「誕生日〜サラ編〜」
カールはある重要な事をすっかり忘れていた。 去年までは共和国との戦争やプロイツェンの策略などで大変だった為、忘れてしまうのも無 理のない事であったが、何を差し置いても忘れてはならない事。 サラの誕生日である。 今年こそはきちんと祝おうと、カールは決意に燃えていた。 「博士の欲しいものですか…?」 帝国軍第一装甲師団の基地内にある通信室にて、カールは秘密裏にステアとナズナに連絡 を取っていた。 誕生日を祝うには、やはりプレゼントは欠かせない。 が、本人に聞いては嬉しさが半減してしまうので、サラの助手であるステア達に尋ねてみる 事にしたのだ。 しかし彼女達の答えは…… 「博士って余り物欲が無いんですよねぇ…。研究に使用するものであれば、是が非でも手に 入れようとしますけど」 「そうそう、研究の為ならお金を惜しまない人なんですよ」 「…確かにそうかもしれないが、サラも女性だ。服とかアクセサリーとか…そういったものが欲 しいと、一度くらいは言った事があるだろう?」 「無いですよ、一度も。大佐だって博士の性格をご存じでしょう? あの人は女の子らしいもの には興味無いんですよ」 「………」 わかってはいても一応参考の為に尋ねたのだが、見事に予想通りの返事しか返ってこなかっ た。 カールが困り果てた様子で黙り込むと、ナズナが何か閃いた様な仕草をし、嬉しそうにモニタ ーに身を乗り出した。 「この間、博士が欲しいって言っていたものを思い出しました!」 「な、何だい!?」 「共和国製の飛行ゾイド、ストームソーダーがほしいって言ってましたよv」 「ストームソーダー……。それはさすがに私でも手に入れられないな」 「そうですかぁ、残念……」 カールに続いてナズナまで落ち込んでしまい、ステアは慌てて話を明るい方向に軌道修正し 始めた。 「思い切って博士に直接聞いてみては如何ですか?」 「…やはりそれが一番いいか」 「ええ、お力になれなくて申し訳ありません」 「いや、こちらこそ無理を言ってすまなかった」 カールはステア達との通信を終えると、今度はサラに通信を入れた。 直接聞くにしても、通信ではなく会って聞きたい。 その為には、デートを申し込むのが最良の手段と思ったのだ。 「あ、カール。どうしたの?」 サラは自室で調べ物の最中だった様だが、カールの通信に気づくとすぐモニターに駆け寄って 来た。 「サラ、その……いきなりで悪いんだが、会って話したい事があるんだ」 「急ぎの用?」 「急ぎって程の事ではないんだ。でもなるべく早い方がいい」 「ん〜、じゃあ明日は? 明日ならいつでも大丈夫だよ」 「明日、か……」 カールは頭の中で明日のスケジュールを事細かに計算し、午前中は無理だが午後からは何 とか大丈夫だろうとの結論に達した。 「明日の午後からでも構わないか?」 「うん、いいよ」 「では、明日の午後研究所に迎えに行く」 「うん、待ってるねv」 無事サラとの通信を終えたカールは、明日の仕事を少しでも減らしておこうと急いで書類に目 を通し、自分がいない間の部下達のスケジュールもきちんと決めていった。 翌日、カールは午前中に全ての仕事を無理矢理終了させ、ジープに乗って国立研究所へと 向かった。 数時間後研究所に到着すると、正面玄関にお弁当が入っていると思われる大きなカバンを持 ったサラが、笑顔でカールを出迎えた。 カールが昼食を食べずに来ると予想して用意した様だ。 そうして二人はジープで近くの山へ向かい、山の麓で早速お弁当を広げ食べ始めた。 本当はわざと賑やかな所へ行って何気なく欲しいものを聞くつもりであったが、サラの手料理 の方がおいしいに決まっているので、カールはお弁当を食べ終え落ち着いてから聞き出す事 にした。 「……サラ」 「なぁに?」 「あ…えっと……その……」 「どうしたの? 大丈夫?」 カールの様子がおかしいと気づいたサラは、お弁当箱をしまおうとしていた手を止め、心配そ うに彼の瞳を覗き込んだ。 カールは思わず顔を真っ赤にしつつも、サラの腰に手を回して優しく抱き寄せた。 「カール……?」 「……もうすぐ…君の誕生日だね」 「う、うん、そうだけど…私の誕生日がどうかした?」 「今年こそはきちんと祝いたいんだ。何か欲しいものはないか?」 カールの突然の質問にサラは目を丸くして驚いたが、すぐに喜びが勝ってきて笑顔になった。 ここ数年、カールとの楽しい日々のお陰で誕生日の存在をすっかり忘れていたが、やはり愛 する人に祝ってもらえるのは嬉しいものだ。 そして何よりもカールの祝おうとする気持ちが非常に伝わってきて、サラは嬉しくなった。 「欲しいもの、ねぇ……」 サラはしばらく真剣に考え込んだが、改めて欲しいものと言われてもすぐには思い付かなかっ た。 サラの困った様な表情から彼女の答えを察したカールは、見るからにシュンと落ち込み目を伏 せていた。 「ごめんなさい、欲しいものは無いわ」 サラが申し訳なさそうに言うと、カールはやはりと思って更に落ち込んだ。 が、サラはカールにつられて落ち込む事はなく、彼に笑顔になってもらおうと自分の思いを全 て言葉にする為に口を開いた。 「ものではないけど、欲しいって思ってるのはあるよ」 「え、な、何だい!?」 期待に満ちた目で見つめるカールに、サラは悪戯っぽく微笑んでみせた。 「あなたが欲しいのv」 「………?」 カールはサラの言葉の真意が理解出来ずに首を傾げた。 すると、サラは心底おかしいといった様子でクスクス笑い出し、カールの手を優しく握った。 「説明が足りなかったわね。私、あなたの時間がほしいの」 「時間……?」 「うん。私の誕生日は休暇を取って、ず〜っとず〜〜っと私の傍にいてほしいの」 「……それはプレゼントにはならないと思うが?」 「私にとっては最高のプレゼントだよv」 サラは満面の笑みを浮かべると、カールの胸に顔を埋め頬擦りし始めた。 サラの思いを察する事が出来たカールは、彼女の髪をそっと撫で幸せに浸るのだった。 ……と、一見全てが解決した様に思えたが、やはりプレゼントは必要だと思ったカールは、サ ラとの甘いデートを終えて基地に戻ると、資料室でいそいそと調べ物を始めた。 サラが喜んでくれると思われるプレゼントを思い付いたのだ。 (ラピスラズリ……) カールは頭の中で何度もその名を呟きつつ、ラピスラズリを採掘出来る鉱山を探した。 そうして小一時間後、ようやく一カ所だけラピスラズリを採掘出来る可能性のある鉱山を発見 した。 もう今はラピスラズリの事しか考えられなくなっていた為、カールは自分のスケジュールを勝 手に調整して何とか休暇を取り、その日夜が明ける前に早々と鉱山に向けて出発した。 「ラピスラズリかい!? そりゃ簡単には採れないねぇ。俺達だって年に二、三回採れるか採 れないかの確率だからな」 「そ、そうなんですか……」 鉱山の麓にある村でラピスラズリの情報を集めようとしたのはいいが、どの村人に聞いても無 理だろうという答えが返ってきた。 カールは一瞬諦めそうになりつつも、サラの喜ぶ顔を想像して思い直し、村人に必要な用具 一式を借りると、教えてもらった採掘場所へ足を運んだ。 その採掘場所では村人達が既に採掘に励んでいたが、採れた鉱石を入れるカゴを覗いてみ ると、青い石の姿は見当たらなかった。 村人達はカールの話を聞くと揃って無理だと言ったが、止めようとする者は誰一人いなかっ た。 カールの表情から、彼がどれだけ真剣であるかがわかったからだ。 カールはラピスラズリを採掘した事のある村人にどこで見つけたのかを聞き、その場所を黙々 と掘り始めた。 それから数時間後…… 昼食も食べずに採掘に励んだカールだったが、ラピスラズリの欠片すら見つける事が出来な かった。 夕暮れが近づき、手元がよく見えない程辺りが暗くなり始めた頃、村人達はカールに諦める 様に言って村へと帰って行った。 採掘場に一人残ったカールは、見つかるまで帰らない気持ちで一生懸命掘り続けた。 サラの誕生日までの間に取れる休暇は今日だけ。 何としてでも今日中に見つけなくてはならない。 (どこだ……どこにあるんだ……) 珍しく焦りを顔に色濃く出しながら、カールは夢中になって土を掘っていたが、ふと自分の手 元を見ると、意識が現実に引き戻された。 慣れない事を丸一日続けた結果、手にはたくさんのマメが出来てしまい、どれも無惨に潰れ て出血していた。 自らの体を傷付けてまでラピスラズリを採掘し、それをプレゼントしたとしても、サラはきっと喜 ばない。 自分の為に誰かが傷付く事を極端に恐れる、非常に心優しい女性なのだ。 カールは村人に借りた用具をのろのろとかき集め、帰る準備を始めた。 と、その時……小さな青い光がカールの目に飛び込んできた。 彼が一日中掘り続けていた場所とは正反対の方向だ。 カールは慌ててその青い光の方へ駆け寄り、用具を使わずに手で土を掘った。 土から姿を現したのは……正しくラピスラズリの原石、しかも大変大きなものであった。 カールは原石をしっかと握り締め、思わず脱力して地面にゴロンと倒れ込んだ。 (星空みたいな石だな……) 上空に輝く星々を眺めた後、手元の原石と見比べてカールはしみじみ思った。 日が完全に暮れ、辺りが暗闇に包まれると、カールは用具を返しに村人の家へ行き、そこで 原石を鑑定してもらう事にした。 「はぁ〜、まさか本当に一日で採ってくるとは思わなかったよ」 村人は頻りに感心し、カールから手渡されたラピスラズリの原石をまじまじと観察し始めた。 「こんなに大きくて純度が高い原石を見たのは俺も初めてだ。これならネックレスが三つ、指 輪なら十個近く作れるぞ」 村人の言葉に、カールは微笑みながらゆっくりと首を横に振った。 「いえ、これはこのままでいいんです」 「このままって……原石のままって事かい?」 「はい、何の加工も施されていない原石が一番綺麗だと思うんです」 「…そうか。まぁ、お前さんの気持ちもわからなくもない。早く帰ってかわいい恋人にプレゼント してやんな」 「え……? あ、はい」 サラの事を話した覚えは無いのだが、村人はカールが何の為に頑張っていたのかわかってい た様だ。 笑顔で手を振る村人に見送られながら、カールは急いで基地への帰路に就いた。 そしてサラの誕生日当日…… その日は朝早くから予約しておいたホテルへ行き、部屋に荷物を置いてから町に出掛けた。 手にはまだマメの潰れた痕が残っていた為、カールは涙を呑んで手を繋がない様にしていた が、そんな事とは気づいていないサラは彼の手をそっと握り、違和感を感じて手元を見つめ た。 「…手、どうしたの?」 サラは見るからに心配そうな顔で尋ねたが、カールは本当の事は絶対言わないでおこうと明 るく笑ってみせた。 「先日行った訓練で出来てしまったんだ。でももう治ってるよ」 「マメが出来る程の訓練なんて……。余り無茶な事はしないでね」 「ああ、これからは気を付ける」 カールは見事に嘘を付く事に成功したが、その嘘をサラは何となく見抜いていた。 やはりカールは嘘を付くのが下手なのだ。 しかしサラは敢えて本当の事を聞き出そうとはせず、カールの手をなるべく優しく握り、何事も 無かったかの様に歩き出した。 今日泊まるホテルの部屋にはキッチンがあり、必要な道具は全て揃っているので食材を買お うと、二人は商店街へ足を運んだ。 折角の二人きりの時間を無駄にしない様買い物は手早く済ませ、ホテルの部屋に戻るとカー ルとサラはソファーの上で身を寄せ合った。 「誕生日に大好きな人とこんな風に過ごせるなんて夢みたいv」 「そうだね」 子猫の様に身を擦り寄せるサラを優しく抱き、カールは意味もなく彼女の青髪を指で弄んだ。 そしてそれに飽きると今度はサラの頬に指を移動させ、しばらく撫でてから唇をそっと触った。 サラはカールの次の行動を察して頬を赤らめたが、彼と視線を合わせたまま近づいてくる唇を 素直に受け入れた。 「ん………カ、カール…ダメ…!」 唇を重ねた途端ソファーに押し倒そうとするカールを、サラは慌てて止めた。 が、既にサラの上に覆い被さる形になっていたカールは、今頃止めても遅いのにと思ってしま い、プッと小さく吹き出して笑った。 「サラ、止めるのが遅いな」 「仕方ないでしょ! あなたが素早すぎるんだから」 「あぁ、それもそうか」 カールは明るく笑いながらソファーに座り直し、寝転んだままでいるサラを抱き起こした。 サラはいそいそと乱れた髪を整え、カールの瞳をじっと覗き込んだ。 「今日は夜になるまで、ああいう事はしちゃダメだよ?」 「夜になるまで? じゃあ、夜になったら好きにしていいって訳だ」 「そ、そういう意味じゃないよぅ! もぉ、どうして自分の都合のいい様に解釈するの?」 「あはは、冗談だよ。ちゃんと君がいいって言うまで待つつもりだ」 「ほんと?」 「ああ、本当だ。誓ってもいい」 「……そっか、それならいいわ」 誓うとまで言われては折れない訳にもいかず、サラは一応納得して再びカールの腕の中へ飛 び込んだ。 体を密着させればさせる程、カールがそういう気持ちになってしまうのは無理のない事だとわ かっていたが、サラは今日一日彼の腕の中で過ごそうと決めていた。 それこそが彼女が欲していた誕生日プレゼント。 サラはカールの膝の上に座って体を完全に預け、彼の手に自分の手を重ねてマメの痕を優し く撫でた。 「どれもつぶれちゃってるね……」 「……ああ」 マメについては余り深く追求してはいけないと、サラはその一言だけで直ぐさま話題を変える 事にし、二人はいつも通りの調子で談笑し始めた。 そうして正午近くなるとサラはテキパキと昼食を用意し、食事の間も楽しく談笑を続けて二人 だけの時間をたっぷりと満喫していた。 「カール、こっち来て」 昼食の後片付けを二人で仲良く済ませ、太陽の暖かな光を浴びようとベランダに出たサラ は、笑顔でカールを手招きして呼んだ。 カールは焦る事なくゆっくりとサラの後を追ってベランダへ出たが、表情は見るからに嬉しそう な笑みを浮かべていた。 「いい眺めだねぇ」 「ああ。だが、俺にとって一番の目の保養は景色よりも君だな」 「や、やだ、そんな恥ずかしい事を真顔で言わないでよぅ」 「俺は別に恥ずかしい事を言った覚えはないが?」 「もぉ、いつもそうなんだから…」 カールの素直な言葉は嬉しい反面、照れ臭さを過剰に感じてしまう為、サラはもじもじしてか ら何も言わずに彼の腕の中へ移動した。 カールは元々無口であり、愛する女性の温もりを感じると更に無口になる。 その癖を知っていたからこそサラはカールに抱きつき、自分も幸せに浸りつつ彼を黙らせたの だ。 二人は互いの温もりを全身で感じ、幸せそうに微笑み合うと、太陽が西の方角へ傾いていく のをしげしげと眺め続けた。 徐々に日が暮れていき、いつもより早めに夕食を済ませた二人は仲良く後片付けを始めた が、カールは途中で手伝いを中断し、足早に荷物を置いている寝室へと向かった。 そしてカバンの中から大事そうに小箱を取り出すと中身を確認し、カールは小さな笑みを浮か べて、その小箱をベッド脇にそっと置いた。 (サラ、喜んでくれるかな……) カールは自信無さそうな笑みを浮かべながらサラの傍へ戻り、一緒に浴室に行った。 「今日は絶対普通に洗ってね」 「わかってるよ。今日は君の誕生日なんだから、君が嫌がる事は一切しない」 「ん、よしv あ〜ぁ、いつもそうだと有難いんだけどなぁ」 珍しくサラが皮肉を込めて言うと、カールは全く動じる事なく軽く肩をすくめてみせ、いそいそと 服を脱ぎ始めた。 サラも同じ様に肩をすくめてから服を脱ぎ、カールの後を追って浴室へ入った。 二人が一緒にお風呂に入る時は、洗う順番が決まっている。 まずサラがカールの髪と背中を洗い、続けてカールがサラの背中を洗う。 別にどちらが先でも良いのだが、いつの間にかそういう順番になっていた。 今日は余計な事をしなかった為か、二人はいつもより早く入浴を済ませ、テキパキと身支度を 整えると、カールはサラの手を握り、無言で寝室へ引っ張って行った。 「カール…?」 サラがキョトンと首を傾げていると、カールはベッド脇に用意していた小箱を手に取り、彼女に 差し出した。 「誕生日おめでとう」 「え……?」 「俺からのプレゼントだ、受け取ってほしい」 「……ありがとう」 もう充分プレゼントを貰っている気になっていたが、サラはカールが差し出した小箱を嬉しそう に受け取った。 「開けていい?」 「ああ」 恐らくカールが一生懸命悩んで用意してくれたと思われるプレゼント。 サラはドキドキしながら蓋を開け、中身を見た途端驚きの表情を浮かべた。 「これって……」 「ラピスラズリの原石だよ」 「そ、そうだよね…。でもこんなに大きいの、簡単には手に入らなかったでしょ?」 「いや、簡単だったよ。俺は買いに行っただけだから」 「………」 サラはもう一度小箱の中に収められているラピスラズリの原石を見つめ、ハッとある事を思い 出すと、カールの手に視線を移した。 本人は訓練で出来たものだと話していたが、余程過酷な内容でなければ、手にマメなど出来 るはずがない。 しかし戦争が終わった今、わざわざ過酷な訓練をするとは思えない。 しかもカールはきっと嘘を付いている。 という事は…… (まさか…そんな……。私の為に…そこまで……?) 全てを悟ったサラは感極まって涙を溢れさせた。 「サ、サラ!? どうしたんだい!?」 サラが泣き出すとは夢にも思わなかった為、カールは慌てて彼女の肩に手を伸ばし、心配そ うに顔を覗き込んだ。 すると、サラは涙をポロポロ零しながらも微笑んでみせ、カールの胸にそっと身を預けた。 「違うの、カール。これは嬉しくて出てきちゃったの…」 「嬉しくて…?」 「本当に…本当に嬉しいの……。だから…もう少しだけこのままでいさせて……」 サラは涙が止まるまでカールの温もりの中で過ごし、止まると笑顔で碧色の瞳を見上げた。 「ずっと…ず〜っと大切にするね」 「ああ」 二人はゆっくりと顔を近づけて口づけを交わし、口づけをしてしまうと我慢がすんなり限界に達 したカールは、サラの耳元に口を寄せ囁いた。 「サラ、そろそろ……」 「うん。じゃ、ちょっと待ってて」 サラは非常に大事そうに小箱をベッド脇に置き、深呼吸を二度程してから笑顔でカールの方 に振り返った。 カールもつられて笑顔になると、サラの体に優しく手を伸ばし、ひょいと抱き上げて一緒にベッ ドへ横になった。 「カール」 「ん?」 「ありがとう、こんなに楽しい誕生日は久し振りだよ」 「喜んでもらえて良かった。でもこれからは毎年楽しくなるはずだ」 「うふふ、そうね。あなたが傍にいてくれるだけで…私すごく幸せvv」 「サラ……」 気持ちを素直に言葉にするサラがかわいくて仕方がなくなり、カールは彼女の首筋に顔を埋 めると、愛おしそうに何度も口づけを浴びせ始めた。 翌朝、窓から差し込む太陽の光で目を覚ましたサラは、隣でまだぐっすり眠っているカールの 手を優しく握り、マメの痕が残っている掌を改めて見てみた。 (こんなになるまで頑張ってくれたのね……) カールの頑張りはもちろん嬉しかったが、ここまでして祝ってもらうとさすがに悲しさも感じられ た。 自分がハッキリと欲しいものを言えていれば、と悔やまれてならなかった…。 しかし悔やむ気持ち以上にカールに愛されている喜びを実感出来、サラは心底幸せに浸りな がら愛する男性の温もりを感じていた。 「カール、大好きだよ…」 サラはカールを起こさない様に小声で愛の言葉を囁いた。 「…俺も大好きだ」 「え……?」 まだ眠っていると思い込んでいたので、突然声を掛けられてサラは飛び上がる程驚き、そん な彼女にカールはゆっくりと振り返り微笑んでみせた。 途端にサラの顔が耳まで真っ赤になり、穴があったら入りたいと言わんばかりに慌ててシー ツの中へ潜り込んだ。 「い、今のは無し! 聞かなかった事にして!」 「もう無理だ、この耳でしっかりと聞いてしまったからね」 「や、やだ……恥ずかしい……」 サラは非常に弱々しい声で呟き、シーツから顔を出そうとしなかったが、カールは極力優しく シーツを剥ぎ取り、真っ赤になっている彼女の顔を露にさせた。 「サラ、そんなに恥ずかしいかい?」 「…うん、だって……起きてるなんて思わなかったから……」 「恥ずかしがる必要はない。君の気持ち、よく伝わったよ」 「カール……」 「俺も大好きだよ、サラ」 カールは照れる事なく笑顔で愛の言葉を囁き、サラの口をそっと塞いだ。 そのまま二人は時間を忘れて何度も口づけし合い、互いの気持ちを確認するかの様に熱い 抱擁を続けた。 その内、欲望を抑えきれなくなってきたカールは、サラの体を開かせようと素早く行動を開始 し、彼女の上に四つん這いになった。 いつもならこの時点でサラから非難の声があがるのだが、今日は何故か抵抗する素振りを見 せなかった。 その事が逆に心配になってしまったカールは動きを止め、サラの瞳を恐る恐る覗き込んだ。 「サラ…?」 「なぁに?」 「イヤじゃないのかい?」 「ふふふ、今日は私もあなたと同じ気持ちなの。だからいいよv」 「そうか、良かった」 「あ、でもあんまり長くしちゃダメだよ? 昼にはここを出なくちゃいけないから」 「ああ、わかってる」 カールは子供の様に微笑んでから、サラの全身を優しく愛撫し始めた。 昨夜の行為も比較的優しいものだったが、今朝の行為は更に優しいもので、サラは終始快感 に身を任せる事が出来た。 恐らくカールが気を遣ってくれたのだろう。 行為を終えると二人は非常に清々しい気持ちになり、互いの額に口づけし合い笑顔で身支度 を整え始めた。 「ねぇ、カール」 「うん?」 朝食と昼食とを併せた食事を摂った後、サラは後片付けをしながら隣で手伝いをしているカー ルに話し掛けた。 ある重要な事を聞く為だ。 「あのね、えっと…あなたの誕生日の事なんだけど……プレゼントは何がいい?」 「俺は何でもいいよ」 「何でもいいは答えになってません」 「ん〜、じゃあ、君が欲しい」 「私のマネもダメ」 「マネじゃないよ、俺が欲しいものは時間ではないから」 「え、違うの? じゃあ何?」 カールは悪戯を思い付いた子供の様な笑みを浮かべ、からかうつもりでわざとサラの耳元で 欲しいものを囁いた。 「君の自由が欲しい」 「自由……?」 「要するに、一日俺の言う事を何でも聞くって意味だ。だから自由がほしい」 カールの主張を一通り聞き、その内容を頭の中で整理し始めたサラは、彼が本当は何を望ん でいるのかを察して頬を赤らめた。 「カール、もしかして……いやらしい事考えてる?」 「いやらしい事って?」 にやにや笑いながら聞き返してくるカールの態度から、やはり察した通りの事を望んでいるの だと悟り、サラは真剣に悩み始めた。 カールが望んでいるのであれば、出来る事は何でもしたい。 しかし彼の要望に全て応えられるかどうか、自信がない。 サラが本気で悩んでいると気づいたカールは、軽い気持ちでとんでもない事を言ってしまった と後悔し、直ぐさま冗談だと素直に白状する事にした。 「サラ、悩ませてすまなかった。さっき言った事は全部冗談なんだ」 「……冗談?」 「ああ、そうだ。本当にごめん……」 「………うそ」 「え……?」 サラは大きく深呼吸して心を落ち着かせると、カールに向かって満面の笑みを浮かべてみせ た。 「確かに最初は冗談で言ったんだろうけど、途中からは本気だったでしょ?」 「……そう、かもしれない」 「やっぱりそっか。じゃ、私頑張るねv」 「頑張るって……何を?」 「あなたの要望に何でも応えられる様に、今から心の準備をしておくの」 照れ臭そうに微笑むサラを、カールは力強く抱きしめた。 どうして彼女はいつもこんなに優しいのだろうか…? 誰にでも分け隔てなく優しいが、カールには特に優しいと感じられた。 それ程までに愛されている……そして愛している…… カールは今の自分の気持ちを行動で示そうと、サラを強く抱きしめたまま彼女の髪に何度も頬 擦りした。 言葉にしても良かったが、サラなら行動だけでわかってくれるはず。 カールの願い通り彼の思いは見事に伝わり、サラもその思いに応えようとしっかりと抱きつい た。 「…カール」 「何だい?」 「大好きvv」 サラは照れずに碧い瞳をじっと見つめて言い、いつもと立場が完全に逆になると、カールは顔 を真っ赤にして照れてしまった。 そんなカールがかわいくて、サラは終始彼の腕の中で微笑んでいた。 ●あとがき● 長編ですっかり忘れ去られていた誕生日の存在。 誕生日の数字についての話題は度々出ていたのに、肝心の誕生日そのものの話題がありま せんでした。 しかし今更長編の中に入れるとおかしいだろう、というより手遅れ… そう思って短編に入れる事にしましたが、結構お気に入りの内容に仕上がりました。 カールの頑張りが伝われば本望ですv 一日で採掘出来る訳ないっての!というツッコミは当然無視します(笑) ラピスラズリが大変重要な位置にある小説なんて私が書いている小説だけでしょうね… でも出します、とことん出します! 他のきらびやかな宝石より、地味でも存在感のある鉱石の方が好きですからv もちろん私の分身であるサラもカールも同じ考えですv いつも以上にラブラブvvな展開で突き進んだ今回のお話、やはり誕生日はこうでないと! 今まで誕生日は家族やステア達と過ごしていたので、『恋人と二人きりで』というのはサラに とっては初めての経験でした。 幸せいっぱい夢いっぱいv 良かったね、サラvv ツッコミ所満載の内容となりましたが、素晴らしく自己満足はしていますv |