やがて遠くの方から巨大な建物が見え始め、サラは再び驚き目を丸くした。

「え!?あれがあなたの家…?」

「ああ、そうだよ」

「うそ!?ミレトス城より大きいんじゃないの?」

「そうでもない……はずだ」

城の様な大きさの家を前にして、サラはやはり呆気に取られていた。

そしてカールの家に到着して一番サラを驚かせたのは、家の隣に巨大な格納庫があるという

事であった。

しかも中にはたくさんのゾイドが置かれており、まるで軍の格納庫に来た様な感覚に陥った。
              いっかく                                す
カールが格納庫の一郭でセイバータイガーを停止させると、サラは直ぐさまコックピットから降

り、周りに置かれているゾイドを見に行った。

「すご〜い!どうしてこんなにゾイドがあるの?」

「どれも軍からのお下がりで貰ったものだよ。父さんが趣味で集めてるんだ」

「へぇ、いい趣味だねぇ」

サラは格納庫内にあるゾイドを一通り見て回ってから、カールの元へ駆け足で戻って来た。

笑顔で待っていたカールはセイバータイガーから下ろした荷物を持つと、サラを連れて玄関へ

向かった。
                     とびら
建物の大きさに見合う大きな扉を開け、中に入った二人を出迎えたのはたくさんのメイド達

で、カールの姿が目に入るなり一斉にピシッと頭を下げた。

『おかえりなさいませ、カール様』

「ただいま、皆。元気そうで何よりだ」

カールが気さくに声を掛けると、メイド達は全員がうっとりとした表情になった。

よくよく見てみると、出迎えてくれたメイド達は若い女性ばかり。

どうやら彼女達もカールのファンの様だ。
                       たんのう                          あこが
メイド達はカールの姿をゆっくり堪能した後、今度はサラをじっと見つめ、憧れの人が連れ帰っ
        いか
た女性が如何なる人物なのかを考察し始めた。

「カール様、そちらの方は?」

メイドの質問にカールが答えようとした丁度その時、正面にある巨大な階段から彼によく似た

顔立ちの初老の女性が降りて来た。
                               ただ
カールはその女性に気づくとピンと姿勢を正し、にっこりと微笑んだ。

「ただいま、母さん」

「おかえりなさい、カール。そちらのかわいらしいお嬢さんがそうなのね?」

「はい」

カールはメイドの多さに驚き硬直しているサラをそっと前に押し出した。

ハッと我に帰ったサラは慌てて微笑むと、きちんと一礼してみせた。

「初めまして、サラ・クローゼと申します」

「初めまして、カールの母のソフィアです。いつも息子がお世話になっております」

「いえ、こちらこそ息子さんにはいつもお世話なっております」
     かたくる
「さて、堅苦しい挨拶はこれくらいでおしまい。どうぞ奥へいらして、お茶を飲みながらゆっくり

お話しましょう」

「え、あ、は、はい」

サラはソフィアに手を引かれるまま大きなリビングへ向かい、カールは嬉しそうに二人の後に

ついて行った。





「えっと…サラちゃんはここ、カールはその隣ね」

ソフィアは二人を席に着かせると、手際良く紅茶を入れ始めた。

そうしてサラとカールの前にそっとカップを置き、最後に自分の分を用意したソフィアは席に着

くと、瞳をキラキラ輝かせて二人を見つめた。
                 な  そ
「じゃ、まずは二人の馴れ初めから聞かせてもらおうかな」
                     や
「……母さん、そういう話は止めてもらえませんか?」

「え〜どうしてぇ〜?あれだけ恋愛に見向きもしなかったあなたがどうやって恋に落ちたか、

詳しく知りたいのにぃ〜」

「………」

カールがだんまりを決め込むと、ソフィアは彼からは聞き出せないと判断し、瞬時に標的をサ

ラに変えた。

「ね、サラちゃん、この子どんな感じだった?」

「え?あの…えっと……」

「きっかけは絶対この子の一目惚れでしょ?」

「さ、さぁ……、それは私にも……」

「母さん!」

カールが思わず大声を出すと、ソフィアは驚いて一瞬静かになったが、にやりと不敵な笑みを
          つぶや
浮かべ小声で呟く様に言った。

「はは〜ん、怒るなんて図星みたいねぇ」

カールは全く反論出来ず、顔を真っ赤にしながら黙り込んだ。

カールの素直な反応にソフィアは嬉しそうに笑い、このまま二人の事を根掘り葉掘り聞き出そ

うと思ったが、これ以上はさすがにイジメになるだろうと他の話題に変える事にした。

そうしてソフィアが話し出そうとすると、突然リビングのドアが勢い良く開け放たれ、初老の男

性がツカツカと入って来た。

その人物を目にした途端、カールは慌てて立ち上がりペコリと頭を下げた。

「ただいま戻りました、父さん」

「ふん、挨拶が遅すぎるんじゃないのか?」

「はい、申し訳ありません」

カールの父と思われる男性はソフィアの隣の席にどかっと腰を下ろし、サラをジロッと睨み付

けた。
                                 いだ
サラはその男性の偉そうな態度に不快感を抱きつつ、負けじと睨み返した。

双方共に第一印象は最悪だった様だ。

二人はしばらく無言で睨み合っていたが、ソフィアが紅茶を用意して差し出すと、カールの父

は視線を落とし紅茶を飲み始めた。
                        うかが                                    ひと
サラがそのままの状態で様子を伺っていると、彼は静かにカップをテーブルに置き、独り言の

様にポツリと言った。

「どんな娘を連れて来るのかと思えば…こんなどこの馬の骨かわからん様なヤツだとはな」

「なっ……!」
                                                               はさ
サラは怒りの余り椅子から立ち上がりそうになったが、それよりも早くカールが口を挟んだ。
                                                     ひと
「父さん、彼女の事を悪く言うのは止めて下さい。サラは俺の大切な女性なんです」

カールはとても落ち着いた口調で言ったが、それが余計に内なる怒りの現れの様に思え、そ

の場にいた全員が恐怖を感じた。

緊迫した雰囲気になったリビングで唯一笑顔のままだったソフィアは、場違いな程のんびりと

した声でサラに話し掛けた。

「この人ったら、サラちゃんがかわいいから照れてるのよ〜。だから気にしないでねv」
                                     なご
その一言でリビング内の空気がガラッと変わり、和やかな雰囲気になるとソフィアは紅茶を飲

んで微笑んでみせた。
                      ゆる
いつの間にかカールも表情を緩めて紅茶を飲んでいたので、サラも同じ様に紅茶を飲んで心

を落ち着かせた。

「……で、名前は何と言うんだ?」

「人に名前を聞く時は、自分から名乗るのが礼儀じゃないんですか?」

サラがにっこり笑って言うと、カールの父は一瞬ムッとしたが素直に名乗った。

「私はファーレン・リトレヒト・シュバルツだ」

「初めまして、サラ・クローゼです」

「クローゼ?ひょっとしてクローゼ博士の…?」

「はい、クローゼ博士は私の父です。父をご存知なのですか?」

「無論だ。この帝国で博士の名を知らぬ者はいない」

父の話題になるとサラは途端に上機嫌になったが、ファーレンはすぐにムスッとした表情にな

り言葉を続けた。

「だが、それとこれとは話は別だ。クローゼ博士の娘と言えども、シュバルツ家の嫁になるに

はそれ相応の実力を持つ者でなくてはならん。お前がそれ程の実力者とは思えんな」

「先程から失礼な事ばかりおっしゃいますけど、私は嫁になるなんて一言も言ってません」

「何!?では、何の為にここへ来たんだ?」

「そ、それは…その……」
                                    のちのち
カールに頼まれたので来ました、などと言えば、後々面倒な事になるかもしれない。
                                  よど
そう考えたサラは別の理由を思案しつつ言い淀んだ。

「俺が無理を言って来てくれる様に頼んだんです」

カールがいきなり正直に白状した為、驚いたサラはポカンとなり彼を見つめた。

カールはサラに優しく微笑んでみせてから、ファーレンの方を向いて真剣に話し出した。

「俺も彼女も結婚はまだ早いと考えています。ですが、今回は結婚相手を連れて帰って来い
                                                                   しだい
との事だったので、将来の結婚相手であるサラに無理を言って一緒に来てもらったという次第

です」
                         ゆうちょう                               ちゃくなん
「ふん、何だそれは。お前、そんな悠長な事を言える立場なのか?シュバルツ家の嫡男とし
   つと
ての務めを忘れた訳ではあるまいな?」

「…………」
              いいなずけ
「何の為にわざわざ許嫁を決めてやったと思ってるんだ?それを私の許可なく勝手に断りおっ

て!先方にどれだけ迷惑を掛けたか……」

カールは何も言い返さず、黙ってファーレンの話を聞いていた。

それでもファーレンがまだまだ話を続けようとするので、見兼ねたソフィアが笑顔で話に割って

入った。

「まぁまぁ、あなた落ち着いて。結婚の事はこの子の好きにさせてあげて下さいな。私達が勝

手に決めるのは良くないわ」

「う、うむ、しかしな……」

「あなた」
                                            しぶしぶ
ソフィアが笑顔のまま少々強い口調で言うと、ファーレンは渋々頷いて立ち上がり、リビング

から出ようと歩き出したが、途中で思い出した様に立ち止まった。

「私はまだ認めてないからな」
         ぜりふ
まるで捨て台詞の様にポツリと言い、ファーレンはリビングから去って行った。

そうするとソフィアはすぐに紅茶を入れ直し始め、再びのほほんとした口調で話し出した。
                        がんこもの   ゆうずう  き
「ごめんね、サラちゃん。あの人頑固者だから融通が利かなくて……」

「いえ、構いませんよ。それよりも……あの……許嫁って?」

「あらぁ、やっぱり気になる?」

「え、ええ…まぁ……」

「だって。どうする?」

完全に傍観者になっていたカールに、ソフィアは意地悪そうな笑みを浮かべ尋ねた。

カールは一瞬困った様な顔をしたが、サラを見つめてコクリと頷いてみせ、それを見届けたソフ

ィアはにやにや笑いながら許嫁の話を始めた。

「あのね、この子は生まれる前から結婚相手が決められていたの。…あ、決めたのはもちろん

あの人なんだけど、相手は何と貴族のお嬢様だったのよ〜。も〜私ビックリしちゃった〜!で

もね、この子ったらそういう事に全く興味を示さなくて、相手の方とはほとんど会おうとしない

し、話題にすら出さないから、私ずっと心配していたの。で、三年くらい前にやっと許嫁の話を

してくれたと思ったら、いきなり断ってほしいって言い出すのよ〜。しかも断る理由を聞いたら

照れて言わないし、その後すぐに戦争やら何やらで連絡出来なくなっちゃうし…。仕方ないか

ら、あの人には内緒で私が先方に連絡したの。結構大変だったんだから〜。…と、まぁ、そん

な感じで最近ようやくサラちゃんの事を教えてもらったのv」

ソフィアは一通り話し終えると満足そうに頷き、サラの感想をわくわくしながら待った。

サラはソフィアの余りの早口さにポカンとなっていたが、カールにこっそり腕をつつかれると我

に帰り慌てて笑ってみせた。

「あ、えっと……そんな事があったんですか、すごいですね」

「でしょ?我が息子ながら大変な人生を歩んでいると思うわv」

「あの……三年前っておっしゃいましたよね?」

「ええ、断りの連絡があったのはね。それがどうかした?」

「いえ、別に……」

三年前と言えば、サラとカールが出会った頃の話だ。

カールはサラの為に断ってくれたのだろう。

初めて知る事実にサラは無性に嬉しくなり、満面の笑顔でカールを見つめた。
                                           そ
カールはサラの視線に気づくと、どういう訳か慌てて目を逸らし頬を赤らめた。

実はカールはサラと初めて会ったその日に断りの連絡をしたのだ。
                                              ずいぶん
まだ自分の思いを伝えてすらいなかったのに、カールにしては随分先走った行動であった。

恐らくサラは断った正確な日時を知らないだろうから、この事は一生口が裂けても言わないで

おこうとカールは思っていた。

もし知られたら、恥ずかしくてまともに顔を見る事が出来なくなってしまう。

とりあえずカールは多少苦笑いではあったが、サラに笑いかけつつ椅子から立ち上がった。

「母さん、彼女に家を案内してあげたいのですが…」

「あ、そうね。いつかは自分の家になるんだし、じっくり案内してあげて」

「はい」
           うなが
サラはカールに促されて立ち上がり、ソフィアに軽く頭を下げてからリビングを後にした。

二人は並んで廊下を歩き始めたが、カールが自分のペースでズンズンと突き進んだ為、サラ

は彼の後を追う様な形で小走りになっていた。

許嫁の件を聞かれまいとして早くその場から立ち去ろうとするカールだったが、事情を知らな

いサラは彼の腕をぎゅっと掴み立ち止まった。

「歩くの早すぎるよ」

「……ごめん」

「……許嫁の事、私に聞かせたくなかった?」

「いや、君に隠し事はしたくないから、聞いてもらえて良かったって思ってる」

「……そっか、じゃあ行きましょ」

サラはまだ何か隠し事がある様に感じたが、カールが辛そうなので聞かないでおく事にした。

彼の事だから、きっと照れ臭くて言えないだけだろう。

サラに全てを見透かされているとは夢にも思わず、カールは笑顔で案内を始めた。

カールの家はその外観通り何もかもが広く、部屋は数え切れない程たくさんあった。

正確な数はカールですら把握出来ていないらしい。
                       ごく                           おおざっぱ
数が多い割に使っているのは極一部の部屋のみだった為、カールは大雑把に案内するだけ
  とど
に止め、サラを外へ連れ出した。

外に出るとすぐ目の前に大きな花園があり、サラは嬉しそうに駆けて行くと花園を見回した。

「すごい!こんなに種類が豊富な花園は今まで見た事ないわ」
                                             しゅうしゅう
「母さんが趣味で育ててるんだ。年々種類を増やすから、もう収拾がつかなくなってるみたい

だけど」

「へぇ〜、夫婦揃っていい趣味持ってるねぇ。……あ、黒百合だ」
  あざ
色鮮やかな花々の中であからさまに浮いている黒百合を発見し、サラは少し考え込んでから

ポンと両手を鳴らした。

「ひょっとしてあの黒百合ってここの…?」

「ああ、そうだよ」

「やっぱりそうなんだ〜。ふ〜ん、ここで育てられた花だったのねぇ」
    かんがい
サラは感慨深げに呟き、嬉しそうにたくさん咲いている黒百合を眺め始めた。

一方、カールは花に囲まれているサラに見とれ呆然となっていたが、ハッと何かを思い出すと

彼女の手を握った。

「なぁに?次はどこへ行くの?」

「すごくいい所さ」

サラはすごくいい所とはどんな所だろうと、わくわくしながらカールについて行った。

二人が向かったのは家から数十分程歩いた所にあるゾイドの訓練場。

家に訓練場があるというだけで驚きだったが、それ以上に操作してみたいと思わせる様な設

備が整っており、サラにとってはそちらの驚きの方が大きかった。

「うわぁ、すごい!訓練してみたいなぁ」

「喜んでもらえて良かった」

「あなたもここで訓練した事あるの?」

「子供の頃にはよくしていたけど、最近は全然家に帰ってないからやってないな」

「ずっと忙しかったもんねぇ、私の所へ来たりとかv」
     いたずら
サラは悪戯っぽく言ってみたが、カールは顔を真っ赤にしただけで素直に頷いた。

そうして二人が訓練場の管制室で談笑していると、突然ドアが開きファーレンが入って来た。

突然の出会いに三人は互いの顔を見たままポカンとなってしまったが、いち早く我に帰ったフ

ァーレンが思い出した様に怒り始めた。

「何だ、お前達!?私の訓練場に勝手に入り込むとは何事だ!?」

「…申し訳ありません」

カールはすぐに謝ったが、ムッとなったサラはファーレンの前にズカズカと出て行った。

「あなたね、いつも頭ごなしに怒り出すけど、少しはカールの言い分を聞いてあげてよ」

「な、何だと!?」

「いつもそんなに偉そうな態度だと、私だけじゃなく皆からも嫌われるわよ?」

「貴様……この私にそんな口を聞いて許されると思っているのか?」

「ええ、もちろん許されますわよ。そもそもあなたに許してもらおうなんて思わないけどね」

サラとファーレンは一通り主張し合うと、睨み合ったまま動かなくなった。
                                               とつじょ
カールがこの状況をどう打開しようかと悩んでいる内に、サラは突如にやりと不敵に笑うと、フ

ァーレンに向かってビシッと人差し指を突き付けた。
          らち
「このままじゃ埒が明かないから、あなたに勝負を申し込むわ。もちろん受けて立つわよね?」

「…よかろう。では、お前が負けたらカールの事は諦めてもらうぞ。いいな?」

「ええ、いいわ。じゃあ、私が勝ったら結婚の事はカールの自由にさせてあげてよ?」

「わかった、その条件で勝負してやろう」

話が怪しい流れになっていたが、サラの提案にファーレンも乗り気だったので、今止めたら二

人に怒られそうだとカールは黙って勝負を見守る事にした。

「勝負方法はお前が決めるがいい」

「では、あなたが私の訓練に耐えられるかどうか、というのはどう?」
                         しろうと
「ふっ…、お前はゾイドに関しては素人じゃないのか?結果は目に見えとるな」

「さぁて、それはどうかしら。じゃあ、やるのね?」

「もちろんだ。後で後悔しても私は知らんぞ」

「後悔なんてしませんわよ。では、お好きなゾイドに乗ってスタンバイして下さいませ」

ファーレンは自信満々で管制室から出て行き、そんな父を見送ったカールはようやくサラに話

し掛けた。

「すまない、俺の為に……」

「あなただけの為ではないわ、私の為でもあるの」

「そうか。…しかし父さんを訓練しようなんて、君じゃなかったら絶対言い出せなかったよ」

「………ごめんね、勝ち目がある勝負にしてしまって…」

「いや、いいんだ。たまには父さんにも悔しい思いを味わってもらわなくてはな」

「ふふふ、カールったら結構楽しんでる?」

「父さんが負ける所なんて見た事ないからね。俺、今まで一度も勝った事がないんだ」
                                 あき
カールが昔を思い出しながら言うと、サラは呆れた様子でクスクス笑い出した。

「それって子供の頃の話でしょ?今だったらどうなるかわからないわよ」

「…え?あ、そっか。そう言えば、もう十年以上父さんと戦ってないなぁ」

「やっぱりねぇ、今度戦ってみたら?」

「そうだな」

サラとカールは勝負の事を忘れて和やかに話していたが、管制室の窓からファーレンがダー

クホーンに乗って戻って来るのが見えると、二人はピシッと姿勢を正した。

すると、騒ぎを聞きつけたメイド達が管制室に慌ててやって来たので、カールはすぐに彼女達

を落ち着かせると、このまま静かに見守る様に伝えた。

「こちらは準備完了だ、いつでもいいぞ」

ファーレンは久々の訓練という事もあり意気揚々と通信を入れ、サラは訓練用の火器を一通り

チェックしてから応答した。

「了解。では、訓練を開始します」

こうしてカールやメイド達が見守る中、サラとファーレンの勝負が始まった。

ファーレンは数年前に退役したとは言え、現役の頃は一流のゾイド乗りとまで言われていた
                                           よ
人物だったので、どの方向から飛んでくる空砲も簡単に避け、次々と出現する標的にも確実

にど真ん中に命中させていた。

「ははは、大した事ないじゃないか。これは勝ったも同然だな」
                 たも
「いつまでその自信が保てるかしら?」

サラは最初の様子見を終え、いよいよ本気で火器を操作し始めた。
                                                                    ひん
途端にファーレンは弾を避け切れなくなり、焦りを顔に色濃く出しながら、ちょっとしたミスを頻
ぱん
繁に起こす様になっていった。

「ほほほ、どうって事ないですわねぇ。現役を引退して腕が落ちたんじゃないですか?」

「く、くそっ!!」
                                            かな
ファーレンはなかなか善戦したが、やはり本気のサラには敵わなかった。

結局勝負はサラの勝利で終了し、管制室に戻ったファーレンは悔しそうに負けを認めた。

「……私の完敗だ」

「素直で大変よろしいですわ、お父様」

「……は?お父様?」

「いつかあなたの娘になると決まったのですから、そうお呼びしても構わないでしょう?」

「う、うむ……。仕方ないな、好きにするがいい」

勝負に負けて悔しいはずなのに、ファーレンは何故か嬉しそうな顔で管制室から出て行った。

周囲にいたメイド達は今の勝負を観戦する事によりサラを見る目が180度変わり、恋のライ

バルから憧れの女性として見る様になっていた。
                    だんな
「すごいです!奥様以外に旦那様に勝てる方がおられるなんて思ってもみませんでした!」

「あはは、たまたま運が良かっただけよ。あの人は本当にすごいゾイド乗りだわ」

サラは明るく笑ってみせ、それ以上はファーレンの話題に触れなくなった。
                                つな
その事が余計にメイド達を感動させる事に繋がったのだが、二人の邪魔をしてはいけないと

気づいた彼女達は、ペコリと頭を下げてからゾロゾロと出て行った。

周囲が静かになると、カールはほっとしてサラに微笑みかけた。

「勝負に負けたのに、父さん何だか喜んでたみたいだ」

「うん、私もそう思った。どうしてだろう?」

「昔母さんが言ってたんだけど、父さんは娘がほしかったらしいよ。だからじゃないかな」

「何だ、それならそうと始めから言ってくれたら良かったのに〜。意地っ張りねぇ」

「そういう性格なんだよ」

「ま、何にしてもこれで親公認になれたんだね。何だか照れちゃうなぁ」

サラが照れ笑いを浮かべながらもじもじすると、カールは嬉しそうに彼女を後ろから抱きしめ、
         ささや
耳元で優しく囁いた。

「ありがとう、君には助けてもらってばかりだな」

「…そんな事ないよ。新しい家族が出来るんだもの……私の方があなたにお礼言わなきゃ」
         てんがいこどく
父を亡くして天涯孤独の身になってしまったサラにとって、新たに家族が出来るという事は何

よりも幸せを感じる事だった。
     けなげ      いと
そんな健気なサラを愛おしく思ったカールは、そっと彼女の青髪に頬擦りして一層強く抱きし

めた。

サラは終始カールに身を任せ、幸せそうに微笑んでいた。




                   ほうよう                    つ
カールとサラはしばらくの抱擁の後、管制室を出て家路に就いたが、家に到着するとソフィア

が慌てて二人の元へ駆け寄って来た。

どうやら勝負の事をメイド達から聞いてきた様だ。

「サラちゃん、あの人に勝つなんてすごいわ!さすがカールが好きになった娘さんね〜v」

「い、いえ、偶然です」

「もぉ、謙遜しちゃってぇ〜。照れなくていいのよ、ねv」

「は、はい…」

「ふふふ、サラちゃんかわいい〜vv」

ソフィアは妙に喜びサラを抱きしめた。

ひょっとすると、ファーレンだけでなくソフィアも娘がほしいと思っていたのかもしれない。

サラが困った顔で黙り込んでいると、ソフィアはふと何かを思い出し彼女の手を握った。

「あ、そうそう。サラちゃん、ちょっと私に付き合ってくれないかな?」

「え?あ、えっと……」

「カール、サラちゃんをお借りするわねv」

ソフィアは一人で話を進め、サラを連れてどこかへ姿を消した。

一人ポツンと残されたカールはリビングへ移動し、何をするでもなく紅茶を飲みながらサラが

帰って来るのを待っていたが、そこへファーレンがやって来た為慌てて立ち上がった。

「…あのサラとかいう娘はどうした?」

「母さんに捕まってます」

「そうか……」

ファーレンは何か言いたげな表情でカールを見たが、何故か何も言わずにリビングから出て行

こうとした。

「父さん?」

カールが思わず呼び止めると、ファーレンはピタッと足を止め振り返らずにポツリと言った。

「…いい娘を連れて来たな、あれなら私も安心だ」

予想外の父の言葉に、カールは返事をするのをすっかり忘れてしまい、その間にファーレンは

逃げる様にリビングから出て行った。
                           すがすが
肩の荷が全て下り、カールは非常に清々しい気分になると、どかっと椅子に身を投げ出して

思い切り伸びをした。

そうしてカールが和んでいると、今度はソフィアが笑顔でリビングに入って来た。

「カール、ここにいたのね。サラちゃんを見てあげてv」

ソフィアは嬉しそうにドアの向こう側にいるサラを引っ張りリビングへ招き入れた。

サラはとてもかわいらしいピンク色のドレスを着ており、恥ずかしそうに頬を赤らめていた。
                              ほお
カールは思わずサラの美しさに見とれ、惚けたまま黙り込んだ。

「ね、すごくかわいいでしょ?私が若い頃に着ていたのを着せてあげたの〜。サラちゃんって

何でも似合うから、いっぱい着せ替えちゃったv」

ソフィアにそっと背中を押され、サラはカールの前まで行くとクルリと回ってみせた。

「どう?」

「あ、ああ……よく似合ってるよ」

「えへへ、ありがとうv」

ソフィアはカールとサラの様子を見て満足そうに頷き、こっそりとリビングから出て行った。

二人はすぐにソフィアが出て行った事に気づいたが、気を利かせてくれたのだろうとそのまま

談笑を始めた。

「あ、そう言えば、俺の部屋には案内してなかったな」

「カールの部屋!?行きた〜いvv」

「じゃ、今から案内するよ」
                               ゆうが                  こう
カールは椅子から立ち上がると、非常に優雅な仕草でサラの手を取り甲にそっと口づけした。

まるで物語に登場する王子の様な事をしたのだが、それがカールに妙に似合っており、サラ
        みどり
はうっとりと碧色の瞳を見上げた。
王子様〜vv(夢見すぎ!)
サラの様子に気づいたカールは嬉しそうな笑顔を見せ、彼女と手を繋いで自室へ向かった。

カールの部屋は家の一番奥まった所にあったが、他の部屋と同じくとても広々としており、し

かもバルコニーまであった。
        ぜいたく
「うひゃ〜、贅沢な部屋だねぇ。一人で使うには広すぎるよ」

「俺もそう思う。けど、生まれた時からこの部屋は俺の部屋って決められていたから、選択の

余地はなかったんだ」

「すごいね、さすがシュバルツ家の嫡男v」

「それを言わないでくれよ、サラ」

カールが苦笑しながら振り返ると、サラは苦しそうに胸を押さえ壁にもたれ掛かっていた。
                                             のぞ
カールは慌ててサラを椅子に座らせ、心配そうに彼女の顔を覗き込んだ。

「どうしたんだ?」

「ん、ちょっと……胸が苦しくて……」

「……ひょっとしてそのドレス…サイズが合ってないのか?」

「少し胸元がきついだけだよ」

「そんなに苦しそうな顔して少しな訳ないだろ。緩めたらどうだい?」

「……少しでも緩めたら、胸を押さえ切れなくなっちゃうの」

「無理は良くない、緩めた方がいい」
                                    ひも
そう言うなり、カールはサラの胸元を締めている紐を強引に引っ張った。
                               ほうまん     あらわ
途端に胸元がはち切れんばかりに開き、豊満な乳房が露になってしまった為、サラは慌てて

両手で隠したが、カールは安心した様に微笑んでみせた。

「どうだい?」

「…ありがと、楽になったわ」

「すまない、母さんに気を遣ってくれたんだね」

「ち、違うわ。お母様は私が着たいって言ったから、着せてくれたんだよ」

カールはサラの優しさが無性に嬉しくなると、彼女をそっと抱き寄せた。

そのまま二人はしばらく熱く抱擁し合った後、自然と見つめ合い口づけを交わした。

そしてもう一度口づけしようと再び唇を近づけた時、突然ドアをノックする音が室内に響いた。

二人は慌てて離れると、サラは急いで胸元の紐を締め直し、それが終わるのを見届けてから

カールはドアを開いた。

ドアの向こうには一人のメイドが笑顔で立っていた。

「夕食の準備が整いましたので、ダイニングルームへいらして下さい」

「ああ、すぐ行くよ」

カールが爽やかな笑みを浮かべて答えるとメイドはぽっと頬を赤らめ、ペコリと頭を下げてから

小走りで去って行った。

メイドを見送ったカールはふと肩の力を抜き、サラを連れてダイニングルームへ向かった。
                 すで
ダイニングルームでは既に両親が席に着いていたが、慌てた様子でやって来たカール達を見

たファーレンは驚いて思わず立ち上がった。

「な、何故お前がそのドレスを着ているんだ!?それは私が……」

「私が着せてあげたのよ」
                                          ふ
サラの代わりにソフィアが笑顔で答えると、ファーレンは腑に落ちないといった表情で黙って席

に着いた。

ソフィアは手招きしてサラを呼び、隣の席に座らせると嬉しそうに微笑んだ。

先程のファーレンの言動が気になっていたサラは、微笑み返しながらソフィアにこっそり尋ね

てみた。

「あの…ひょっとしてこのドレスって特別なものじゃないですか?」

「ん〜、特別っていうか……あの人がプレゼントしてくれたドレスなのv」
                   まさ
ひょっとしなくてもそれは正しく特別なものに違いなかったが、ソフィアが相変わらずのほほん

とした調子なので、サラはそれ以上聞く気にはなれなかった。

そうして和やかな雰囲気で夕食の時間が始まったが、ファーレンの様子を伺いながらのカー

ルとサラはぎこちなく夕食を食べていた。

ただ一人ソフィアだけはにこやかな笑顔で黙々と食べ、食事を終えてコーヒーが出て来ると、

途端に皆に話し掛け談笑を始めた。

その隣でファーレンがまだ不機嫌そうな顔をしてコーヒーを飲んでいた為、ソフィアは彼にもの

ほほんとした口調で話し掛けた。

「やだ、あなたったら〜。まだ怒ってるの?」

ファーレンはそっぽを向いたまま返事をせず、ソフィアはため息をつきサラに苦笑してみせた。

「ごめんなさいね。サラちゃんが私の若い頃によく似ているから照れてるのよ、この人」

「ふん、どこが似ているというんだ?こんな小娘よりお前の方が余程……」

ファーレンは独り言として言ったつもりだったが、周囲にいる者全員に見つめられてしまい、思
      つぐ
わず口を噤んだ。

しかもよくよく考えてみると、思い切り恥ずかしい事を口走ったと気づき、ファーレンは耳まで真

っ赤になりつつ慌ててダイニングルームから姿を消した。

「さすが親子、よく似てるわねぇ」
                                                              かし
サラが笑いながら言うと、カールはどういう意味で似ているのか理解出来ずに首を傾げた。

しかしソフィアだけはサラが言った言葉の意味を理解し、心底おかしいといった様子でクスクス

笑い出した。

「サラちゃん、よくわかってるわね〜」

「えへへ、わかりやすいですから」

「そうそう、そうなのよ〜」
                                                            あ
サラとソフィアはクスクス笑い合っていたが、カールは二人が笑っている理由を敢えて聞か

ず、静かにコーヒーを飲み続けた。

サラはしばらくソフィアと談笑した後、軽く挨拶をして席を立ちカールの傍へ歩み寄った。

「何だい?」

「そろそろお風呂に入ろうかなって思って。案内お願い出来るかしら?」

「喜んで案内致します」

カールはすぐに立ち上がると、メイド達がうっとりする様な優雅な仕草で一礼し、サラの手を取

って歩き出した。

そんな二人に向かって、ソフィアは嬉しそうに声を掛けた。

「カール、サラちゃん一人じゃ淋しいだろうから、一緒に入ってあげてねv」

「母さん……」

カールが苦笑しながら振り返ると、ソフィアはにこにこ笑って軽く手を振り、それ以上は何も言

わなかった。
                                  うらや
ソフィアの周りではメイド達が顔を真っ赤にし、羨ましそうにサラを見つめていた。

カールは小さくため息をつくと、サラを連れてダイニングルームを後にした。

廊下を早足で歩きながら、サラは悪戯を思い付いた子供の様な顔でカールに声を掛けた。

「本当に一緒に入っちゃおうか?」

「…そうだな」

てっきりダメと言われると思っていたので、サラが意表を突かれて目を丸くすると、カールは明

るく笑ってみせた。

「一人で入るには大きすぎる風呂だからね」

「へぇ、そんなに大きなお風呂なんだ〜。楽しみだなぁ」

広い家の中を数分歩き、浴室に到着するとサラは上機嫌で風呂場を見に行った。

すると、カールが言っていた通りとても大きな風呂場で、前に二人で行った温泉よりも大きか

った。

サラは傍にカールがいるのにぽいぽいとドレスを脱ぎ、風呂場へ軽い足取りで入って行った。

一方カールはサラを見送ってから服を脱ぎ始め、ゆっくりと彼女の後を追った。

「カール、こっちこっちv」

サラは体中泡まみれにしながらカールを呼び、いそいそと彼の髪を洗い出した。

「……サラ、自分で洗えるよ」

「ダ〜メ!自分でだと適当にしか洗わないでしょ?」

「う、う〜ん、それはそうなんだが……」

「自分の家のお風呂だからって気にしなくていいんだよ。綺麗に洗ってあげるから、私に任せ

てv」

サラは手際良くカールの髪と背中を洗うと、続いて自分の髪を洗い始めた。
                                                     つ
カールはサラが長い青髪を洗うのを横目で見つつ、体を洗うと湯船に浸かりに行った。

「あ、私も〜」

サラは急いで全身を洗い終えると、湯船に浸かりカールの隣に座った。

「こんなに大きいと、毎日お風呂に入るのが楽しみだね〜v」

「喜んでもらえて良かった」

「あなたは小さい頃からこのお風呂に入ってたんだよねぇ、羨ましいなぁ」

「羨ましい、か…。俺はこんなに大きな風呂はずっとイヤだと思ってたけど、今ようやく好きに

なれそうだよ」

「どうして…?」

「君が好きなものは俺も好きになれるからさ」

聞いている方が照れてしまう様な事を、カールは爽やかに言ってのけた。
                           ごまか
サラは嬉しそうに微笑むと、照れを誤魔化す様にカールの肩にそっと寄り掛かった。





しばらくして浴室からカールとサラが出て来ると、待ってましたと言わんばかりにメイドが駆け

寄って来て、笑顔で声を掛けてきた。

「サラ様、お部屋の用意が出来ましたのでご案内します」

「あの…えっと……」

サラはチラッとカールを見てから、にっこり笑ってメイドに言った。
 せっかく
「折角用意してくれたのに申し訳ないんだけど、私は彼の部屋で休ませてもらうわ」

「え?……あっ、す、すみません!そうですよね、お二人はそういう仲でしたよね。気が付かな

くて申し訳ありません!以後気を付けます、すみませんでした!」

メイドは一人で話し続け、何度も頭を下げると慌てて二人の前から去って行った。

メイドを見送ったサラは彼女の動揺振りに少々驚きつつ、カールを見上げて苦笑した。

「言わない方が良かったかなぁ?」

「いや、構わないよ。本当の事だし……」

将来の結婚相手として連れ帰ったのだから、どう思われても構わないと思ったが、まだお互い

照れが残っていたらしく、二人は目を合わせない様にして手を繋ぎ、カールの部屋に向かって

歩き出した。

そうして室内へ入ると、サラはすぐバルコニーに出て夜空を見上げた。

北国で見られる星々はいつも見ているそれらと何となく違っており、実に興味深かった。

サラが夢中になって空を見ていると、カールも一緒になって空を眺め始めた。

「君は星が好きなんだね」

「うん、大好きv あなたは?」

「俺も好きだよ」

「ふふふ、こんな事でも気が合っちゃうんだね、私達v」

サラは空を見るのを止めると、カールの方を向いて微笑んでみせた。

カールもつられて微笑んだかと思うと、直ぐさまサラを抱き寄せ唇を重ねた。

軽い口づけを一度だけ交わし、続けて濃厚な口づけを始めようとしたカールだったが、彼の唇

をサラが指でそっと止めた。

「……ねぇ、聞きたい事があるの」

「何?」

「お母様が言ってた…その……私達の馴れ初めの話なんだけど……」

「う、うん……」

「本当に………一目惚れだったの?」

サラの質問にカールはどう答えようか迷ったが、結局素直に白状する事にした。

「…ああ、そうだよ」

「そっか……」

「君はどうだったんだい?」

「私?私は……わからないわ」

「わからない…?どうして?」

「気が付いたら好きになってたんだもん。だからわからないの」

「ふっ……君らしいな」
                                                 ふさ
カールは爽やかに微笑み、先程の続きをしようとサラの口をそっと塞いだ。

サラは長く濃厚な口づけを受けると、トロンとした目になりカールを見上げた。

そうする内にカールはサラをひょいと抱き上げ、ベッドへ連れて行くとコロンと寝かせた。

そしてすぐに服を脱がせようと手を伸ばすと、我に帰ったサラが慌ててその手を止めた。

「ま、待って、カール。ここで大丈夫なの?」

「夜には誰もこっちへ来ないから心配ない」

「で、でも…」

「こんな奥までわざわざ来るヤツなんていないさ」
                                            は               したい
カールは微笑みながらサラが着ている薄手の服を丁寧に剥ぎ取り、その美しい肢体を露にさ

せた。
                                    ひたい
サラはまだ不安そうな顔をしていたが、カールが額に優しく口づけするとにっこり笑って頷いて

みせた。
                                                      ば
サラが笑顔になってくれたので、カールは安心して彼女の上に四つん這いになった。

「…あ、ちょっと待って」

カールが首筋に口づけを始めようとした途端、サラは再び彼を止めた。

まだ何か問題があるのかと、カールはすぐに動きを止めサラの顔を覗き込んだ。

「どうかしたのか?」

「……どうしてあなたは服を着たままなの?」

「え……?」

「私だけ裸なんてヤダ…」

「………わかった」

カールはいつも前戯を終えてから服を脱いでいたのだが、サラがそう言うのであれば仕方な

いと上着を脱ぎ始めた。

しかしその様子を見ていたサラは急いで彼の手を止め、満面の笑みを浮かべた。

「私が脱がせてあげるv」

一瞬サラが言った言葉の意味が理解出来ずカールはポカンとなってしまい、その間にサラは

彼の服をテキパキと脱がせていった。

サラに全て脱がされる前に我に帰ったカールは、慌てて彼女の手を掴んだ。

「後は自分で脱ぐ」

「え〜ズルイよぅ、私のはあなたが全部脱がせたクセに〜」

サラの抗議の声を無視し、カールは自分で服を脱いで全裸になった。
        とが
サラは口を尖らせてそっぽを向いたが、カールは大して気にする風もなく彼女の手を取り、薬
         な
指を中心に舐め始めた。

「ん………」

サラは怒っていたのでなるべく声を出さない様に心掛け、そっぽを向き続けた。

指では埒が明かないと判断したカールは、サラをベッドへ強引に押し倒すと、耳から首筋にか

けてを優しく舐め回した。

「ん……あぁ……」

今度はさすがに我慢出来なかったらしく、サラは思わず色っぽい声をあげ体をくねらせた。
     あえ
サラの喘ぎ声を聞いたカールはもっとその声が聞きたくなってしまい、彼女が気持ち良いと感

じる所をじわじわと攻め始めた。
     ごと
当然の如くサラはカールが聞きたがっている声で何度も喘ぎ、より一層彼を興奮させて愛撫

が激しくなっていった。

その内サラはそっぽを向いていられなくなり、その様子に気づいたカールは意地悪そうな笑み

を浮かべつつ、わざと彼女の耳元で囁いた。

「サラ、怒ってたんじゃないのかい?」

「……まだ…怒ってるもん……」

「そうかな?俺にはそうは見えないけど」

サラが意地になって怒っているとわかっていながら、カールはその怒りを解こうともせず、逆に

もっと怒らせて彼女の表情の変化を楽しんでいた。
             なか            さ            おぼ
と同時に、サラの膣へ指をゆっくりと射し込み、快感に溺れさせようと激しくまさぐった。

「あっ……はん…あぁ………」

「やっぱり怒ってないじゃないか」

「や……あん……。い……いじわる………」
        うる
サラが瞳を潤ませ弱々しい声で言うと、カールは満足気に微笑み本格的に前戯を開始した。

そして一時間程の前戯が終了する頃には、サラは怒るどころか体中の力が抜けてしまい、く

たくたになっていた。

そんなサラの体をカールはゆっくりと広げていき、彼の体を迎えさせた。

「んぁっ………」
          なか                               ぞ
サラは自分の膣にカールの存在を感じた瞬間、体をのけ反らせ大きな声で喘いだ。
                                               ようしゃ
その瞬間のサラの表情を見、カールは嬉しそうに目を細めると容赦なく行為を始めた。

こうして二人は自宅ではあったが誰にも邪魔されず、一晩中体を重ね続けたのだった。










●あとがき●

長すぎっ!
書いている側がそう思うなら、読む側も同じ様に思うでしょう。
久々に(?)長いお話になりました。
カールの両親が初登場しましたが、如何でしたでしょうか?
シュバルツ家の人って厳しいか優しいか両極端という印象が強くて、父は厳しく、母は優しく
なキャラに仕上がりましたv
しかしまだハッキリしていないファーレンの性格。
ソフィアは天然!と最初から決まっていたので簡単でしたが、ファーレンは……微妙(笑)
しかも名前も適当に考えたので、『ファ』『フィ』が少々かぶってると今頃気づきました(爆)
どうなってしまうんだ、シュバルツ家!?
でもカールとサラは相変わらずラブラブ一直線v
ラブラブが書ければそれで良し!な作者ですから、色々とツッコミ所があっても気にしないで
下さいね。
シュバルツ家って本当にすごいお金持ちだ、と思って頂ければ何も言う事はありません。
これからしばらくシュバルツ家のお話が続きますが、いつも以上に妄想爆発で書いていきた
いと思っていますv

●次回予告●

サラの努力の甲斐あって、カール達はようやく親公認の仲になる事が出来ました。
が、そんな時ある人物がシュバルツ邸にやって来ます。
サラをライバル視するその人物とは一体誰なのか?
サラが零した涙の理由とは…?
注目ポイントはカールの一人称の移り変わりです!(笑)
第五十五話 「シュバルツ家〜二日目〜」  よく考えてみたら、私も一目惚れかもしれない