第五十二話
〜その1〜
「祭り〜カール×サラ編〜」
お祭り会場でその容姿から妙に目立っているカールとサラ。 しかし当の本人達はその事に全く気づいた様子もなく、様々な出店を見て回り空腹を満たそう と夕食を買い求めた。 もう まぎ そうして会場内に設けられているベンチの方へ向かうと、たくさんの人に紛れて座り早速夕食 を食べ始めた。 もよお 「軍がこんな催しを開催するなんて、ちょっと意外だねぇ」 「ああ、俺もそう思う。しかし陛下は軍のあり方を変えようとして、今回の催しを企画なさったん じゃないかな」 「ふふふ、そうかもしれないね」 と サラは子供達が楽しそうに遊んでいる様子を笑顔で見てから、ふとカールの手元で目を留め ると、にっこりと満面の笑みを浮かべた。 「それ、一口食べていい?」 「ああ、いいよ」 くし カールは持っていた串焼きのお肉を差し出し、近づいてくるサラの口をまじまじと見つめると、 ほおば つられて自分も口を近づけ、二人は同時に肉を頬張っていた。 かす 微かにだが触れ合う唇… 当然驚いたサラは慌ててカールから離れ、周囲をキョロキョロと見回した。 どうやら誰にも見られていなかった様だ。 ふく にら サラはほっと胸を撫で下ろすと、頬を膨らませながらカールを睨んだ。 が、彼女の場合本気で怒っている訳ではない為、睨んでもカールにはかわいいと思われてい た。 「もぅ、人前であんな事しちゃダメでしょ?」 「人前?じゃあ、二人きりの時はしていいんだね?」 「知〜らない!」 ぐだくさん サラはプイとそっぽを向くと、持っていた具沢山の野菜スープを黙々と食べ出した。 ひ 今回はさすがに自分に非がある、と感じたカールはすぐに謝る事にした。 「ごめん……」 「……もうしない?」 「ああ、しない」 「じゃあ、許してあげるv」 きげん すく サラはすんなり機嫌を直して笑顔を見せると、お返しと言わんばかりにスプーンでスープを掬 い、カールの口へ運んだ。 カールが嬉しそうにスープを食べると、サラは彼の耳に口を寄せ小声で話し始めた。 「二人きりの時はいいよv」 「本当かい?」 「うんv だから人前は絶対ダメだよ」 「わかった」 二人は幸せそうに微笑み合い、早めに夕食を済ませると再び出店を見て回り、お祭りの雰囲 まんきつ 気をたっぷりと満喫した。 ひろう やがて会場の中心部にある特設ステージでは兵士達が一芸を披露し始め、サラは面白そう だとカールの手を引っ張ってステージ前へ向かった。 兵士達による様々な芸が次々と披露され、それが一通り終了すると見物人に呼び掛け、飛び 入りで芸を披露してもらう催し物が続けて開始された。 子供達が合唱したり、男性が手品をしたりと、周囲は異常な程の盛り上がりを見せていた。 たび はくしゅ サラとカールも珍しく皆と同じ様に盛り上がり、誰かが芸を見せる度に大きな拍手を送った。 しばらくすると芸をしようと申し出る者がいなくなり、先程までの盛り上がりが嘘の様に観客が しら かせ 白け始めてしまった為、司会を担当している兵士達は適当に話して時間を稼ぎつつ、飛び入 りで参加してくれる者を必死に捜した。 あこが すると、自分達の憧れの人物であるカールとサラの姿が目に入り、兵士達は迷わずサラにス テージに来る様声を掛けた。 「え、えぇ!?わ、私…?」 サラはオロオロしながら助けを求める様にカールを見上げたが、彼はにっこり笑うだけで何も 言わなかった。 内心では人前に出てほしくないと思っていたが、ステージ上の、しかもマイクを持っている兵 こた 士がサラの名を呼んだ為、周囲の期待の視線に応えない訳にはいかなかった。 らくたん カールに止めてもらえないとわかると、サラは一瞬落胆の表情を浮かべたが、彼の手をぎゅっ と握ってから一人でステージへ向かった。 サラがステージ上に来るとそれだけで観客から歓声が上がり、兵士は嬉しそうに彼女をステ ージ中央へ案内した。 サラは恥ずかしそうにもじもじしていたが、ペコリと頭を下げると瞬時に落ち着きを取り戻し、非 常に美しい声で歌を歌い始めた。 はや 今回サラが歌った歌はカールの前でよく歌っている故郷の歌ではなく、帝都ガイガロスで流行 ささ っている女性歌手の歌、愛する男性に捧げた愛の歌であった。 カールはサラが自分だけを見て歌っている事に気づくと、嬉しそうに目を細めてみせた。 サラはカールの反応を見て思いが伝わったと察し、満面の笑みを浮かべながら歌を歌い終え た。 わ えしゃく 再び四方から拍手が沸き起こり、サラは小さく会釈すると足早にカールの元へ帰った。 にぎ サラの歌の効果なのか、観客達はあっさり賑わいを取り戻し、ステージでは飛び入り参加の 者が次々と芸を披露し始めた。 その様子を安心した様に眺めた後、カールはサラを連れて二人きりになれる場所を探し始め た。 その途中ふとステージの方に振り返ると、慌てて駆け回っているヒュースの姿が見えた。 人が多すぎてサラを見失ったのだろう。 してやったりとほくそ笑んだカールはサラの手をぎゅっと握り直し、ステージから死角となって なお いて、尚かつ人気の少ない場所へと向かった。 そこは基地内だが小高い丘状になっており、ここならきっと花火がよく見えるはずだ。 ひざたけ ほこり カールは座るのに適した膝丈程のブロック壁を見つけると手でささっと埃を払い、そこにサラを 座らせ隣に自分も腰掛けた。 から サラはカールの何気ない優しさに喜びを感じつつ、彼の大きな手を取り指を絡め始めた。 「サラ」 「なぁに?」 「さっきの歌、俺の為に歌ってくれたのか?」 「さぁ、どうでしょう?」 サラは笑ってはぐらかしたが、そうだと言いたげな表情でカールの肩に寄り掛かった。 ほおず カールが幸せそうにサラの髪に頬擦りしていると、夜空に花びらの様な光が咲いた。 「わぁ〜、綺麗v 私、花火って余り見た事無いの」 「帝国では滅多に上げないからね、共和国ではちょっとした行事がある度に上げてるらしい よ」 「へぇ、そうなんだ。じゃあ、共和国へ行ったらいつでも見られるんだね」 「……今度一緒に見に行こうか?」 「うん、行きたい。連れてってv」 と 「しかし共和国まで行くとなると、必然的に泊まりがけになるが、それでもいいか?」 カールの言葉を聞いた途端、サラは思わず泊まった先の事まで考えてしまい、顔が火を吹い た様に真っ赤になった。 「…う、うん、泊まりがけでもいいよ」 「じゃ、約束」 カールは指切りをするのかと思わせつつ、何故か軍帽を取ると自分とサラの顔の前へ持って いった。 か サラがじっと様子を見ていると、カールは軍帽の影の中で彼女と口づけを交わした。 |
「カ、カール、人前はダメって言ったでしょ?」 「人前じゃないよ、周りをよく見てごらん」 そう言われて周囲を見回すと、確かにカールの言う通り近くに人影は無かった。 一番近くにいる人でも、顔がわからない程の距離があった。 ふ それでカールが平気で口づけをしたのだと納得はしたが、腑に落ちなかったサラは彼の手に 握られたままの軍帽を奪い取り、自分の頭の上に乗せた。 かぶ 男女では頭の大きさが違う為当然軍帽は大きかったが、サラは軍帽を両手で押さえて被り、 次々と打ち上げられる花火を眺め始めた。 サラの行動はいまいち理解出来なかったが、カールは何も言わずに彼女と一緒になって花火 を眺めていた。 するとその時…… 「陛下、お急ぎ下さいませ」 「ま、待って下さい、メリーアン」 突然背後で聞き慣れた声が聞こえた為、カールとサラが慌てて振り返ると、そこにはやはり ルドルフとメリーアンの姿があった。 「へ、陛下!?」 「……あ、シュ、シュバルツ先生!?」 一番見つかりたくない相手に見つかってしまったと言いたげな表情を浮かべ、ルドルフとメリ ーアンはカール達の元へ駆け寄って来た。 「二人も遊びに来ていたのね」 「ええ、そうなんですのよ、先生」 なご 女性陣は非常に和やかな雰囲気で話していたが、男性陣はそうはいかなかった。 「陛下、こんな所へお二人だけでいらっしゃるのはどうかと思いますが?」 およ 「し、心配には及びませんよ、迎えの者はちゃんと手配していますから」 「私が言っているのはそういう事ではございません。ご自分がどういう立場の人間なのか、よ く考えた上で行動して頂かなくては困ります」 「ですが、大佐。今回のお祭りの主催者は私ですし、主催者が来ないお祭りなんておかしい でしょう?」 「いいえ、おかしくありません。そんな事よりも、もちろんホマレフ殿には一言おっしゃってから 外出なされたのでしょうね?」 「そ、それは…えっと……」 「まさか……黙って出て来たのですか!?」 れっせい ルドルフが完全に劣勢に回ってしまうと、サラはすかさず助け船を出す事にし、二人の間に割 って入った。 「カール、落ち着いて。ルドルフ君だって花火が見たかったのよ。いつも国務で忙しい毎日を わがまま 送っているんだから、多少の我儘は許してあげましょ、ね?」 ないしょ 「……君がそう言うなら、今日の事はホマレフ殿には内緒にしておこう。しかし陛下、今度から ひか 余り遅くまで外を出歩くのはお控え下さい。女性を連れているなら尚の事です」 「は、はい、わかりました。花火は拝見出来ましたし、丁度帰ろうと思っていたところです。ね、 メリーアン?」 「ええ、そうですわ」 メリーアンが深く頷いてみせると、ルドルフは軽く会釈し足早に歩き出した。 おもも 一方、メリーアンはルドルフがある程度の距離まで離れるのを待ってから、真剣な面持ちでカ ールを見上げた。 きび 「陛下に余り厳しい事をおっしゃらないで下さい。今日のお祭りには私が行きたいと我儘を言 ったから、連れて来て下さったのです」 「そうでしたか。ですが、やはり厳しく言わざるを得ません。あのお方は帝国を明るい未来へと 導いて下さる大切な存在ですから」 「で、でも…今回の事は全て私の我儘が原因で……」 「メリーアン様、帝国の未来は陛下が導いて下さいますが、陛下ご自身の未来は誰が導くと お思いですか?」 「さ、さぁ……どなたでしょうか…?」 「陛下の未来を導く事が出来るお方はメリーアン様、あなた以外におられません」 「え……私…?」 ささ 「そうです、あなたは陛下を支える事が出来る唯一の存在なのです。その事を常に考え、陛 下をお支えになって下さい」 いか うる 如何にも先生といった口調で優しく語るカールに、メリーアンは瞳をウルウル潤ませると、 深々と頭を下げ小走りでルドルフの後を追った。 メリーアンを見送り二人だけになると、サラはにやにや笑いながら背伸びをし、カールの頭に 軍帽を乗せた。 「さすが、先生。ひじょ〜に説得力のあるお話でしたわv」 「君が俺にしてくれている事を簡単に言っただけだよ」 カールは照れ臭さのせいか少々ぶっきらぼうに言うと、一つ不安な事が脳裏に浮かび苦笑し た。 「ひょっとしたら……ルイーズ大統領も来ているかもしれないな」 「そうね、大統領も主催者だものね。でも来ているとしたら、きっとハーマン達の事をこっそり見 守っていると思うわ」 「こっそり?母親なんだから、こっそりする必要は無いと思うが…?」 「ルイーズ大統領はね、ハーマンとミシェールの仲を応援しているのよv だから、こっそりじゃ なきゃ面白くないでしょ?」 「あいつ……大変な事が多いんだなぁ」 カールが心から同情を込めて言うと、サラはお腹を押さえてクスクス笑い出した。 く むに いつも仲が悪そうなやり取りを繰り返しているが、本当は互いに無二の親友と認め合っている のだろう。 あ サラの笑いは多少気になったが敢えて理由は尋ねず、カールは空を見上げて花火が終了し つな た事に気づくと、サラと手を繋いで基地の敷地内から抜け出した。 ハーマンの話題が出たお陰で彼が言ったある言葉を思い出し、先程笑われた仕返しに意地 悪をするつもりの様だ。 どこへ連れて行ってくれるのだろうと最初は期待していたサラだったが、カールの向かってい じょじょ る先が基地の傍にある林だと察すると、徐々に不安になってきた。 あか 林には灯りなど一つも無く、月明かりだけが頼りだったからだ。 「カール、どこへ行くの?この先、真っ暗だよ?」 「怖いか?」 「ううん、あなたが一緒だから平気。でも、こんな所に何の用があるの?」 「いい事をしに来たんだ」 「いい事?いい事ってどんな事?」 サラの問い掛けにカールは不敵な笑みで応えると、一本の太い木の前で立ち止まった。 いい事の意味がよくわからなかったサラは黙って様子を見ていたが、カールはそんな彼女の とら 細い体を突然捕えると、強引に木に押さえ付けた。 「いい事っていうのは気持ちいい事って意味だよ」 「カール、何を……」 さえぎ ふさ サラの言葉を遮る様に、カールは彼女の口を塞いだ。 カールの突然の行動に驚いたサラはしばらく動く事が出来なかったが、彼の手が上着に伸び こんしん しぼ た瞬間我に帰り、渾身の力を振り絞ってその手を止めた。 「カール、外でこういう事しちゃダメ」 「大声は出さないのか?」 「え……?」 ため 「ハーマンの忠告通り、本当に大声を出すのか試してみたんだが、出さないんだね」 「出す訳ないでしょ!相手があなた以外の人だったら、基地から出る前に出していたけどね。 いや それにハーマンのせいにしたってダメよ。本当は私が嫌がらなかったら、ここでするつもりだっ たんでしょ?」 「その通り、よくわかったね」 「わかるわよ、あなたの考えは全てお見通しだもん」 「……じゃ、この後俺が何をするつもりか当ててみてくれ」 「そ、そんな事いきなり言われても……」 こんわく 困惑の表情を浮かべ、必死に問いの答えを考えているサラの耳に、カールはゆっくりと口を寄 せた。 や 「君が嫌がったら止めるなんて一言も言っていない、無理矢理って手もあるんだ」 「……!?」 ささや カールは耳元で囁くと同時に耳たぶを口に含み、そのまま唇をサラの首筋まで落とした。 「あ……や、やめ……いや……」 「……サラ、君なら俺を張り倒すぐらい訳ない事のはずだ。どうして抵抗しない?」 「……………」 「イヤじゃないから、だろ?」 「……違うもん」 「どう違うんだ?」 「私よりもあなたの方が絶対強いわ。だから抵抗したって力押しで来られたら……」 「負ける?」 さわ サラが無言で深く頷いてみせると、カールはニカッと非常に爽やかな笑みを浮かべた。 「口だったら俺が負けるだろうな」 「そんな事ないわよ」 「いいや、負ける。君にイヤって言われたら、すぐに止めようって思ってしまうからね」 「嘘ばっかり、イヤって言っても止めない時もあるクセに」 「いつもそうしてほしいかい?」 「ばか……」 サラは頬を赤らめながらそっぽを向くと、ようやくカールが体を求めるつもりでない事を察した。 今までのは恐らく先程笑った事に対する仕返しだろう。 カールは自分の前でだけかわいい所を見せてくれる。 たま そう思うとサラは幸せで堪らなくなり、体は無理だが口は許そうと決意した。 「カール、今夜は口も私の負けだわ。だから口だけなら好きにしていいよ」 「口だけ?出来れば舌も好きにさせてほしいな」 「う、うん、いいよ」 カールは見るからに嬉しそうな笑みを浮かべると、そっとサラの口を塞ぎ激しく舌を絡め始め た。 そうして二人は時間を忘れ、何度も何度も口づけを交わし続けたのだった。 ●あとがき● カール×サラ編は他の二つに比べて大人な仕上がりになっております。 …いつもの事だけど(笑) 一度やってみたかったカールの軍帽をサラに被らせるというシーンが出てきて大満足v 大きいはずなのに、無理に被ろうとする所がかわいいvvというシーンでした。 久々にルドルフとメリーアンが登場し、どんちゃん騒ぎが始まるのかと思わせつつ、実はラブ ラブな部分を強調する為に出て来ただけでした。 私が思うルドルフ×メリーアンはかかぁ天下なのはもう当たり前(?)ですが、メリーアンには 縁の下の力持ち的な存在になって頂きたいと思っております。 まだまだお子様ですのでどうなるかはわかりませんが、温かく見守りたい系(何だそりゃ)なカ ップルですv 話をカール達に戻しまして… サラがカールの行動に抵抗しないのは愛しているからです。 イヤじゃないから、と言うカールの答えも一応正解(笑) 最近着々と鬼畜化しているカールですが、楽しいのでこれからも突っ走る所存です! それを全て受け止めるサラは大変だとは思いますが、そんな彼女にときめくバカ(私)の為に 頑張ってもらうつもりですv 「へ、変態…!?」と思わずにお付合い下さいね♪(無理なお願いだ…) 今頃気づいたのですが、イラストの軍帽が小さすぎました……ガックリ…… 第五十三話の予告は第五十二話〜その3〜にあります。 |