第五十一話
「祭り〜前編〜」
さかいめ ガイロス帝国最南端、共和国との境目に位置する基地にて、帝国軍・共和国軍合同で大規 模な演習が行われる事になった。 帝国・共和国間の戦乱終結後、初めて行われる合同演習であった為、軍人達の間でまだ根 わだかま 強く残っている心の蟠りが比較的少ない部隊が双方から選出された。 帝都ガイガロス復旧作業時に活躍した者達。 すなわ 即ち、帝国からはカールを指揮官とする部隊、共和国からはハーマンを指揮官とする部隊に 合同演習の指示が両司令部から与えられた。 あわ が、その指示と共に別の指示も併せて通達された。 かいさい 別の指示とは合同演習終了後、基地内でお祭りを開催せよというものであった。 平和になったからこそ行われる行事であるが、ハッキリ言ってお祭りの方が演習よりもメイン とされている様だ。 その証拠に、今回の合同演習の予算はお祭りのそれと比べて半額以下。 そそ どう考えてもお祭りの方に力を注げ、と言われている様に思えてならない。 合同演習を行う基地へとやって来た双方の指揮官は顔を合わせるなり、はぁ〜と長いため息 で挨拶を交わした。 「…どう考えても頼みやすいヤツに頼んだとしか思えんな」 だ 「仕方あるまい、まだ互いに歩み寄りが足りんのだ。その点を考えると、我々を選んだのは妥 とう 当な判断だろう」 「相変わらず素晴らしい忠誠心ですな、俺には絶対マネ出来ん」 「ふん、マネなどする必要は無いだろうが。そんな事よりもさっさと演習を始めるぞ、午後から は祭りの準備をしなくてはならないからな」 「本当に演習がオマケと化してるな…」 「それは言ってはならない事だ、俺も考えない様にしている」 「はぁ〜…。じゃ、とっとと始めるとしますか」 カールとハーマンはやれやれと演習の準備をしに格納庫へ向かうと、部下達にテキパキと指 ざ す 示を出し、準備もお座なりに直ぐさま演習を開始した。 見るからにやる気がない様子で動き出したのだが、演習が開始された途端カールとハーマン けわ の表情が瞬時に険しくなった。 演習と言えども絶対に負けたくない者が相手なので、始めから本気で戦うつもりの様だ。 す 「向こうの指揮官は単純バカだ、真っ直ぐ突っ込んで来る事しか考えていないだろう。従ってこ ちらは陽動作戦を行う。敵の部隊の真正面に陽動部隊を配置、その間に本隊が後ろに回り はさ 込み、挟み撃ちにする。ブラント中佐、お前は左翼の一個中隊を率いて陽動部隊を務めろ」 「了解」 帝国軍側はカールの指示通り、陽動作戦を行う為に移動を開始した。 みさだ その頃共和国軍側では、ハーマンが相手の動きをじっと見定めている最中であった。 本当は正面から突っ込みたかったのだが、オコーネルに止められてしまったのだ。 相手はあのシュバルツ大佐ですよ、と。 確かにいつも通りの戦法では勝てる見込みが極端に少ない。 「う〜む、どうしたものか…」 「少佐、ご自分の性格をよ〜く考えてみれば、シュバルツ大佐がどの様な戦法で攻めて来る かわかるはずです」 「……それはどういう意味だ、オコーネル?」 「言葉通りの意味ですよ。…あぁ、ほら、あちらはもう動き出してしまいましたよ?」 かた か 「むむっ……。あっちの指揮官は頭がカチカチのお堅いヤツだ、先を読み過ぎて人の裏を掻く 事しか考えていないだろう。だからこそ、正面からぶつかる方が効果的と予想される」 「少佐…、先程私が言った事をもうお忘れになったのですか?」 「もちろん忘れてないぞ。俺は真っ直ぐ行くとは言っていない、指揮官であるシュバルツのセイ バータイガー目掛けて進撃する。これでどうだ?」 よち 「どうと言われましても…もう他の戦法を考えている余裕はありませんから、選択の余地は無 いですよ」 「よし、じゃあ進撃開始!」 カールの思惑に反し、ハーマン率いる共和国軍はヒュースの陽動部隊を完璧に無視すると、 なな 帝国軍指揮官が乗るセイバータイガーのみを目指し、斜めに進撃を開始した。 方向は違うが、真っ直ぐ突っ込んで来ている所を見ると、カールの言う通りハーマンは単純バ カなのかもしれない… しかし予想とは違った為、カールは慌ててヒュースの部隊を呼び戻した。 かん 「…野生の勘ってヤツか。仕方ない、こうなったら正面から迎え撃ってやる!」 どういう訳か、カールまでもが単純な思考回路で物事を判断する様になり、両軍は少ない予 たま 算で用意した弾が全て無くなるまで相手に撃ちまくった。 程なくして両軍共に弾切れになると、演習は自然と終息を迎え、兵士達は次々と基地へ帰還 し始めた。 「くそっ!こんなに早く幕切れかよ、面白くねぇ!」 ハーマンがぶつくさ文句を言っていると、カールから通信が入った。 「お互い不完全燃焼で終わってしまったな」 「ああ、全くだ。祭りの予算をこっそりこっちに回しておけば良かったぜ」 「それは無理な話だ、今回の祭りの主催者はルドルフ陛下とルイーズ大統領なんだからな」 「そんな事一々言われなくてもわかっている!本当にお前は頭カチカチの堅物野郎だな」 「お前の頭が柔らかすぎるだけだと思うが?…あぁ、柔らかいという表現は違うか。確か頭の 中も筋肉しか無かったんだったな」 「………シュバルツ」 「何だ?」 たた つぶ 「今、この場でお前を叩き潰してやる!!」 「ふっ…出来るものならやってみろ!」 口論がとうとうゾイド戦にまで発展すると、カールとハーマンは周囲の部下達がいなくなるまで 静かに待機し始めた。 しかし後で止める者が出て来てはいけない為、二人は互いの副官に連絡しておく事にした。 いか 帝国軍副官ヒュースはあわよくば相打ちになってくれたらと内心思いつつ、表面上は如何にも じんそく 聞き分けの良い副官を演じ、部下達を引き連れて迅速に基地へと帰って行った。 一方、共和国軍副官オコーネルは… 「オコーネル、俺は今からシュバルツと決闘する。お前達は邪魔にならん様さっさと基地へ帰 還しろ」 「大佐と決闘!?いきなり何を言い出すんですか、我々には遊んでいる暇などありません」 「遊びじゃない、決闘だ。男と男の真剣勝負、絶対邪魔するなよ、いいな?」 「…わかりました。ただし午後からの予定が詰まっていますので、短期決戦でお願いします」 「了解。シュバルツなんぞ、五分あれば充分だ!」 ハーマンの最後の言葉が多少引っかかったが、オコーネルは部下達と共に基地へ戻ると、用 くば 意されていた巨大なお弁当を皆に配り始めた。 隣ではヒュースも部下達にお弁当を配っている。 現在の時刻は正午、丁度昼休憩の時間である。 食事の時間は余り余裕を持っていない為、兵士達はお弁当を受け取ると直ぐさまガツガツと 食べ出した。 そんな兵士達の目線の先には決闘中の指揮官二人。 すさ 双方共に弾切れなので、凄まじい接近戦が繰り広げられている。 食事中の格好の見せ物であった。 ほおば さま 兵士達はお弁当をおいしそうに頬張りつつ互いの指揮官を応援し合い、その様をヒュースは にやにやと、オコーネルはやれやれと見ていた。 そうしてふと時計に目をやったオコーネルは、そろそろかと食事を終了し立ち上がった。 「オコーネル大尉、どうされました?」 不思議そうに尋ねるヒュースに、オコーネルはにっこりと微笑んでみせた。 「そろそろ終わりです」 「終わり…?何が終わりなのですか?」 「決闘」 オコーネルは笑顔のまま短く答えると、傍にある机の上にお弁当を二つ並べて置き、コーヒー を二人分用意し始めた。 オコーネルとヒュースが会話しているのと時を同じくして、カールとハーマンはピタッと動きを止 めた。 空腹を感じ、今現在の時間を知ろうと時計を見た為だ。 何と昼休憩がもう五分しか残っていなかった。 しょうげき 衝撃の事実に、カール達は慌てて決闘相手に通信を入れた。 「今日の決闘はこれまでだ」 「やむを得んな、決着は後日付けるとしよう」 あれだけ盛り上がっていた割にすんなり決闘を中断した二人は、驚くべきスピードで基地へと しっそう 戻って来ると、オコーネル達の元へ全力疾走で向かった。 まだ決闘が続いているのかと部下達に思わせつつ、カールとハーマンはオコーネルが指し示 ふた した席へ着くと、すぐにお弁当の蓋を開け食べ始めた。 ゆうが ハーマンは周囲の兵士達と同じ様にガツガツ、カールは非常に優雅な仕草で食べていたが、 食べる速度は同じという所が皆の笑いを誘った。 ひそ 部下達に密かに笑われているとは全く気づかず、帝国軍・共和国軍両指揮官は三分程でお たい 弁当を平らげると、直ぐさま立ち上がりテキパキとお祭りの準備を開始した。 お祭りが開催されるのは明日午前十時、従って準備は今日中に済ませておく必要がある。 広大な基地の敷地内にたくさんの物資が運び込まれ、兵士達は十人程でグループを作ると、 手分けして出店用のテントや特設ステージを建て始めた。 カールとハーマンも部下達に指示を与えつつ、本部となる巨大なテントを協力して組み立て た。 「……俺達…本当に軍人か?」 「…今は目の前の作業に集中しろ、考えても答えは出ないぞ」 カールが冷たく言い放つと、ハーマンは小さく肩をすくめたが、確かに彼の言う通りであった為 黙々と作業を続けた。 やがて本部テントを建て終えると、ハーマンは軽い足取りでオコーネル達の元へ向かった。 何だかんだ言いながらお祭りが好きである事に代わりはないので、思い切って楽しむ事にし た様だ。 あき カールは呆れた様な表情でハーマンを見送ると、自分もじっとしていてはいけないと部下達を 手伝いに行った。 ざこね 翌日の早朝、昨夜遅くまで作業を続けていた為に部下達同様テント内で雑魚寝していたカー ルは、誰よりも早く目を覚ますと基地内をぐるっと見回り、準備が完了しているかを確認した。 ざっと見た限り、どうやら全て完了している様だ。 やっかい しかし一番厄介な出店の運営が残っているので、楽観視は出来ない。 料理を得意としている女性兵士達を中心に、何とか展開させていくしかないだろう。 カールは最後に格納庫へ向かうと、そこで待っていた業者の男性達と落ち合い、彼らから大 量の食材を受け取った。 かごん 今回のお祭りの予算はほぼ全て食材に使ったと言っても過言ではない。 そろ カールはリストを見ながら食材の確認を行い、全部揃っている事がわかると業者の男性達は 帰って行った。 するとその時、ハーマンが見るからに眠そうな顔で格納庫へやって来た。 「思ったよりすごい量だな…」 さば つ 「一日で全て売り捌けるかどうか定かではないが、演習以上の予算を注ぎ込んだんだ。やる しかない」 「ああ、そうだな」 「ところで、花火の準備は出来たのか?」 てつや 「あ〜、まぁ、何とか。お陰で徹夜組が続出したがな」 「花火を担当した者達は昼まで寝かせてやれ、その間はこちらがそちらの分まで動く」 「頼む。しかし、基地内で行う祭りで花火まで上げるとは思わなかったな」 はで 「帝国軍・共和国軍が数十年振りに行う共同行事だからな、派手にしたいんだろう」 や 「気持ちはわかるが、何でも軍に押し付けるのは止めてもらいたいぜ」 「…恐らく軍だからこそ任せてくれたんだ。俺達軍人も戦う事ばかりを考えていてはいけない からな」 思いがけないカールの言葉に、ハーマンは少々驚いた様な表情を見せたが、すぐにニカッと さわ 爽やかな笑みを浮かべた。 たた 「よし!じゃあ、そろそろ皆を叩き起こすか」 「そうだな」 「…あ、そう言えば今日の祭りにサラは呼んだのか?」 「……そう言うお前こそミシェールは呼んだのか?」 「呼ぶ訳ないだろ、こんな男の密度が高い所に……じゃなくて、俺は祭りの責任者だからな、 遊んでいる暇はない」 「そうか、俺もお前と同じ理由で呼ばなかった」 |
さと そう無表情で話しつつ、二人は互いに同じ事を考えていたのだと悟り合った。 愛する女性をわざわざ男が多い所に呼びたくない、それが二人の本心であった。 どうやらカールだけでなく、ハーマンも相当なヤキモチ焼きらしい。 すで カールもハーマンも既にばれていたが自分の本心を悟られない様に気を付け、部下達を叩き たずさ 起こしに行くと、たくさんの食材を携え出店の準備を始めた。 しょう 責任者は周囲の状況を見て指示を出すだけで良いのだが、じっとしているのは性に合わない らしく、カールとハーマンは出来る範囲で部下達を手伝い、着々と準備を進めていった。 そうしてお祭りの開始時刻である十時を迎えると、基地内にたくさんの人々がやって来た。 前もって大々的に宣伝したお陰なのか、近隣の村や町だけでなく遠方からも見物人が多数来 ていた。 ほか 出店は思いの外好評で、指揮官二人を悩ませていた大量の食材も順当に無くなっていき、一 日で売り尽くすのも不可能ではないと思える様になっていった。 もよお 正午前後の込み合う時間帯を無事乗り越え、お祭り会場の中心部で子供達が参加する催し 物が始まると、カールはようやく一段落付いたと本部テントへ戻った。 すると、一足先に戻っていたハーマンとオコーネルが談笑しながら、出店で買い求めたと思わ くし れる串焼きのお肉を頬張っていた。 も 「よぉ、シュバルツ。お前も早く昼飯食わねぇと保たなくなるぞ」 ハーマンにそう声を掛けられ、カールは一瞬冷たい笑みを浮かべたかと思うと、机の上に置か れている大量のサンドイッチの中からハムサンドを素早く抜き取った。 当然それはハーマンが買って来たサンドイッチである。 ちょうだい 「有難く頂戴する」 「おい、自分の分くらい自分で買いに行けよな!」 あいにく うらや 「生憎そんな時間は無いんだ、暇なお前が羨ましいよ」 すき 「俺だって暇じゃないぞ!隙を見て買って来たんだ!」 こんな忙しい時にも口論を始める指揮官二人の間に、オコーネルは恐れる事なく割って入っ た。 「はいはい、ケンカなら祭りの後で思う存分やって下さい。今は遊んでいる暇などありません から、食事の時間はなるべく短くお願いします。シュバルツ大佐、大佐の分もちゃんとご用意 しておりますよ」 「そうか。世話を掛けて申し訳ない、大尉」 「いえ、これも私の仕事ですから」 副官になるべくして生まれた様な人物、オコーネル。 めぐ カールは共和国軍にも見所のある人材が多いと思いつつ、そんな人物に限って上官には恵 あわ まれないとオコーネルを哀れみの目で見てから、隣に座っている部下に恵まれた人物を眺め た。 ハーマンは短時間で目の前にある食料を全て食べ尽くそうと、凄まじいスピードでがっついて いる。 「良い副官だな」 「だろ?俺もそう思う」 「後の問題は上官のデキが悪いって事だけだな」 「うるさい。…そう言えば、お前んトコの副官はどうした?」 「俺達は全て別行動だ」 「…相変わらず仲が悪いんだな」 「仲良くしてどうする、気持ち悪い」 「ははは、まったくもってその通り」 かみひとえ 普通に会話しているのか口論しているのか、紙一重な様子で二人が昼食を食べていると、本 部テントの周辺に若い女性がわんさか集まって来た。 彼女達を一目見てカールのファンだと察したハーマンは、そちらを見向きもしない彼に小声で 話し掛けた。 「おい、お前に会いたくて来ている様だぞ。行かなくていいのか?」 かか 「……当分ファンとは関わり合いになりたくない」 「……だろうな」 めくば ハーマンが部下達に目配せすると、彼らは集まっていた女性達を追い払い始めた。 とおざか さけ 女性達は遠離っていく本部テントに向かって『シュバルツさま〜vv』などと口々に叫んでいた まぎ が、よく聞いてみると『ハーマンさま〜vv』と叫んでいる者も紛れていた。 「…お前のファンもいた様だな」 「………聞かなかった事にする」 けんめい 「それが賢明な判断だ」 そな カールとハーマンは遅めの昼食を終えると、夕方に再びやって来るピーク時に備え、部下達と 共に下準備を開始した。 あか やがて西の空に太陽が赤く染まり始めると、兵士達は基地内の灯りを次々と点灯させてい かな き、会場の中心部に設置した特設ステージでは音楽家達が陽気な音楽を奏で始めた。 どとう 出店を担当している者達はまだまだ怒濤の忙しさが続いていたが、彼らとは対照的にカール じょじょ 達は徐々に暇になっていき、本部テントで待機せざるを得なくなってきた。 しょう 思い切って遊びに行きたいと思っても、何か問題が生じた時に責任者がいなくては話になら かんづめ ない為、カールとハーマンは缶詰状態で本部テント内に待機していた。 いらいら つの 昨日から今日にかけて忙しすぎる程度が普通だったので、逆に何もする事が無いと苛々が募 る一方であった。 「あ〜、暇だなぁ…」 ハーマンはあからさまに苛々を表面に出し、テント内をウロウロと歩き回っていたが、カールは まゆ 眉一つ動かさず、椅子に座って何やら考え事をしている最中であった。 しかし実を言うと、カールも内心苛々していた。 二人共、じっとしていられない性格なのだ。 二人の様子をハラハラしながら見守っていたオコーネルは、部下からの定時連絡を受けつ あお おさ つ、たまにハーマン達に指示を仰ぎ、彼らの苛々を何とか抑えようと努力していた。 そうして日没を迎え、空に満点の星が輝き出した頃、本部テントに二人の女性が訪ねて来 た。 彼女達の顔には出店で買ったと思われるお面が付けられている。 一見誰かわからない様にも思えたが、カールとハーマンは瞬時に女性達の正体を見抜いてい た。 が、当の本人達はばれている事に全く気づかず、二人に人差し指をビシッと向けた。 ……どうやら銃のつもりらしい。 せんきょ 「ここは我々が占拠する!無駄な抵抗はしない事だ!」 お面を付けている女性の一人がそう大声で主張したが、テント内はしんと静まり返ったままで あった。 「…ねぇ、ばればれだと思うんだけど…?」 せっかく 「う〜ん、折角カールの口調をマネして言ってみたのに…。やっぱり本物の銃を用意しなくちゃ きんぱく 緊迫した雰囲気は出せなかったか…」 「それはダメよ、冗談じゃ済まなくなっちゃうもの」 「そっか、確かに冗談じゃなくなるわね。用意しなくて正解だったわ」 女性達は話が一段落付くと、痛い程の視線にようやく気づき、カール達の方にゆっくりと振り 返った。 いと カールとハーマンは呆れた様に肩をすくめると、互いの愛しい女性の傍へ歩み寄った。 「サラ、こんな所まで何をしに来たんだい?」 「え…ち、違うわ。私、サラなんて名前じゃ……あっ…!」 カールに素早くお面を奪い取られてしまい、サラは顔を隠すのも忘れ呆然と彼を見上げた。 あらわ 隣でも同じ事が繰り広げられ、ミシェールの顔が露になっていた。 「二人共、何しに来たんだ?」 「何しにって…ねぇ?」 サラとミシェールは困った様子で顔を見合わせ、ここは開き直るしかないと悟ると深く頷き合っ た。 「あなた達だけ楽しそうな事をしているなんてズルイんだもん」 「ロブ、どうして誘ってくれなかったの?」 「そ、それは…その……シュバルツ、後は任せた!」 「お、おい、任されても俺は説明出来んぞ!?」 「カール、説明してくれないの…?」 「サ、サラ…俺……」 とつじょ 突如騒がしくなった本部テント内。 オコーネルは部下達を引き連れて外に出ると、静かになるまで待つ事にした。 一方、カールとハーマンは『男が多い所に大切な女性を呼びたくない』という本心が言えない ごまか 為、どう誤魔化そうかとアタフタしていた。 ますます おちい と同時に、互いの事を『頼りにならんヤツ!』と思い、益々訳がわからない状況に陥っていた。 いじ 余り苛めては彼らの立場がないと感じた女性陣は、チラリと横目で合図を送り合うと、追求す るのをピタッと止めた。 「カール、二人はここから離れちゃいけないの?」 「ああ、責任者だからな」 「そっか…。じゃあ私、ミシェールと二人でお祭りに行って来るね。行きましょ、ミシェール」 「ええ。頑張ってね、ロブ」 足早に本部テントから出て行こうとする二人を、カールとハーマンは慌てて通せん坊した。 女性だけで行かせたら、それこそ心配していた事が現実になってしまう。 「…ハーマン、わかっているな?」 「もちろんだ」 カール達はそれぞれ愛する女性の手を取ると、テントの外で待機しているオコーネルの元へ 向かった。 オコーネルはようやく落ち着いてくれたのだと、笑顔で四人を出迎えたが… 「オコーネル、悪いんだがしばらくの間、一人で本部を受け持ってくれないか?」 「…はぁ!?いきなり何を言い出すんですか!?」 やぼよう 「実は少々野暮用が出来てな。お前もそうだろ、シュバルツ?」 「ああ。一人では大変だろうが頼んだぞ、大尉」 「た、大佐までそんな…」 うなだ よそ きげん ガックリと項垂れるオコーネルを余所に、カールとハーマンは機嫌良く歩き出した。 本当はサラ達が来てくれて飛び上がる程嬉しかったのだ。 サラとミシェールは愛する男性の後ろ姿を眺めて苦笑しつつ、項垂れたままのオコーネルに 話し掛けた。 「ごめんなさい、大尉。ご迷惑をお掛けしてしまって…」 「いえ、お気になさらずに。少佐達とお祭りを楽しんで来て下さい」 「ありがとう」 みじ 何度も謝ると余計にオコーネルを惨めにさせてしまうだけだと察し、サラもミシェールもペコリと 頭を下げると急いでカール達の後を追った。 にら 二人がやって来ると、カールとハーマンは互いを睨み付け合いながら、愛する女性の隣へと 移動した。 「ここからは別行動だな」 「無論だ」 「え…?四人で行かないの?」 「サラ、四人で行ったら楽しさが半減…いや、激減してしまうぞ」 「その通り。じゃあな、サラ。誰かさんに暗がりに連れ込まれそうになったら、必ず大声を出す んだぞ」 おおかみ 「はっはっはっ、何を言い出すんだ、ハーマン。お前の方こそ狼にならない様気を付けるんだ な。ミシェール、いざという時は近くの者に助けを求めるといい」 互いに一通りの主張を終えると、カールとサラ、ハーマンとミシェールはそれぞれ別の方角か らお祭りの波へと入って行った。 ●あとがき● 一度やってみたかった帝国軍と共和国軍による合同演習。 しかし素人には無理な話でした(笑) 適当に知っている言葉を使って誤魔化すしかなかったです… だからこそ、後に行われるお祭りの方を重要視する事にしましたv …と、一見全てが解決した様に思えましたが、お祭りの内容で困る事が続出しました。 日本の様に焼きそばやお好み焼きがあるはずもなく、出店では一体何を売るべきなのか?と いう点で非常に悩みました。 ネットでヨーロッパの食生活を中心に調べてみましたが結局何もわからなかったので、ありそ うな気がすると直感で思った食べ物を売る事にしました。 一応ハーマンが食べていた焼き鳥の様な串焼きのお肉は本当にあるらしいです。 ちなみにお面はどうしても必要だった為、不自然でしたが登場させてみました。 日本かよ!というツッコミは受け付けておりません(笑) 次の第五十二話は少々趣向を変えまして、三つに分けております。 三つの恋の物語、上から順に読み進んで頂けると嬉しいですv ●次回予告 その1● 仕事そっちのけで、カールはサラと共にお祭りに参加します。 夜のデートはいつも以上に危険がいっぱい… サラを暗がりへと連れ込んだカールの真意や如何に!(笑) 第五十二話〜その1〜 「祭り〜カール×サラ編〜」 …今度一緒に見に行こうか? ●次回予告 その2● 仕事そっちのけで、ハーマンはミシェールと共にお祭りに参加します。 久々のデートで妙に緊張してしまう二人… しかしこのままではいけないと、ハーマンは思い切ってミシェールに本心を告白します。 第五十二話〜その2〜 「祭り〜ハーマン×ミシェール編〜」 なろう、普通のカップル! ●次回予告 その3● 仕事を無理矢理押し付けられ、本部テント内に一人ポツンと残されてしまったオコーネル。 ガックリしている彼の元へ、一人の女性が訪ねてきます。 とうとうオコーネルに春の予感が…! 訪ねてきた女性とは一体誰なのか? 第五十二話〜その3〜 「祭り〜オコーネル×○○○編〜」 これはシャッターチャ〜ンスv |