第五十三話
「祭り〜後編〜」
す お祭りが終了する間際に会場に戻って来たカールとサラは、人込みを見事に擦り抜け基地内 へ向かった。 と 今夜はここに泊まってほしい、そして泊まりたいと互いの利害が一致し、カールは自分に割り 当てられた部屋へサラを案内するつもりだ。 すると、基地の入口でバッタリとハーマン達と出会い、男性陣は双方の思惑を瞬時に読み取 った。 「よう、サラ。どうやら無事みたいだな、安心したぜ」 おおかみ 「やあ、ミシェール。狼の調教にすっかり慣れた様だね」 にら カールとハーマンは二手に分かれた時と同じ様に主張し合うと、睨み合ったまま動かなくなっ た。 一方、サラとミシェールは互いの愛する男性を苦笑しながら見上げ、ふと目を合わせるとコクリ と小さく頷き合った。 「カール、お祭りが終わった後、皆で打ち上げするんでしょう?」 「ああ、その予定だ」 「私とミシェールも打ち上げに参加して……」 『ダメだ』 そろ さえぎ カールもハーマンも口を揃えてサラの言葉を遮り、男の密度が高い所に連れて行ける訳がな いと目で訴えた。 「や、やっぱりそうだよね…。じゃあ、ミシェール、部屋で一緒に待ってましょうか」 「そうね、一人でいたって退屈なだけだし」 こうして話がまとまり、四人はミシェールに割り当てられた部屋へと歩き出した。 が、その道中では相変わらずの口論が続いていた。 「ミシェールとは同じ部屋でなくて良かったのか?」 「あ、当たり前だろ!お前、基地内でふしだらな事はするんじゃないぞ、わかったな?」 よこしま 「やれやれ、女性と同じ部屋に泊まるというだけで邪な想像をするとは…。お前もまだまだ子 供だな」 「何だと!?お前なら基地でもやり兼ねないと思ったから、サラの身を案じて注意しただけ だ!」 「バカか、お前は。注意されなくても基地でやる訳がない、そんな事もわからんのか?」 「い〜や、俺が注意しなかったらやるつもりだったんだろ?図星を指されたからってムキになる なよ」 「ムキになっているのはお前の方じゃないのか?」 「お前こそ、そこまでムキになるなんておかしいぞ」 あき やる、やらないの下ネタで口論を繰り広げる男達に対し、サラは呆れた様子で肩をすくめ、ミ シェールは恥ずかしくなって頬を赤らめた。 本音を言い合える程仲が良いのはわかるが、そういう事を表立って言うべきではない。 その事にいち早く気づいたカールはサラにこっそり目配せして謝ると、それ以降はハーマンの 言う事に反論しなくなった。 つぐ やや遅れて恥ずかしい事を言っていたと気づいたハーマンは口を噤み、ミシェールに謝る事も 出来ずに黙って廊下を突き進んだ。 いと そうして部屋に到着すると、サラとミシェールは何事も無かったかの様に微笑み、愛しい男性 を見上げた。 「じゃ、ここで待ってるね」 「ああ、早めに切り上げて迎えに来るよ」 「うん、待ってる」 カールとサラは普通に言葉を交わしていたが、二人の隣ではハーマンが顔を真っ赤にしたま ま何も言い出せずにいた。 カール達が見守る中、ミシェールはハーマンを何とか落ち着かせようと話し掛けた。 「ロブ」 「な、な、なな、何だ、ミシェール?」 「余りお酒を飲み過ぎない様にね」 「あ、ああ。…ありがとう」 なかむつ ハーマン達の仲睦まじい様子を見、カールとサラも思わず笑顔になるとぎゅっと手を握り合っ た。 「行ってらっしゃいv」 「ああ、行って来ます。ハーマン、行くぞ」 「おう」 そな カールとハーマンが部屋から出て行くと、サラとミシェールはその部屋に備え付けられている にぎ コーヒーメーカーでコーヒーを用意し、賑やかに談笑し始めた。 「あ、ハーマン少佐、シュバルツ大佐、遅かったですね」 「すまなかったな、オコーネル」 「遅くなって申し訳ない、大尉」 すで 「いえ、お気になさらずに。皆にはもう既に後片付けを始めてもらっています、後の指示はお二 人にお任せしてよろしいですね?」 「あ、ああ、もちろんだ。なぁ、シュバルツ?」 「そ、そうだな。後は任せてくれ」 「では、私も後片付けを手伝ってきます」 そう言ってオコーネルは足早に去って行った。 てっきりカンカンに怒っているオコーネルがブツクサ小言を言い出すと思っていたのだが、予想 ひょうしぬ に反して何も言ってこなかったので、二人の指揮官は拍子抜けしてしまった。 「…あいつ、妙に機嫌がいいな。俺達がいない間に何があったんだろう…?」 「表情から察するに、余程いい事があったらしいな」 「いい事、ねぇ…。いい事って言ったら、やっぱり女だぜ!お前もそう思うだろ?」 「さぁ、どうだろうな」 「……何だ、お前は興味無いのか?」 「人のプライベートに干渉する趣味は無い」 かた 「あ、そうですか。相変わらずお堅いコトで」 「うるさい。さぁ、とっとと後片付けを済ませるぞ。打ち上げを早めに切り上げる為にな」 「それには異存は無い。よし、やるぞ〜!」 がぜん 力仕事になると、俄然張り切り出すハーマン。 並の軍人よりも体力に自信があるからこそ張り切れるのだろう。 カールも体力には多少の自信はあるのだが、ハーマンと同等とまではいかない。 何となくハーマンに負けたと思いつつ、カールは副官であるヒュースの元へと急いだ。 けわ …予想はしていたが、ヒュースはカールの姿が目に入るなり、険しい表情で駆け寄って来た。 「大佐、サラさんはどちらに?」 「彼女ならもう帰った」 「……本当ですか?」 「上官の言う事が信じられないのかね、ブラント中佐?」 「……わかりました。では、後片付けの指示をお願いします」 カールは心の中でこっそりガッツポーズを取ると、部下達にテキパキと指示を与え始めた。 そうして予定よりも大幅に短い時間で後片付けを終え、格納庫内に大量の酒と食べ物が運び 込まれると、兵士達は盛大な打ち上げを開始した。 またしても張り切り出したハーマンは、前に出て皆に大声で呼び掛け、何やらいそいそと準備 を始めた。 ろう ねぎら 一方、カールはこの二日間の労を労おうと部下達一人一人に声を掛けに行っていたのだが、 そんな彼の元へ何かの準備を終えたハーマンが嬉しそうにやって来た。 「シュバルツ、ちょっといいか?」 「何だ?」 「昨日の勝負の続きをしようと思ってな。ま、とりあえずこっちへ来てくれ」 カールがやれやれとハーマンについて行くと、格納庫の奥の方にいつの間にか大きなテーブ うなが ルが置かれており、そこにある椅子に座る様促された。 しぶしぶ カールは渋々といった様子で勧められた椅子に座り、彼の隣の椅子にはハーマンが座った。 すると、周囲にいた共和国軍の兵士達が数え切れない程の酒を持って来て、二人の前にテ キパキと置いていった。 「……何をするつもりだ?」 「さっき言っただろ、勝負の続きだ」 「飲み比べをするのか?」 「ああ、そうだ」 「ミシェールに余り酒を飲み過ぎるなと言われていたのはどこの誰だったかな?」 「ぐわっ!い、痛い所を突かれた〜!ズルイぞ、シュバルツ!!」 カールは小さくため息をつくと、ひょっとしたらこの勝負のお陰で早めに打ち上げから抜け出せ まぶか かぶ るかもしれないと気持ちを切り替え、目深に被っていた軍帽を取りテーブルに置いた。 「おっ!?何だかんだ言いながら、お前もやる気になったみたいだな」 「この勝負を口実にして早めに打ち上げから抜け出す、いいな?」 「ははは、それは勝敗が決まってから考えればいい事だ。じゃあ皆、準備よろしく!」 ひか ふた ハーマンが声を掛けると、傍に控えていた兵士達が次々と酒瓶の蓋を開け、どこで見つけて そそ きたのか巨大なグラスに注ぎ始めた。 しかしよく見てみると、カールの為に用意された酒とハーマンの為に用意された酒は全く違う ものであった。 一番の違いはアルコール度。 どう見てもカール用の酒の方が度が高い。 「…ハーマン、どうしてお前のと俺のとでは酒の種類が違うんだ?」 「お前は酒にみょ〜に強いからな、多少のハンデは当然だろ?」 「このハンデは付けすぎだと思うが…」 「気のせいだって。では……諸君!これから共和国軍を代表してこの私ロブ・ハーマンと、帝 国軍を代表してこちらのシュバルツ大佐で勝負を行います!応援よろしくな!!」 ハーマンは大声で勝負の事を格納庫中に伝えると、オコーネルに目配せしてから巨大グラス を手に取った。 えしゃく オコーネルはカールに向かって申し訳なさそうに会釈し、スタートの合図をする為に二人の前 へ移動した。 よ つぶ 「まず勝負のルールについて説明します。時間は無制限、ひたすら飲み続けて先に酔い潰れ いた た方が負け、という至ってシンプルなルールです。お二人共、準備はよろしいですか?」 「おう、俺はいつでもいいぜ!」 「私もいつでもいい。早く合図を頼む、大尉」 「了解しました。では、よ〜いスタート!!」 オコーネルの声を合図にカールとハーマンは巨大グラスに口を付け、周囲の兵士達は自分も 一緒になって酒を飲みつつ、互いの指揮官に大きな声援を送り始めた。 ハーマンは少しずつ酒を胃に流し込みながらチラリと隣のカールを盗み見、にやりとほくそ笑 んだ。 カールが飲んでいる酒は自分が飲んでいる酒より三倍以上アルコール度が高い。 これならどんなに酒に強い者でもあっさり酔い潰れてしまうだろう。 そんなほくそ笑んでいるハーマンを横目で見つつ、カールはやれやれと肩をすくめた。 今飲んでいる酒は確かにきつい酒だが、自分がいつも飲んでいる酒に比べたら恐るるに足り ない部類に入るものだ。 (本当にコイツは筋肉バカだな…。さっさと終わらせてサラを迎えに行こう) カールは勝負の事はそっちのけでサラの事だけを考え、一定のペースで酒を飲み続けた。 それから一時間後…… たも カールは最初のペースを保ったまま飲み続けていたが、彼とは正反対にハーマンは明らかに 飲むペースが落ちており、もうまともに座っていられないらしく、テーブルの上にだらんと上半 身を投げ出していた。 「くそ〜、何故潰れないんだ〜〜」 あらかじ 「俺がどれだけ酒に強いか、予めもっとよく調べておくべきだったな。そうすればお前にもチャ ンスがあったかもしれない」 「う〜〜、だったら最初にそう言え〜!」 「自分が不利になる様に助言する者がいると思うのか?」 「ちくしょ〜、俺の……俺の負けだ〜〜!」 「よく言った、ハーマン。でかしたぞ」 勝負が終わればこんな所にいる必要はもう無い。 早くサラの元へ行こうとカールが立ち上がろうとした途端、共和国軍の兵士達がわらわらと彼 の周りに集まって来た。 「大佐、ハーマン少佐に代わりまして続きは我々が務めます」 「……?どういう事だ?」 「今度は我々と勝負して頂くって事です。では、二回戦スタート!」 上官が上官なら、部下も部下といったところであろうか。 共和国の軍人は勝負事が非常に好きな様だ。 勝手に酒を飲み始める兵士達を呆れた表情で眺めつつ、カールは次々用意される酒を断り切 れずにひたすら飲み続けた。 更に一時間後…… カールの周囲にはもう誰も立っていなかった。 見事に全滅である。 かいほう オコーネルは勝負に参加しなかった者に酔い潰れた兵士達を介抱する様指示を出し、カール うかが とハーマンの様子を伺う為に二人の傍へ歩み寄った。 「ハーマン少佐、シュバルツ大佐、大丈夫ですか?」 「俺はだいじょ〜ぶだぁ〜!まだまだ飲むぞ、このヤロ〜!」 「そいつはもうダメだ、大尉」 「その様ですね。大佐は…?」 「私は大丈夫……ん?」 さっそう カールは颯爽と椅子から立ち上がろうとしたが、立ち上がった瞬間足下がふらついた。 やはり飲み過ぎたらしい。 「大丈夫ですか、大佐?」 「……余り大丈夫ではない様だ。すまないが、私は先に失礼させてもらう」 「それがよろしいですね。後の事は私とブラント中佐にお任せ下さい」 「よろしく頼む。……あぁ、ついでにこのバカを送ってやろう。部屋が隣だからな」 「はい、よろしくお願いします」 本当はハーマンなど放っておきたい気分だったが、ミシェールの為を思って送る事にした。 どんな時でも女性に優しいカールであった。 「ほら、立て、ハーマン」 「あ〜何だ〜、シュバルツ〜?」 「部屋へ帰るんだ、わかるか?」 「俺はまだ飲むっての〜!」 いか ささ 如何にカールでも、ハーマンの全体重を支えたままでは移動出来ない。 どうにかして本人に歩いてもらう必要がある為、カールは小声でハーマンに話し掛けた。 せっかく 「折角同じ場所にいるのに、ミシェールに会いに行きたくないのか?」 ミシェールの名が出た途端ハーマンは急に大人しくなり、カールの肩を借りてはいたが自分で 歩き出した。 ひと そうしてのろのろと歩きながら、ハーマンは子供の様な笑顔で独り言を言い始めた。 「とうとうミシェールと……。いや〜参ったなぁ〜」 「…何が参るんだ?」 「決まってるだろ〜?恋人だよ、恋人〜!わぁ〜すげ〜なぁ、俺とミシェールは恋人同士!」 「……何だ、ミシェールとは今頃恋人になったのか。お前、思った以上に奥手なんだな」 「うるせ〜!ミシェールはな〜、すっっっっっごくかわいいんだ!!そんなかわいいヤツに簡単 に告白なんか出来ねぇんだよ!」 「そうか。……まぁ、俺にもそういう時期があるにはあったな。その気持ち、わからなくもない」 ひとすじなわ 「だろ〜?男と女って難しいよな〜、一筋縄ではいかないもんな〜」 「ああ、そうだな。しかし俺とサラは例外だ、心も体も通じ合っているからな」 「なんだぁ〜?自慢かぁ〜?」 「ふっ……その通り」 「へいへい、それは良かったですねぇ〜」 「……その言い方、全く良いと思ってないだろ?」 「はっはっは〜っ!その通りです、大佐殿!」 こら みす カールはハーマンをその辺りにポイ捨てしたい衝動に駆られたが懸命に堪え、前を見据えた まま黙って愛する女性がいる部屋を目指した。 足下がふらついているというだけで一見まともに見えたカールだったが、実は彼も酔っぱらっ ているのかもしれない。 しんし やがて愛する女性達がいる部屋の前までやって来ると、カールは非常に紳士的にドアをノック の しようとしたが、ハーマンが彼を無理矢理押し退け、ノックをせずに勢い良くドアを開いた。 「ミシェール、帰ったぞ〜!」 「あ、ロブ、おかえりなさい。……大丈夫?」 「ミシェール、俺達…俺達……あ〜、やった〜!」 「飲み過ぎないでって言ったのに、飲んじゃったのね……」 ミシェールでなくともわかる程、ハーマンは見事に酔っていた。 一方カールは見た目はまともであった為、サラは安心した様に微笑んで彼の傍へ歩み寄っ た。 ゆる カールはサラの姿を見つけるとあからさまに表情を緩め、今すぐにでも彼女と二人きりになり たいと思ったが、先にやらなければならない事があった。 肩を貸しているデカ物をどうにかせねばと、ミシェールに応援を要請する事にした。 「ミシェール、コイツを部屋まで運ぶんだが手伝ってくれないか?」 「ええ、もちろんです。ご迷惑をお掛けしてしまって申し訳ありません」 「いや、君が気にする必要はない。悪いのは全てコイツだ」 「そ、そうですね……」 ミシェールはカールの事を内心怖いと思いつつ、ハーマンの体を支えようと移動した。 話がまとまるのを静かに待っていたサラは、自分にも何か出来る事はないかと、わくわくしな がらカールに尋ねた。 「カール、私も何か手伝える事ある?」 「君はこっちだ」 あ カールは空いている方の手を差し出し、サラの手を優しく握った。 全く手伝えていなかったが、サラはカールの手をぎゅっと握り返し、嬉しそうに微笑んでみせ た。 せま こっけい こうして四人は狭い廊下で横一列に並んだ非常に滑稽な一団となり、ハーマンの部屋を目指 して歩き出した。 その道中もハーマンの暴走が始まったが、すかさずミシェールが止めると素直に大人しくなっ た。 わかりやすい男である。 たど ミシェールがいてくれたお陰でさほどの時間は掛からずに部屋に辿り着くと、カールはハーマ ンをベッドに座らせ、ようやく重いものから解放され自由になる事が出来た。 「ミシェール、後は任せていいか?」 な 「おい!ミシェールに馴れ馴れしく頼み事なんかするなよな〜!」 「黙れ、お前には聞いていない。ミシェール、いいな?」 「あ、はい、大丈夫です」 「よし!じゃあサラ、俺の部屋へ行こう」 そう言うなりカールはさっさとドアの方へ歩き出し、サラは彼に聞こえない様に小声でミシェー ルに話し掛けた。 「ごめんね。いつもはあんなにきつい言い方はしないんだけど、今日はちょっと様子がおかし いの」 「大佐もお酒に酔っているのかもしれないわね。私は全然気にしてないから安心して、サラ」 「ありがとう、ミシェール。じゃ、また明日」 「うん、おやすみなさい」 サラはミシェールに向かって小さく手を振ると、ドアを開いたまま廊下で待っているカールの元 へ駆けて行った。 「俺の部屋はこの隣なんだ」 「へぇ、帝国軍と共和国軍で分けてないんだね」 「指揮官用の部屋がこの階にしか無くてね、他の皆はきっちり分かれてもらってる」 「ふ〜ん、でも丁度良かったね」 「丁度良い?どうして?」 「ハーマンを支えるの大変だったでしょ?だから部屋が近い方が早く休めると思って」 「…そうか、そうだな」 サラの優しさに感動しつつ、カールは自分の部屋に入ると、何の前触れもなく突然彼女に向 かって倒れ込んだ。 実はわざとだったのだが、サラは全く気づかず慌ててカールの体を支え、心底心配そうに彼の のぞ 顔を覗き込んだ。 「カール、大丈夫?立てる?」 |
うず カールはサラの豊満な乳房に顔を埋めてこっそり微笑んでから、ダメだと言わんばかりに困っ た表情を浮かべてみせた。 「俺とした事がすっかり酔ってしまった様だ。すまないが、ベッドまで連れて行ってくれない か?」 つか 「うん、わかったわ。じゃ、私の肩に掴まって」 たくら サラはカールの企みに一切気づく事なく、彼の体を支えながらベッドへ向かった。 そうしてベッドに到着すると、カールは素早くサラを抱き寄せ、そのままベッドへ押し倒した。 「カ、カール!?」 「サラ、俺を介抱してくれないか?」 「そ、それはもちろんするけど……その…どうしてこの体勢で頼むの?」 「この方が介抱しやすいだろ?」 「しやすくない!この体勢だと、私が介抱される方になっちゃうでしょ?」 「それもいいな、では俺が君を介抱する方に変更しよう」 たんたん カールは真顔で淡々と言うと、サラの服に手を伸ばし脱がし始めた。 酔っている、カールは確実に酔っている。 こんしん そう瞬時に判断したサラは服の中に入りつつあるカールの手を止め、渾身の力で彼の体を自 分の上から移動させた。 カールは意外とあっさりサラの隣に倒れ込み、何が起こったのかわからないといった表情を浮 かべた。 本人は気づいていない様だが、もうまともに動けない程カールは酔いが全身に回っていた。 先程サラを押し倒した力が最後の力だった様だ。 にぶ しばらくしてようやく動きが鈍くなっている事に気づいたカールは、動けないなら動けないなり に楽しめる事があるはずだと、酔いが唯一回っていないと思い込んでいる頭をフル回転させ、 たわむ サラと戯れる方法を思案し始めた。 「カール、軍服のままだと苦しいでしょ?着替えられる?」 ひらめ サラのその言葉によってカールは名案を閃き、見るからに嬉しそうな笑顔になった。 「どうやら一人では無理そうだ、手伝ってくれないか?」 「いいよ、着替えはどこにあるの?」 「そこのカバンの中」 「了解」 サラはベッドの傍に置かれている軍用のカバンを開けたが、中にはズボンと下着しか入って いなかった。 恐らく上は上着の下に着ているものをそのまま利用するつもりなのだろうと察し、とりあえずカ バンに入っているものだけを取り出してカールの傍へ戻った。 くつ 「じゃあ、まずは靴からね」 は カールが履いているのは軍用のブーツ。 サラも研究所で同じ構造のブーツを履いているので実に手際良く脱がせ、ベッド脇に綺麗に 揃えて置いた。 と 続けてしっかりと腕に留められている手袋を取ると、後は軍服のみになった。 「えっと次は……脱ぐだけなら自分で出来るよね?」 「脱がせてくれないのか?」 「……もう、仕方ないなぁ。じゃ、ちょっと体起こしてくれる?」 「それは無理だ、もう体が言う事を聞きそうにない。このままで着替えさせてくれ」 「こ、このままって……」 「サラ、こっちへ」 カールはサラの手を取ると軽く引き寄せ、自分の上に彼女を馬乗りにさせた。 「これで出来るだろ?」 「………。…わかったわ」 男という生き物はやはりいやらしいのが普通なのであろうか…? それとも酔っているからこそ、こんな大胆な行動を取る事が出来るのだろうか…? すべ ふともも カールの手がスカートの中に滑り込み、太股を撫で回しているのを多少気にしながらも、サラ はいそいそと軍服を脱がし始めた。 「よいしょっ、んしょっ」 カールの上半身を持ち上げるのは彼がそう仕向けている為、なかなかの重労働であった。 サラが上着を脱がせようと一生懸命頑張っていると、彼女の表情をじっくりと観察していたカー ルは、何となくあの時の表情に似ているなとにやついていた。 つい太股を撫でる手にも力が入り、その為に企みが全てサラにばれてしまった。 「カール、少しくらい手伝えないの?」 「…あ、そ、そうだな」 ごまか カールはにやついた事を誤魔化そうと、不自然ではあったが自分ですんなりと上半身を起こし た。 は たた サラは素早く上着を剥ぎ取り、綺麗に畳んで枕元へ置いた。 (そう言えば…軍服の下に着ているのってノースリーブだったのね…) 以前上着を借りた時に下に着ていた服を見た事があるのだが、今更ながらに軍服についてあ れこれ思案してしまい、サラは余り深く考えずにカールの腰に手を伸ばすと、カチャカチャとベ はず ルトを外し始めた。 いよいよだな、とカールがドキドキワクワクしていると、突然サラの手がベルトから離れた。 さすがに男性の下半身を着替えさせるのは恥ずかしい、とようやく気づいた様だ。 「カール……やっぱり私……」 「…恥ずかしい?」 「うん、後は自分で着替えてくれる?」 「………わかった」 らくたん カールはあからさまに落胆の表情を見せたが、意地を張らずにのろのろと着替え始めた。 サラはカールの方を余り見ない様にしながら出来る事を見つけて手伝い、酔っぱらってはいて も彼は彼なのだと微笑ましく思っていた。 「はぁ…、やっと終わった……」 着替えるだけで異常に時間が掛かってしまった為、カールは疲れ果てた様子でベッドへ大の 字になった。 みずか その時ふと隣に目をやるとサラが自ら服を脱ぎ始め、下に着ていた薄手の服のみの格好にな り彼の元へやって来た。 そして迷わずカールの上に馬乗りになり、彼の頬を愛おしそうに撫で回した。 「介抱って具体的にはどういう事をしてほしいの?普通の介抱とは違うんでしょ?」 「そんな事を聞いていいのかい?すごい事を頼むかもしれないのに」 ほうび 「今夜は特別よv お祭り大変だっただろうから、ご褒美として優しく介抱してあげるvv」 「それは有難い。じゃあ、早速介抱してくれ」 「だからどういう風に介抱してほしいの?教えてくれなきゃ何も出来ないわ」 「教えなくてもわかっているだろ?それとも具体的な言葉で、手取り足取り詳し〜く教えてほし いかい?」 「や、やっぱりいい!遠慮しておくわ」 サラは本当に手取り足取り教えようとしているカールを止めると、彼の顔にゆっくりと顔を近づ け唇を重ねた。 じょじょ しかしサラからの口づけは何度続けても全て優しいものであった為、徐々に物足りなさを感じ から てきたカールは彼女の頭を両手で包むと、優しい口づけの延長線で優しく舌を絡め始めた。 やがてカールの手が服の中に伸びてくると、隣の部屋にハーマン達がいるせいか、サラは非 あえ ぞ 常に小さな声で喘ぎ体をのけ反らせた。 「サラ、やはり君が介抱される方の様だな」 「あん……違うわ、これが……あなたにとっての介抱でしょ?だから私が……介抱してるの」 「そうか、じゃあもっと介抱してもらうぞ」 「あぁ……やん……あ……」 あいぶ 体は動かなくても手だけは妙に素早く動かせるので、カールの激しい愛撫はサラの心を確実 に快楽の世界へと導いていった。 すさ すいま そうして頃合いを見計らい、張り切って行為を始めた途端、カールの体に凄まじい睡魔が襲い 掛かってきた。 さすがに限界がきた様だ。 「……カール……?」 「……大丈夫、もう少し……続ける」 「あ…んぁ……カール……あぁ……」 なか カールは睡魔と戦いながら何とか腰を突き上げ続け、一度だけだが自分の欲望をサラの膣へ と 解き放つ事に成功した。 つ が、解き放ったと同時に気が抜け、カールは一瞬で眠りに就いてしまった。 あかし よいん ひた サラはカールから受け取った愛の証の余韻にしばらく浸っていたが、ハッと我に帰ると彼の寝 顔を覗き込んだ。 愛する女性と一つになったまま眠る事が出来た喜びで、カールは子供の様な寝顔で小さな寝 息を立てていた。 そのかわいらしい寝顔に思わず笑みを浮かべたサラは、カールの頬に軽く口づけしてから彼 つな との繋がりをゆっくりと抜き取り、ベッドへコロンと寝転んだ。 「お疲れ様、カール」 サラはもう一度カールの頬に口づけし、彼の温もりを感じながら眠りに就いたのだった。 さかのぼ 一方、時間を遡る事一時間前、ハーマンの部屋では…… 「ロブ、大丈夫?」 「…………」 「気分悪いの?水を持ってきましょうか?」 ベッドに腰掛けたままピクリとも動かないハーマンを心配し、ミシェールが一生懸命介抱しよう としていた。 もう既に限界がきていたハーマンは先程のハイテンションから一転、今度は怖い程の目つき で黙り込んでしまった。 それでも何とか介抱しようとミシェールが頑張っていると、突然ハーマンが彼女の腕を力強く 掴んだ。 「ロブ……?」 「……ミシェール…好きだ……」 「……その言葉は酔ってない時に言ってもらえるかしら?さぁ、早く横になった方がいいわ」 「ミシェ〜ル!!」 「きゃぁっ!」 ハーマンは掴んでいた腕を強引に引っ張り、ミシェールをベッドへ押し倒すと、本当に酔ってい ば るのかと疑いたくなる程素早く彼女の上に四つん這いになった。 二人は恋人同士ではあるが、まだ口づけをする程度の仲である為、ミシェールは当然ハーマ ンの行動に驚き、目を見開いたまま体を硬直させた。 す さわ ハーマンは硬直しているミシェールの頬を優しく撫で、目は据わっていたが非常に爽やかな 笑みを浮かべてみせた。 「ミシェール、好きだ」 「ロ、ロブ……私まだ…そんな……」 「大好きだ、ミシェール」 おお その言葉を合図にハーマンはミシェールに覆い被さり、彼女の髪に顔を埋めた。 こころ どんなに好きでもこんな形で抱かれたくないと、ミシェールは抵抗を試みようとしたが、ふと気 づくとハーマンの意識は既に眠りの世界へ旅立ってしまっていた。 (困った人ね……) ミシェールは間近にあるハーマンのかわいらしい笑顔を眺め、呆れるよりも嬉しい気持ちにな った。 『好き』という言葉は普段なら滅多に聞けない言葉。 しかし今夜は酔っていたとは言え、何度も口にしてくれた。 嬉しいに決まっている。 ミシェールはハーマンの温もりを全身で感じながら、彼の体を隣へゴロンと移動させ、苦しくな らない様にと上着を脱がせ始めた。 なかなか大変な作業であったが、ミシェールは何とか一人で上着を脱がせる事に成功し、ハ ーマンの体にそっと毛布を掛けると、自分も彼の隣へ横になり手を繋いで眠りに就いた。 翌朝カールとハーマンは見事に寝坊、そして起きた瞬間から激しい二日酔いに見舞われた。 部下達も二日酔いで寝坊する者が続出した為、寝坊自体は何ら問題のない行動として扱わ れたが、帝国軍・共和国軍両指揮官だけは別であった。 カールはサラが基地に泊まった事をヒュースに知られてしまい、ハーマンは目が覚めたら隣に ま もう ミシェールが寝ているという驚きの光景を目の当たりにし、思わず廊下まで猛ダッシュしてし まった。 おさ カールの方はサラが間に入ったお陰で全てが丸く収まったが、ハーマンの方はミシェールにど う言い訳しようかと悩んでいた。 昨夜の事はほとんど覚えていない為、何を言い訳するのか根本的な事がわからなかった。 真剣に悩んでいる姿を微笑ましく思ったミシェールは、『昨夜は何もなかった、ただ一緒に寝 およ ただけ』と本当の事を正直に伝え、ハーマンを安心、及び少々ガッカリさせたのだった。 ●あとがき● とうとう……とうとう軍服の構造が明らかに!……なってない(笑) しかし上着の下に着ている服がどういうものかは明らかになりました。 そう、ノースリーブです。 あの軍服であの手袋なら、下は長袖ではないな〜と思ってノースリーブにしましたv 乙女の夢ですねvv いつかイラストにしたいと思っておりますv ちなみに素材は不明ですがピタッとしたものではなく、多少余裕のある着心地の服です。 色はもちろん黒(笑) 様々な色を取り揃えていると思われますが、全て無地で地味な色ばかりです。 カールはその中でも暗めの色ばかりを買っている模様。 夏場はノースリーブ、冬場は長袖と使い分けているという設定にしています。 そして今回の見所は…男性陣の飲み比べと彼らを介抱する女性陣。 またまた鬼畜な所を出し、介抱という名目の元カールが怪しい事をしようとしていました。 酔っぱらうと本性が出てしまうものなんですねぇ(遠い目…) しないと言っていた割に結局基地内でしてしまいましたし、さすがカールです(褒めてない) 逆にハーマン達の方は全く進展無し、見事に正反対な結果に。 あのままちょっぴりいやらしい方向に話を進めてみたいと思っても、ハーマンだと何故かそうい う展開に持っていけない… 彼の性格がそうさせる様ですね。 カール達は大人に、ハーマン達はちょっぴり大人に(大差ない?)な展開でこれからもお話を 進めていこうと思いますv ●次回予告● 忙しい毎日を送っているカールの元へ、ある人物から通信が入ります。 そしてその人物からとんでもない頼み事をされてしまい、カールは助けを求めようとサラに通 信を入れます。 カールを助ける為、サラは彼と共にある場所へ向かう事に。 シュバルツ家、全員集合!? 第五十四話 「シュバルツ家〜一日目〜」 本当に………一目惚れだったの? <ご注意> 次の第五十四話「シュバルツ家〜一日目〜」は性描写を含みます。 お嫌いな方・苦手な方はお読みにならないで下さい。 またしても鬼畜なカールが登場します(爆) |